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社労士のアドバイス/労働条件明示における留意点
こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の高田と申します。
弊事務所では、人事・労務分野における様々なサービスをご提供しております。筆者自身も主に労務相談顧問という形で日頃から顧問先企業様のご相談等に対応していますが、本コラムでは、企業で人事・労務の実務に携わる皆様の視点に立って、分かりやすい解説を心がけていきたいと思います。
さて、今回は、労働条件明示について解説します。
Indexポイント |
ポイント
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1.労働条件明示とは
労働者を雇い入れる際には、労働条件のうち所定の事項について明示する義務が課されています。労働基準法(以下、労基法)第15条がその根拠条文に当たりますが、それでは、まずはこちらの条文を確認したいと思います。
(労働条件の明示) |
条文には「賃金、労働時間その他の労働条件」とありますので、賃金や労働時間の他にも明示しなければならない労働条件があることが判ります。
そして、これらの労働条件については具体的に厚生労働省令に定められており、また、明示方法についても同省令で定められていることが判ります。因みに、労基法の条文の中に「厚生労働省令」と出てきた場合は「労働基準法施行規則」(以下、施行規則)を指しますので、この言葉が出てきたときには必ず施行規則を確認するようにしてください。
ということで、明示すべき労働条件と明示の方法についての具体的な内容は、施行規則第5条に定められています。まずは、明示事項から確認していきましょう。
2.労働条件明示事項
(1)労働契約の期間に関する事項 |
以上のとおりたくさんありますので、うっかり明示し漏れてしまっては大変です。
厚生労働省のホームページには「労働条件通知書」のひな型が掲載されていますので、法令に準拠した運用を行う上でも、こういったものを活用することをお勧めします。
厚生労働省 主要様式ダウンロードコーナー (労働基準法等関係主要様式)
3.絶対的明示事項と相対的明示事項
全部で14の明示事項を赤と青で色分けしましたが、(1)~(6)の赤字部分は絶対的明示事項といって、例外なく絶対に明示が必要な項目です。これに対して、(7)~(14)の青字部分は相対的明示事項といって、その定めがある場合には明示が必要な項目です。「相対的」とはいっても、明示するか否かが任意であるという意味ではありませんので、その定めがある場合においては「絶対的」明示事項と同様に明示が必要であるという点、注意が必要です。
なお、(2)は、見てのとおり、「有期」の労働契約の場合のみに関係する項目ですので、「無期」の労働契約の場合には、当然のことながら明示不要です。
4.明示方法
次に、明示方法(施行規則第5条第4項)について確認していきます。
この点いささかややこしいのですが、(1)~(6)の絶対的明示事項(ただし「昇給に関する事項」を除く)については「書面の交付」による明示が義務付けられている一方で、(7)~(14)の相対的明示事項については明示方法に関する規定はなく、すなわち方法は自由です。ただし、現実的に考えると、(1)~(6)についてのみ書面交付し、(7)~(14)については書面以外の方法(たとえば口頭)で明示するのは却って面倒だと思われますので、結果的には(1)~(14)のすべて(相対的明示事項のうち明示する必要のないものを除く)を書面交付で対応している例が多いようです。
それから、「書面の交付」に関しては、2019年4月の法改正によって、労働者が希望した場合には、FAX、電子メール、SNS等(以下、電子交付)でも明示できるようになりました。この「労働者が希望した場合」の考え方については、労働者本人に電子交付の希望の有無をあらかじめ確認し、同意を得た場合にのみ電子交付する方法が望ましいと考えますが、実務的には、電子交付すると同時に同意の有無を確認し、不同意者に対してはあらためて書面を交付するといった運用でも、特に問題はないものと考えます。
なお、電子交付による明示に際して、電子メールやSNS等に直接テキスト文として記載してはならないわけではありませんが、この点、印刷したときに見やすいものとなるように、なるべくPDF等の添付ファイルで明示することを行政としては推奨しているようです。
5.明示のタイミング
明示のタイミングについては、労基法の条文に「労働契約の締結に際し」と書かれています。
「労働契約の締結に際し」というのが、会社が内定を通知する時点なのか、内定者が入社を承諾する時点なのか、入社日のことなのか、あるいは入社後に労働契約書を締結する場合には当該契約書を締結する時点なのか、一体いつを指しているのか皆様迷われることと思います。
この点、「労働契約の締結」というのは、労働契約が成立する時点のことであり、法律上は、会社からの内定通知(労働契約の申込み)に対して本人が承諾した時点を指しますので、その時点において、労働条件を明示しなければならないということです。
したがって、実務的には内定通知の段階で明示しておく必要があると考えられますので、もし、内定通知の段階では労働条件を明示しておらず、入社日以降に初めて明示するといった運用を行っている場合には、適切な時期に明示していないことになりますので、運用を改める必要があります。
6.各々の明示事項における留意点
ここからは、各々の明示事項について、特に注意が必要なポイントに絞って解説していきます。
(1)労働契約の期間に関する事項
期間の定めがない場合(いわゆる正社員採用等)は、「定めなし」といった書き方で明示します。
(2)期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
既に述べたとおり「有期」である場合のみの明示事項ですが、有期契約であるにもかかわらず記載が漏れていることの多い事項でもあります。更新基準の具体的な書き方については、たとえば、「契約終了時の会社の経営状況、担当業務の状況、契約期間中の勤務成績・業務実績」といった形で簡潔に記載しておくことでも足ります。
(3)就業の場所
労働者自身が所属する事業場の所在地を明示すれば概ね足りますが、出張や外出等が多く就業場所が一定しない場合や、リモート勤務がある場合は、その旨の明示も必要です。具体的には、主な事業場に加え「その他会社が指定する場所」や「自宅等」と記載します。
(4)始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無
各種変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制、シフト制などを適用する場合には、その旨を明示する必要があります。また、「所定労働時間を超える労働の有無」は記載漏れの多い事項ですので、「有」の場合は勿論のこと、「無」の場合でも「無」と明記しておく必要があります。
(5)賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
賃金に関しては、賃金額のみならず、上記諸々の事項についての記載が必要です。細部まで網羅的に記載するとなると賃金規程と同レベルの内容の記載が必要になると考えますが、実務的には、上記事項について簡潔に記載すれば足ります。
(6)退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
退職や解雇の事由ですので、原則的には、就業規則の該当規定をそのまま記載することになります。とはいえ、これらをすべて記載すると内容が膨大になってしまうことが多いと思われますので、その場合には、就業規則の該当規定に委任した上で(「退職(解雇)の事由については就業規則第XX条の定めによる」等と記載します)、該当規定を別紙で交付するのが現実的な対応だと思われます。
7.パート・有期労働者に対する明示事項
以上のとおり見てきた労基法に基づく労働条件明示はすべての労働者に適用されますが、パート労働者または有期労働者である場合には、さらにパート・有期労働法に基づく次の4項目の明示も必要です。(パート・有期労働法施行規則第2条)
(1)昇給の有無 |
明示方法については、4項目とも文書交付(労働者が希望した場合には電子交付が可能)が義務付けられており、電子交付の際の考え方は「4.明示方法」にて述べた内容と同様です。上記の4項目の中では、特に(4)の相談窓口の記載漏れが多く見受けられますので、ご注意ください。
なお、有期の労働契約においては、最初に雇い入れるときのみならず、契約を更新する都度、労働条件の明示が必要であるという点にも注意が必要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。労働条件明示については留意すべき点が多く、不備なく適切にこれを行うのはなかなか大変だと思います。とはいえ、労働契約の入り口となる大切な手続きですので、これが適切に行われていないと、大きなトラブルに発展する危険性があるのも確かです。企業において採用や労働契約の実務に携わっている皆様におきましては、今回のコラムでお伝えした内容は是非押さえておいていただきたいと思います。
なお、労働条件明示に関しては、2024年4月に法改正によって明示事項が幾つか追加されますので、この点については次回のコラムで取り上げたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
社会保険労務士法人 大野事務所
社会保険労務士法人大野事務所に2008年入所。入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。