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ソフトバンク・ランスタッド特別対談 前編:挑戦と安心の「徹底」が、個人の自律を呼び覚ます —— ソフトバンクに学ぶ、企業と人材が相乗効果を生むEVP戦略の全貌

※本記事は2026年4月23日時点の情報です。
企業の成長と、個人のキャリア自律をいかに両立させるか。この難題に対し、経営戦略と人事施策を「1本の線」でつなげることで答えを出しているのがソフトバンクです。ランスタッドの最新データが示す「成長を望む働き手」のトレンドを踏まえ、同社エリアマネージャーの長部智樹が、ソフトバンク株式会社 人材戦略部 部長の大神田賢翔氏にインタビュー。社内企業制度や副業、徹底した健康経営など、強固な組織文化を創り上げる同社のEVP(従業員価値提案:企業が社員に提供する価値)戦略を前後編にわたって解き明かします。

左:ソフトバンク株式会社 人事総務本部 人事企画統括部 人材戦略部 部長 大神田賢翔さま
右:株式会社ランスタッド オペレーショナルタレントソリューション事業本部 首都圏エリアマネージャー 長部智樹
目次: |
挑戦のハードルを下げる仕掛け:30年ビジョンからの逆算。日常の課題をビジネスに変えるマインド
30年ビジョンから逆算された、社内起業制度「ソフトバンクイノベンチャー」の原点
長部:弊社の最新調査では、今日本の働き手の間で「安定」よりも「自身を成長させてくれる環境」を求める声が強まっています。まさに貴社が展開されている社内起業制度「ソフトバンクイノベンチャー」は、その理想的な成長環境だと感じますが、そもそもどのような背景から設立されたのですか?
大神田さま:ソフトバンクが創業30年を迎えた2010年頃に、次の30年をどうやっていくかを示す「新30年ビジョン」が打ち立てられました。その中で「ソフトバンクが事業ドメインとしている『情報革命』は、これからさまざまな分野にわたって広がっていくだろう、自分たちも事業領域を広げていかないといけない」と語られていました。それを実現するためには、この先「事業を自分たちで作っていく人」が必要になる。こうして生まれたのが「ソフトバンクイノベンチャー」でした。
長部:「ソフトバンクイノベンチャー」に応募される社員の方々は、どのようなマインドセットをお持ちの方が多いのですか?
大神田さま:いわゆる社内起業制度は、社員自ら手を挙げてチャンスを掴むので「本人に意欲がある」ことが大前提です。それに加え、普段から「業務の中で課題を見つけてチャレンジしてみたい」という気概を持った人が応募しました。個人だけでなく、チームで名乗りを上げたところもありますね。
具体的な結果以外にも、そういう仕組みがあることで「これは自分で解決できるんじゃないか」と社員が考えること自体に意味があると思っています。
シェアサイクルからAIまで。現場の「やりたい」を形にする事業化のリアリティ
長部:実際に事業化されてインパクトの大きかった事例にはどのようなものがあるのでしょうか?本業にポジティブな影響を与えるものも多いのではと思いますが。
大神田さま:反響の大きかったものを2つご紹介しますね。
1つ目は、シェアサイクル事業「HELLO CYCLING」です。
「ソフトバンクイノベンチャー」で立ち上がった会社「OpenStreet株式会社」が手掛けている事業で、旅行地の短距離移動のモビリゼーションとして省庁からも採択されるなど、シェアサイクリング市場の中でも一定数の規模を築いています。
2つ目は、AIプラットフォーム「Axross Recipe」です。
社員がAIについて学習する際の「仕組み」を整理して、ただの研修コンテンツではなく常にアップデートされたAIコンテンツを提供し続ける事業で、事業収益も上げています。
長部:「HELLO CYCLING」は弊社の営業でも利用している者がいます。アプリが分かりやすくて、シンプルで便利ですよね。
大神田さま:それは担当者が喜びます。本業への貢献はもちろん、そういう事業をきっかけに「本業で組みましょう」という具体的なシナジー効果もありますから。
何千件と社員が手を挙げた中から、実際に事業化されたのは現時点で23件です。事業化だけを"成功"と見なせば狭き門ですが、採用されなくても決して"失敗"ばかりではない。社員もただ落ち込むのではなく、いい経験をして、学んだものを本業に持ち帰ってくれている。もちろん、一度は事業化を逃した人やプロジェクトが再挑戦することもあります。間接的なものも含めるといろいろな効果がありますね。

(出典:ソフトバンク株式会社 提供資料/2026年4月23日取材時点)
「打席」を用意する仕組みの思想は、予算の規模に関わらずどんな企業でも参考にできる
長部:挑戦の過程そのものが本業への還元になっているのですね。ただ、こうした仕組みは「ソフトバンクさまのような大企業だから、莫大な予算があるからできるのでは」と考えてしまいがちですが、いかがでしょうか?
大神田さま:「社員が自ら手を挙げて挑戦する仕組み」そのものには特に予算はかからないと考えています。本質は予算の規模ではなく、「社員が普段の業務で見つけた課題に対し、自ら手を挙げて挑戦できる風土や仕組み」を会社が用意できているかどうかだからです。
我々は新30年ビジョンという自社の戦略を踏まえて「社内起業制度」を採用しただけで、どの会社にも同じ方法が適しているとは思っていません。ただ、意欲ある社員に打席を用意するという仕組み自体はどんな規模の企業でも十分に参考にしていただけると思います。
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副業がもたらした想定外のロイヤリティ:「外」を知ることで見える自社の価値
SEが外で開発を経験?本業の視座を高める社外副業のシナジー
長部:ランスタッドが2025年に行った、Z世代を対象とした調査「Z世代の新しい働き方 ワークプレイスの青写真」では、「日本のZ世代の3割以上がサイドハッスル、副業を望む」という結果が出ています。社外で副業される方は、副業に何を求めていると感じますか?
大神田さま:ソフトバンクでは2018年から社外副業を制度として導入しています。やはり2017年、2018年は「働き方改革」の時代でしたから、ソフトバンクとしても「ITを取り入れて働き方改革をしていこう」、「既存業務を効率化して浮いた時間で新しいことにチャレンジしていこう」という流れがありました。
その1つの手法として、「社外での副業経験を本業に還元していく」ことが挙げられました。それもあり、社外副業をされる方のニーズは「通常の業務では得られない知見、経験を得てみたい」が最も多いですね。
例えばシステムエンジニアで、普段は要件定義をしている人が、社外副業で開発に従事するとします。いわゆる"本業から離れた仕事"ではあるのですが、全体を網羅した視点が得られるので、「どういう要件定義をすれば開発側の負担が減るかが分かるようになった」と、しっかり本業に活かすことができる。他にも本業で営業をしている人が企画に携わるなど、さまざまなケースがありますね。
また、社外で働くことで、改めてソフトバンクの働く環境の良さを実感し、モチベーションが上がったという話もありました。
ワーキングペアレントも挑戦。送り出す上司も「ウェルカム」な社内副業のWin-Win
長部:貴社では社内副業制度もあると聞いています。皆さんどうやって使い分けされているんですか?
大神田さま:社員側の目線では、使い分けているというよりは、キャリアコースなどを踏まえて「自分にとっていい案件があったら応募してみよう」という感じではないかと思います。
会社側としては、多様な経験を積んでほしいという点では、社内副業も社外副業と大きくは変わりません。ただ社内なので、募集する側の事業部門にもメリットがあるといいですよね。別の部署、組織外の人のフラットで客観的な視点や専門性が生きることもあると思うんです。Win-Winの関係が作れるのは社内副業制度の良さですね。
ちなみに時短勤務をしているワーキングペアレントの方でも、子育てをしながら自分の経験値を増やしていきたいと、社外・社内副業制度を利用している方が一定数います。どうやってタイムマネジメントされているのか、私も気になるところです。
長部:管理職の皆さんは副業を踏まえたマネジメントを求められると思うのですが、そこはスムーズに受け入れられましたか?
大神田さま:最初こそどうなるかと気になっていたのですが、結果的には非常にウェルカムでした。募集する側からは「新たな視点を得られた」と感謝の声が上がりましたし、送り出す側の管理職からも「経験を本業に活かしてほしい」と背中を押してもらえることが多いです。
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「安心」が挑戦のエンジンに:ソフトバンクが目指す、管理を超えた"ワーク・ライフ・ハピネス"の形
不調への対処から、ポジティブな投資へ
長部:ソフトバンクさまではウェルビーイングの推進にあたり、単に「社員が不健康にならないようにする」ではなく、「どうしたら社員が持続的な幸福を保てるか」というポジティブ心理学のような視点を取り入れられていて大変感銘を受けました。この視点はどういったきっかけで取り入れたのでしょうか?
大神田さま:きっかけは大きく2つあります。
まず1つは、人事界隈で「人的資本投資」への注目が高まっていることです。従来の「人的資源管理」と言われるような観点では、問題が起きたときに対処する、社員が健康面でネガティブな状態になったときに対処するという、いわば事後対応の合理的な考え方でした。しかしこれからは人的資本、社員に投資し、社員の生産性を会社が積極的に上げていくことが求められる。会社が社員の成長や幸福を能動的に支援していくことこそが、今の時代に合ったやり方かと思います。
そしてもう1つが、コロナ禍による「健康は働くための第一の基盤である」という気づきです。社員はどの会社にとっても財産で、その財産である社員の健康を、会社としてできる限り支援する。ソフトバンクとしても改めてここは重要だと確認するきっかけになりました。
この2つのきっかけから、Well-being推進室を立ち上げるに至りました。
事業を継続していくためにも「社員が健康であること」がいかに大切かを経営層と深く共有できたため、人事としても自信を持って施策を推進できました。毎月の全社朝礼の場で社長自らが「社員を大切にする」というメッセージを発信していることも、非常に大きいですね。

(出典:ソフトバンク株式会社 提供資料/2026年4月23日取材時点)
【変革の両輪】事業戦略と連動する、社員の人生全体の「充実度」
長部:貴社では、仕事と私生活を分けずに相乗効果を狙う「ワークライフ・インテグレーション」の考え方も取り入れられていますよね。ランスタッドのグローバルレポート「ワークモニター 2026」でも、若い世代ほど「ワークライフバランス」を重要視するという結果が出ています。
世界でも「いかにワークがライフを侵食しないようにするか」という考え方がまだ一般的なところで、「ワークライフ・インテグレーション」で会社側が個人の生活もバックアップしていくという姿勢には大変感じ入りました。
大神田さま:ソフトバンクでは、全ての事業でAIの可能性を起動させ、社会への実装を推進する事業戦略「Activate AI for Society」を掲げています。その戦略に沿った人材戦略を考えていくと、事業変化やAIによる事業変革を推進するために人材のポートフォリオを常に組み替えていくことが非常に重要になってきます。
こうした新しいことにチャレンジできるのは、人的資本の基盤として社員が元気だからこそだと思います。仕事だけでなく、プライベートや健康も含めて、その人が元気な状態じゃなければできない。そのため、エンゲージメントサーベイなどのフィードバックを通じて、まずは「社員が元気かどうか」が可視化されている状態を作っています。仕事ぶりだけでは分からない、その人の人生全体の元気さ、ソフトバンクでは「充実度」と呼んでいるんですが、それを見ていく必要があります。

(出典:ソフトバンク株式会社 提供資料/2026年4月23日取材時点)
役員の歩数公開で参加者が激増?事業開発の知見も活かす「遊び心」ある健康経営
長部:貴社では食生活や運動、メンタルヘルスなど、さまざまな分野で社員の皆さまの支援を行われていますよね。中でも特に反響が大きかったものや、ビジネスにポジティブな変化をもたらしたものはありますか?
大神田さま:具体的な「健康課題」は人によって違うので、まずは本人の健康リテラシーの向上をはかり、自分の課題に沿った活動をしてもらうことを大事にしています。

(出典:ソフトバンク株式会社 提供資料/2026年4月23日取材時点)
コロナ禍ではソフトバンクも基本的には在宅勤務だったのですが、「どういう健康課題が出てきているか」を分析し可視化してみると、「BMIが増えている」という課題が挙がってきました。保健士や産業医の皆さんと議論してみると、食生活や、1日中座っていることによる運動習慣の減少が影響しているんじゃないかと。
そこで当時、ソフトバンクイノベンチャーの中で提案中の案件だった「アプリを利用したダイエットプログラム」をPOC的に社員で検証してみようと提案し、社内で健康経営施策の位置づけで利用の募集をかけてみたら、定員の2倍以上の応募がありました。
加えてグループ会社のヘルスケアテクノロジーズ株式会社のアプリを利用したウォーキングイベントも開催しました。アプリ上でみんなでウォーキングするのですが、在宅勤務で"つながり"も意識したいときだったので、役員たちにも参加してもらい歩数を公開したところ大いに盛り上がりました。
ウォーキングイベントの参加者はこれまでは500人程度だったのですが、こういった取り組みもあって、徐々に2~3000人に増加したんです。ソフトバンクイノベンチャーにもヘルスケアテクノロジーズにも施策への反応や各種データを還元できて、まさに健康になりながら、事業にも直接貢献できた例ですね。
多様な働き方に寄り添う社食で、オフィスに行く楽しみも
大神田さま:社食のメニューをオフィスに持ち帰れる「グラムデリ」も人気がありますね。お昼をテイクアウトして社食以外で食べたり、夜はグラムデリで夕食休憩をとってから残業するというケースや、夜勤の社員が勤務前に食べたり、さまざまなケースが見られます。
社内で開催しているダイバーシティウィークに合わせて世界中のさまざまな民族料理を提供するなどの試みもしていて、オフィスに行く楽しみを作るような役目も担っています。
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後編では「1人100AIエージェント祭り」成功の秘訣に迫る
「会社は人生を充実させる舞台である」という思想のもと、挑戦と安心を両立させるソフトバンクのEVP戦略。しかし、優れた制度があるだけで組織は変わるのでしょうか。
後編では、同社の変革を加速させる「1人100AIエージェント」の取り組みを深掘りします。孫正義氏や宮川潤一氏が語るアイデアの哲学や、全社を熱狂させる「お祭り部隊」としての人事の覚悟など、テクノロジーを文化へと昇華させる同社独自の組織論に迫ります。
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