「最低賃金」全国加重平均で1000円超の大台を突破 ~3年連続で過去最高を更新中、全容と企業の留意点~

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最低賃金、全国平均1000円超――。今年の最低賃金は全国加重平均で過去最高の4.3%上昇し、政府が目標としていた平均1000円の大台に乗せました。消費者物価の上昇で実質賃金がマイナスになっている状況を踏まえ、3年連続の大幅アップが実現。来年以降もこの流れが続く見通しで、企業にとっては動向を注視する必要があります。新たなフェーズに入った「最低賃金」について、最新の動きを交えながら決定までのプロセスや企業対応の留意点を説明します。

 


目次

 
 

まとめ

 

「最低賃金」とは

最低賃金法に基づき、国が賃金の最低額を定めます。使用者は決定した最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければなりません。

もし、最低賃金額より低い金額で使用者と労働者が双方合意で契約しても、法律によって無効とされ、最低賃金額と同じ契約をしたとみなします。

 

最低賃金を支払っていない場合は

使用者が労働者に最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合、使用者は労働者に対してその差額を支払わなくてはなりません。加えて、最低賃金法で罰則(50万円以下の罰金)が定められています。

 

「地域別最低賃金」とは

「地域別最低賃金」とは、産業や職種にかかわりなく、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者と使用者に対して適用されるもので、これを指して一般に「最低賃金」または「最賃」と呼んでいます。各都道府県に1つずつ、全部で47件の最低賃金が定められています。毎年6~8月にかけて更新され、10月に施行されます。

 

<トピックス1:「最賃1000円時代」に本格突入>

最新の動きでは、7月下旬に厚生労働相の諮問機関が全国加重平均で「1002円」の目安を示しました。これを受け、各都道府県で審議した結果、目安よりも2円高い「1004円」となりました。

最賃の流れ

 

今年決定した最低賃金は、1978年に目安制度が始まって以来の最高額です。

目安額は時給の高い順にAランク(東京都など6都府県)、Bランク(北海道など28道府県)、Cランク(青森など13県)に分かれ、今年の目安額はAが41円、Bが40円、Cが39円となっていました。

 

目安を超えて引き上げ額が最も大きかったのは47円の島根、佐賀両県で、島根は857円から904円、佐賀は853円から900円に。佐賀と同様に、時給が最も低い853円の地域では、沖縄県が43円増の896円、秋田県や宮崎県などが44円増の897円、青森県や長崎県などが45円増の898円にそれぞれ改定されました。

また、1072円の東京は41円増の1113円と改定後も最も高く、次いで1071円の神奈川は41円増の1112円に。これに埼玉、千葉、愛知、京都、大阪、兵庫の6府県も1000円を超えるなど、昨年の3都府県から8都府県に一挙に拡大することになり、「最賃1000円時代」に本格突入しています。

※通常の最低賃金とは別に、「特定(産業別)最低賃金」があります。一部、他の産業より高い水準の賃金を設定することで、企業や産業の魅力を高めることができます。

 

適用される対象者は

パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託など雇用形態や呼び方に関係なく、セーフティーネットとして各都道府県内の事業場で働くすべての労働者と使用者に適用されます。

 

派遣労働者の最低賃金は

派遣労働者には、派遣元の事業場の所在地にかかわらず、派遣先の最低賃金が適用されます。このため、派遣会社の使用者と派遣される労働者は、派遣先の事業場に適用される最低賃金を把握しておく必要があります。

Q:A県在住の私は、B県の派遣会社からC府にあるオフィスに派遣されて働いていますが、適用される最低賃金は?

A:派遣先の事業場の所在地であるC府の最低賃金が適用されます。

 

対象となる賃金は

労働者に支払われる賃金のうち、最低賃金の対象となるのは毎月支払われる基本的な賃金です。残業代やボーナスは含まれません。

最低賃金を計算する場合には、実際に支払われる賃金から以下の賃金を除外したものが対象となります。

(1)臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2)1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3)所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
(4)所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
(5)午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
(6)精皆勤手当、通勤手当及び家族手当

 

最低賃金の決め方は

最低賃金審議会(学識者である公益代表、労働者代表、使用者代表)が、賃金の実態調査結果など各種統計資料を十分に参考にしながら決定します。

毎年夏ごろ、中央最低賃金審議会から地方最低賃金審議会に対して金額改定の引上げ額の目安が提示され、地方最低賃金審議会はその目安を参考にしながら地域の実情に応じた地域別最低賃金額を審議します。

 

地域別最低賃金の決定基準は

最低賃金は「春闘など足元の賃金動向」「企業の賃金支払い能力」「労働者の生計費」を総合的に勘案して定めます。

参照記事:解説:転換点を迎えた2023春闘・すべての雇用形態で賃上げ ~持続的な賃金上昇のカギは「人への投資」~ 

 

<トピックス2:目安額の根拠は何?労使の双方の主張とは>

今年の中央最低賃金審議会で、労働者代表が重要視したのは「生計費」です。物価高で食糧費や光熱費を含む生活費がかさんでいるとして「一律47円増」を要求。これまで最も低い10県(853円)でも900円台に届くほか、5%前後の上昇によって約4%とされる物価上昇分をカバーできる水準だと主張。また、今年の春闘でパートなど非正規労働者の賃上げ率が時給ベースで平均5.01%に達していることを根拠としました。

使用者代表は「企業の支払い能力」を重視すべきだと強調。厚労省の調査で、最低賃金すれすれで働く人が多い従業員30人未満の企業の今年の賃金上昇率は2.1%。これでも26年ぶりの高さですが、大企業中心の春闘に比べると低く、企業間格差が広がっている実態を主張しました。

両社の考え方や論拠を聞いて、公益代表は「3要素のうち生計費に重きを置く目安額とするが、支払い能力に欠ける中小企業に対して生産性向上に努める企業への助成金や価格転嫁対策を強化してほしい」と政府に要望しました。

参照:厚生労働省「地域別最低賃金の一覧」

 

最低賃金のチェック方法は?

支払われる賃金が最低賃金額以上となっているかどうかを調べるには、最低賃金の対象となる賃金額と適用される最低賃金額を以下の方法で比較します。

<最低賃金の計算方法>

1、 時間給の場合
時間給≧最低賃金額(時間額)
 
2、日給の場合
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、日給≧最低賃金額(日額)
 
3、 月給の場合
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
 
4、出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除した金額≧最低賃金(時間額)
 
5、上記1〜4の組み合わせの場合
例えば基本給が日給制で各手当(職務手当等)が月給制などの場合は、それぞれ上の2、 3の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)と比較します。

 

最低賃金の周知義務は?

使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者の範囲、最低賃金額、算入しない賃金及び効力発生日を常時作業場の見えやすい場所に掲示するなどの方法により周知する必要があります。

 

まとめ

今回の大幅上昇は情勢から見て使用者側にも半ば織り込み済みでした。問題はこの大台達成は通過点に過ぎないという現実であり、業種・職種を問わず多くの経営層が抱いている認識です。

人口減少の中で人手不足は慢性的に続きます。今回の議論で使用者側は支払い能力に欠ける企業のバックアップを政府に要望しましたが、企業側の構造転換は避けられない情勢です。

そして、企業側も労働者側も持続的な賃上げに結び付けていくためには、政府が「2023骨太方針」に掲げた「三位一体の労働市場改革」の実行が効果的です。「リスキリング」「職務給(ジョブ型人事)」「円滑な労働移動」の「三位一体の労働市場改革」を動かしていくことで来年以降の道筋がみえてくる模様です。

参照記事:始動する「三位一体の労働市場改革」、要所とポイント 企業必見~リスキリング・ジョブ型・円滑な労働移動~

 
 

筆者プロフィール

株式会社アドバンスニュース
専務取締役報道局長
大野 博司 氏
 
1970年、青森県出身。中央大学大学院戦略経営研究科(MBA)修士。
1994年、日本新聞協会加盟の地方紙に入社。社会部、教育、核燃料サイクル、水産、港湾物流、政経部を経て2004年に報道デスクに就任。
'05年に東京支社で国会取材担当兼論説委員に就き、主に厚生労働省と経済産業省、内閣府の分野を取材。海外取材は、労働行政や水産・物流をテーマに韓国、中国、オーストラリアを訪問。
'10年にインターネット報道を主体とする株式会社アドバンスニュース(日本インターネット報道協会加盟)の設立に参加し、現職は専務取締役報道局長。
労政ジャーナリスト(日本外国特派員協会)として長年国会や政府関係者に取材、国の労働政策に造詣が深い。

取材・文責
(株)アドバンスニュース

 

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