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2023年を読み解く(第2部)~経済・社会・労働法制
新年特集「2023年を読み解く~経済、社会、労働法制の動き」は、1月11日から第2部の「社会」を掲載中です。最終回の第3部は、1月13日に「改正労働法」をテーマにお届けします。
【社会】広がる成長産業と衰退産業、政府はスタートアップを支援
労働生産性の国際比較で日本が低迷している状況を打破しようと、政府は衰退産業から成長産業への「労働移動」とIT・DX人材の育成に本腰を入れます。この動きを「人への投資と分配」と呼び、労働生産性の向上にあらゆる政策を総動員します。
他の産業・企業でも通用する高スキル人材の育成に注力する方針で、日本の慣例として根強く残る「年功制の職能給」から日本文化も加味した「ジョブ型の職務給」への移行も推進します。こうした変化が求められる環境の中で、今年注目される社会の動きをピックアップしてお伝えします。
<スタートアップ支援で産業活性化>
スタートアップ(新興企業)は、起業や新規事業の立ち上げを意味する言葉で、とりわけ「革新的なアイデアと発想で短期的に成長する企業」を指します。革新性、成長率、EXIT(出口戦略)、資本調達方法――などがポイントとなります。政府は、このスタートアップの事業化を支援する2000億円規模の「基金」を今年の早い段階で創設。従来までは研究開発に対する補助金交付などが中心でしたが、今回の「基金」はビジネスとして軌道に乗せる過程までも含めた「実証実験の費用」も手厚くバックアップします。
政府はスタートアップ企業を現在の10倍に増やす「育成5か年計画」を策定し、新基金はそこに充当する方針です。支援対象は原則として、革新的な技術を持つ設立15年以内の中小企業で、支援期間は最長5年を見込んでいます。確実な事業化への導線として、既に成果や実績のある大企業や大学、シンクタンクなどとコンソーシアム(共同事業体)を組むことも推奨する考えです。今年中に公募を開始します。
<企業のSDGsやESGの取り組み続く>
SDGsは2015年国連サミットで合意された「2030年までを期限とする17の国際目標」で、政府は「地方創生」「次世代」「女性のエンパワーメント」の3つを中心に推し進めていきます。大手企業はもちろん、中小企業や地方自治体などでも各種の取り組みが進行しており、これに連動して企業の長期的成長に重要な環境(E)・社会(S)・カバナンス(G)の3つの視点から成るESGへの投資も活発化する見通しです。
ESGに配慮した企業に対する投資は、世界の中で日本は後発ですが、この数年間で大きく伸びています。短期的なリターンを求め続けた結果、世界全体の金融危機を引き起こした過去の反省に立ち、従来までの企業の評価方法を変えて、例えば気候変動や世界的な労働問題、働く環境の変化などのリスク対応を含め、「企業の長期的な持続可能性を評価」する投資が進みます。
<エネルギーは不確実性に翻弄、価格は高止まり>
エネルギーの主要供給国であるロシアは、中国やインドなどとの関係強化に乗り出しており、今年は流動的な展開が続く模様。エネルギー市場は不確実性に翻弄されながら、注目の市場価格は高止まりで貼りつくとみられています。
西側諸国はロシア産石油の禁輸や取引価格の上限設定などの「制裁措置」を強めており、エネルギー需給のバランスが維持できるかは微妙な情勢です。
市場では、原油よりもディーゼル燃料の需給バランスが崩れる可能性があります。ディーゼル燃料市場は、ロシアによるウクライナ侵攻の前の段階ですでに精製能力の乏しさからひっ迫していましたが、供給の引き締まり感が一段と加速。世界の石油精製能力がディーゼル燃料の不確実性に対応できなかった時は、陸路のトラックなど輸送部門をはじめ、資材・肥料などの品薄感から建設や農業などの分野で更なるコスト高に見舞われることも予想されます。
<外国人との共生社会へ、抜本的な法整備進む>
日本に在留資格を持つ外国人は、2022年6月末時点で296万1969人に達し、過去最多となりました。出入国在留管理庁によると、2021年12月末から7.3%、20万1334人増えています。コロナ禍の影響で続いてきた減少傾向に歯止めがかかり、今年は300万人超時代を迎えることになりそうです。
こうした中、特筆される動きとして2019年4月に運用が始まった「特定技能」と、人道的観点から国際的な批判が止まない「技能実習」の抜本的な見直し議論が活発に展開されます。法務省と厚生労働省は、「特定技能」とは異なる「技能実習」について、「国際貢献は名ばかりで人手不足を補う労働力となっている」などとの指摘が国内外から挙がっていることから、「特定技能への一本化」も選択肢に含んだ大胆な議論を始めます。政府は「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を掲げ、ソフトとハードの両面から共生社会の実現に本腰を入れます。
<従業員の健康な心身、「ウェルビーイング経営」が浸透>
「従業員の健康な心身によって、企業活動と経営も良好になる」――。こうした考えのもとに展開される「ウェルビーイング経営」が、企業規模にかかわらず導入が進む模様です。ウェルビーイング(well-being)は、個人や組織が「心身ともに健康で、社会的に満たされた状態にある」ことを指します。健康とは、病気やけがのことではなく、「健全な状態で幸福が感じられる状況」を意味します。このウェルビーイングの概念を経営に当てはめ、企業は従業員に対して肉体的・精神的・社会的な側面から満たされるよう環境整備します。
ウェルビーイングを構成する「幸福度」の要素は(1)キャリアウェルビーイング=職務経験や職責(2)ソーシャルウェルビーイング=人間関係(3)ファイナンシャルウェルビーイング=安定的な収入(4)フィジカルウェルビーイング=身体的な健康(5)コミュニティウェルビーイング=自身が属する地域社会での活動――の5つです。
ウェルビーイング経営は、経営層や幹部クラスが主体となって取り組むべき施策で、意識改革と発想の転換が不可欠となります。目の前の利益が減ることもあり得ますが、中長期的な視点でみると労働生産性の向上や新卒・中途採用への効果など、企業メリットがあるとされています。