社労士のアドバイス/算定基礎届(定時決定)とその留意点(前編)

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こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の土岐と申します。社労士として、企業の皆様から寄せられる人事・労務管理に関する様々なご相談に対応させていただいております。本コラムでは、労働・社会保険諸法令および人事労務管理について、日頃の業務に携わる中で悩ましい点や疑問に感じる点などについて、社労士の視点から、法令上の観点を織り交ぜながら実務上考えられる対応等を述べさせていただきます。

さて今回は、「算定基礎届(定時決定)とその留意点(前編)」について採り上げます。

Index


ポイント

  • 算定基礎届により、原則1年間(9月から翌年8月まで)の標準報酬月額が決定し、これに基づいて社会保険料や将来受け取る年金額の計算の基礎となる。
  • 標準報酬月額が決定・改定される場面として、資格取得時決定、定時決定、随時改定、育児休業等終了時改定などがある。
  • 被保険者には一般被保険者、短時間就労者、短時間労働者の3つの区分がある。
  • 報酬とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与などの名称を問わず、労働者が労働の対償として受けるすべてのものをいう。また、食事、住宅等の現物で支給されるものも報酬に含まれ、その算出方法が定められている。

算定基礎届(定時決定)とは

健康保険および厚生年金保険(以下、社会保険)では、被保険者資格の取得時に、今後に受け取る給与等(以下、報酬)を、一定の幅で区分した標準報酬月額(※)に当てはめて決定します。その後、資格取得後に受け取っている実際の報酬と標準報酬月額との間に大きな差が生じないように、7月1日現在の全ての被保険者について、4~6月に支払われた報酬を「算定基礎届」によって届け出ます。この届け出内容に基づき、保険者(年金機構および健康保険組合等)が毎年1回、標準報酬月額を決定します。これを定時決定といいます。
(※)健康保険は50等級(5.8万円~139万円)、厚生年金保険は32等級(8.8万円~65万円)に分かれています。

この定時決定により決定された標準報酬月額は、原則1年間(9月から翌年8月まで)適用され、各月の給与から控除される保険料の計算や将来受け取る年金額等の計算の基礎となります。なお、定時決定の他にも標準報酬月額を決定・改定する場面として、随時改定、育児休業等終了時改定などがあります。

以下では算定基礎届の具体的な内容および留意点の前に、前提として押さえておくべき被保険者と報酬について確認します。

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被保険者となる人・ならない人

標準報酬月額の対象となる報酬とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与などの名称を問わず、労働者が労働の対償として受けるすべてのものとされています。また、金銭(通貨)に限らず、通勤定期券、食事、住宅など現物で支給されるものも報酬に含まれます。ただし、臨時に受けるものや、年 3 回以下支給の賞与(※)等は、報酬に含みません。
(※)年3回以下支給される賞与は標準賞与額の対象になり、賞与から控除される保険料の計算や将来受け取る年金額等の計算の基礎となります。

被保険者とされない人(適用除外) 被保険者となる場合
日々雇い入れられる人 1カ月を超えて引き続き使用されるようになった場合は、その日から被保険者となる。
2カ月以内の期間を定めて使用される人 当初の雇用期間が2カ月以内であっても、当該期間を超えて雇用されることが見込まれる場合は、契約当初から被保険者となる。
所在地が一定しない事業所に使用される人 いかなる場合も被保険者とならない。
季節的業務(4カ月以内)に使用される人 継続して4カ月を超える予定で使用される場合は、当初から被保険者となる。
臨時的事業の事業所(6カ月以内)に使用される人 継続して6カ月を超える予定で使用される場合は、当初から被保険者となる。

また、パートタイマー・アルバイト等で1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数について、いずれも会社内で同様の業務に従事している通常の労働者(正社員をイメージするとわかりやすいと思います)の4分の3以上である場合にも被保険者となります(本コラムでは「短時間就労者」といいます)。

【出所:日本年金機構ホームページ 適用事業所と被保険者

なお、特定適用事業所(※)または任意特定適用事業所については、通常の労働者の1週間の所定労働時間または、1カ月の所定労働日数が4分の3未満である人であっても、以下の要件を満たす場合には短時間被保険者となります(本コラムでは「短時間労働者」といいます)。
(※)被保険者の総数が常時101人(令和6年10月1日からは51人)以上の社会保険の適用事業所

週の所定労働時間が20時間以上あること
雇用期間が2カ月を超えて見込まれること
賃金の月額が8.8万円以上であること
学生でないこと


報酬の範囲

標準報酬月額の対象となる報酬とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与などの名称を問わず、労働者が労働の対償として受けるすべてのものとされています。また、金銭(通貨)に限らず、通勤定期券、食事、住宅など現物で支給されるものも報酬に含まれます。ただし、臨時に受けるものや、年 3 回以下支給の賞与(※)等は、報酬に含みません。
(※)年3回以下支給される賞与は標準賞与額の対象になり、賞与から控除される保険料の計算や将来受け取る年金額等の計算の基礎となります。

  金銭(通貨)で支給されるもの 現物で支給されるもの
報酬となるもの 基本給(月給・週給・日給等)、能率給、奨励給、役付手当、職階手当、特別勤務手当、勤務地手当、物価手当、日直手当、宿直手当、家族手当、扶養手当、休職手当、通勤手当、住宅手当、別居手当、早出残業手当、継続支給する見舞金、年 4 回以上の賞与(※) 等 通勤定期券、回数券、食事、食券、社宅、寮、被服(勤務服でないもの)、自社製品 等
報酬とならないもの 大入袋、見舞金、解雇予告手当、退職手当、出張旅費、交際費、慶弔費、傷病手当金、労災保険の休業補償給付、年 3 回以下の賞与(※) 等 制服、作業着(業務に要するもの)、見舞品、食事(本人の負担額が、厚生労働大臣が定める価額により算定した額の 2/3 以上の場合) 等
【出所:日本年金機構 算定基礎届の記入・提出ガイドブック

なお、通勤手当を3カ月あるいは6カ月単位で支給する場合については、支給月に総額を計上するのではなく、1カ月あたりの金額を算出し、支給月以後の各月の報酬に含めることになる点にご注意ください。

また、現物給与に関しては次の通りです。

■食事で支払われる報酬等
会社が被保険者に食事を支給している場合は、都道府県ごとに厚生労働大臣が定める価額に換算して報酬を算出します。例えば東京では令和6年4月1日以降、次の通りとされています。

  1人1カ月当たりの食事の額 1人1日当たりの
食事の額
1人1日当たりの朝食のみの額 1人1日当たりの昼食のみの額 1人1日当たりの夕食のみの額
東京 23,400円 780円 200円 270円 310円

■住宅で支払われる報酬等

会社が被保険者に社宅や寮を提供している場合は、都道府県ごとに厚生労働大臣が定める価額に換算して報酬を算出します。例えば東京では令和641日以降、1人1カ月当たりの住宅の利益の額は畳一畳につき、2,830円とされています。

なお、社宅や寮費の一部を被保険者本人が負担している場合は、厚生労働大臣が定める価額から本人負担分を差し引いた額を算入します。また、価額を算出する場合は、居間、茶の間、寝室、客間等、居住用の室を対象とし、玄関、台所、トイレ、浴室、営業用の室(店、事務室等)等は含めないこととされています。

■食事および住宅以外の報酬等
食事および住宅以外の報酬等の価額について、労働協約に定めがある場合は、その価額を「時価」として取り扱いますが、労働協約に定めがない場合には実際費用を「時価」として取り扱います。例えば、自社製品を支給する場合、その価額が3万円であった場合には、3万円を現物給与の報酬として取り扱うことになります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
算定基礎届(定時決定)の前提となる社会保険に関する被保険者と報酬に関する基本的な内容の確認となりましたが、今回はここまでとしまして、次回に算定基礎届の具体的な内容等に触れたいと思います。社会保険の実務を担当されている方々には簡単な内容に感じられたかもしれませんが、基本の情報整理としてご参考になりましたら幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 
〔執筆者プロフィール〕
社会保険労務士法人 大野事務所
特定社会保険労務士
土岐 紀文

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23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、2009年に社会保険労務士法人大野事務所に入所しました。現在は主に人事・労務に関する相談業務に従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。

 

〔この執筆者の記事〕

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