雇用調整におけるコミュニケーションプランの立て方

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雇用調整は組織と従業員に大きな動揺を与え、時にはその影響が数カ月にわたって続くことがあります。

人員の削減は、企業にとって日常的に起きるものではないため、多くのエンプロイヤーはそれをどのように従業員に伝えるか、十分な計画や準備ができていないケースが散見されます。

これは削減の対象者に限った問題ではなく、すべての従業員に十分配慮したものである必要があります。万が一この対応を誤れば、信用を失うことになりかねないだけでなく、残る従業員も雇用に不安を感じ、今後の生産性にも影響するでしょう。

参考:ライズスマートブログ(英文)

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人員削減が必要になるということは、おそらくその組織は人員削減を避けられない何らかの状況にあります。

この状況での効果的なコミュニケーションは決して容易ではありません。従業員に急いで情報を提供しなければならないからと、慎重にすべき計画を省き、慌てて説明資料を作成したくなるかもしれません。

人員削減を伝えるための明確なプランがないままで進めてしまっては、むしろ従業員が抱く疑問を増やし、十分な説明どころか混乱の原因にもなりかねません。残った従業員が意欲を持って働き続けてもらうために、組織のリーダーは正しいコミュニケーションプランを立てる必要があります。

参考:ライズスマートブログ(英文)

 

雇用調整において明確なコミュニケーションプランが必要な理由

人員削減の対応についてその良し悪しがわかるのは、ずっと後になってからです。

企業としての評判が様々なリスクにさらされ、誤った対応はその後の離職率に影響します。さらに、ネガティブな企業への評価が増えれば、これまで築き上げてきたエンプロイヤーブランドに傷がつきます。

人員削減のコミュニケーションプランは、何より対象者に誠意を持って対応するだけでなく、離職した人が再就職するために必要なサポートをしっかりと行うことを伝える内容でなければなりません。例えば、コミュニケーション戦略には対象者に対する割増退職金や再就職支援サービスを含む退職パッケージを設計する必要があります。

正しいコミュニケーション戦略※1は、雇用調整後も働き続ける従業員との信頼関係の強化にも役立ちます。人員削減を計画し、実行するすべての段階で、すべての従業員とのオープンなコミュニケーションが求められます。例えば、業務効率化のアイデアを求めたり、場合によっては希望退職者を募る方法を提案してもらったりすることもあるでしょう。実際に日本では、大手企業の労働組合が積極的に希望退職者募集を推進し、企業再生に貢献したという事例もあります。

 

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常日頃の従業員とのコミュニケーション

人員削減のニュースは従業員にとって寝耳に水であってはなりません。企業経営においては、透明性こそが信頼を生みます。そのためにも会社の経営状況を常に従業員に発信しておくことが重要です。そうすれば、従業員は人員削減の理由を理解し、その結果を受け入れやすくなるはずです。 

コミュニケーションは大切ですが、憶測を生むような説明やSNSの恰好の種になるような情報やその提供方法は避けなくてはなりません。

そのためにも経営状況に関するコミュニケーションは、四半期に1度の経営報告など透明性のあるプロセスをしっかりと設ける必要があります。また、無計画な人員削減を避けるためにも、遅くとも3か月前までには事前に雇用調整の具体的なプランを立てておくことが何より重要です。突然の人員削減の発表※2は、従業員に動揺を与えるだけでなく、モチベーションを損なわせる原因となります。

 

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残る従業員とのコミュニケーション

人員削減とその対象者への再就職支援計画を立てる一方で、マネージャーにも人員削減後の影響を見据えた計画が必要です。

残った従業員が生存者症候群=survivor syndrome(留まった従業員の罪悪感等)※3に悩むケースは少なくありません。同僚の退職後に、自分自身が仕事を続けることへの不安を抱いたり対象にならなかったことによる罪の意識を感じたりすることがあります。人員削減は解雇対象者に直接的な影響を与えますが、その後の企業文化にも影響を与えます。

だからこそ、組織の未来について従業員を安心させることが大切です。必ず話し合いの場を持ち、会社の未来について対話をすることが重要です。今後の道筋を明確に説明し、同時に従業員の気持ちに注意を傾けることが重要です。例えば、不安やストレスを和らげるための個別カウンセリングの導入や残った従業員同士の話し合いの機会などを提供するのも良い事例です。

残った従業員同士で不安を打ち明け合う※4機会を持つことは、将来のエンプロイヤーブランドに良い影響を与え、従業員のリテンション強化や企業文化の更なる醸成に役立つなどさまざまなメリットがあります。

 

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コミュニケーションプラン作りの手順

人員削減のコミュニケーションプランの手順は以下の通りです。

  • 適切なステークホルダーを巻き込む

まず初めにコミュニケーションプランの全体像を作り、方針が決まったところで、実行する作業を担うチームメンバーを選びます。シニアマネジメントのほか、HRチーム、法務チーム、社内コミュニケーションチームなどが関わるのが一般的です。


  • 伝えるメッセージをつくる

伝え方を統一しなければ、メッセージの一貫性が損なわれ、計画立案やその後の実行に時間を要します。正しいコミュニケーション戦略 ※5においては、手順を省かないこと、噂や憶測の元となる曖昧な情報を入れないことが大切です。メッセージにはキーメッセージと将来の経営計画、そしてスケジュールが必要です。同時に人員削減の実行時とその後のコミュケーションメッセージを決め、組織に適した伝達方法とその経路を決めてください。


  • リーダーとマネージャーの準備を整える

社員とのコミュニケーションに関わるリーダー、マネージャーそれぞれの役割を完遂するには、その準備が大変重要です。リーダーとマネージャーがどのようにメッセージを伝え、従業員からの質問に対する想定質問を事前に準備します。人事が主導してコミュニケーションのためのトレーニングを行うケースもあります。また、マネージャーは従業員に提供される退職金パッケージと再就職支援サービスをよく理解しておくとコミュニケーションの時に役立ちます。


  • 対象者に伝える

    対象者に伝えるタイミングや時間帯、その順番などがコミュニケーションプラン※6の効果を左右します。例えば、どの順番で伝えるかは今後の組織を担う人材が誰であるかによります。規模感によっては臨機応変な対応も必要となりますが、一般的に大規模な人員削減の場合は、まず全員に一斉に伝えた後に、個別の理解を確認するためのコミュニケーションを取ることをお勧めします。反対に対象者が限られている場合は、本人に伝えてから全員に伝えるということもあります。


  • 適した伝達経路を選ぶ

    大規模な場合には、緊急の全社ミーティングでメッセージを伝えます。個別のコミュニケーションにおいても文章やEメールではなく、必ず本人に口頭で直接伝えることが重要です。原則として対面が望ましいですが、対面で話すのが難しい場合は、オンラインビデオツールを使って顔が見える状況で行ってください。対話ができない一方通行の伝達経路を用いることは極めて危険です。

 

  • 残った従業員とのコミュニケーションを重ねる

マネージャーの仕事はプロジェクト期間中の対象者へのコミュニケーションだけで終わりということはありません。人員削減は誰にとっても常に気がかりなことです。残った従業員も自分自身の今後の役割や業務が不安を感じます。だからこそ、マネージャーは話し合いの場を持ち、組織の信頼感を取り戻すことが大切です ※7。例えば、辞めた人の仕事をどのようにカバーしていくのか、この先の仕事の進め方を改めて考える必要があります。そのタイミングでチームメンバーを巻き込みながら組織を前進させるための解決策や戦略を考えることも有効です。そして、残った従業員の心身の健康を優先する※8ことが何よりも大切です。

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人員削減におけるコミュニケーションは大変難しいことですが、その影響やリスクを最小限にしながら成し遂げることは可能です。

十分な配慮をもって行えば、残った従業員と今後採用される人材、あるいは退職した元従業員の企業イメージを1日も早く回復させ、さらに高めていく可能性が高まります。

 

本ブログは、2023年2月2日にrandstad risesmartが発信したブログ「how to design a layoff communication plan.」を元に、日本の雇用市場と商習慣及びに照らし合わせて加筆修正をし、同時に日本企業の事例も加えたものです。原文(英語)は以下URLよりご覧いただけます。

https://www.randstadrisesmart.com/blog/downsizing-dignity-dont-forget-survivors

 

 

【筆者プロフィール】

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下瀬川 和宏(しもせがわ かずひろ)
ランスタッド株式会社ライズスマート事業部
ビジネスディベロップメントエグゼクティブ
 
技術翻訳会社の創立者・共同経営者、グローバルIT企業のアカウントマネジメントを経て、再就職支援サービス業界に転身。経営者としての経験と組織の意思決定者へのプレゼンテーションのスキルを生かし、15年で400社を超える組織の構造改革・雇用調整におけるHRコンサルティングに携わる一方で、リーダーとして200名を超える組織のピープルマネジメントも経験。近年では構造改革の専門領域に加え、EDIB推進やリーダーシップ開発、また組織のチェンジマネジメントやHRトランスフォーメーションのプロジェクトマネジメントを通じて、組織の活性化とタレントモビリティのエバンジェリストとして人々の多様な働き方を支援している。

 

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