- 総合人材サービス ランスタッドTOP
- 法人向けHRブログ workforce Biz
- 【解説】変革元年・物価上昇を上回る継続的「賃上げ」
【解説】変革元年・物価上昇を上回る継続的「賃上げ」
2024年春闘は、33年ぶりに「5%台」の賃上げ率を達成する勢いです。昨年の春闘は近年で高率の「3%台」にのせたものの、物価上昇率がこれを上回り、賃上げの恩恵は広がりませんでした。政府は今年の春闘を低成長と低賃金の悪循環から脱却する「変革元年」と位置付け、賃上げを進める中小企業を後押しする支援メニューもそろえています。注目を集める「2024年春闘」のポイントと背景、企業対応などについて解説します。
目次 |
相次ぐ「高額回答」、有期・短時間社員も大幅上昇
今年の春闘の全体像が見えてきました。労働組合のナショナルセンターである連合が4月4日までにまとめた賃上げ額は1万6037円、賃上げ率5.24%(2620労組の加重平均)となり、1991年以来33年ぶりに目標としていた「5%以上」を維持しています。 賃上げ率は前年同期より1.54ポイント上回っており、1991年当時の5.66%以来の水準です。
一方、従業員300人未満の中小企業(1600労組)の正社員になると、1万2097円、4.69%で、「5%台」に届いていませんが、賃上げ額・率ともに昨年を大きく上回っています。
また、有期・短時間の賃上げも216組合・約74万人の時給ベースで66.67円アップの1158.89円。63組合、1万6700人の月給ベースで1万3870円(同6.18%)と大幅アップとなっています。
政府が「賃上げ」を唱える背景と課題
<実質賃金と暮らし>
昨年の春闘の賃上げ率は、連合の調査で3.58%、使用者側である経団連の調査で3.99%となり、それ以前の推移に比べれば上昇しましたが、目標の5%どころか4%台にさえ届きませんでした。このため、厚生労働省による毎月勤労統計の実質賃金は、22年4月から2年近くマイナスという状況が続いています。
実質賃金のマイナスは、国民生活の水準が下がっているという意味であり、多くの家庭は物価高への生活防衛に消費活動を抑制してしまう結果、個人消費は低迷。これがGDP(国内総生産)にも大きく影響しており、結果的に「ゼロ成長線上」を上下する低位で推移しています。
<賃上げが広がらない要因と課題>
大手の賃上げが中小企業に十分波及しなかった大きな要因として政府は、大手が下請け企業などからコスト上昇分の価格転嫁を認めず、中小が賃上げの原資を得られなかったと分析しています。このため、政府は今年、不当な要請など“下請けいじめ”をした企業名を公表するなど監視を強め、スムーズな価格転嫁を促しています。
ただ、仮に価格転嫁が進んでも、それが毎年の継続した賃金上昇に結びつかなければ無意味です。毎年、賃金を上げながら収益を確保するには大手も中小も労働生産性を向上させなければなりませんが、日本企業の生産性は先進国で低位が続いており、国際競争力は回復していません。かつては、大手と中小が「一体化」して成長していましたが、バブル崩壊後の長期にわたるデフレ期間中に「分断」してしまい、景気が大手から中小にしたたり落ちる「トリクルダウン」が止まっています。
<日銀、春闘の大幅アップでマイナス金利修正>
今年の賃上げは、日本銀行(日銀)の金融政策にも大きな影響を与えています。日銀が春闘の動向に注目するのは、バブル崩壊後から長年続けてきた「超低金利・ゼロ金利」の異常事態から脱却を狙っていたためです。その条件としているのが「物価上昇を上回る賃金上昇」であり、具体的には「消費者物価指数(CPI)の伸びが2%・賃金の伸びが4%程度で推移」をイメージしています。
CPIは生鮮食品を除く指数で、今年に入って2.0%前後で落ち着いています。この水準で推移すれば、残る課題は賃金の動向。「ほどよいインフレ」になるのは4~5%の賃金アップで、かつ実質賃金がプラス転換することを想定していたため、日銀は3月19日、金融政策決定会合で「マイナス金利政策の解除」を決めました。政策金利を引き上げるのは17年ぶりです。これで大規模緩和は事実上終了し、金融政策は新たな段階に入りました。こうした動きも、今年の春闘が例年以上に注目されている理由のひとつです。
「賃上げ持続」のスタートを歓迎、政府・連合・経団連
33年ぶりの高い水準での賃上げについて、政府と連合と経団連はいずれも歓迎しています。使用者側の経団連も大幅な賃上げの必要性を理解していることがポイントです。今春闘の3者の評価は下記の通りです。
【政府】力強い賃上げの流れができていることを心強く思います。30年続いたコストカット型経済から次のステージに移行していくために、良い動きを確認できました。高い賃上げの動きが中小企業・小規模企業に広がっていくためには、労務費の価格転嫁が鍵となります。政府としては、このような賃上げの流れを継続できるよう、あらゆる政策を総動員して手を尽くしてまいります。
また、賃上げの裾野を更に広げていくためには、男女間賃金格差の是正や、非正規雇用労働者の方の賃金引上げも極めて重要です。デフレ完全脱却のチャンスをつかみとるため、これからが正念場です。
【連合】新たな経済社会へのステージ転換に向けた大きな一歩として受け止めています。産業による違いはあるものの、多くの組合で連合が賃上げに改めて取り組んだ2014闘争以降で最高となる賃上げを獲得しています。労使が「デフレマインドを完全に払しょくし、新たな経済社会へ移行する正念場である」との共通認識を持ち、真摯に向き合った結果と言えます。
有期・短時間・契約等労働者の賃上げ結果も、格差是正に向けて前進できる内容と受け止めており、すべての働く者の生活向上につなげていきます。
【経団連】コストプッシュ型インフレとはいえ、物価が上昇したこの機を千載一遇のチャンスかつ正念場と捉え、「官民連携によるデフレからの完全脱却」をキーワードに、賃金引上げのモメンタムの維持・強化に取り組んでいます。
製造業を中心に多くの大手企業で、1万円以上のベースアップや5%超の賃金引上げなど、昨年を大きく上回る水準の回答に安堵感を覚えています。
今年は、賃金引上げの必要性を労使共に強く認識し同じベクトルを向いて取り組んでいます。労働組合の要求通りの満額回答やそれを超える水準で早期に回答・妥結する企業がみられるなど、企業労使が真摯な議論を重ねた結果が表れていると感じています。
中小企業の「賃上げ」の経過と現状
政府が目指す「成長と分配の好循環」において、賃上げは重要な政策の柱ですが、1人当たりの実質賃金の伸びは、過去30年近く他の先進国に比べて低水準で推移しています。これまでの傾向は下記の通りです。
出典:中小企業庁
昨年の2023年度は、物価高騰や人手不足等を背景に、従業員3
出典:中小企業庁
賃上げを進める中小企業への支援メニュー
価格転嫁をしやすい環境づくりに加えて、政府は賃上げを進める中小企業を支援する政策を次々と打ち出しています。主な支援メニューを紹介します。
<国内投資拡大・イノベーションの促進>
中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金
地方においても賃上げが可能となるよう、中堅・中小企業が工場の拠点を新設する場合や大規模な設備投資を行う場合について、支援措置を新たに実施しました。
事業の詳細はこちらです。
https://seichotoushi-hojo.jp/ (経済産業省)
大規模成長投資促進のための地域未来投資促進税制の拡充
地域未来投資促進税制は、地域の特性を活かして高い付加価値を創出し、地域に相当の経済的効果をもたらすものとして、担当大臣の確認を経た事業計画に基づく設備投資を促進する税制です。
事業の詳細はこちらです。
https://www.meti.go.jp/policy/sme_chiiki/miraitoushi/zeiseishien.html(経済産業省)
ローカル10,000プロジェクト(地域経済循環創造事業交付金)
地域の資源と資金を活用した地域密着型事業の立ち上げを支援。国の重要施策(デジタル技術の活用、ローカル脱炭素の推進)と連動した事業については、重点支援します。今年4月からは、自治体独自の取組にも支援を拡充します。
事業の詳細はこちらです。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000940038.pdf (総務省)
<良質な雇用の実現>
キャリアアップ助成金
有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用労働者の企業内のキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して包括的に助成します。
事業の詳細はこちらです。
https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/001239298.pdf (厚生労働省)
賃上げ促進税制における中堅企業枠の創設
賃上げ促進税制(大企業向け、中小企業向けに二分)について、地域において賃上げと経済の好循環の担い手として期待される中堅企業の賃上げ環境の整備に向けて、中堅企業枠を創設します。
事業の詳細はこちらです。
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001193641.pdf (厚生労働省)
人材開発支援助成金
事業主等が雇用する労働者に対して、その職務に関連した専門的な知識及び技能の習得をさせるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です。
事業の詳細はこちらです。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001238033.pdf (厚生労働省)
継続した「賃上げ」が政策の中心となり、今年から「新たなフェーズ」に入りました。企業もこうした流れと各種支援策を活用して成長の波に乗ることが期待されます。