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社労士のアドバイス/有期労働者の雇止めと無期転換権
こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の高田と申します。
弊事務所では、人事・労務分野における様々なサービスをご提供しております。筆者自身も主に労務相談顧問という形で日頃から顧問先企業様のご相談等に対応していますが、本コラムでは、企業で人事・労務の実務に携わる皆様の視点に立って、分かりやすい解説を心がけていきたいと思います。
Index |
ポイント
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はじめに
企業の柔軟な人材運用において、有期労働者の存在は欠かせないものとなっています。
契約社員、アルバイト、パートタイマーなど、様々な雇用形態で企業に貢献する有期労働者は、現在の労働市場において重要な役割を担っています。
一方で、有期労働契約には「雇止め」や「無期転換」といった特有の法的リスクが潜んでおり、対応を誤るとトラブルに発展しかねません。そこで本稿では、有期労働者の雇止めと無期転換権について、企業が押さえておくべきポイントを実務の観点から解説します。
1.有期労働契約の原則
有期労働契約とは、期間の定めのある労働契約を指します。
1回の契約期間の上限は、次の例外を除いて、3年と定められています(労働基準法第14条第1項)。
① 高度な専門的知識等を有する労働者との労働契約 ② 満60歳以上の労働者との労働契約 |
また、有期労働契約は、使用者の側からは「やむを得ない事由がある場合」でなければ契約期間の途中での解除はできません(労働契約法第17条第1項)。
この「やむを得ない事由がある場合」というのは一般的な解雇事由よりもさらに限定的に解釈されますので、企業の側からの中途契約解除は、よほどの事情がない限り難しいということです。
2.雇止めを巡るトラブル
有期労働契約の更新を打ち切る「雇止め」は、形式上は単なる契約期間の終了にすぎませんが、実際には多くの裁判例において「実質的な解雇」として取り扱われています。
その中でも代表的な裁判例として挙げられるのが、「東芝柳町工場事件」(昭和49.7.22最高裁)です。この事件では、契約更新を繰り返してきた労働者に対して一方的に契約更新を拒否したことが、「解雇権の濫用」として判断されました。
この裁判例以降、次のような事情がある場合には、雇止めに客観的合理性や社会的相当性が必要とされています。
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なお、これらの過去の裁判例を踏まえて明文化されたのが労働契約法第19条であり、本条では、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない雇止めは無効である(従前と同一の労働条件で有期労働契約が更新される)旨が規定されています。
3.無期転換ルールの仕組み
2013年4月の改正労働契約法により、有期労働契約が通算5年を超えた労働者に対して、「無期労働契約への転換申込権(無期転換権)」が認められることとなりました(労働契約法第18条)。
この制度のポイントは以下のとおりです。
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この無期転換ルールの導入目的は、雇用が流動的かつ不安定な有期労働者の雇用の安定を図ることにあります。したがって、企業が無期転換権の行使を回避するためだけに通算5年を超える前に雇止めを行う場合は、同法の趣旨に照らして動機が不当であると判断されるリスクがあります。
4.契約更新上限を5年に設定することの是非
それでは、有期労働契約の更新上限を5年に設定することは違法なのでしょうか。
単に無期転換権の行使の回避を狙いとして上限を5年に設定することは問題になりますが、企業側には、人材の固着を防止して流動化を図るなど、人材戦略上の様々な理由から契約更新上限を設定したい場合があるように思われます。
この点については、「日本通運(川崎)事件」(令和4.9.14東京高裁)の判決が参考になります。
この事件では、まさに企業側が契約更新上限を5年と記載したうえで有期労働契約を開始し、その定めに基づいて実際に5年で行った雇止めの有効性が争われました。
当判決では、「労働契約法18条の規定が導入された後も、5年を超える反復更新を行わない限度において有期労働契約により短期雇用の労働力を利用することは許容されているから、その限度内で有期労働契約を締結し、雇止めをしたことのみをもって、同条の趣旨に反する濫用的な有期労働契約の利用であるとか、同条を潜脱する行為であるなどと評価されるものではない」との見解が述べられています。
つまり、契約更新上限を5年に設定すること自体が直ちに違法となるわけではありませんが、とはいえ、法の趣旨に照らして不当であるといわれないように、5年の更新上限を設ける理由を明確にしておく必要はあるものと考えます。
5.契約不更新の合意と無期転換権行使が競合した場合
それでは、「本契約でもって契約を終了し、次は更新しない」旨に合意した上で5年を超える有期労働契約を締結した場合において、その後労働者が無期転換権を行使した場合はどうなるのでしょうか。
この場合は、結論からいうと、法に根拠のある無期転換権の規定の方が契約不更新の合意よりも優先され、当該契約期間終了日の翌日から無期労働契約に転換することになります。
企業側からすれば、次の契約を更新しないことを条件として最後の契約を締結したつもりかもしれませんが、上記のとおり、労働者側から無期転換の申し出があればこちらが優先しますので、契約不更新の合意は実質的に意味を持ちません。また、無期転換権を行使しないことを契約に定めたとしても、このような契約自体が公序良俗に反して無効と判断される可能性が高いものと思われます。
まとめ
以上のとおり、有期労働契約における雇止めや無期転換を巡っては様々なトラブルが想定されるため、自社のルールを就業規則や労働契約書にきちんと盛り込んでおく必要があります。
もっとも、2024年4月の改正労働基準法施行規則(第5条)においては、雇入れ時の労働条件の明示事項として、「有期労働契約の更新上限」(更新上限を定める場合)と「無期転換に関する事項」(無期転換権行使が可能な契約の場合)が追加されました。
したがって、少なくとも労働契約書にはこれらの事項が記載されているはずですが、実際に労働契約を締結する場合には、認識の齟齬がないようにきちんと口頭で伝えることも重要だと考えます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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