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【リスキリング・コーチングお勧め書籍】アンドリュー・スコット / リンダ・グラットン著『LIFE SHIFT2―100年時代の行動戦略』
日々、新たな切り口で魅力的なタイトルを冠した新刊が登場する「ビジネス書」。
有名経営者や著名人の思想・仕事術を学べる「ビジネス書」は、自己成長やスキルアップをめざしたい、仕事の進め方や人間関係を改善させたいビジネスマンとって、多くの学びを与えてくれることでしょう。
本連載では、リスキリング&コーチングの専門家であり、15年で400社を超える組織の構造改革・
2045年にAIが人間の知性を追い越す
アメリカの未来学者レイ・カーツワイルは、2045年にAI=人工知能の知性が人間の知性を追い越す「技術的特異点」(シンギュラリティ:singularity)を迎えるという予測をたてました。そう遠くない将来に、1,000ドル程度のコンピュータ1台の処理能力が、人間の全知性を凌駕するようになるというのです。
昨年(2022年)秋、人工知能チャット・ボット“Chat GPT”がリリースされ、いまなお世間を賑わしています。極めて優れた言語処理プログラムであるChat GPTは、インターネット以来の大革新とも言われ、「シンギュラリティが近い」という予測が正しいと思わせるのに一役を買っています。
シンギュラリティが本当にやってくるのか、その時期は2045年より前なのか後なのか、という議論は、じつはそれほど重要ではありません。近い将来、AIを中心とする技術革新により、人間社会が根底から覆るような変化があるだろうということが、真剣に向き合うべき重要な課題なのです。
極度に悲観的な人でなくとも、このような予測に戦慄を覚える人は多いのではないでしょうか。まず心配なのは、大量失業です。AI失業などという言葉も、数年前に流行りましたが、その不安は払拭されていません。コロナ後の経済的混乱や世界的インフレをいまだ脱しきれていない状況ではなおさらです。
世界はコロナ禍に見舞われ、ビジネスも社会もすっかり変わってしまいましたが、こういった技術革新により、変化の速度は更に加速することが見込まれています。しかも、私たちの多くは、長寿化により(著者によれば)100歳まで生きる可能性も現実的になってきているというのです。当然、今までの働き方、学び方、ひいては生き方すべてが、変化を強いられることになるでしょう。
では、実際に、私たちはどうなってしまうのか? 私たち一人ひとりは、どう生きていくべきなのか? このような問いに具体的な指針を与えるのが、この『LIFE SHIFT2』という本です。
なお、本書の共著者の一人、ロンドン・ビジネス・スクールのリンダ・グラットン教授は、当コーナーですでに紹介した『リデザイン・ワーク』(2022年)では、おもに「組織(会社)」の変化への取り組みを提示していますが、前著『LIFE SHIFT』、および本書『LIFE SHIFT2』では、「個人」の生き方(働き方や学び方)に焦点をあて、ポジティブな人生戦略を提案しています。『LIFE SHIFT2』は、『LIFE SHIFT』の「実践編」の位置づけです。
本書の構成
はじめに、本書の目次を紹介します。
アンドリュー・スコット / リンダ・グラットン『LIFE SHIFT2―100年時代の行動戦略』 全8章の見出し
第1部では、テクノロジーの進歩(AIとロボット工学)と長寿化社会について概観し、何がどうかわるのかが述べられます。第2部では本書の中心的トピックが扱われます。ここで、著者たちは、長寿時代に適応するための行動戦略を、3つのキーワードを軸に指南します。そして、第3部では、私たち一人ひとりが活躍できるための、人間以外の要素=会社、教育・政府機関のなすべき変革が論じられます。この記事では、本書第2部の行動戦略を中心に紹介したいと思います。
テクノロジーの進展によって代替されにくい仕事とは?
第1部は、近年のテクノロジーの進展と、長寿化社会についての概説がメインです。ここでは、「社会的発明」という著者たちが提示する概念に注目しておきましょう。
「社会的発明」とは、「技術的発明」つまりテクノロジーの進展によって開かれた可能性を、個人と人類全体の改善に役立てるための取り組み(発明)のことを言います。技術の発明でテクノロジーは進化しますが、それが人間社会に与えるインパクトは、正と負の両方の側面があります。
医療技術しかり、原子力しかりです。つまり、技術は「社会的発明」によって、人間に役立つものにされなければならず、その社会的発明には新しい生き方の発明が含まれる、というのがグラットン氏らの提案です。
本書では、フランケンシュタイン博士が作り出した生き物が怪物となる恐怖「フランケンシュタイン症候群」を引き合いに出し、本記事の冒頭で述べたような不安や懸念が紹介されていますが、著者たちは、悲観論に陥る必要はないと言います。その処方箋の一つが本書というわけです。
AIによる大量失業などの悲観論に対して、著者たちは将来もなくならない仕事とは何かを説明してくれています。
なお、仕事・職業(ジョブ)そのものと、仕事の中に含まれる多種多様な「業務」(タスク)は、区別されるということには、とくに注意が必要です。
たとえば、医療の仕事の将来を、上記の考えに従って考えると、看護師や理学療法士よりも、医師やレントゲン技師のほうが「機械に代替されにくい」と言えそうですが、そう単純に考えるのは誤りです。看護師の仕事にも、医師の仕事にも、無数のさまざまな「業務」(患者に向き合う、ケアする、処置を行なう、・・・)があり、その業務すべてが機械に代替されるわけではないのです。
上記のような前向きな提案がなされる一方、著者たちは、厳しいことも述べています。
では、どうすればいいか。これが、第2部で扱われるテーマになります。
第2部では本書の中心的トピック、長寿時代に適応するための行動戦略が説明されます。ここで焦点があてられるのは、人間の本質に根ざした3つの要素で、これらを軸に議論は進められます。その要素とは、「物語」「探索」「関係」の3つです。
物語―自分の人生のストーリーを歩む
物語とは、それぞれの人生の物語のことです。
心理学者でもあるグラットン氏によれば、私たちは、物語(ストーリー)を紡ぐ能力がないと、人生に意味を見いだせないような存在であるようです。そのストーリーの道筋を歩むことが、人生に意味を与え、人生のさまざまな選択を行なう上での手引になると述べられます。
物語に秩序をもたらすのは、時間の経過です。そこで、著者たちは、はじめに、時間と年齢を単純に結びつける発想に終止符を打たなくてはならない、と述べます。どういう意味なのでしょうか。
一昔まえの65歳と現在の65歳では通貨価値(老化の度合い)が異なるというのです。
つまり、昔の65歳は、現在の78歳くらいに相当するということでしょう。マンガの「サザエさん」の登場人物で考えると非常にわかりやすくなります。『サザエさん・ファンサイト』によると、サザエは24歳、父波平は54歳です。20歳くらい老けている印象があります。ちなみに、カツオは11歳で小学5年生ですが、だいぶ大人びているようにも見えます。
やや脱線しましたが、筆者が言いたいのは、長寿化の恩恵を満喫したいならば、そして、長寿化社会での人生戦略を成功させたいならば、年齢の可変性を前提に行動すべきだということです。「もう○○歳だから…」という考え方を捨てることです。そして、筆者は、自分だけでなく他人の年齢に対する考え方も改めるよう提案し、異世代の人との交流の大切さを説いています。
また、著者は、長寿化する社会において、物語をうまく紡いでゆくには、「鳥の目型」の視点が重要と述べます。つまり、今を過大評価せず、カレンダーを真上から見るように人生を見て、カレンダー上の四角形が同じ重要性を持つように意識することが大切だということです。
当然、長期化する職業人生への配慮が必要になってきます。ある計算によると、「寿命が10年延びるごとに、引退後の生活費を維持するために7年長く働かなくてはならなくなる(金利と公的年金の水準が変わらないと仮定した場合)」そうです。どうしても長く働きたくない人は、今のうちに生産性を上げておくしかないわけですね。
しかし、寿命が延びると、仕事だけでなく、余暇の時間も増えることになります。理想主義的な予測によれば、機械の生産性が高まることにより、人は所得のために働く必要がなくなり、余暇時間が増える可能性は高まります。また、仕事をする期間が長期化すれば、企業との関わりにも変化が生じます。こうして、ますます、時間の再配分を構想する能力が重要になってくるわけです。
探索―学習と変身を実践する
鳥の目」で人生を俯瞰し、時間を再配分して、人生のストーリーを構想しても、それを実現する能力がなければ、変化は訪れません。
いままでの古典的な人生のストーリーは、以下のような3つのステージで固定化されていました。
高校や大学を卒業し、新卒で企業に勤め、転職や企業を経験する人もいるかもしれないが、長期の職業人生を全うして、65歳か70歳くらいで引退する、という人生ストーリーが一般的でした。
しかし、3ステージか4ステージあるかもしれない長寿化したこれからの時代においては、それぞれのステージにあるいくつもの選択肢の中から、もっとも合理的なものを各自で選択し、進路を変えていかなければならなくなるのが普通になってきます。
50歳や70歳で大学や大学院に戻って勉強したり、60歳で起業したり、リスキリングやリカレントも当たり前に行われるような時代がすぐそこまで来ているというのです。そして、著者は、人生100年時代において、ある意味仕事よりも重要な要素、「生涯にわたって学び続ける」ことの重要性を力説します。でも、高齢になってまで学ぶことは辛くないのでしょうか。
著者は、ある研究結果を紹介し、人は何歳になっても学ぶことができると述べています。
30代の頃には、短期記憶が最も強力な時期を迎えるだろう。一方、40代や50代になると、他者理解の能力が最も高くなる。「人は何歳でも、ある種のことが上手になりつつあり、…ある年齢で、すべての、あるいはほとんどの能力が頂点に達することはないのだろう。」
(第4章「探索―学習と移行に取り組む」より)
ボーザー氏は、知識の不確実性に触れることで、世界の複雑さを理解し、思考パターンを変化させることこそが専門知識を学ぶことにほかならないとし、ある物理学教授の言葉を借りて「学習とは単に正解を知ることではなく、推論し説明すること」だと述べています。
関係―深い絆をはぐくむ
と移行を繰り返すことにほかなりませんが、それは、仕事でも私生活でもアイデンティティの変化ももたらすことになります。たとえば、会計士のキャリアを目指していた人が、あるとき、コーチングの重要性に気づき(学び)、ビジネスのコーチとしてのキャリアへの転換を図ろうとするときなどがそうでしょう。
このように、学びはアイデンティティの変化をもたらし、ひいては、人間関係の変化ももたらすことになります。
結婚している人であれば、家計の稼ぎ手が変わったり、共稼ぎになったりすることもあるでしょう。人間関係の変化においては、個人同士の物語(ストーリー)の共有も重要です。2人、3人で作る物語が新たに必要になってくるはずです。
また、現代は、結婚観や家族観が変わり、家族のあり方も多様化しています。生き方の変化に伴い、支え合いの関係も多様化し、変化していくでしょう。現代の日本社会で見られるようになった、「世代間の対立」や「レッテル貼り」もより目立つようになってくるでしょう。
しかし、長寿化社会においては、世代間の共感を育むことが極めて重要だと、著者たちは主張します。
世代間の対立は危険であるだけでなく、個人の人生戦略上も不利益が多いということです。著者たちは、東京にある保育園と老人ホームの一体施設や、ロンドンの高齢者施設と保育園の交流の例を引き合いに出し、世代を超えた関係性のメリットを説明しています。
さらに、関係性の変化と構築に関して、コミュニティ活動の重要性も指摘されています。たとえば、ボランティアや利他活動といった、会社に勤めてする仕事以外の活動です。
そして、著者は、人生がマルチステージ化する時代には、仕事を引退してからはじめてコミュニティ活動に携わるのではなく、生涯を通してコミュニティと関わるほうが理にかなっていると述べています。
その理由の一つは、無報酬のボランティア活動に取り組む姿勢は、人生を通じて(長い期間をかけて)育まれていく習慣のようなものであるからです。
おわりに
本書は、コロナ禍が世界中に広がり始めた2020年の著作です。コロナ禍による社会の大きな変容を経験した現時点(2023年)でも、本書で指摘された社会変化の大きなトレンドは変わっておらず、むしろ、コロナにより、同じベクトル方向に加速したと言えそうです。
本書で指摘されている「人生戦略」は、「コスパ」や「タイパ」という流行りの言葉で表現される、小手先の効率性だけでは測りきれない、もっと大きく深い人生理解に基づく大きな戦略を構想するのに役立つはずです。
また、このような指針を個人が求めていることは、会社などの組織の運営にかかわる人たちにとっても、非常に重要なポイントになるはずです。組織には組織に特有の原理やメカニズムがあるのは確かですが、組織を構成するものは、あくまで「人」「個人」です。個人の生き方が変われば、組織のあり方も考え直さざるを得なくなるのは当然です。
個人にも組織にも、変化を受け入れる柔軟性が求められています。
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