『小さな組織から大企業まで実践に役立つ等身大のエンプロイヤーブランド』レポート②会社の規模に合わせたブランディングの取り組み

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エンプロイヤーブランディングとは「良い組織を作ること」と話す、JAPAN CLOUDの人事・採用ディレクターの千葉氏。「個の成長と組織の成長がイコールの関係にあり、喜べる状態」をエンゲージメントが高い状態と定義し、前回はジョブディスクリプションやオンボーディングに対する考え方を中心に語っていただきました。

ディスカッション後半となる今回は、エンプロイヤーブランディングのための具体的な取り組みについてご紹介します。

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ゲストスピーカー
千葉 修司 氏

ジャパン・クラウド・コンサルティング株式会社 人事・採用ディレクター


大日本印刷で人事総務を担当後、マーサージャパン、アクセンチュアにて組織・人材マネジメント、営業支援コンサルティングに従事。その後、セールスフォースのセールス・イネーブルメントに初期メンバーとして参画し、マルケトでのセールス・イネーブルメント責任者等を経て現職。

 

ファシリテーター
西野 雄介
ランスタッド株式会社 人事本部 タレントアトラクション部 部長

人材会社を経てシンガポールへ移住し、エンワールドのシンガポール法人にて経営人材ヘッドハンティングや同事業の経営を経験。帰国後は事業会社の人事・採用責任者等を経験し現職。Forbes JAPANのオフィシャルコラムニストとして、キャリアや組織についても発信。

 

エンプロイヤーブランディングの主体は誰か

西野:今回のウェビナーのお打ち合わせの中で千葉さんから「等身大」という言葉が出て、非常に良い表現だと思ったのですが。千葉さんの中で「等身大のエンプロイヤーブランディング」についてどうお考えですか?
 
 
千葉:前提として、雇用者側が「当社はこうである、こうありたい」とブランディングしていくのには限界があると思っています。それはあまり効果がないかなと。

何十年か前のマーケティングのように情報の非対称性があった時代にはあり得たかもしれません。しかし企業と社員の関係性が大きく変わってきた中で、ブランディングの主体は誰かというと、その組織を選んで働いている個人だと思うのです。その個をコントロールすることはできない。そうすると浮かんでくるのが「等身大」というキーワードです。

職業選択という観点で、現代は選択肢がすごく広がりました。場所も企業も業種も、新しいチャレンジも自らが選ぶことができる。労働人口が少なくなり、需給のバランスを考えただけでもそうなっていると思います。そうした時に「なぜここで働くの?」という純粋な問いや「なぜ辞めないで働き続けているの」という理由・働いている方の気持ちが、その会社を代弁する。転職活動をしている方々が知りたいのは実はそこなのではないかと思います。

背伸びをしない各個人が、何を考えているか。これはポジティブな面だけではなく、ネガティブなところも含めて良いのです。なぜこの会社でモチベーションが湧かないのか、どう改善されればこの会社に自分の仲の良い優秀な知人を呼びたいと思うのか。これも等身大の考え方です。ここにどう向き合っていくかではないでしょうか。
 
 
西野:それに向き合い、それを発信していくことが今求められているのでしょう。メンバーの皆さんがブログを書いたり、関連会社が組織横断して勉強会をしているレポートがあったり、それをみんなでSNSで発信しているような印象があります。

エンプロイヤーブランディングは「誰がやるか」「どれだけ投資するか」「ROIは何か」というのが非常に難しく、なかなかはじまらないというケースもあると思います。JAPAN CLOUDの場合は社員一人ひとりも発信しているし、ブログも書かれている。その辺りはカルチャーとして作っているのでしょうか、それとも施策になっているのでしょうか。
 
 
千葉:我々の関連会社の1社のケースで実例をご紹介すると、社員が20名に満たなかった頃に入社した内勤営業の社員が、入社間もなくLinkedinやfacebookで、「こんな会社に入ったよ」「こんな環境だよ」と紹介していました。自然にそれが行われていて、すごく良いなと思って見ていました。

その後、その会社に採用担当者が入社して、そこから採用担当としては当然施策の一つだと思いますが、「こんな社員がいるよ」とランチの場面など社員が集まったところをUPするということをSNSで行っていました。

そこからの議論としてあったのは、例えばLinkedinで上げるのがマーケティングや人事の仕事でなければいけないのか、社員一人ひとりが必ずやらなくてはいけないのか。そうではないよね、ということ。つまりは「自主性」「なりゆき」も大切にするということかと思います。それがいいなと感じました。

もちろん人事の思惑としてブランドを出していきたいというのはありますが、働いている方々から「自分たちはこういう組織だよ」「こういう人たちがいるよ」「楽しかった」という気持ちが自然に出るのは、一番良い状態だと私は思っています。それを見た同僚が「自分もやってみようかな」と思う。SNSの投稿を見た自分の知り合いから「雰囲気の良い会社だね」と直接感想をもらったりすると、良いサイクルが生まれてきます。もちろん人事側として「どんどん出してください」とメッセージすることはあると思いますが、それだけでは続かないですよね。
 

西野:それは等身大だし、社員の方が自然にやっていくのが理想的ではありますよね。

 

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小さな組織と大企業のエンプロイヤーブランディング

西野:千葉さんは大きい会社でも人事を経験されてきて、小さなスタートアップというステージの会社も見ている中で、それぞれの会社における難しさは感じますか?
 
 
千葉:1つあるのは、大きい会社であればあるほど、ブランドガイドラインのような考え方も強く、方向性やプロセスなどが決まっている場合が多いことかと思います。

一方で、例えば「talentbook」や「note」などのサービスが世の中には存在していて、あらゆる個人が自身の考えを発信できるようになってきています。これもSNSの一つと捉えることもできるでしょう。個にフォーカスすることによって、新しくその組織に飛び込んだ方を社内でも知っていただくきっかけになったり。もしかしたらそれらの記事を見た競合などの他社から声がかかったりもするかもしれません。それでも個人のブランドを内外に出していくのは自然なことだと思いますし、歓迎する流れではないでしょうか。

そういう観点では、大きな企業でも立ち上げ期の企業であっても、ここに関しては誰もが取り組める。
しいて違いを言えば、マーケティング部、PR、人事、採用と明確に役割が分かれているのが大企業の特徴だと思いますので、いかにこれをクロスファンクショナルに作っていくのか。あるいは自部門を良い組織にしていく一環で、各部署の長が主導して動けるような形を取るか。この辺りの継続性も見据えた体制づくりやあり方は、企業規模によって難易度は変わってくるかもしれませんね。

もう1つ、継続性を考えた時に、KPI・KGIに対する議論も重要です。ここも役割の細分化により、既存の仕組みだけでは難しく、新たな枠組みが必要になるかもしれません。
 
 
西野:組織のダイナミクスの違いはあれど、どんなに大きな会社でも1つ1つのチームに落とし込むとすごく小さな組織で、それをどう等身大に見せていくか、ですね。
 
 
千葉:大企業の方々が新卒採用向けにブランディングしている内容が、もう中途向け、新卒向けという区切りもなくなってきていたり。あるいはそれがその会社で既に働いている社員の方々にとっても、より大きな意味を成すようになっていたり。良い意味で垣根が崩れはじめている。日本の採用形態が、新卒一括採用という形だけではなくなって多様化してきているのも背景にあると思います。中途入社の方が知って嬉しい情報の多くは、おそらく新卒入社の方にとっても有益な内容になるでしょう。

 

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コーポレートブランドとエンプロイヤーブランドの関係性

西野:働く場所としての会社の見せ方としてエンプロイヤーブランディングがある一方で、コーポレートブランディングというものもありますよね。企業によってはプロダクトのブランディングかもしれません。それと、エンプロイヤーブランディングの関係性はどう考えていますか?
 
 
千葉:私が以前所属していたマルケト(現 アドビ)で意識していたことがあります。マルケトはBtoB企業を中心にマーケティング活動をサポートするソリューションです。​​コーポレートブランディングの観点で言うと、「なんかマルケトっていけてるね」と言っていただけるようにユーザー、パートナー様を中心に、マルケトの従業員たちとともに取り組みをしていました。コミュニティ活動や国内外のアワード受賞を一緒に目指したりなど、ステークホルダーのプレゼンスが上がるような三方良しな関係性を目指し、モメンタムを創っていたように思います。

ですから、このような取り組み・想いに共感してモチベーションが上がる社員に入って欲しいと思っていました。マーケティングが好きであることは採用の必須条件にしていましたし、「将来マーケティングを変えていく」「だからこのタイミングでマルケトに入りたい」という方に入ってもうらおうと、人材要件の1つとして重視していました。

そういう従業員が増えると、お客様から「マルケトの人たちって、みんなマーケティングが好きだよね」と言っていただける回数が増えてくる。そうなるとプロダクトとコーポレートのブランディングとエンプロイヤーブランディングがつながっていくと実感したのです。

自分たちがどうありたいかと共に、コーポレートやプロダクトのブランドがどう見られたいのかを一緒に議論していくのはポイントかと思います。これが進むと、コーポレートとプロダクトとエンプロイヤーブランディングが混ざる。それを大前提でマーケティングとPRと人事などが一緒に取り組める活動になれるかどうかではないでしょうか。
 
 
 
西野:大企業の場合は機能が分かれているという話もありましたが、その中でもいかに全体がうまく合わさって、協力し合ってできるかですね。実際にJAPAN CLOUDの中ではどのように取り組んでいるのでしょうか?
 
 
 
千葉:ステージによって体制の作り方は少しずつ異なりますが、社員が20、30名と増えてくると、タスクフォースを作ることができます。その中に採用と人事、PR、マーケティング部にも入っていただきました。なぜマーケティングかというと、候補者に会社を知っていただくところから社員になって活躍していただくという人事の一連の流れをマーケティングのファネルのように捉えているからです。

もう少し前のステージでは採用担当とPRの2人でタッグを組んでやるのもよし、もっと小さい規模であれば、経営者と人事担当2人からスタートするのでもいいと思います。

ただこれは誰が主体でリードするかだけの話。誰の活動かというと社員皆でやるものだという前提を置いてコミュニケーションを進めていくことは、ものすごく大事なことと意識して進めていました。
 
 

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エンプロイヤーブランディングはエンゲージメントから逃げられない

西野:以前のこのウェビナーで、アマゾンやヤフーの人事担当者とのお話しでも出ましたが、この「全員でやる」空気や雰囲気、施策をどう作っていくかが重要なキーポイントですね。

 

千葉:そう思います。この話をすると、はじめの「個の成長と組織の成長を喜べるかどうか」(注:「エンゲージメントに直結するジョブディスクリプション」参照)から逃げられないと思っています。そこに踏み込まざるを得ない。
 
 
 
西野:組織を良くすることからはじめるとなると、会社によっては「組織はあまり良い状態ではない、でも採用しなくてはいけない」という状況もあると思います。その時にどういうところから取り組んでいくのが良いのでしょうか。
 
 
 
千葉:その組織で今働いている方が、少しでも「働きがいがある」という状態を作っていくことがプライオリティが高いと思います。リファラル採用も大事だと思いますが、自分が良いと思わない会社に人は誘いたくないですよね。それはどう頑張ってもくつがえせない。

とは言え、採用を止められるかと言ったらもちろん止められない。この時の採用におけるコミュニケーションは、「今の組織の課題はこう。これにしっかり向き合って、一緒に変えていきたいと思える人にぜひ入って欲しい」ということだろうと思うんですね。

そういうスタンスを見せてあげた方がミスマッチもなければ、結果的に組織を良くしてくれる方にジョインしていただけるのではないでしょうか。
 
 
 
西野:それは「等身大」というところにも戻ってくると思います。それに組織の良くないところをどれだけ見せられるかは、実はその候補者を怯ませるよりはチャレンジ精神を煽るような効果があって、たくさん応募が集まるケースもありますよね。

 

千葉:誤解を恐れずに言うと、採用のファネルも1,000人から1人に絞るのではなく、人数は3分の1でもいいので、細く長いファネルになってくれるといい。会社の課題をさらけ出すことによって「自分は合わない」という方を減らす。「最初から違うな」と感じてもらうのも大事な解だと思っています。

同時に私が日頃感じている課題感としては、今は「転職したい」と思ってから半年以内くらいで転職する方が多い。エンプロイヤーブランディングがもっと進んでくれば、3年後・5年後、ここで頑張った後に「次働くならこの会社、こんな会社がいい」「こんなポジションがいい」という選択肢をみんなが5~10個持てるような状況になっていくと良いだろうと思っています。半年の限られた期間の中で一番良いカードを拾うのではなくて、その時が来た時に選べる選択肢を増やしておく。しかもそれは長い時間考え続けたものである。どうやったらそれができるだろうかと、いつも考えています。
 

 

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