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【セミナーレポート】デザインから考える合理的配慮
※本記事は、2024年10月30日に行われたセミナー「ニューロダイバーシティLunch Time Radio デザインから考える合理的配慮」の内容をまとめたものです。
多くの企業が障がい者雇用を取り入れ、障がいのある方の働き先が創出されています。
一方で、障がいのある方が健常者と一緒に業務に従事するための働きかけについて、模索中の企業が多いのも事実です。
今回は鹿児島県の出版社で精神疾患のある方の就労継続支援を行っている株式会社ラグーナ出版での取り組みを取り上げ、当事者と非当事者がともに働きやすい職場を作っている試みを紹介します。
【語り手紹介】 海老田 大五朗
新潟青陵大学 福祉心理子ども学部 教授
著書『デザインから考える障害者福祉:ミシンと砂時計』
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就労継続支援施設A型で出版社のラグーナ出版とは
ラグーナ出版は出版社でありながら、就労継続支援施設A型の福祉施設でもあります。
約40名の従業員のうち、約30名が精神疾患のある利用者で、残りが健常者の支援員です。利用者はラグーナ出版と雇用契約を結び、最低賃金を保証されながら働いています。
ラグーナ出版は、私の著書『デザインから考える障害者福祉:ミシンと砂時計』の版元です。
数ある出版社のなかからラグーナ出版を選んだ理由は、精神疾患のある利用者が多く所属する出版社だからです。
川畑社長は「当事者が傷つくような本を出版しない」という方針を持っています。
社長と利用者に原稿を読んでいただき、問題ないという了承を得て出版に至りました。
出版に至るまでのふるい分けがしっかりと機能しており、校正も正確な点が強みです。
例えば、原稿を読んでいただいた際には、最新データの差し替えをご提案いただきました。
専門家が校正をしっかり行っているので、著者としてはとても心強かったです。
ラグーナ出版の組織デザイン
障がい者福祉では、精神障がいのある利用者の労働時間について話題になることが多くあります。
労働時間に関する研究はさまざまあり、最適な労働時間は論文によって異なります。
そもそも、当事者によって最適な労働時間が異なるため、一括りに時間を算出するのは難しいでしょう。
これは書籍内の第3章でも取り上げており、ラグーナ出版を例に展開しました。
調査したところ、ラグーナ出版では労働時間の調整をほとんどしていないそうです。
「調子が悪そうだから明日休ませる」のような予防的な時間管理はしておらず、無断欠勤や突然の欠勤だけを管理していることがわかりました。
また、ラグーナ出版の体制が上手く回っている理由として、日報の活用が挙げられます。
設立当初はゆるい管理体制のため利用者が適当な時間に出社したり、社長が一人で業務を抱えたりして、全く上手くいっていなかったそうです。
この状況を改善するために、日報を導入しました。
内容は労働時間や睡眠時間、服薬管理、体調などで、利用者は30秒ほどで書き上げます。
日報の使用方法を観察し、日報の在り方がわかってきました。
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利用者が上長に日報を提出する際に、会話をするというルールを設けています。
簡単な短い会話でも構わず、日報がコミュニケーションのツールになっているのです。
また、ラグーナ出版には精神保健福祉士の資格を持たない健常者の社員も働いています。
何に注意して支援すればよいかわからない場合に、この日報に記載してある睡眠時間や服薬管理などに着目して支援することができます。
こうした取り組みを「合理的配慮」として解釈することもできますが、私は、より幅広い含意を持つものとして、こうした取り組みをとらえることが重要だと考えています。
そこで提起したいのが「デザイン」という言葉です。
合理的配慮からデザインへ
障がい者雇用では、合理的配慮が求められます。
合理的配慮の提供義務を盛り込んだ法律は「障害者差別解消法」と「障害者雇用促進法」の2つです。
雇用については、下記の障害者雇用促進法の合理的配慮規定が適用されます。
”事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となっている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。” (障害者雇用促進法 第三十六条の二) |
合理的配慮は次の7つの要素から構成されるといわれています。
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日本では合理的配慮という言葉が浸透していますが、「Reasonable Accommodation」を合理的配慮と訳すのは障がい者福祉関係者から評判が悪く、『デザインから考える障害者福祉』でも用いていません。
実は「Accommodation」に配慮という訳語はなく、一般的には調整や調節、適応などです。配慮という言葉を用いることで、気持ちの問題のようなニュアンスが強まってしまっているのです。私は合理的配慮をデザインという言葉に置き換えるべきだと考えています。理由は4つあります。
1つ目は、デザインは合理的配慮に先行するからです。
合理的配慮という言葉が生まれる前から、合理的配慮のような組織や作業などの最適化ができていた人や企業は存在していました。それならば元々あった言葉である「デザイン」を用いるのが適切でしょう。
2つ目は、合理的配慮という言葉は「配慮する健常者と配慮される障がい者」のような図式を導くのに対して、デザインは流動的で協働的な役割図式を導くからです。
3つ目は、合理的配慮は障がい者福祉の専門家や行政的な響きがあるのに対し、デザインは誰にでも開かれている言葉だからです。
4つ目は、合理的配慮をデザインと読み替えることは可能なのに対し、デザインを合理的配慮と読み替えるのは難しいからです。つまり、デザインは時間や地域など幅広い対象を持っているため、より広義な意味合いを内包しています。
『デザインから考える障害者福祉』では、デザインを「最適化実践」と捉えています。最適化実践とは誰にとってもより望ましい創意工夫や配置、設計、調整の実践のことを指します。
例えば、ある企業では、発達障がいと知的障がいのある利用者がミシンを使った仕事に取り組みました。ところが、ミシンを使いこなせず暴れる事態が起こりました。そこで、簡単な操作だけで布を縫うことができるミシンを開発。その利用者はミシンを使った仕事ができるようになり、それ以降暴れることなく、一生懸命ミシンの仕事に取り組んでいます。健常者がこのミシンを使ってみたところ、使いやすさに驚いたとのことでした。
事前にいただいた質問のなかに、障がいのある方と健常者が一緒に働くにはどうすべきかというものがあったかと思います。私は、そもそも「障がいのある方と健常者を分けて考える図式が間違っている」と考えます。
障がい者雇用に関する法律や制度ができてしまった時点で、人間のコミュニケーションの敗北なのではないでしょうか。お互いの関係を、組織・作業・関係性・時間などを双方が調整して解決できるケースもあります。
配慮する側とされる側の図式を作るのではなく、一つひとつ調整していくことが大切です。デザインという言葉は、そのための手掛かりになるのではないでしょうか。
ランスタッドの障がい者採用のページはこちらからご覧ください。