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【リスキリング・コーチングお勧め書籍】アーリック・ボーザー著『Learn Better』
日々、新たな切り口で魅力的なタイトルを冠した新刊が登場する「ビジネス書」。
有名経営者や著名人の思想・仕事術を学べる「ビジネス書」は、自己成長やスキルアップをめざしたい、仕事の進め方や人間関係を改善させたいビジネスマンとって、多くの学びを与えてくれることでしょう。
本連載では、リスキリング&コーチングの専門家であり、15年で400社を超える組織の構造改革・
「勉強ってどうやるの?」に答えられますか
皆さんが、学校の先生だとして、生徒から「先生、勉強って、どうやってやるんですか?」と聞かれたら、何と答えるでしょうか?
「教科書を読みなさい」では答えになっていません。なぜなら、生徒が求めているのは、具体的にどうやったら教科書を読んだことになるのか、ということにほかならないからです。
このブログの読者のうちの多くは、会社や組織に属している方だと思いますが、業界の新しい知識や技術を初めて学ぶ必要が出てきたとき、ただやみくもに資料を読み始め、わからないと読み返していたりしないでしょうか?また、部下や新人に知識を学ばせるときに、「これ、読んでおいて」で済ませてしまっていないでしょうか?
結局、実業界にいる私たちも、「勉強はどうするのか」を訊ねた生徒や、そう訊ねた生徒に「教科書を読め」で返している先生と状況は変わらないと言えるでしょう。
「学習学」(主に教育心理学や認知科学などによって進められている学際的な学問分野)の専門家である本書の著者、アーリック・ボーザー氏は、私たちの多くは、「学ぶ」(学習する、勉強する、練習する…)ということが一体何なのか、何をすれば、学んだことになるのかについて、よくわかっていないと述べています。つまり、ますます学習が必要になってきている(つまり学ぶことが求められる社会に変化している)時代状況にもかかわらず、私たちは、学習のメソッドについて何もわからないまま、場合によると誤った思い込みに基づいて、学んだつもりになっているのです。
本書の構成
さて、本書は、このような「学習」に対する体系的なアプローチを解説しており、タイトルとおり「LEARN BETTER」つまり、より上手に学ぶ方法を説いています。本書の対象者には教師や先生だけでなく、知的労働に関わるビジネス・パーソンや組織のマネージャーも含まれています。
アーリック・ボーザー氏は、幼少期に「学習障害」であったことがきっかけで学習の方法論に関心を持つようになり、教育系メディアのエディターなどを経て、現在は、米国先端政策研究所というシンクタンクで教育に関する情報発信を行なっている研究者です。
本書は、原書2017年、訳書2018年発行。日本語訳は参考文献資料や注釈も含め全386ページで、日本のビジネス書と比べると比較的大部で読み応えがあります。全6章で構成され、最後に学習者と指導者(上司を含む)へのアドバイスが、また、膨大な参考資料が付せられています。
全6章の見出しは、1. 価値を見いだす、2. 目標を決める、3. 能力を伸ばす、4. 発展させる、5. 関係づける、6. 再考する、となっており、これらが、そのまま上手な学びの方法論の手順にもなっています。
アーリック・ボーザー『Learn Better』 全6章の見出し
- 価値を見いだす
- 目標を決める
- 能力を伸ばす
- 発展させる
- 関係づける
- 再考する
筆者は、「もう『習うより慣れろ』の時代ではない。…現代の世の中で学び方を知り、思考のスキルを身につけなければならない。」と述べています。そして、学習おいて目指されるのは、「思考の体系を学ぶことだ」と述べます。ミクロ経済学を学ぶなら、ミクロ経済学の発想法を学ぶことが、目指すべきゴールになります。
では、以下、「思考の体系」を学ぶためのプロセスを順にみていくことにしましょう。
第一章 価値を見出す
何事をなすにも、最初にエネルギーが必要です。そのような精神的エネルギーは、モチベーションと呼ばれたりもしますが、学習をスタートさせ、それを効果的にするには、モチベーションが必要です。
では、学習に対するモチベーションはどうすれば得られるでしょうか。ボーザー氏は、ある大学での心理学(の学生)の実験結果等を示しつつ、学ぼうとしている対象(たとえば「統計学」)についての「意味」が重要だと説明します。ここでいう「意味」とは、その学習が、自分の仕事や人生に対して、どのような意味を持っているか、ということです。本書では「価値」とも言い換えられます。
ボーザー氏は、その、「意味」や「価値」は、究極的には、人が自分のいる世界を知りたいという欲求に基づいているため、永続的なものであると言います。つまり、「統計学について知れば知るほど、統計学というものにもっと知りたくなる」というのです。
氏による上記の分析は、たしかに私たちの実感とも合っています。しかし、本書における分析は、さまざまな学問的な知見をもとに導き出した科学的な結論であるという点が重要です。本書では、学習に価値を見出したあとに、モチベーションをより深め、維持する方法論についても説明されています。
この章には、「脳はよくコンピュータにたとえられるが、実はこれは正しくない」とも述べられています。この点も、学習の最初のステージにはとくに重要な指摘です。つまり、私たちの学習は、受動的に情報を受け入れるだけではなく、学習対象を意味づけて、能動的にかかわる「活動」であるようです。
学習は、静的な「思考」というよりも、行動的でダイナミックな「活動」であるという点は、日本の読者にはおなじみの「珠算」(そろばん)を使った暗算を例に詳しく説明されています。
第二章 目標を決める
学習の初期段階で必要なもう一つのポイントは、「目標を決める」ということです。第2章では、学習における目標設定と計画の重要性について述べられています。
目標とはターゲットのことで、学習の目的というよりも、目的を達成するためにひとつひとつクリアしていくことになる現実的な「小目標」という意味です。
当然、目標を定めるためには、まず「何を学習するのか」が決められていなければなりません。そして次に、学ぶべきその「何か」をどういう順番に学ぶか、つまり「どのような計画を立てるか」ということが極めて重要になります。
上記についても、著者は、脳のメカニズムから説明をしています。それによれば、まず脳における「学習の場」は、短期記憶にあるといいます。
学習は、短期記憶に始まり、それが長期記憶(すでに知っていることを含む知識)に接続することであると説明されます。短期記憶とは、その名の通り短期の記憶です。それは非常に短い時間しかもたないため、計画で目標に定める学習項目を小さく分割しておくことが重要となります。
別の言い方をすると、記憶容量には限界があるため、少しずつの方が学習しやすいということです。また、時間が長引いたり(たとえば授業時間が90分を超えたり)、脳の機能が、心配事や気が散ることに用いられてしまったりすると、学習ははかどらないことが示されます。
本章では、短期記憶と長期記憶の接続についても説明されます。ここでは、「知識」(予備知識)が重要になると、ボーザー氏は述べています。専門知識の習得には、前提となる基礎知識・予備知識が必要になるということです。学習計画を策定するにあたっては、学習の土台となるような知識がどのようなものかをわかっていなければなりません。その意味で、学校や教師といった指導者が、専門的な見地から計画(カリキュラム)を作成するのは、学習を進める意味で合理的です。
そして、学習は、その都度のテスト(小テスト)によって、理解度が確認され、知識の定着が図られます。テストと聞くと、子どもだけでなく大人である私たちも拒否反応を示しがちですが、科学的な学習理論では、「テストは学習に必須」と結論づけられているようです。
第2章の後半では、学習における感情とメタ認知(思考についての思考)の重要性も説明されていますが、ここでは割愛します。
第三章 能力を伸ばす、第四章 発展させる
第3章と第4章では、学習の発展と拡張について説明がなされます。スキルと知識を縦と横へと広げる方法についてです。一般的な言葉でいえば、スキルを体系的に伸ばすために、どういう練習をするべきか、という話になります。
スキルを伸ばすのに重要なのは、自分が伸ばすべきスキルをわかっているということが重要だとされます。そのような自己認知がない状態を「初心者」と呼びます。私たちが学習を始め、初心者を脱して上達のサイクルに入るには、自己を改善させるための評価、つまりフィードバックが必要となります。
「少しのことにも先達(せんだち=案内人・先生)はあらまほしき(あった方がよい)ことなり」(徒然草)という兼好法師のことばを、高校時代の古文で習ったと思います。どうやら、とくに初期学習における教師の必要性は、古今東西、不変の事実のようです。教師がいなければ、フィードバックは出来ないからです。
さて、ここでいうフィードバックには、モニタリングが含まれます。モニタリングとは、簡単に言えば記録のことです。学習をモニタリングするためには、日誌や日記、ビデオなどを使います。そういった記録からフォードバックを引き出し、それを基に、改善点を探るわけです。
そして、そこからは苦労の多い練習(ハードワーク)が待っていることになります。学習において苦労は避けて通れないようです。しかし、同じハードワークでも、効果の高い方法はあります。ボーザー氏の挙げるのは、「検索練習」という能力開発の技法です。検索練習とは、自己テストを頻繁に行う方法で、要は、たえず自分に質問を出して、思い出せるかを確認する練習のことです。たしかに、なかなか大変そうですが、他の学習法の50%以上の効果を上げる方法です。
また、理解を深化させ、知識を拡大させるための方法として、著者は、「要約」と「説明」を例に挙げています。練習を続けるとともに、ある段階からは、「重要なのはどこか?」「この概念をどう言い換えできるか?」などの問いかけを自分に対して行なうことで、理解を深めることができます。また、それを友人などにメールで説明すると、自分の考えがより豊かになって、学習の質がさらに高まります。
ボーザー氏は、ジャズの帝王マイルス・ディビスの画期的名盤『カインド・オブ・ブルー』が生まれる現場や、その他アーティストの事例を引き合いに出して、知識とスキルの深化について大変ユニークな説明をしています。また、スキル深化の方法として、「人に教える」という学習方法も提示されています。
それから、第4章の最後の方で、著者は、知識が不確実なものであるということも認めています。つまり、どんな専門知識でも暫定的な知識に過ぎないもの、あいまいなものは常にあるという事実を認めています。
しかし、本書が、ほかの学習指南本と大きく異なるのは、そういった知識の不確実性をノイズや除去すべきものとせず、むしろ、学習の習熟のための目的と捉えているところでしょう。
ボーザー氏は、知識の不確実性に触れることで、世界の複雑さを理解し、思考パターンを変化させることこそが専門知識を学ぶことにほかならないとし、ある物理学教授の言葉を借りて「学習とは単に正解を知ることではなく、推論し説明すること」だと述べています。
第五章 関係づける、第六章 再考する
学習が深化して、さらに専門的領域に近づくには、次の段階が必要とされます。それが、「関係づける」(第5章)、「再考する」(第6章)です。
第5章「関係づける」では、まずアインシュタインが相対性理論を生み出したプロセスを分析することにより、「思考実験」と「システム思考」の重要性が説明されます。システム思考とは、ある分野の物事の関係性や構造に着目する考え方で、それにより、一見して混沌として複雑な状況でも、原因と結果、類似点と相違点を見抜き、本質をつかむことが可能となります。
ボーザー氏は、心理学者のことばを引いて、このようなシステム思考、関係性の思考を身に着けるには、同じ練習を複数回、連続して行なうようなことはやめるべきと述べています。いわゆる反復学習について、注意を喚起しています。
氏は、アメリカの歴史を学ぶときには、独立戦争の論文ばかりを読むのではなく、独立戦争、南北戦争、冷戦、という別々のテーマを混ぜ合わせて(交互に)学んだほうが、洞察が高まるといいます。これは、個々のテーマ同士のつながりに気づき、システム思考につながるからです。
また、「仮定思考」の必要についても説明しています。推測し、仮定することで、専門知識分野にある関係性に気づくことができるというのです。ここでは、アインシュタインだけでなく、スティーブ・ジョブスや文学まで例に挙げて、この思考法の重要性を述べています。これは、具体的には、①エビデンスを見る、②仮説を立てる、③仮説をテストする、④結論を出す、という段階を踏みます。
仮定思考の実施段階
①、エビデンスを見る②、仮説を立てる
③、仮説をテストする
④、結論を出す
第5章の後半では、学習メソッドとして「ハッキング」を行なうこと、アナロジー(類比的思考)の重要性、問題解決のスキルについての説明が述べられています。
第6章「再考する」では、過信を戒め、分散学習と復習の方法論、内省と静かな時間の必要性が述べられ、最後に、「学生の皆さんへ」、「親、先生、上司の皆さんへ」、「政策担当者の皆さんへ」むけてアドバイスが与えられています。
おわりに
本書において著者は、現代、情報化の極度の進展により、スキルや知識の獲得の仕方にも変化が生じていると述べています。具体的には、近年インターネットやスマーフォンなどの普及により、脳が情報を記憶する場所として、スマートフォンなどの端末を一種の「補助脳」として利用していることが、最近の研究によってわかってきたといいます。
たとえば、グーグル検索で「マイケル・ジャクソンの生誕地」を調べたとしましょう。著者によれば、私たちは、「生誕地」という情報そのものよりも、インターネットの「どのページに情報があったか」という情報の方が、より記憶に残りやすいというものです。
脳は、情報そのものを記憶する代わりに、情報が見つかる場所を知ることによって自身の負荷を減らすというのが、この現象の説明です。そうすると、新しい学習法の理解においては、私たちは「記憶の保存場所として、自分の頭とコンピュータをどう使い分ければよいのか」について自覚的である必要が出てきます。
本書が世に出たあと、2022年ころからは、生成系のAIが話題を呼んでいます。このように、人間の知識のあり方は、情報技術によりさらに変化し続けているように見えます。今後、科学的な根拠に基づいた学習理論の必要性はますます高まっていくでしょう。
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