展望2024年(第2部)~経済・社会・労働法制

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新年特集「展望2024年~経済・社会・労働法制」は1月10日の「経済」を皮切りに、同17日「社会」、同24日「労働法制」の全3回にわたってお届けします。

 

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【社会情勢】「2024年問題」の中で進む「外国人との共生社会」

対策が急務となっていた「2024年問題」をいかに克服するか。2019年の改正労働基準法に伴い、長時間労働を是正するための規制が強化されましたが、物流業界や建設業界、医療関係だけは業務の特殊性から5年間の猶予を与えられていました。5年の準備期間を経てこれらの業界もいよいよ実施となりますが、現場の抜本的な業務改善は容易に進まず、あらためて「2024年問題」がクローズアップされています。

要因は少子高齢化による「人手不足」で、あらゆる産業と分野で労働力人口が減り続ける日本を象徴しているテーマです。打開策のひとつとして、政府は外国人材の活用に着目。高度人材と並行して、労働力としての受け入れ拡大に舵を切ります。具体的には外国人技能実習制度を廃止して、それに代わる新たな在留資格を創設するなどの改革を進め、今年は「外国人との共生社会」の実現に本腰を入れます。

政府は、こうした社会課題を「人への投資」で乗り切る方針で、2024年は政策を総動員して中小企業への支援策を展開する一方、日本の慣例として残る「年功制の職能給」から「ジョブ型の職務給」への移行なども推進し、生産性向上に結び付けたい考えです。変化に富む環境の中で、企業に密接な今年注目される社会の動きをお伝えします。

 

解消できる?トラック運転手の絶対不足

物流、建設、医療といった業界の中で、とくに影響が大きいと指摘されているのが物流業界です。今年4月以降は、トラックドライバーの時間外労働の上限を「年間960時間」に設定。それ以外の細則は改正「改善基準告示」により、拘束時間は1カ月あたり284時間以内、1日あたり13時間以内、1日の休息時間は9時間を下回らないなど、細かく決められています。

国土交通省の調査によると、物流業界の従業員数は約226万人で、そのうちトラック運送業は194万人。ほとんどが中小企業で、運送物は日用品がダントツに多く、金属製品、食料工業品なども運んでいます。物流全体の4割程度を占めており、国民生活にとっては必須の産業になっています。時間外労働の上限規制が加わると、運送会社はドライバーの数を増やす、運送量を減らすなどの対応を取らざるをえませんが、人手不足解消のメドはたっていません。 

このままドライバー不足などが緩和されないと、全体の輸送能力は24年に14%、30年には34%不足すると予測され、消費者側が当たり前のように享受してきた「即日配達」「再配達」といったサービスも削減されるのは必至。スーパーなどでの生鮮品の品ぞろえにも影響が及ぶ可能性があります。政府は「物流革新に向けた政策パッケージ」を打ち出しており、業界の「高度化」のきっかけになるとして注目されています。

 

技能実習制度を廃止、新たな制度を創設へ

日本に在留資格を持つ外国人が、昨年6月末時点で322万3858人にのぼり、過去最高を記録しました。コロナ禍前を上回る勢いで300万人台を突破し、この10年間で1.58倍に達しています。労働力不足の打開策として政府は、「技能実習」と「特定技能」の再構築を急いでおり、併せて「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」を策定するなど、受け入れの仕組みづくりを強化します。

「技能実習」に代わる新制度の呼称(在留資格)は「育成就労」で、文字通り従来の育成機能を残しつつ、実態に即して労働力であることを明記します。3年間の在留を基本線に、熟練していない外国人労働者を確保して、即戦力の人材と位置付けている「特定技能1号」の水準まで「育成」することを目的とします。より高レベルの熟練技能が求められる「特定技能2号」の試験に合格すれば、家族帯同の無期限就労が可能で、育成就労と特定技能の流れを通じて「永住の道」が開かれることになります。

技術移転を名目とした「技能実習」では、同一職場で計画的に技能を学ぶとの考えに基づき、職場を変える「転籍」(転職)が原則3年間にわたって認められていません。一部では過酷な職場環境下で転籍できず、国内外から人権問題として批判があがっているため、「基礎的な技能・日本語試験に合格すれば、同じ仕事の範囲内で1年で転籍できる」との方向で集約。ただ、賃金差の関係などから都市部への人材流出が懸念されることから「例外措置として、当分の間は分野によって1年を超える転籍制限を認める経過措置を検討」との緩和策も盛り込まれる見通しです。今年4月以降の国会審議の行方が注目されます。

 

「賃上げ税制」を強化、赤字の中小企業も対象 

一定の基準を超える賃上げを実施した企業の法人税を減税する「賃上げ税制」が、今年から拡充・強化されます。具体的には、中小企業が賃上げを行って赤字になった場合、最大5年間は減税を繰り越せる措置を設けます。期限内に黒字に転換できた際に減税を受けられることから、あらゆる分野の中小企業に賃上げを促していきます。

一方で、これまで大企業は4%以上の賃上げを実施した場合に、給与などの増額分の25%を納税額から控除できましたが、従業員2000人超の企業に対しては7%以上の賃上げを行った場合に引き上げます。その代わり、教育訓練費の上積みや女性活躍・子育て支援の環境整備を進めた場合は、控除率を最大35%に広げます。

 

業務改善助成金、職場内の最低賃金引き上げを支援

中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業場内で最も低い賃金を引き上げるために実施している「業務改善助成金」。機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練などの設備投資を行い、最低賃金を一定額以上引き上げた場合に設備投資にかかった費用の一部を助成する仕組みですが、今年も支援内容を充実させます。

助成対象は中小企業で、事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内である事業者。助成率は拡充後の事業内最低賃金と、生産性要件を満たすかどうかで変わります。この事業を含め、今年は賃金アップと設備投資に動く中小企業にさまざまな支援メニューが用意されています。

 

筆者プロフィール

株式会社アドバンスニュース
専務取締役報道局長
大野 博司 氏
 
1970年、青森県出身。中央大学大学院戦略経営研究科(MBA)修士。
1994年、日本新聞協会加盟の地方紙に入社。社会部、教育、核燃料サイクル、水産、港湾物流、政経部を経て2004年に報道デスクに就任。
'05年に東京支社で国会取材担当兼論説委員に就き、主に厚生労働省と経済産業省、内閣府の分野を取材。海外取材は、労働行政や水産・物流をテーマに韓国、中国、オーストラリアを訪問。
'10年にインターネット報道を主体とする株式会社アドバンスニュース(日本インターネット報道協会加盟)の設立に参加し、現職は専務取締役報道局長。
労政ジャーナリスト(日本外国特派員協会)として長年国会や政府関係者に取材、国の労働政策に造詣が深い。

取材・文責
(株)アドバンスニュース

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