仕事の未来2023-2027(どうなる?これからの仕事)第5回

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12回にわたって、“仕事の未来2023-2027(どうなる?これからの仕事)”と題して、世界経済フォーラム(World Economic Forum)が2016年より2年に1度発行している“Future of Jobs Report”の最新版(2023年版)のレポートの要約をお伝えしています。

[連載]仕事の未来2023-2027(どうなる?これからの仕事)

第1回はこちら⇒https://services.randstad.co.jp/blog/hrhub20231222

第2回はこちら⇒https://services.randstad.co.jp/blog/hrhub20240126

第3回はこちら⇒https://services.randstad.co.jp/blog/hrhub20240223

第4回はこちら⇒https://services.randstad.co.jp/blog/hrhub20240329

このレポートは、世界の27の産業分野、複数の経済圏にまたがる全803社(雇用者総計1,130万人)による見通しや意見が反映されており、近い将来における世界の仕事・労働市場の変化を読み解くために必須の資料となっています。

第5回目の本稿では、グルーバルな労働市場の展望を論じた「第3章「雇用の見通し」の後半部分(各論)を扱いたいと思います。

前回説明したレポートのポイントは、今後5年間に6,900万件の雇用が創出され、8,300万件の雇用が失われるという予測でした。5年で計1,400万件の雇用が世界の労働市場からなくなり、現在の世界の労働人口のうちの23% が構造的な労働市場の変化を受けると推定されています。今回は、雇用の変化を、より具体的に見ていきます。

 レポートの本文については、分量の都合で、日本語訳の全文ではなく、要約したものを記しています。また、レポート本体には、膨大なデータ、グラフが掲載されていますが、本稿には掲載はしておりません。それらを見てみたいという方は、ぜひ、レポートにアクセスしてみてください。

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雇用の増加と減少

今後5年間で、雇用・仕事が正味でどれくらい増減するか(純増・純減)は、雇用の変動率(離職率)と同様の方法で推計することができます。以下に掲載する図3.3では、“Future of Jobs Report”の調査対象の企業が、既存の労働力人口のうち、雇用が最も急速に増加もしくは減少すると予想している職種を示しています。 

それによると、「AIと機械学習スペシャリスト」が急成長職種のトップで、「サステナビリティ・スペシャリスト」(環境と持続可能性に関する職)、「ビジネス・インテリジェンス・アナリスト」(ビジネスの運営から得られるデータを収集、保存、分析することに関する専門職)がこれらに続いています。

一方、最も急速に減少する(他の職種に取って代わられたり無くなったりする)職種の大半は、事務職や秘書職です。銀行の事務員・窓口の事務員や、郵便サービスの事務員、レジ係、チケット係は、最も急速に減少すると予想されています。

 

図3.3 新たに創出される仕事と置き換わる仕事(2023-2027年)

本レポート(“Future of Jobs Report”)で調査の対象となった企業・組織の従業員のデータをもとに、2023年から2027年の間に新たに雇用が創出されると予想されたもの(青色で示す)と雇用が失われると予想されたもの(紫色で示す)をグラフ化。菱形で示されているのは、今後5年間の各職業・仕事の純増または純減の予測であり、増加分から減少分を差し引くことで算出されている。
今後5年間における各職業・仕事における労働市場の構造変化予測は、純増と純減2つの割合の合計、つまり棒グラフの幅全体で示されている。全職種を平均すると、労働市場の構造変化は現在の全雇用の23%に相当する(前回の結論で述べられた通り)。

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なお、労働力人口に占める現在の割合に比して、最も急速に増加したり、最も急速に減少したりすると予測された仕事の多くは、過去の“Future of Jobs Report”2016年版、2018年版、2020年版のレポートで公表された調査結果と一致しています。

 4回のレポートで等しく指摘されているのは、先端的な技術の導入と、業務の自動化によって、労働市場の構造的再構成が進むということです。これら4つの報告書すべてで挙げられている「新たな仕事・役割」としては、「データアナリスト/サイエンティスト」、「AIと機械学習スペシャリスト」、「DX(デジタルトランスフォーメーション)スペシャリスト」が目立っています。一方、共通して「減少する」とされる仕事・役割としては、「データ入力事務員」、「役員・管理職の秘書」、「経理・簿記・給与計算事務員」が挙げられています。

 また、雇用の増加、減少・離職のパターンを分析すると、関連する7つの職種のグループが浮かび上がってきます。これらのグループは、それぞれ、良くも悪くも同じような影響を受けていることがわかります。以下の節では、これら7つの職種グループの動向を探っていきます。

 

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1.デジタルアクセスとデジタル取引によって生じる職種・仕事 

 2章で述べられたように、“Future of Jobs Report”の調査での回答者のうち、86%がデジタルアクセスの拡大が組織を変革すると予想しています。そして、その結果として、52%の企業・組織が「雇用の増加」を、19%の企業・組織が「雇用の減少」すると回答しています。また、デジタル取引関連の職種の雇用拡大と、デジタル化されたグローバルなやり取りの増大によって、対面でのサービスと、人の手による記録管理が必要でない仕事が減少することが予想されています。

 例として、「電子商取引のスペシャリスト」、「DX(デジタルトランスフォーメーション)のスペシャリスト」、「デジタルマーケティング・戦略のスペシャリスト」は2535%も増加し、200万人の雇用増につながると予想されています。

 しかし、この成長予測は、地域によってまちまちとなっています。例えば、南アジアでは、これらの仕事の成長が最も速く30%以上、サハラ以南のアフリカでは最も遅く15%と予想されています。また、「DX(デジタルトランスフォーメーション)スペシャリスト」の成長率は、平均して中国が高く(32%)、一方、日本では低い(23%)と予想しています。

 対面で記録を保持するような仕事の減少は、業界を問わず一貫しています。この傾向が最も顕著なのは、情報テクノロジーとデジタルコミュニケーションの分野で約50%の減少が予想されていいます。次に、金融サービス業(約40%)、サプライチェーン・運輸業(約40%、教育業(~30%)、エネルギー・素材業(~35%)、インフラ業(~20%)、製造業(~30%)、専門サービス業(~30%)、消費財小売・卸売業(~20%)などと続きます。

 さらに、調査対象企業は、「レジ係・チケット係」、「データ入力係」、「経理・簿記・給与計算係」、「(役員などの)秘書」の需要、今後2535%減少すると予想しています。

 「データ入力事務員」の需要減少は、世界中で一貫して同じですが、とくに、ブラジルで顕著で(46%)、ドイツ、米国、シンガポール、英国など一部の高所得国では25%程度とやや少ないのが特徴です。

 「会計、簿記、給与計算係」も同様、需要の減少傾向は世界的に進んでいます。とくに日本、イタリア、米国でこの傾向は顕著なようです。これらの職種は、現在は人気の高い職種であるため、上記のような予想が当たれば、世界全体で2,600万人の雇用が減少する可能性があります。

 

2.エネルギー転換と気候変動に関わる仕事

 調査の回答企業が「急成長」を予測しているもうひとつの分野は、「再生可能エネルギー」と「気候変動関連」の仕事です。

 「再生可能エネルギー・エンジニア」、「太陽エネルギー設置・システム・エンジニア」が、企業・組織内では一般的な職務となっている企業・組織の間では、ほぼ全ての回答企業が、これらの成長を予測しています。「持続可能性スペシャリスト」と「環境保護の専門職」についても同様で、それぞれ33%と34%の成長が予測されており、約100万人の雇用増加が見込まれます。

 これは、第2章で概説したように、グリーンエネルギーへの移行と気候変動関連への投資が成長を促進するというビジネスリーダーの予測とパラレルになっています。

 

3.先端技術の仕事 

フロンティア・テクノロジー(先端科学技術)の採用は、現在はそれほど多くの雇用を生み出していない3つの職種において、今後の雇用増加につながると予測されます。

 「データアナリスト/サイエンティスト」、「ビッグデータ・スペシャリスト」、「ビジネス・インテリジェンス・アナリスト」、「データベース・ネットワークの専門職」、「データ・エンジニア」といった職種の需要は、今後3035%増加することが予想されています。人数にして、140万人の雇用増です。

 これらの新しい仕事・職種の成長が予想されるのは各国で共通ですが、とくに中国では、45%近い成長が見込まれています。これらの仕事・職種の高い成長がとくに期待される業種には、金融サービス業(31%)、消費財小売・卸売業(37%)、サプライチェーン・運輸業(42%)があります。一方、情報技術・デジタルコミュニケーションの分野での予想は、わずか8%です。すでに期待される分が反映されているからでしょうか。

 次に、AIと機械学習の利用は、今後ますます進み、継続的な産業変革を促進することは確実でしょう。そこで、「AIと機械学習のスペシャリスト」の需要は40%増が予想され、100万人の雇用が見込まれています。ChatGPTなどの「生成型AI」に関する最近の調査によれば、生成型AIは、労働者のタスク全体の多くの割合に影響を与える可能性があります。また、生成型AIは、賃金の高い職務や参入障壁の高い職務に、最も大きな影響を与える可能性が高いことも分かっています。(医師や弁護士などが典型です。)

 「情報セキュリティ・アナリスト」の需要は、31%増加、雇用は 120 万人増加すると予想されています。世界経済フォーラムが行った、“2023年グローバル・リスク・レポート50”によると、「サイバー犯罪」と「サイバー・インセキュリティ」は、短期的にも長期的にもグローバル・リスクのトップ10に入っています。しかし、こうした顕在化しているリスクがある状況で、目下、「サイバーセキュリティの専門家」は世界的に300万人も不足していると言われています。

 

4.教育関連の仕事

 教育業界の雇用は、2023年から2027年の間に約10%の成長が見込まれています。教育関連の仕事に就いている人は現在でもたくさんいるため、この成長により、20232027年の間に、「職業教育の講師」と「大学・高等教育の教員」の雇用は、300万人も増加する可能性があります。

 こういった教育関連職の成長は、とくにG20以外の国々で顕著になっており、G20諸国よりも約50%高くなると予想されています。これらの職種の成長を促進する潜在的な要因としては、教育・人材開発テクノロジーの高い導入率と、労働力におけるスキルギャップを解消するための企業の取り組みの2点が挙げられています。

 

5.農業に関連する職種

農業専門職、とくに農業機械オペレーターの雇用も、今後30%増加すると予想されています。これらの職種の現在の雇用水準からすると、今後300万人分もの雇用がふえる可能性もあります。

 農業分野の人材需要の増加は、サプライチェーンの短縮や投入コストの上昇、農業技術の利用、気候変動対策関連の投資の増加など、いくつかの傾向の複合的な要因によってもたらされます。また、大規模言語モデルが労働市場に与える影響に関する調査によると、農業関連の労働者は、生成型AIによる影響を受けにくいとされています。

 

6.修理工と工場労働者

 ドローンや産業オートメーション、最先端の科学技術、非ヒューマノイド型ロボットの普及による雇用への影響に関しては、不透明なところが(他の分野より)多く見られます。したがって、機械修理工、建設労働者、組立工・工場労働者の雇用増加(減少)の見通しは国や地域、企業によって回答がまちまちです。

 機械修理工については、雇用が「減少する」と「増加する」と予想する回答者がほぼ同数となっています。しかし、この職種の雇用総数はもともと多く、回答企業が予想する増加と減少の相対的な大きさからすると、この職種は、絶対数として最も成長が見込まれる職種のひとつでありと言えます。数にして約190万人の追加雇用が予想されています。

 この分野の雇用の成長は、G20以外の国に集中しており、約17%の成長が予想されています。一方、工業化が終わっているG20諸国では、1%の純減が予想されています。また、地域ごとの予測もまちまちで、ヨーロッパの企業では8%の純増を見込んでいますが、南アジアの企業は9%の純減を見込んでいます。

 「建設労働者」については、増加よりも減少を予想する企業が多いのが現状です。しかし。これらの変化の相対的な大きさから、100万人の追加需要が見込まれています。

 「組立工・工場労働者」については、回答した企業は5%の需要減を予想しており、労働者数は約200万人減少する可能性があります。この減少は、とくに、中国、日本、シンガポール、英国における先端的な製造業とエレクトロニクス産業の「需要減少」が原因です。なお、これらの仕事の労働者は、「生成系AI」の影響からは、ある程度免れることができるかもしれません。

 

7.サプライチェーンとロジスティクスの職種

 雇用の増加と減少の両方が予想される職種グループで最後に挙げるのは、ロジスティクスに関連する職種です。

 サプライチェーンのローカライゼーション(地域化)は、物流業界の雇用増加の最大要因のひとつになると予想されていますが、同時に雇用を大きく奪う要因にもなりえます。

 一方、供給不足(ドライバー不足など)と、投入コストの上昇(例えばガソリン代の高騰)は、世界的な景気減速に次いで、雇用を大きく減少させると予想されています。その結果、大型トラック・バス運転手の増員を予定・予測している企業がある一方で、減員を予想する企業もありました。回答した企業・組織全体では、物流に関連する労働力の12.5%にあたる200万人の純増が予想されています。

 この雇用需要の増加によって、現在のドライバー不足状況は、さらに悪化する可能性があります。一方で、「一般車両(自動車)、バン、オートバイなどのドライバー」に関する予想は、企業によって異なっていますが、全体としては60万人(4%)の純減が予想されています。「ロジスティクス・スペシャリスト」と「小型トラック・ドライバー」は、若干の純増を見込んでいます。自動運転の技術の進展と大きく関連する項目ですので、今後の技術や法整備の推移をみていく必要がありそうです。

 

 

世界経済フォーラム(World Economic Forum)が2016年より2年に1度発行している“Future of Jobs Report”の最新版(2023年版)のレポート第3章の要約、いかがでしたでしょうか?次回もおたのしみに!

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