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派遣「労使協定方式」、来年度の一般賃金水準 ~法改正後、賃金アップなど待遇改善が顕著~
2020年改正の労働者派遣法に基づき、派遣元が「労使協定方式」を採用した場合に用いる「来年度適用の一般賃金水準」について、厚生労働省は直近の2021年(度)の統計調査を集計して公表しました。いわゆる「同一労働同一賃金」の導入に伴う改正派遣法の施行から2年余りが経過。厚生労働省の外郭団体となる労働政策研究・研修機構の調査で、法改正後の派遣社員の賃金や各種手当などを含む待遇改善が広がっていることがわかっています。
法改正の狙いを達成している派遣法の「労使協定方式」と賃金に関する「一般賃金水準」。派遣元と派遣先の双方の理解と協力が重要な仕組みですが、専門家の間からは「複雑かつ難解」といった指摘もあります。
来年度の労使協定締結に向けた動きが始まる前に、「一般賃金水準」の要所と留意点を分かりやすく解説するとともに、法改正に伴う成果などについて紹介します。
賃金の決定方式は2つ
来年度適用する「一般賃金水準」は、職業安定局の局長通達として毎年前年の夏ごろを目途に公表されます。2020年の改正法施行に向けて2019年の夏に最初の公表が行われ、今回で4回目の局長通達となります。
さて、改正派遣法において派遣社員の賃金と待遇の決め方は2通りあります。下記のいずれかの決定方式を採用することが義務化されました。
(1)「派遣先均等・均衡」(派遣先方式) (2)「派遣元の労使協定」(労使協定方式) |
この選択制2方式のうち、「労使協定方式」を選んだ場合には、局長通達の「一般賃金水準」より同等以上でなければなりません。
「一般賃金水準」の目安はどこから?
「一般賃金水準」の根拠となっているのは下記の2種類です。
(1)「賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金」(賃構統計) (2)「職業安定業務統計の求人賃金を基準値とした一般基本給・賞与等の額」(ハローワーク統計) |
賃構統計は暦年(1~12月)の統計、ハローワーク統計は年度(4月~翌年3月)の統計で、後者の集計が発表されるのを待って局長通達の賃金水準を定めるため、毎年夏ごろの公表となります。
いずれの統計も、業種別・職種別など細かく分かれています。さらに、物価バランスをとる「地域係数」や「通勤手当」「退職金割合」なども同時に公表され、これを基に派遣元は企業内で労使協議を開始します。
改正法・施行前と施行後の変化
改正法施行前と施行後の変化について労働政策研究・研修機構が調査した結果、派遣社員の賃金は約半数で上昇しているほか、各種手当など待遇も改善していることがわかりました。
主なポイントを挙げてみると、
◆「労使協定方式」が圧倒的な約9割
2方式のうち、「派遣先方式」を選択している事業所が約1割、「労使協定方式」が約9割で圧倒的に後者が選択されています。なお、労使協定の締結主体は「労働組合」が6.4%、「過半数代表者」が93.6%。労使協定の有効期間は「1年」が71.7%、「2年」が25.6%、「3年以上」は1.3%で、局長通達の更新が1年であることから、「1年」が主流となっています。
◆「賃構統計」と「ハローワーク統計」の選ばれ方
派遣元が選択できる「賃構統計」と「ハロワ統計」の使用割合は、下記などとなっており、職種によって選択の違いがあります。
・情報処理・通信技術者で「ハロワ統計」76%・「賃構統計」21% ・一般事務員は「ハロワ統計」100%・「賃構統計」0% ・製品製造・加工処理は「ハロワ統計」89%・「賃構統計」4% |
◆賃金を含む待遇改善が顕著
法施行前と比べて、約半数の事業所で派遣労働者の賃金が上昇しています。
具体的には、「派遣先方式」が48.6%、「労使協定方式」は50.9%、「2方式の併用」は79.6%の事業所で上昇。「労使協定方式」の方がやや高めになっているのが特徴です。
逆に「減った」と回答したのは、いずれの方式も0.0%~0.6%とわずかで、改正法が待遇改善を促進した様子がうかがえます。派遣元と派遣先の理解と協力の成果と言えます。
このほか、派遣労働者に適用されている各種手当なども、法施行後に適用割合がアップ。無期雇用派遣と有期雇用派遣のいずれでも、通勤手当や賞与、退職金が上昇しています。
来年度の「一般賃金水準」はどうなるの?
さて、今回公表された来年度適用分の「一般賃金水準」には、どのような特徴があるのでしょうか。
着眼点としては、「通勤手当」が71円(時給換算)から前年と変更なし。「学歴計初任給との調整」は12.7%から12.4%に減少。「退職金割合」は6%から5%に下がりました。これは、21年(度)のコロナ禍の労働経済が反映されているためとみられます。
ただ、足元ではウィズ・コロナに向けた行動制限解除の流れにあり、経済活動の活発化に伴い人材不足が顕著になっています。賃金をはじめとする待遇改善が更に求められる状況となっています。
厚生労働省が公表した来年度適用分の「一般賃金水準」など
まとめ
2023年度の「一般賃金水準」の内容が公表されたことで、来年度の労使協定を見据えた派遣社員の賃金設定や派遣先との料金交渉が年明けにかけて展開されます。労使協定方式の適用も4年目となるため、派遣元と派遣先との間での実務の流れは構築されていると思いますが、派遣元・派遣先の実務担当者は適用職種の一般賃金の内容を正確に把握して、関係者に説明・周知していくことが求められます。
職種ごとに更新されているもののほかに、「通勤手当」「退職金割合」などのように据え置きや引き下げとなったものがあるので、運用の際は注意が必要です。
【筆者プロフィール】 株式会社アドバンスニュース
専務取締役報道局長
大野 博司 氏
1970年、青森県出身。中央大学大学院戦略経営研究科(
1994年、日本新聞協会加盟の地方紙に入社。社会部、教育、
'05年に東京支社で国会取材担当兼論説委員に就き、
' 労政ジャーナリスト(日本外国特派員協会) |
取材・文責
(株)アドバンスニュース