「解雇無効時の金銭救済」を巡る議論 2つの有識者「検討会」で足踏み5年

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出口見えず、紛争解決の選択肢になり得るか

 解雇無効時の金銭救済制度の創設――。「必要・容認論」と「不要・否定論」が真っ向からぶつかる日本の労働政策、法制上の課題です。雇用の柔軟化・流動化を促す方策として肯定的に捉えられる一方で、「カネでクビ切り」との批判も強く、賛否が割れます。第2次安倍政権発足直後の2013年から議論を活発化させ、新制度として法制化を目指してきた政府ですが、労働政策審議会の俎(そ)上に載せることができないまま現在に至ります。「解雇の金銭解決」を巡る政府と厚生労働省の議論の経過を整理し、今後の展開を探ります。

 この課題は、日本の紛争解決システムが不透明との指摘があることから、2003年以降、政府の会議体などで断続的に議論されてきました。月日ばかりが経過して結論に至らない中、政府の規制改革会議(当時)が2015年3月、「労使双方が納得する雇用終了の在り方」と題する意見書を提出し、法制化に向けてこう着する議論を揺り動かしました。同じタイミングで政府は、「日本再興戦略改訂2015」の中に、「透明・公正でグローバルにも通用する解決システムの構築に向けて議論する」ことを盛り込み、閣議決定しました。
 これを受けて15年10月に設けられたのが、厚労省の有識者会議「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」(労働紛争解決検討会)でした。委員は有識者、使用者側、労働者側、紛争処理に携わる弁護士など22人が集まる大所帯のテーブルで、計20回にわたる議論を経て17年5月に報告書策定にこぎ着けました。委員の見解と立場はさまざまで、報告書では法制化への道筋を明確に示せず、金銭解決は「選択肢として考え得る」というトーンに留まりました。
 本来であれば、この検討会の報告書を「たたき台」に労政審・労働条件分科会へと進むのですが、「選択肢として考え得る」案について法技術的な専門家の検討が必要とした報告書内の一文を踏まえ、同分科会は再度の検討会設置を厚労省に要請。こうして18年6月に発足したのが、現在も議論を続ける専門家6人による「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」(解雇時の金銭救済検討会)です。
 多様な働き方と柔軟な労働移動を可能とする方策として推し進めたい政府ですが、一定のハレーションを起こすテーマとあって、「働き方改革関連法」などこの間の他の重要法案審議との兼ね合いや政権の求心力など、諸般の情勢を見極めているうちに労政審に載せる機を逃した感が否めません。
 労働紛争解決検討会と解雇時の金銭救済検討会の「2つの検討会」だけで5年以上が経過。足踏みを続けるにしても「次の一手」が求められる展開となっています。

賛成・反対の主張と法技術的議論の行方

 経済界は、新制度創設について「お金も払わないで解雇している多くの中小企業の実態を無視すべきでない」、「現行制度は正社員と非正規社員の“入れ替え”を阻む壁として、大企業正社員の既得権になっている」と主張。他国に比べ解雇の要件が厳しいことも指摘し、「生産性も低く、イノベーションが起こり難い現状を打破するには新制度は必要」と、早急な導入を望んでいます。
 一方、労働者側は「金銭救済の道が開けると、使用者側は『金さえ払えば解雇できる』と捉えて不当解雇を助長する」「労働審判などの現行制度がそれなりに有効に機能している。現行制度の改善によって労働者保護を図る方が現実的」と突っぱね、歩み寄りはみられません。 
 世界と伍していくために避けて通れない重要テーマが、宙ぶらりんな状態で“塩漬け”にされています。厚労省は、「現在の検討会発足から約半年をメドに決着させる想定だった。新たな検討会など着地点を模索したい」と思案中。官邸から「急いで仕上げよ」のサインがないまま3度目の年をまたぐことになります。


取材・文責
(株)アドバンスニュース

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