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社労士のアドバイス/割増賃金の計算方法
こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の高田と申します。
弊事務所では、人事・労務分野における様々なサービスをご提供しております。筆者自身も主に労務相談顧問という形で日頃から顧問先企業様のご相談等に対応していますが、本コラムでは、企業で人事・労務の実務に携わる皆様の視点に立って、分かりやすい解説を心がけていきたいと思います。
Index |
ポイント
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1.割増賃金の概要
使用者(企業)は、労働者に、時間外労働、休日労働または深夜労働を行わせた場合に、法令で定める割増率以上の率で計算した割増賃金を支払う必要があります(労働基準法第37条)。
割増賃金の支払条件および割増率は次の表のとおりです。
| 種別 | 支払条件 | 割増率 |
| ①時間外労働手当 | 法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えたとき | 25%以上 ※1ヶ月60時間を超えたときは50%以上 |
| ②休日労働手当 | 法定休日に労働させたとき | 35%以上 |
| ③深夜労働手当 | 深夜(22時から5時まで)に労働させたとき | 25%以上 |
いわゆる管理監督者に対しては、①時間外労働手当と②休日労働手当の2つは適用除外されていますが、③深夜労働手当については支払う必要があります。
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2.割増賃金の計算方法
割増賃金は、以下の計算によって算出します。
| 割増賃金額 = 1時間当たりの賃金額 × 時間外労働or休日労働or深夜労働の時間数 × 割増率 |
月給制の例で、具体的な計算方法を示します。
| 【月給】 300,000円 【1日の所定労働時間】 8時間 【1年間の所定労働日数】 240日 上記の労働者が、20時間の時間外労働を行った場合 1時間当たりの賃金額 = 月給 ÷ 1ヶ月の平均所定労働時間 = 300,000円 ÷ (240日 × 8時間 ÷ 12) = 300,000円 ÷ 160時間 = 1,875円 20時間分の時間外労働手当 = 1,875円 × 20時間 × 125% = 46,875円 |
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3.割増賃金の計算から除外する賃金
上記の例では月給の300,000円の全額が割増賃金の計算の基礎に含まれていましたが、実際には、基本給以外にも様々な名目の手当が支給されることがあります。これらの手当のうち、割増賃金の計算の基礎から除外できるものについては、法令(労働基準法第37条第5項、労働基準法施行規則第21条)によって定められています。
具体的には、以下の7つです。
①家族手当
②通勤手当
③別居手当
④子女教育手当
⑤住宅手当
⑥臨時に支払われた賃金
⑦1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
ここで注意が必要なのは、①~⑤に関しては、手当の名称が一致していれば除外が可能だというわけではなく(逆に、手当の名称が異なると除外できないわけでもありません)、除外できるのは一定の条件を満たすものに限られているという点です。
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4.除外できる賃金に関する詳細
ここからは、7つの賃金(手当)に関して、割増賃金の計算の基礎から除外できる条件(できない条件)について詳しく見ていきます。
①家族手当
除外できるのは、扶養家族の人数に応じて算定されるものに限られます。たとえば、配偶者:10,000円、子:1人当たり5,000円といった支給例などが挙げられます。人数に関係なく金額を設定した場合(家族がある者に一律10,000円など)や、独身者に対しても支給する場合は、計算の基礎に含める必要があります。
②通勤手当
除外できるのは、通勤距離に応じて算定されるもの、または公共交通機関等を利用した場合に実際にかかる費用を支給するものに限られます。通勤距離や実費にかかわらず一律で支給するものについては、計算の基礎に含める必要があります。
③別居手当
別居手当とは、単身赴任等により家族と別居する場合に、二重生活の負担軽減を目的として支給する手当のことです。手当の算定方法に関する制約はありませんので、金額を一律に設定しても構いません。よく見受けられるものとしては、月に1~2回程度家族の元へ帰省するための交通費相当額を支給する例ですが、このようなものもここでいう別居手当とみなすことが可能です。ただし、独身者に対して、赴任先の仮住まいから持家に帰省するための交通費を支給する例などは、ここでいう別居手当には当たりません。
④子女教育手当
子女教育手当とは、学校に通う子どもの学費や教材費の補助を目的として支給する手当のことです。家族手当と同様に、子の人数や教育費の状況にかかわらず一律で支給する場合には、計算の基礎に含める必要があります。
⑤住宅手当
除外できるのは、住宅に要する費用に応じて算定されるものに限られます。たとえば、家賃やローンの額に対して30%の額に設定するものや、家賃やローンの額が50,000円~80,000円の場合は30,000円、80,000円~120,000円の場合は50,000円といった具合に段階的に区分する方法が挙げられます。住宅の費用とは直接的に関係のない要素で区分し、金額を一律に設定したもの(たとえば、世帯主:50,000円、非世帯主:30,000円と区分するものや、首都圏:50,000円、首都圏以外:30,000円などと地域で区分するものなど)については、計算の基礎に含める必要があります。
⑥臨時に支払われた賃金
臨時に支払われた賃金とは、支給事由の発生が不確定であるものや、臨時的、突発的事由に基づいて支払われたものをいいます。具体例としては、結婚手当、私傷病手当、創立記念の大入袋などが挙げられます。非常に限定的に解釈されていますので、支給機会が少ないものであっても、たとえば、会社の創立記念日に毎年支給する手当や、年末年始手当などはこれに該当しません。
⑦1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
賞与、インセンティブなどがこれに該当します。算定期間が1ヶ月であって、毎月支給される可能性のある歩合給などは、これに該当しません。なお、固定的な手当(役職手当など)を2ヶ月おきに支給すれば、形式上は「1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」に当たるかもしれませんが、このような手当を2ヶ月おきに支給することは、賃金の毎月1回払いの原則(労働基準法第24条)に反します。
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まとめ
以上のとおり、割増賃金の計算方法や、計算の基礎から除外することのできる賃金について、詳しく見てきました。割増賃金の計算を誤り、特に計算基礎に含めるべき手当の算入漏れによって過少に計算してしまった場合は、賃金の未払い状態が生じます。賃金計算のご担当者は、自社の計算方法に誤りがないかどうか、今一度ご確認をお願いします。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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