解説:転換点を迎えた2023春闘・すべての雇用形態で賃上げ ~持続的な賃金上昇のカギは「人への投資」~

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賃上げ率、30年ぶりに3%超え――。2023年春闘は、事前予想を上回る大企業の満額回答が相次ぎ、賃上げの交渉現場は久しぶりに活気を取り戻しました。中小企業の交渉も賃上げムードが続き、正社員だけでなく短時間・有期を含むすべての雇用形態でこれまで以上の賃金アップが実現しました。記録的な物価上昇と構造的な人手不足が深刻化する中で、転換期を迎えた春闘について解説します。

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「春闘」とは

1955年に始まった労働組合と企業による交渉で、「春季生活闘争」の略語です。労働組合側から主にベースアップ(ベア)などの賃金の引き上げと労働条件が要求されますが、最近では長時間労働の是正や職場環境の改善も求められます。

大企業の大半が2月からスタートし、続いて中小企業が交渉を開始して概ね4月末までに決着します。大企業から開始して好条件を引き出し、その流れを中小企業につなげるという狙いがあります。

金額、賃上げ率とも最高

労働組合のナショナルセンター・連合によると、第4回集計(4月11日)では、3066労組の加重平均賃上げ額は1万1022円(前年比3.69%増)となり、比較可能な2013年以降で金額、賃上げ率とも最高となりました。これまでの推移とは異なる上昇であることがグラフから見て取れます。

ランスタッド春闘

また、注目されている労組員300人未満の中小企業でも、1975労組で8456円(同3.39%増)と好調です。賃上げの波は正社員だけでなく、有期・短期・契約などの労働者の賃上げ額は加重平均で時給換算56.65円、賃上げ率は5.36%となり、過去最高となりました。

物価上昇に追いつくか 政府も後押し!

総務省の消費者物価指数をみると、ロシアのウクライナ侵攻などで国際的なエネルギー価格が急上昇した昨年4月ごろから、生鮮食品を除く総合指数の伸び率もそれまでの0%台から2%台に急上昇したまま推移し、昨年12月に4.0%、今年1月に4.2%と4%台まで乗せました。

2月は政府の光熱水費抑制策の効果が出始めて3.1%に下がりましたが、食料品価格は7.8%も上昇しており、抑制策がなければ4%台で推移していたことは間違いありません。帝国データバンクによると、大手食品メーカーだけでも7月までに2万品目近い値上げが予定されており、消費者物価が当面は上昇基調をたどると見込まれます。

政府が早くから「物価上昇を上回る賃上げ」を叫び、企業の労使とも「大幅賃上げ」で姿勢が一致したのもこうした背景があり、いわば今春闘の大幅賃上げはこの1年間の給与の“後払い”という性格を強く持っています。今年の賃上げが最終的に3%台を維持できたとしても、今後の物価上昇率次第では実質賃金がマイナスになる可能性もあります。

急がれる「人への投資」

実質賃金がプラス転換し、年間を通じてプラスを維持できるかどうかがカギになりますが、そのためには生産性の向上が絶対条件です。中長期的には、付加価値のより高いモノやサービスを生み出して個人消費を活性化することが必要です。そうでなければ、大幅賃上げも今年だけの景色に終わってしまいかねません。

官民挙げて本格化してきた「人への投資」を急ぐ必要がありそうです。政府は「人への投資」として「5年間で1兆円」規模の予算投入を発表しました。デジタル分野などの成長領域に向けた人材育成を目指して、リスキリング(学び直し)助成などを総合的に盛り込んだものです。

「人への投資」の詳細は下記をご参照ください。

解説:「労働市場改革」と「人への投資」を詰め込んだ新しい資本主義
 ~人材と成長を求める企業に直結~
 

筆者プロフィール

株式会社アドバンスニュース
専務取締役報道局長
大野 博司 氏
 
1970年、青森県出身。中央大学大学院戦略経営研究科(MBA)修士。
1994年、日本新聞協会加盟の地方紙に入社。社会部、教育、核燃料サイクル、水産、港湾物流、政経部を経て2004年に報道デスクに就任。
'05年に東京支社で国会取材担当兼論説委員に就き、主に厚生労働省と経済産業省、内閣府の分野を取材。海外取材は、労働行政や水産・物流をテーマに韓国、中国、オーストラリアを訪問。
'10年にインターネット報道を主体とする株式会社アドバンスニュース(日本インターネット報道協会加盟)の設立に参加し、現職は専務取締役報道局長。
労政ジャーナリスト(日本外国特派員協会)として長年国会や政府関係者に取材、国の労働政策に造詣が深い。

取材・文責
(株)アドバンスニュース

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