《ケーススタディ》労働時間に入る?入らない?制服への着替えやテレワーク中の移動

「制服に着替える時間は労働時間?」「仕事の準備は勤務時間前にやるべき?」「在宅勤務と出社を切り替える時の移動は労働時間?」。社員からこう質問されたら、正しく回答できるでしょうか。

細かい状況を確認していくと、たとえ同じ「制服に着替える」でも業務の特性や働く環境下により「労働時間に当たるか否か」の判断が変わってきます。判断基準をしっかりと把握していなければ、トラブルに発展しかねません。

ただでさえ、働き方に関する制度・意識の変化やテレワークの普及で勤怠管理が難しくなっている昨今。どこまでが労働時間で、どこからがそうではないのかという認識やタイムカードを押すタイミングは残業代や残業時間にも影響してくるため、正しい知識に基づく定義と判断が求められます。

労務リスクを回避するためにも、労働時間に関する正しい知識を身に着けておきましょう。

Index

  1. 法律で定められた「労働時間」の定義とは
  2. 労働時間の判断基準になる2つのチェックポイント
  3. 《case1》休憩時間中の電話番
  4. 《case2》就業時間前の業務準備や清掃
  5. 《case3》勤務時間中の移動
  6. 《case4》自宅での作業服への着替え
  7. 《case5》ノー残業デーの定時後に緊急対応した残業時間
  8. まとめ「労働時間」の正しい把握と適切な勤怠管理を

法律で定められた「労働時間」の定義とは

労働時間とは、始業から終業までの勤務時間から休憩時間を差し引いた時間のことです。労働時間には「所定労働時間」と「法定労働時間」の2つがあります。
所定労働時間は会社の就業規則や雇用契約などで定められたもの、法定労働時間は法律により決められている「18時間、週40時間以内」という制限です。会社はこの範囲内で所定労働時間を定めることができます。

では「労働時間」の定義はどうなっているのでしょうか?
正社員・派遣社員などの雇用形態にかかわらず、労働者の労働時間については労働基準法や労働安全衛生法で次のように定められています。

労働時間は労働者が使用者の「指揮命令下」に置かれている時間

会社に雇われて働く労働者が、客観的に「指揮命令下」で会社のために働いている時間が、労働基準法上の労働時間です。法律上の労働時間は、必ずしも就労規則や労働契約で定めた所定労働時間とは一致しません。

「指揮命令下」とは、ある行為を行うことを使用者から義務付けられている状態、あるいは行うことを余儀なくされている状態を指します。たとえば業務のために必要不可欠な準備作業があったり、準備を事業所内でやることが義務付けられていたりする場合、その準備作業も指揮命令下に置かれているということです。「準備作業は労働時間に含めない」という労働契約を結んでいたとしても、法律上は労働時間に該当します。

ただし、いつでもその行為から離れられる状態にある(労働からの解放が保障されている)場合や、労働者が自分の意思で指揮命令下から離れている場合は労働時間にあたりません。

労働時間は客観的に定まる(タイムカード、PCログ等)

会社は働く従業員一人ひとりの労働時間を、就業規則や労働契約等の定めでなく、客観的な方法で把握し管理するよう義務付けられています。客観的な方法とは、タイムカードやパソコンの使用記録など。自己申告は例外的な場面でしか認められていません。

労働時間を把握すべき対象は一般従業員だけでなく、管理職や裁量労働制で働く社員も含まれます。これは健康リスクが高まる長時間労働から従業員を守ることを目的としています。労働時間を正しく把握し、もし長時間労働の従業員がいれば、労働時間を短縮するなどの措置を講じなければならない義務があるのです。

今は勤務状況が見えづらく仕事とプライベートが密接になるテレワークが増えたことで、勤怠管理に課題を抱えている企業も多くあるでしょう。客観的に記録が残るPCログとの連動や稼働状況チェックができる勤怠管理システムなどを活用し、正しく従業員の労働時間を管理するのがおすすめです。

 

労働時間の判断基準になる2つのチェックポイント

上記の定義から、「労働時間にあたるかどうか」の判断には下記の2つのポイントをチェックするとよいでしょう。

  1. 指揮命令下にあるか
  2. 労働からの解放が保障されているか

それでは、この2つの視点から、具体的な事例においてそれぞれのケースが労働時間にあたるかどうかを見ていきましょう。

《case1》休憩時間中の電話番

休憩時間中に電話がかかってきたら対応するように命じられ、電話番をした。結果として電話は掛かってこなかった。この場合の電話番をしていた時間。

このケースでの電話番は労働時間にあたります

  1. 指揮命令下にあるか
    現実には電話はかかってきませんでしたが、いつ電話がかかってくるか分からない状態にありました。それは「いつ就労の要求があるかもしれない」状態での「待機」という行為を使用者から義務付けられています。
    →指揮命令下の状態です。
  2. 労働からの解放が保障されているか
    指揮命令されて待機しているため、自分の意志では電話の前から離れられません。
    →労働からの解放は保障されていません。

電話番が必要な場合は、個別に休憩時間を繰り下げるなどして、労働から完全に離れられる環境を作る対応が必要です。

《case2》就業時間前の業務準備や清掃

「就業開始時には業務をはじめられるようにしておいて」と指示され、就業開始前に準備や清掃を行った。この場合の準備や清掃にかかった時間。

このケースでの業務準備や清掃は労働時間にあたります。

  1. 指揮命令下にあるか
    労働者が自発的に行うのではなく、「準備」という業務を行うことを指示されて準備・清掃を行っています。
    →指揮命令下の状態を離脱していません。
  2. 労働からの解放が保障されているか
    準備作業を終えるまでは、労働者はその業務から離れることができません。
    →労働からの解放が保障されていない状態です。

ただし就業開始前の準備や清掃が使用者の指示ではなく、労働者が自発的に行っていることであれば、労働時間には該当しません。

《case3》勤務時間中の移動

労働者の意思で「午前中は自宅でテレワーク・午後は支店に出社勤務」と事前に決めていた場合の、家から支店への移動時間。

このケースでの移動は、労働時間にあたりません。

  1. 指揮命令下にあるか
    労働者は業務を支店で行うことを使用者から義務付けられています。しかし出社することはもとより決まっていたことです。これは通勤(移動)のタイミングを朝から昼に変更しているだけなので、テレワークから出社に切り替えるための時間は通勤時間と同じ扱いになります。
    →労働から解放されている通勤時間は指揮命令下になく、労働時間には含まれません。
  2. 労働からの解放が保障されているか
    労働者は自らの意志で移動のタイミングを決定しています。
    →労働者が自分から指揮命令下を離れている状態であり、労働からの解放が保障されています。

ただし、これは「労働者の意志で」「事前に決めていた」ケースです。仮に「午後から支店に行くように」という会社からの指示があった場合や、終日テレワークを予定していたものの業務上の必要に迫られて急遽支店に行くことになった場合は、「使用者から移動を義務付けられている」「行うことを余儀なくされている」状態に。そういったケースでは支店への移動も労働時間に該当します。

《case4》自宅での作業服への着替え

作業服での就業が必須の職場。事業所にも更衣室が設けられているが、自宅で作業着に着替えてからの通勤も許されている場合の着替えの時間。

このケースでの着替えは、労働時間にあたりません

  1. 指揮命令下にあるか
    作業着での就業が義務付けられているものの、「着替え」は事業所ではなく自宅でも可能です。
    →自宅は指揮命令下を離脱した状態にあり、「着替え」という行為を義務付けられているあるいは余儀なくされているとは言えません。
  2. 労働からの解放が保障されているか
    自宅で着替えることを労働者の意志で決めることができます。
    →労働から解放された状態にあります。

それでは会社が自宅で着替えてからの出社を禁じ、更衣室での作業着着用を義務付けている場合はどうでしょうか。そのケースでは労働者が着替えという行為を事業所(あるいは指定の場所)で行うことを余儀なくされていて、指揮命令下にあるため労働時間にあたります。「労働時間にあたるのかどうか?」という“労働時間性”の判断には、場所的な拘束性も重要な要素になり得ます。

なお過去の判例には、作業着の着用が義務ではなく本人の意思による場合の着替え時間や、事業所内での更衣室への移動時間などは、「労働時間にはあたらない」と判断されているものがあります。

《case5》ノー残業デーの定時後に緊急対応した残業時間

会社全体で水曜日は「ノー残業デー」として全社員定時帰宅が命じられている。しかし顧客の緊急対応が必要となり、上司に断りなく、水曜日の定時後に業務を行った場合の残業時間。

このケースでの残業時間は、労働時間にあたります。

  1. 指揮命令下にあるか
    会社の規則として残業を禁止している点は、労働時間性を否定する要素と言えます。しかし残業をしないための措置は講じられておらず、業務を行うことを余儀なくされている状態になっています。
    →労働者の意志で指揮命令下を離脱している状態にはなっていません。
  2. 労働からの解放が保障されているか
    上司への報告や上司からの承諾を得ることなく残業をしています。一方で、顧客の緊急対応をしなくて良いという指示も出ていません。
    →労働からの解放が保障されていません。

仮に、まったく残業しないための具体的措置が講じられている場合や、対応せずに帰宅するよう上司が明確に指示をしていた場合は、原則として労働時間ではないと判断されます。

まとめ「労働時間」の正しい把握と適切な勤怠管理を

労働時間を正しく管理するためには、労働から離れている休憩時間との区別を明確にする意識も大切です。休憩時間とは、拘束時間のうち、労働者が権利として労働することから離れることを保障されている時間をいいます。「次の仕事が発生するまで休憩していて」という待機状態の場合、労働からの離脱を保証されていないため休憩時間にあたらないと判断されます。

本記事でご紹介した内容は正社員、契約社員、パート・アルバイト社員、派遣社員、いずれの雇用形態にも適応されます。「休憩室に行くついでに雑務を片付ける」「休憩時間中でも緊急時は対応する」など、これまで慣例的に行われてきたことが本来は労働時間にあたる可能性があります。長年いる社員が気にしていなくても、新しく来た社員や派遣スタッフが疑問に感じているケースもあるかもしれません。

不要なトラブルや想定外の残業代の発生などにつながらないよう、今回ご紹介したチェックポイントを踏まえて実態を点検してみてはいかがでしょうか。今までそうだったから、人手が足りないからとうやむやにせず、労務リスクを回避しましょう。

ご不明な点がございましたら、ランスタッド営業担当もしくは法人様向けお問合せ窓口までお問い合わせください。

 
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[著者プロフィール]

白川 真理子(しらかわ まりこ)
ランスタッド マーケティング&ブランドコミュニケーション本部 DX部
インサイドセールス

shirakawaオフィス系派遣のコンサルタントとして企業、求職者・就業者の方々の支援に携わる。
現在はインサイドセールスとしてランスタッドの全サービスをワンストップでご提案することを担当。国家資格キャリアコンサルタント。

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