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大量退職時代から大量定着時代へ
人材採用を続けている企業は今、優れた人材の発見・確保において史上最大の問題に直面しています。少なくとも過去5年間、採用に関しては従業員の買い手市場でした。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)危機になっても、多くの組織はまだ適切なスキルを持つ人材の採用に苦労していました。実際、ガートナーの2021年度HRの優先課題に関する調査(※1)によると、HR部門トップの68%は2021年の最優先課題として重要なスキルや能力の開発を挙げています。
適切なスキルを持つ人材の維持・定着・育成は、労働力計画のみならずビジネスの成長にも不可欠です。これと同時に、私たちはテキサスA&M大学のアンソニー・クロッツ(※2)教授が「大量退職時代」という新語で表現した予期せぬ大量離職に直面しています。Monsterの推定(※3)によると、米国の労働者の95%は今年転職を検討しています。また、BBC (※4)によると、英国の労働者の38%は今後6か月~1年以内の退職を計画しています。成長中の企業が表口から新たな人材を迎えられず裏口から既存人材が流出していることは明らかです。むしろ、企業は既存人材の維持に目を向ける必要があります。この問題を解決するために、大量退職時代は潜在的な「大量定着時代」であると視点を変えてみましょう。
関連コンテンツ:エンプロイーエンゲージメント強化およびブランド振興を目的とした一流企業の再配置および定着の取り組み。(英語ページ)
従業員が新たな機会を求める理由
では、従業員が退職または退職を検討している理由から見てゆきましょう。世界が目下直面しているもっとも深刻な危機であるCOVID-19パンデミックは、多くの人々が選択肢を再検討している状況を生み出しています。従業員の欲求階層の最下部から見てゆきますと、多くの従業員にとって安全は大きな懸念事項です。医療、ホスピタリティ、教育分野で働くエッセンシャルワーカーの多くは、他の労働者よりも早い職場復帰によりさらなるリスクに直面しています。企業は専門的労働者のオフィス復帰を検討しており、懸念を抱える従業員数は増加しています。先日実施された全米産業審議会の調査(※5)によると、コロナ禍でリモートワークをしている労働者のおよそ3分の1(31%)がオフィス復帰に不安を覚えています。
従業員は最新のウイルス変種に感染してワクチン未接種または高リスクの家族を感染させる可能性というリスクに直面しているだけでなく、懸念表明を原因とした雇用者からの報復に直面するおそれもあります。米国では労働安全衛生局(OSHA)がCOVID-19に関する安全上の潜在的懸念を訴える労働者の保護を目的とした新たなガイドライン(※6)を公表しているものの、最前線で働くマネジャーの多くは肉体的および心理学的安全の両方が欠如した環境に適応しつつそうした環境の提供を続けざるを得ない状況にあります。そのため、労働者は採り得る選択肢の検討を始めています。
それ以外の者も、パンデミックがもたらした大きな変化を踏まえて個人的優先順位について熟考し始めています。例えば、アニーカはテキサス州オースティンを拠点とするテクノロジー企業のプロダクトマネジャーで、高いポテンシャルを持つ従業員と目されていました。しかし、COVID-19危機によりデンバーに住む両親と1年以上会えなくなっており、彼女の子供も祖父母と過ごす楽しいひと時が無くなって寂しがっていました。そこで、アニーカと夫は彼女の故郷であるデンバーへの転居を決断しました。新天地に来た家族をサポートするためのより柔軟な働き方を選んだ彼女は、ディレクター職と常勤社員の地位を諦めて契約社員となりました。これは自身が望む生活を送るために彼女が自ら払った代償でした。ディスラプションの時代には、人々は個人的優先順位を再検討し、人生に関する新たなビジョンにより良く適応するために担当業務や責任の変更を申し出る者も沢山います。
オフィスへの復帰要請は、そうした分岐点の1つとなる可能性があります。COVID-19直前に新キャンパスへの多大な投資を行っていたアップルなどの企業はハイブリッド型職場復帰モデル(※7)を採用していますが、COVID-19変種の急拡大によりオフィス復帰は遅れています。家族の面倒を見ている多くの人々、特に女性にとっては、世界の一部地域では今なお学校が閉鎖中、またはワクチン未接種の子供を自宅に置いておきたいと考える者もいる状況下では、在宅勤務は唯一の選択肢である可能性があります。世界の多くの女性(※8)はすでに退職を余儀なくされており、オフィスへの復帰を要請している組織では育児中のために転職を選択する従業員が多数出てくる可能性があります。日本など世界の一部地域では、その労働文化からオフィス外での勤務は非常に困難になっています。「オフィス主義」や「プレゼンティーズム」が協働的かつ相互依存的な労働システムに組み込まれ、そこでは個人の貢献よりもチームの成果で評価されます。そのため、日本企業の大半は、従業員にオフィス復帰を要請し続けています。
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「従業員の時代」への適応
多くの労働者が持っている独自かつ高需要のスキルと相まって、こうした状況は従業員への力と選択のシフトをもたらしています。ハーバード・ビジネス・スクールのセダール・ニーリー教授は企業と従業員の関係性において指導的ではなく協力的なアプローチの採用を推奨しており、その著書『Remote Work Revolution: Succeeding from Anywhere(※9)』では、「私たちは人々が多様な働き方、共生する他者との多様なつながり方を経験している時代に生きており、通勤の減少によりストレスレベルは軽減し、貯蓄は増加しています…これは『従業員の時代』といえます」としています。
こうした「従業員の時代」において、回避すべき大量退職時代を大量定着時代へ変えるために企業は何ができるのでしょうか?
手っ取り早いのは従業員への機会の提供です。これは成長し、学び、新たなことを手掛け、新たな責任を負い、さらなる利益をもたらし、バランスの取れた生活を発見し、個人としての新たな優先課題と有意義な労働を整合させるための機会となります。
多くの企業では、過去1年半の急激なビジネスモデルの転換を踏まえてこうした機会が提供されてきました。パンデミックを原因とする従業員の迅速な配置転換や再訓練、異動を通じて新たなビジネスモデルに対応しているという話は私たちも多数耳にしています。多くの企業および従業員の間では、「従業員は移転可能なスキルを身に付け、企業は新たな手法で従業員を活用する」という新たな認識が生まれ始めています。
関連コンテンツ:迅速な配置転換を通じて企業がレイオフ回避とコスト削減を実現させる方法。(英語ページ)
現在多くの組織が求めているのが、より計画的かつシステマティックな方法による配置転換やインターナルモビリティを可能にするシステムです。実際、弊社が先日発表した2021年解雇手当・転職支援ガイド(※10)によると、HR部門トップの約80%は従業員の社内異動をサポートするための正式な配置転換プログラムが導入されているとし、組織の88%はチームメンバーに社内の新たな役職への応募を奨励しています。
インターナルモビリティの奨励
この1年で自分の組織がビジネスモデルの転換を行っていた場合、従業員が思いもしなかった機会が社内で生まれる可能性があります。弊社が知るある企業は、対人型の社員研修をオンラインのeラーニングに変えざるを得ず、講師のデザイナーによるオンラインの方法論の学習とeラーニング・コンテンツ・マネジャーという新たな役職という2種類の学ぶ機会が生まれています。皆さんの組織ではどちらの新ポストを用意できるか考え、既存従業員に対して明確に伝えてください。従業員が自身のキャリアの中で重視しているもの・重視していないものを特定するためのサポートを必要としている可能性があると認識することも非常に重要です。パンデミック後の退職を検討している従業員に関するプルデンシャルの調査(※11)によると、72%は自身のスキルセットを見直しています。さらに、2021年に転職を検討している従業員は「モビリティの機会」をその職場に居続けるための最重要要素に挙げています。
関連コンテンツ:社内のキャリアアップ機会を通じて従業員ファーストの体験をサポートする3つの方法。
従業員は、もっとも市場で将来性があるスキルや現状のスキルセットにもっともフィットするスキルに関するデータと洞察に基づく正しい方向へのちょっとした導きも必要としているかもしれません。外部のキャリアコーチという形態に人間による指導を追加することは、自身の興味やスキルと組織のニーズを整合させながらそれらの洞察を自身が思い描くキャリアプランへ応用する際に役立つ可能性があります。こうしたシステムの提供を通じて点と点をつないで全体像を作り上げることは、従業員のスキルや興味のさらなる明確化、そして従業員による明確な興味の特定および自身の仕事上の目標と変わりゆく人生の目標、さらにはより広義のビジネス上の目標との整合を助けるものとなります。
関連コンテンツ:従業員のリスキリング:予測的洞察および個別のキャリア・コーチングによる将来に対応した労働力の構築。(英語ページ)
人材採用戦略の再考
現代は「従業員の時代」であると理解できたら、自社の人材獲得プロセスは従業員市場に適応しているかどうか雇用慣習を見直す好機です。御社のシステムは応募者が入力するうえで効率的でしょうか?あるいは、応募プロセスの途中で放棄している人が大勢いるでしょうか?御社のアプリケーションはインクルージョンに対応しているでしょうか?Randstadの姉妹会社であるMonster(※12)は、応募者にとってよりインクルーシブなものとすべく、アプリケーション内のジェンダーに関する項目を削除中です。すべてのステップおよび項目が必要なものかどうか自問してください。自社のアプリケーションシステムを細部までチェックして、簡素化と潜在的バイアス排除が可能な部分を探してみてください。
自社の人材獲得プロセスの見直しに加えて、1つの職種のための人材採用から将来的な2~3種類の職種まで見据えた人材採用へのシフトを検討してください。RiseSmartのキャリア開発プログラムを導入しているある企業は採用プロセスに同プログラムを活用しており、新たな従業員に対する入社初日からの成長機会の提供というニーズに対応しています。従業員市場では水準が高くなっていることに留意してください。端的に言えば、採用ページに「X社には成長の機会があります」という一文を載せるだけではもはや不十分かもしれません。
多様な人材のための社内異動とモビリティに関しては、可視性と透明性、それらの職種を希望した場合の成長機会を担保しておく必要があります。そのための最善の方法が、全社的な学習機会の民主化です。弊社が先日実施した「現代のスキリング」グローバル調査(※13)によると、組織は人材のリスキリングおよびアップスキリングに価値を見出しているものの、72%がキャリア開発のためのスキリングの機会を継続的に提供し、39%が全従業員ではなく一部の従業員に対してスキリングと訓練の機会を提供していました。
関連コンテンツ:Randstad risesmartのグローバル調査で判明した民主化されたスキリングの必要性。(英語ページ)
これまでは、それらの機会を提供するのは高いポテンシャルを持つ従業員やハイパフォーマーだけで十分だったかもしれません。しかし、多くの調査が示しているように、従来型の人材発掘プロセスはすでに力を持つ者に偏っています。能力開発や社内ネットワーキングの機会を全従業員に提供することで、より公平な成長システムの開発と予期せぬ場所からの隠れた逸材の発掘が可能となります。民主化されたスキリングを促進する文化は、自社は公平性と包括性を重視しているという明確なシグナルを発する文化でもあります。退職を決意した従業員に対しては、その決断に至った理由を深く掘り下げてください。上述した弊社の2021年解雇手当・転職支援ガイドによると、回答したHR担当者の約3分の1(30%)は退職者面談を行っていないとしています。このシンプルな行為を習慣付けることで、従業員が退職を決意した要因だけでなく、より広義の人材とは異なっている可能性がある多様な人材が退職に至る理由もより良く理解できるようになります。
去る者は追わずという選択
当然のことながら、従業員のスキルと興味が組織の理念やビジョンと大幅に乖離している状況は存在するでしょう。リスキリングによってそうしたギャップが解消される場合もありますが、従業員が社外に新たな挑戦の場を求めて今の組織を辞めるほうが良い場合もあります。『ファスト・カンパニー(※14)』誌の「大量退職時代に従業員の退職を受け入れるべき重要な理由」という記事では、フレッシュワークスCMOのステイシー・エプスタインは、それが従業員の退職を意味するものであっても、「従業員の幸福のための最適化」は最優先事項とすべきであるとしています。従業員の退職はポジティブなエンプロイーエクスペリエンスの延長と捉える必要があります。なぜなら、これはその従業員が自社と共に歩んだ道のりの一部であり、自社の価値観やエンプロイヤーブランドの反映だからです。退職従業員に対する再就職のサポートは、彼らが持っているスキルや興味を転職先で学ぶ可能性があることと結び付ける一助となる可能性があります。
現在は自社を大量定着時代に対応した組織へ変革させる絶好の時です。ここで何もしない、あるいは従来のシステムで十分やってゆけると期待することはエンプロイヤーブランドの毀損につながり、現在および将来の人材採用がより困難になるでしょう。現在はまさにハーバード・ビジネス・スクールのセダール・ニーリー教授が言う「従業員の時代」であることを受け入れ、自社のシステムを適応させてください。エンプロイーエクスペリエンスの進化・改善を続けることは時間とリソースの投資が必要となりますが、従業員市場で勝ち抜くために必要な投資といえます。
※2 https://www.linkedin.com/news/story/the-great-resignation-is-here-5480770/
※3 https://www.hrdive.com/news/monster-95-of-workers-surveyed-considering-changing-jobs/603091/
※4 https://www.bbc.com/worklife/article/20210629-the-great-resignation-how-employers-drove-workers-to-quit#:~:text=A%20Microsoft%20survey%20of%20more,six%20months%20to%20a%20year.
※5 https://www.shrm.org/hr-today/news/hr-news/pages/remote-workers-not-comfortable-returning-to-office.aspx
※6 https://www.shrm.org/resourcesandtools/legal-and-compliance/employment-law/phttps:/www.shrm.org/resourcesandtools/legal-and-compliance/employment-law/pages/coronavirus-osha-retaliation-covid-19-concerns.aspxages/coronavirus-osha-retaliation-covid-19-concerns.aspx
※7 https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-07-20/apple-will-postpone-return-to-office-after-covid-19-persists
※8 https://www2.staffingindustry.com/row/Editorial/Daily-News/World-Employment-for-women-likely-to-remain-below-2019-level-this-year-58416
※9 https://www.tsedal.com/book/remote-work-revolution/
※10 https://info.risesmart.com/guide-to-severance-2021
※11 https://news.prudential.com/increasingly-workers-expect-pandemic-workplace-adaptations-to-stick.htm
※12 https://careers.monster.com/en
※13 https://info.risesmart.com/skilling-today-global-survey-report
※14 https://www.fastcompany.com/90659218/why-its-important-to-embrace-the-great-resignation-and-just-let-people-quit