- 総合人材サービス ランスタッドTOP
- 法人向けHRブログ workforce Biz
- パート・アルバイトの社保適用拡大!企業対応と支援策
パート・アルバイトの社保適用拡大!企業対応と支援策
社会保険(厚生年金保険、健康保険)の適用範囲が、2024年10月から拡大します。
日常生活の中で「社保」と呼んでいる身近な国の制度です。これに伴い、フルタイムの正社員だけでなく、パート・アルバイトなど「短時間労働者」の加入の手続きが必要となる企業が増えます。
2016年から段階的に広がっている適用対象ですが、社会保険料の負担は「本人と企業が折半」であることから、企業にとって新たなルールの正しい把握と対応は重要です。
適用拡大の全体像がつかめるように、「社会保険」のあらましと「適用の有無」のポイントに着目してお伝えします。また、企業負担を軽減する国の支援制度についても紹介します。
目次 |
社会保険は何を指す?
社会保険は、国民の生存権を保障するために設けられた制度で、国民が事故や病気、けが、災害などに巻き込まれたときに損害の填補(ほてん)や生活の保障をしてくれる保険です。
正確を期すと、社会保険とは下記の5保険を指します。
(1)健康保険(2)厚生年金保険(3)介護保険(4)労働者災害補償保険(労災保険)(5)雇用保険 |
ただ、このうち(1)健康保険(2)厚生年金保険(3)介護保険――の3つを一般的に「社会保険(社保)」と呼び、(4)労働者災害補償保険(5)雇用保険を「労働保険」と呼んでいます。これから解説する適用拡大の「社会保険」は、前者の3つを指しています。
「社会保険(社保)」と呼ばれるもの
(1)健康保険(2)厚生年金保険(3)介護保険
「労働保険」と呼ばれるもの
(4)労働者災害補償保険(5)雇用保険を
|
健康保険・厚生年金保険・介護保険とは
<健康保険>
働く人とその家族を含む被扶養者の病気やけが、死亡、出産に対して保険給付する制度です。また、病院で診てもらった時の医療費の自己負担が3割で済みます。
<厚生年金保険>
働く人の老齢、障害、死亡に対して保険給付する制度です。厚生年金保険は、国民年金と併せた「いわゆる2階建て」の2階部分にあたるものです。国民年金にプラスして、原則65歳から一定額を受給することができます。
<介護保険>
加齢に伴って生ずる疾病によって要介護状態となった場合、必要な保健医療サービスや福祉サービスに対して保険給付する制度です。40歳以上のすべての人の加入が義務化されています。
【重要】社会保険には適用要件(企業規模・条件)があります! 社会保険の適用企業になった場合、フルタイムの従業員は社会保険に加入させなければなりません。一方で、パート・アルバイトなど短時間労働者が社会保険の対象となるには、企業規模や働く人の労働時間や属性などに応じて一定 の要件があります。 |
対象外の短時間労働者「4分の3基準」と留意点
ひと口に「短時間労働者」と言っても、下記の「4分の3未満短時間労働者」に該当する場合は社会保険の適用対象になりません(通称:「4分の3基準」)。
・1週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者の「1週間の所定労働時間の4分の3未満」 ・または、1カ月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の「1カ月の所定労働日数の4分の3未満」 |
しかし、重要なのはここから。「4分の3未満短時間労働者」であっても、下記の5要件を満たす場合は適用対象(2024年9月末まで)となります。
(1)使用される従業員が常時101人以上 (2)週の所定労働時間が20時間以上 (3)所定内賃金が月額8.8万円以上 (4) 2カ月を超える雇用の見込み (5)学生ではない |
新たなルール・適用拡大のポイント
2024年10月1日からスタートするルール変更によって、上記の5要件のひとつである「使用される従業員が常時101人以上」が「常時51人以上」となります。
企業は、従業員が社会保険の適用対象者に該当する場合、社会保険に加入させる義務があります。企業が社会保険の適用対象者であるにもかかわらず、正当な理由なく社会保険の保険者に届け出を行っていない場合、関係法令に基づく罰則が科される可能性もあります。
企業に推奨する4つのステップとメリット
STEP1:加入対象者の把握
まず、加入対象となる自社の従業員数を把握します。週の所定労働時間は契約上の時間であり、臨時で生じた残業時間は含みません。
STEP2:社内周知
新たに加入対象となる従業員に、法改正について周知します。社内ネットワークやメールなどを使い、社内周知を行いましょう。
STEP3:従業員とのコミュニケーション
必要に応じて説明会や個人面談を実施します。社会保険の加入対象者であることに加え、加入によって得られるメリットも伝えましょう。 面談を実施することで、今後の働き方について話し合うよい機会にもなり、労働時間の延長や正社員への転換など、キャリアアップにつながる提案もできます。
STEP4:書類の作成・届出
対象となる企業は、2024年10月7日までに対象者全員分の書類を作成して提出しなければなりません。届け出はオンラインで対応しています。
社会保険加入による労働者側と企業側のメリット
■労働者側のメリット
・将来受け取る年金額が増える
・傷病手当金の制度が利用可能
・出産手当金の制度が利用可能
・厚生年金と健康保険の保険料は企業が半分負担
■企業側のメリット
・求人で「社会保険加入可能」のアピールで応募率向上が期待できる
・企業としての社会的信頼度を得ることができる
・医療保険などの保障が充実する為、安心して勤務ができモチベーションUPに繋がる
・扶養の範囲を気にせずに勤務ができる為、労働時間延長を検討する従業員も出てくる
短時間労働者の適用拡大Q&A
Q:学生については、「4分の3基準」に該当していても、学生という理由で社会保険の対象とならないのか。
A:学生であっても、適用事業所に使用され「4分の3基準」を満たす場合は、正社員などと同様に社会保険の被保険者となります。
Q:短時間労働者の社会保険の適用については、所定内賃金が月額 8.8 万円以上であるほかに、年収が106 万円以上であるかないかも勘案するのか。
A:所定内賃金が月額8.8万円以上であるかないかのみに基づき、要件を満た すか否かを判定します。年収106万円以上というのはあくまで参考の値です。
Q:所定内賃金が月額 8.8 万円以上かの算定対象となる賃金には、どのようなものが含まれるのか。
A:所定内賃金が月額 8.8 万円かの算定対象は、基本給及び諸手当で判断します。ただし、以下の①から④までの賃金は算入されません。
①臨時に支払われる賃金(結婚手当等)
②1月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)
③時間外労働に対して支払われる賃金、休日労働及び深夜労働に対して支払われる賃金(割増賃金等)
④最低賃金において算入しないことを定める賃金(精皆勤手当、通勤手当 及び家族手当)
Q:短時間正社員について、今回の適用拡大によって取扱いに変更はあるか。
A:短時間正社員は、従来どおり、所定労働時間の長短にかかわらず、被保険者資格を取得します。
Q:同時に2カ所以上の事業所で勤務をしているが、複数の事業所で被保険者資格の取得要件を満たした場合、どのような手続きが必要になるか。
A:同時に2カ所以上の事業所で被保険者資格の取得要件を満たした場合、被 保険者はいずれか一つの事業所を選択して、その事業所を管轄する事務センターへ「被保険者所属選択・ 二以上事業所勤務届」を提出してもらいます。
なお、被保険者資格の取得要件を満たすか否かについては、各事業所単位で判断を行うこととしており、2カ所以上の事業所における所定内賃金や労働時間を合算することはしません。
企業を補助する支援制度
企業が社会保険適用拡大の準備を円滑に進めるため、政府は無料の相談窓口や助成金などの支援策を用意しています。
<専門家活用支援事業(無料)>
年金事務所では、適用拡大に関する知識が豊富な社会保険労務士を無料で企業に派遣しています。社会保険適用拡大の対応方針の検討、パート・アルバイトの従業員への説明のサポート、手続きについて相談できます。
日本年金機構「全国の相談・手続き窓口」
|
<よろず支援拠点(無料)>
中小企業や小規模事業者の経営者をサポートするため、国が全国に設置した無料のワンストップ相談窓口です。社会保険適用拡大の対応方針にとどまらず、売上拡大や経営改善のあらゆる経営課題の解決に向けて、相談内容に応じた適切な解決策を提案します。
よろず支援拠点全国本部「支援拠点一覧 」
|
<キャリアアップ助成金>
短時間労働者等の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員転換、処遇改善を実施した事業主に対して助成しています。「社会保険適用時処遇改善コース」では、パート・アルバイトで働く人の社会保険加入にあわせて手取り収入を減らさない取り組みを実施する企業に対し、対象労働者1人当たり最大50万円の支援を実施しています。
厚生労働省「キャリアアップ助成金」
|
<働き方改革推進支援センター(無料)>
各都道府県に設置されており、労務管理の専門家が無料で、時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金、キャリアアップ助成金を含む労働関係助成金の活用方法、その他働き方改革を広く支援する取組に関する個別相談やコンサルティングを実施しています。
働き方改革推進支援センター
|
まとめ
政府は、法律改正を通じて「短時間労働者」に対する社会保険加入の適用拡大を計画的に進めています。今回の新ルールも経過のひとつであり、この先も事業規模や労働時間の見直しなどで更に広げていく見通しです。
その狙いと意義については、働き方が多様化するなかで「企業の規模や雇い方の選択によって社会保険制度の取り扱いが歪められたり、不公平を生じたりすることがないようにする」ことが挙げられます。
短時間労働者に対する将来の所得保障対策や公的年金財政の安定化という観点からも適用拡大は不可欠となっていることを認識・共有し、企業には保険料負担の増加を懸念する労働者に十分配慮しながら対応することをお勧めします。