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展望2024年(第1部)~経済・社会・労働法制
官民挙げて、物価高を上回る賃金上昇に挑む「2024年」。リスキリング(学び直し)による能力向上支援、個々の企業の実態に応じた職務給の導入、成長分野への労働移動の円滑化――を中心に、「三位一体の労働市場改革」を掲げる政府は、ビジネス分野の人材育成に本腰を入れます。
暮らしの基盤を支える2024年の経済と社会の動きを見渡しながら、企業に役立つ雇用・労働関連のトピックスをお伝えします。
本稿は、1月10日の「経済」を皮切りに、同17日「社会」、同24日「労働法制」の全3回にわたってお届けします。
2024年・国内外の主なスケジュール
今年は、フランス・パリ五輪をはじめとする注目度の高いイベントや日本とかかわりの強い主要国の国政選挙が相次ぐなど、世界的に賑やかな1年となりそうです。国内では20年ぶりに紙幣のデザインが刷新されるなど、新鮮さを感じられる動きもあります。
1月
新NISAスタート
台湾総統選挙
世界経済フォーラム(ダボス会議)
2月
政府がGX経済移行債を発行(今後10年で20兆円)
3月
北陸新幹線、金沢-敦賀間が開業
ロシアで大統領選挙
4月
時間外労働の上限規制の猶予期間終了(運送業界、建設業界、医師ら)
韓国で総選挙
5月
ゼレンスキー・ウクライナ大統領の任期満了
6月
所得税・住民税減税を実施(1人当たり4万円減税)
診療報酬改定、介護報酬改定
主要7カ国首脳会議(G7サミット)がイタリアで開催
7月
日本銀行券(紙幣)が刷新
フランス・パリ五輪(7月26日~8月11日)
8月
阪神甲子園球場開場100周年
岸田文雄首相の自民党総裁の任期満了
10月
短時間労働者の社会保険加入の適用範囲拡大
11月
米国大統領選挙
G20サミット(主要20カ国・地域首脳会議)がブラジルで開催
12月
TSMCの熊本半導体工場が稼働
「マイナ保険証」に完全移行、現行の健康保険証を廃止
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【経済予測】成長実感のカギは「賃金の伸び」
2024年の日本経済は、バブル崩壊から30余年におよぶ“縮小経済”から脱却できるかどうか、分かれ目の年になりそうです。内閣府が発表した政府経済見通しでは、24年度の国内総生産(GDP)伸び率を名目3.0%、実質1.3%としています。23年度見込みの各5.5%、1.6%に比べ、どちらも伸び率は低くなるものの、消費者物価の上昇は適正範囲に収まり、内需主導によって名目が実質を上回る正常経済に戻るという予想です。ただ、昨年は物価上昇に比べて「賃金の伸び」が追い付かず、国民が成長を実感できなかったことから、今年は「賃金の伸び」がカギになります。
24年度の政府見通し(実質ベース)の概要は、民間消費が1.2%、設備投資が3.3%伸びます。消費者物価(CPI)は2.5%、完全失業率は2.5%とみており、CPIは23年度見込みの3.0%から政府目標の「2%台」に落ち着くとの予想。雇用については人手不足の緩和が進まず、ここ数年の流れと変わらず「完全雇用」状態が続く模様です。
長引く実質賃金のマイナス、「プラス転換」できるかが焦点
数字上では経済成長を示しているものの、国民の景況感はそれほど良くなっていません。それは実質賃金のマイナスのためです。厚生労働省の毎月勤労統計では、ロシアのウクライナ侵攻によってエネルギー価格が急騰した22年4月のマイナス1.7%から毎月1~1%台のマイナスで推移し、23年1月にマイナス4.1%のピークを付けました。その後、マイナス幅は縮めているものの、依然としてマイナス2%台のまま、2年近くマイナスが続いています。実質賃金のマイナスは個人消費を萎縮させるため、24年の最大の経済政策の目標は実質賃金の「プラス転換」となります。
賃上げと定額減税の効果で「所得増加率3.8%」に設定
昨年の春闘で「大幅賃上げ」が実現し、最低賃金も前年比43円(4.5%)アップの平均1004円に大幅上昇したにもかかわらず、物価を上回ることができませんでした。そこで政府は今年、「官民が連携した賃金上昇・所得増加による物価高の克服」や「潜在成長率向上につながる設備投資の拡大」を政策の柱に掲げ、今年の春闘で2年連続の大幅賃上げを促し、6月からの定額減税などの効果を見込んで所得増加率を3.8%に設定しています。
設備投資も「企業の意欲は高い」とみていますが、政府は「足元の実績は伸びておらず、経済対策によって実際の投資につなげる必要がある」ともしており、多分に希望的観測も混じっているのが実態です。
2024年は「デフレ脱却」の糸口が見えてくる可能性
デフレ脱却の最大のカギが「大幅賃金アップ」にあることは間違いなく、連合は昨年の成果に上乗せして、今年は「5%以上」を共通目標に掲げています。ただ、中小企業にとって、人件費などのコスト上昇分を製品価格にきちんと転嫁できる環境は不十分な面もあることから、賃上げの「余地」が限定的に留まっている企業も少なくありません。
東京商工リサーチが実施した「来春の賃上げ調査」をみると、賃上げが「23年度を超えそう」とみている企業は11.6%、「23年度並み」が過半数の51.5%を占めています。人手不足などによる業績不振にあえぐ企業にとっては、賃上げ問題が重くのしかかることになり、大胆な政策の後押しが必須となっています。
日本のデフレは1990年代初頭のバブル崩壊から延々と続いた“縮小経済”の結果であり、短期間で脱却するのは難しいですが、「政策の総動員」を打ち出している政府の中小企業への支援策が奏功すれば、今年は脱却の糸口が見えてくる可能性がありそうです。