DXは日本の人材不足を救うのか~選ばれる企業になるための人材活用DX~

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コロナ禍により抑制されていた経済活動が回復し、再び深刻な人材不足が課題となっています。減少している日本の労働人口に対し、求人の募集は活性化。求人広告に予算を投じても人が集まらない状況に陥っている企業が多くあります。

従来通りのやり方で人材を確保し、競争力を保つことが難しくなっている今。人材活用DXは人事にとって喫緊の課題ではないでしょうか。企業が取り組むべき戦略的な人材活用DXの意義と導入プロセスを、ランスタッド株式会社 マーケティング&ブランドコミュニケーション本部DX部ディレクター 中村雄一氏に聞きました。

 

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※以下は、インタビュー動画を記事としてまとめた内容となります。

人材活用にこそDXが必要な理由

――増加する需要に対し人材市場はどのような状況でしょうか

単純に人手が足りておらず、コロナ以前と同様の売り手市場になっています。人口減少で若年層の働き手が減っていき、そのポジションが空いていくという側面もありますし、非正規雇用の社員に業務を移行させ正社員はコア業務に集中させたいというニーズもあります。

派遣社員として働く人は、だいたい140万人くらいで推移しています。しかし派遣社員を雇用したいというポジション数はどんどん増えている。当然、人材の取り合いになっているという状況ですね。すぐに覚えられるような倉庫での単純作業や簡単な事務作業は派遣社員に任せたいとか、繁忙期と閑散期の波がある業務は契約期間が限られている派遣社員で補いたいという傾向。一方で、高度なスキルを持つ人材もまた、企業による奪い合いになっている状況です。

――採用の難易度が上がっているのですね

採用マーケティングの重要度が増していると感じます。ホームページに呼び込むための活動が非常にポイントになっていて、ページに来てもらってからはDXで顧客体験・候補者体験を向上させる。いかにCXを向上させて、デジタルに慣れている求職者に簡単に登録していただき、スピーディーにお仕事をご紹介できるかが鍵となります。

最終的には求職者の方が望んでいるお仕事と、人材を求めているクライアント企業のニーズを合致させる必要があります。それもDXで効率的に行っていく。かつてのように人力で対応していては時間がかかりますし、生産性が向上しません。

これからは人材の採用力を高めるとともに、今いる人材により長く働いていただくことが重要です。そのためにはテクノロジーに任せられる部分はDXでデジタル化し、人によるケアが必要な部分を見極めてリソースを振り分けていく必要があります。

 

DXでできる人材支援

――具体的にどのような取り組みを行っていますか

ランスタッドでは現在5つのチャットボットが稼働しています。ひとつは、新たにランスタッドに登録いただく求職者に向けた「応募受付チャットボット」。これまで、お仕事にご応募いただくための登録面談の予約に時間がかかっていたことが課題でした。導入後は24時間365日いつでもスムーズに予約ができるようになり、以前は最大2週間かかっていた登録面談までの時間を30時間にまで短縮することができました。

就業中の派遣スタッフの皆様に向けた「AI問い合わせチャットボット」もあります。それまで電話やwebのフォームからの問い合わせが月間300~500件程度あったのに対し、チャットボット導入後は問い合わせが1,500件まで増えました。これは意外なことでした。みなさん気になることがあっても問い合わせできずにいたということです。

以前は問い合わせが入ってから解決まで8時間かかったこともありましたが、チャットボット導入後は1,500件中1,000件をその場でチャットボットが回答し解決。残りの500件のうち300件もリアルタイムで担当者に誘導でき、オペレーターの電話対応は70%削減しました。問い合わせ解決までの時間は15分にまで短縮し、対応中に生じていたクレームに対するストレスも軽減できるという成果がありました。

――自動化がDXの目標なのでしょうか

ランスタッドでは人がきちんとケアするという点を大事に、グローバルのステートメントとして「Tech. & Touch」を掲げています。派遣スタッフの皆様とも身近なLINEでコミュニケーションを取っていますが、完全に自動化はしていません。
マーケティングオートメーションの機能と連携させたりして自動化を目指している企業は多くあると思いますし、シナリオを用意して「このコメントにはこう回答する」とした方が当然早い。

でも「ちょっと体調が悪くて…」というときに「大丈夫ですか?」と声をかけるのは、ロボットではできないことです。そこはやっぱり人がきちんと対応する必要がある。ランスタッドではAIでの問い合わせ対応と人による受け答えと、ハイブリッドで行っています。
LINE内のミニアプリとして「心の診断アプリ」というものも導入していて、毎週1回、稼働中の派遣スタッフの皆様にその週の気分を一問一答形式で答えていただいています。これにより離職の予兆を早期にキャッチでき、適切なフォローアップができるようになりました。明らかに離職率が低下し、高い定着率を実現できています。

定期的に派遣スタッフの皆様にアンケートを取っていますが、LINEでの対応は良いフィードバックをいただいていますね。「お仕事順調ですか?」というやり取りも、以前はお電話を掛けてもつながらなかったりメールも返信がなかったり。これがLINEの場合はすぐ返信が来たりします。

――他にどのようなDXの取り組みがありますか

たとえば派遣スタッフとして登録する際のオンライン面談をAIが解析するというものがあります。面接官の表情や声のトーンなどのコミュニケーションを可視化し、面談後にフィードバックする仕組みです。
人材は売り手市場であり、優秀な人材を各社が取り合っている現状です。候補者から選ばれる人材会社になるために、こういったかたちで面接官のスキルアップを目指しています。

面談時の会話の内容をすべて自動でテキスト化するという仕組みもあります。面接官はこれまで、メモ帳に面談内容を控えておいて後で思い出しながら基幹システムに面談情報を入力していました。その作業も簡素化して、生産性の向上と面接官のサービス向上を目指しています。

 

DX推進のために必要なこと

――DX推進のためにポイントとなるのはどこでしょうか

人への投資とデジタルへの投資のバランスが非常に大事になります。両方をやろうとするのは絶対に無理。デジタルに投資するならその分人の採用を抑制するなどしなければ、生産性はいつまでも上がりません。とはいえ、完全に自動化できるものばかりではない。そのバランスを経営陣に理解してもらい進めていくのは、かなり難易度が高いと思います。

――DXへの心理的ハードルもありそうです

ランスタッドではチャットボットでもLINEでも、あえて人の“タッチ”が入るようにしてあります。何をやるにしてもそうですが、特に長くこの業界にいて、かつて自分のやり方で成功体験を積んでいる社員は、新しいものにトライアルするのはなかなかハードルが高い。それは仕方のないことです。

その中でも、いわゆるアーリーアダプターや社内のインフルエンサーのような立ち位置の社員が「ちょっと面白そうだからやってみよう」と広めていってくれるんですよね。DXを進める上で、そういう存在が社内のどの人物なのかを把握しておくのは結構大事です。

入社してまだ日が浅い人たちが、面白そうに「これ便利だね」ってやってると、古くからいる社員や抵抗感を持っていた社員も「そろそろやらなきゃな」と重い腰を上げていくというのは何度も見てきています。そこはDXの施策を浸透させる秘訣かもしれないですね。

――どのような体制でDXを進めているのでしょうか

DXを専門にリソースを割いているのは私を含め3名しかいません。基本的にはプロジェクトごとに経験値のある社員を現場サイドから何名かアサインし、体制を作っています。
最初のチャットボットのプロジェクトでは、現場の支店メンバー4名と本社のIT部門の社員をアサインして、約10名で3〜4カ月程度でリリースしました。

 

700_nakamura-1DXを成功させるためのプロセス

――課題の抽出方法と取り組み方を教えてください

課題は何で、どうやって解決するのか、解決するためにどんなソリューションを導入する予定なのか、それによりどんなROIが出るのか。ランスタッドには、それらを全部書き出してからスタートするルールがあります。

まず行うのは課題の把握ですが、チャットボットの場合では、応募から登録面談まで6日以上かかっていました。そんなに待たせていたら競合他社に行っちゃうかもしれないし、他から声がかかってしまうかもしれない。これを縮めないといけないというのが課題でした。解決方法をいくつか比較検討した上で、チャットボットを選んだという進め方です。

ここ2年ぐらいで色々とリリースしてるんですが、リリースしっぱなしっていうのはDXでよくある失敗パターン。チャットボットもLINEも他のツールも、アジャイル開発のような形でデータを見ながら、直すところは直していく。カイゼンを回していくというのがポイントで、今後絶対にやらなくてはいけないことですね。

――今後どのような施策に注力していきますか?

求職者の方が就業が決まった後のリテンションは、もっと強化していこうと考えています。先ほどお話しした「心の診断アプリ」はまだ一部での導入ですが、導入しただけで明らかに離職率が低下しました。1人で100名前後の派遣スタッフを担当しているコンサルタントは、今までは誰が不調や不満を抱えているかをリアルタイムに把握できていなかったのです。それがDXにより、優先的にケアすべきなのは誰なのかが明確に分かるようになりました。

その派遣スタッフの方に声をかけると、「実は職場のこの人と上手くいっていない」とか「仕事に慣れず困っている」とか、「作業場の温度が高すぎて苦しいです」という声が上がってくる。それをコンサルタントが解決したり、クライアント企業に伝えて解消したりという対応ができるようになりました。これはDXと人のハイブリッドならではの効果です。

ランスタッドではテクノロジーに投資するだけでなく、人による接点を大切にしています。DXはあくまでも “ヒューマンタッチ”によるケアをより充実させるためのもの。DXにより採用力の強化や定着率の向上という目に見える成果が上がっていますが、そこにあえて人を介在させていることが成功の要因にあると考えています。

 

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取材:フリーライター 川村千里

 

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