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「育成就労」創設、新たなフェーズを迎えた外国人雇用
構造的な人手不足が深刻化する中、外国人の就労拡大に向けた在留資格の拡充が加速しています。
その一環として政府は、「国際貢献と育成」を目的とした「技能実習」制度を廃止して、新たに「育成と人材確保」を達成するための「育成就労」制度を創設。2027年4月の運用開始に向けて準備を進めています。
この政策は、日本が「外国人に選ばれる国」として前進するための大きな転換点であり、「共生社会の実現」と併せて新たなフェーズに入ったことを意味しています。
人材不足に悩むあらゆる産業・分野の企業にとって「大切な戦力」となっている外国人労働力。外国人材を巡る法制度の最新動向を丸ごと解説します。
目次
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日本で働く外国人、200万人突破
厚生労働省の「外国人雇用状況」(2023年10月末現在)によると、日本で働く外国人は204万8675人(前年比12.4%増)で初めて200万人を突破し、過去最高を更新しました。増加率は、前年の5.5%から 6.9ポイント上昇して2ケタ台の12.4%へ。産業別では、全体の27.0%を占める「製造業」が最も多く、増加率では24.1%増の「建設業」が最高です。
2008年の外国人労働者は約49万人だったので、15年間で約150万人増えたことになります。
図:アドバンスニュース作成
国籍別・在留資格別
国籍別の上位3はベトナムが51万8364人(対前年比12.1%増)でトップ。次いで中国が39万7918人(同3.1%増)、フィリピンが22万6846人(同10.1%増)。増加率が高いのはインドネシアの12万1507人(同56.0%増)、ミャンマーの7万1188人(同49.9%増)などです。
在留資格別でみると、「身分に基づく資格」(永住者、日本人の配偶者など)が61万5934人(同3.5%増)、「専門・技術資格」が59万5904人(同24.2%増)、「技能実習」が41万2501人(同20.2%増)。コロナ禍の影響で2021年に初めて減少に転じた「技能実習」は2年ぶりに増加しています。
在留資格の拡充
「特定技能」の対象拡大
「技能実習」経験者にとって次のステップとなる「特定技能」。中長期的な外国人の受け入れを目的としたもので、2019年4月に創設されました。「農業」「漁業」「外食業」「介護」「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業(2022年統合)」など計12分野で運用してきましたが、政府は今年4月、「自動車運送」「鉄道」「林業」「木材産業」の4分野を追加しました。分野の拡大は制度創設以来、初めてとなります。
追加される「自動車運送」はバスやタクシー、トラックの運転手など人手不足が顕著な職種です。「鉄道」については、車両製造や運転士、駅員などの業務を加えます。「特定技能」には、相当程度の知識・経験を要する最長5年滞在の「1号」と、熟練した技能を持ち永住も可能な「2号」があります。
「特定活動」に「デジタルノマド」新設
「特定活動」は、既存の在留資格のいずれにも分類できない活動に従事する外国人に与えられる在留資格です。優秀なIT人材による新たなビジネス創出などが期待されています。今回、政府は「デジタルノマド」と称される人材を対象に「特定活動」を与えました。一定の条件を満たせば6カ月の滞在と就労を認め、優秀な外国人材を呼び込んで、国内の消費拡大にもつなげたい考えです。
ITを活用して世界各地を渡り歩きながら働く「デジタルノマド」は、リモートで場所を問わず働ける点が特徴。フリーランスや海外企業に籍を置く人が多く、今回の拡充で海外企業から報酬を得るエンジニアらが日本で活動する場合などをイメージしています。取得要件は(1)ビザ免除の対象で、日本と租税条約を締結する国・地域の国籍を有する(2)日本滞在期間を含めて年収が1000万円以上(3)民間医療保険に加入――などです。
2027年スタートの「育成就労」とは
「技能実習」制度を廃止して再構築
技能実習制度を廃止し、人材の「確保と育成」を目的に新たな制度を創設―。
新制度となる「育成就労」のポイントは、実習生の待遇改善と「特定技能」との連動性(連続性)です。現場の受け入れ体制などを進めて、2027年に運用を開始します。
具体的には、下記の項目について再構築します。
図:アドバンスニュース作成
<目的>
人材育成機能は維持しつつ、人材確保も加える。
<職種>
技能実習の88職種161作業を改編して、特定技能の分野に統一。技能実習期間が終わった後、特定技能へのスムーズな移行ができないという課題を解消。
<受け入れ見込み人数>
人手不足状況の確認や受け入れ見込数の設定は、様々な関係者の意見やエビデンスを踏まえる仕組みを設ける。
<転職(転籍)>
技能実習生が職場を変更する「転職(転籍)」を認めていなかったが、育成就労制度では、同じ職場で1年以上就労し、ある程度の日本語が話せるなどの要件を満たせば本人の意向で転籍ができる。
<監理団体>
許可要件を厳格化する。受け入れ企業の役職員の兼職に係る制限や外部監視の強化、受け入れ企業数に応じた職員の配置、相談対応体制の強化も加える。
<日本語能力>
一定水準の日本語能力を確保できるよう、就労開始前の日本語能力の担保方策及び来日後において日本語能力が段階的に向上する仕組みを設ける
引用:「法務省提出法案」資料
入管法改正で就労環境を整備
永住許可制度の適正化
永住許可の要件を一層明確化し、その基準を満たさなくなった場合の取消事由を追加します。具体的には、問題のある外国人に対応するため、運用はケースごとに慎重に実施しますが、故意に納税や社会保険料の納付を怠った外国人の永住許可を取り消すことができます。
不法就労助長罪の厳罰化
外国人に不法就労活動をさせる「不法就労助長罪」の罰則を引き上げます。これまでの「拘禁刑3年以下・罰金300万円以下」から「拘禁刑5年以下・罰金500万円以下 」(併科可)へと厳罰化。違法に雇う日本の企業(雇用主)を排除します。
外国人に魅力のある制度で「選ばれる国」へ
新制度となる「育成就労」創設を契機に、政府は「選ばれる国」を旗印に掲げ、外国人の就労環境を大きく改善していく方針です。狙いと仕組みのポイントを整理します。
キャリアアップの道筋を明確化
- 分野や業務の連続性の強化により、特定技能への移行を見据えたキャリアアップの道筋を描くことを容易にする。
- 前職に縛られないキャリア形成を可能にする。
- 所管省庁がそれぞれキャリア形成プランを策定する。
労働者としての権利性の向上
- 「やむを得ない事情がある場合」の転籍の範囲を拡大・明確化するとともに、手続を柔軟化する。
- 3年間一つの受入れ機関での就労が効果的であり望ましいものの、同一業務区分内での本人意向による転籍を認める。
関係機関の要件等を適正化
- 受け入れ機関や監理団体(監理支援機関)の要件を適正化し、適切な受け入れ・育成を実現する。
- 原則として二国間取決め(MOC)作成国からのみ受入れを行い、悪質な送出機関を排除。送出手数料の透明化等により負担を軽減する。
- 外国人技能実習機構を「外国人育成就労機構」に改組、特定技能外国人への相談援助業務も行わせ、支援・保護機能等を強化する。
適切なブローカー対策
- 転籍仲介状況の把握や、不法就労助長罪の法定刑の引き上げによりブローカーを排除する。
- 当分の間、民間職業紹介事業者の関与は認めない。
- 受け入れ機関における人材流出等への懸念にも配慮する
- 転籍の際、転籍前の受入れ機関が負担した初期費用等について、正当な補塡がなされるようにする。
- 分野別協議会による過度の引き抜き防止のための取り組みを促進する。
「共生社会」の実現を目指して
政府は、「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」を策定し、毎年、内容を更新して拡充しています。
取り組むべき中長期的な課題(4つの重点事項)
- 円滑なコミュニケーションと社会参加のための日本語教育の取り組み
- 外国人に対する情報発信・外国人向けの相談体制の強化
- ライフステージ・ライフサイクルに応じた支援
- 共生社会の基盤整備に向けた取り組み
所管省庁による取り組み方針
<法務省>
- 生活オリエンテーション(日本で生活するための基本的な情報提供、初歩的な日本語学習)動画の作成・活用。社会制度の知識を習得できる環境を整備
- 「生活・就労ガイドブック」及び「外国人生活支援ポータルサイト」の掲載方針を作成、公表
- 「外国人との共生に係る啓発月間」の創設、各種啓発イベントの実施
- 在留外国人統計を活用し、国籍、在留資格、業種別の外国人の生活状況の実態把握が可能な新たな統計表を作成・公表
<厚生労働省>
- 外国人労働者の労働条件の雇用管理、労働移動の実態把握のための統計調査の実施
- ハローワークの外国人雇用サービスコーナーにおける専門相談員や通訳の配置による適切な職業相談の実施、外国人の雇用管理に関する周知・啓発
<文部科学省>
- 都道府県が実施する日本語教育強化のための総合的な体制づくりと、市区町村との連携による支援強化
- やさしい日本語の普及に向けた研修の実施
- 住民基本台帳システムと学齢簿システムとの連携により、外国人の子どもの就学状況の一体的管理・把握を推進
<外務省>
- 来日前に円滑なコミュニケーション力を身に付けるための海外における日本語教育環境の普及
<総務省>
- 多言語翻訳技術について、実用レベルの「同時通訳」の実現と重点対応言語への拡大に向けた取り組み
<こども家庭庁>
- 子育て中の親子同士の交流や子育て中の不安・悩みを相談できる場の提供を行う地域子育て支援拠点事業の実施
まとめ
「外国人に選ばれる国」を宣言した日本。そのためには、日本で生活する外国人にとって働きやすい職場環境と生活しやすい社会環境づくりが必要です。企業と地域社会はこの流れに向き合い、法制度を含む関連情報にアンテナを高くし、効果的に対応していくことが望まれます。
日本で働く外国人は、3年後には現在の200万人から300万人に達する見通しです。私たちの職場の「景色」が変わっていく中で、企業にとって最新の法整備の進ちょくに合わせた外国人材の採用・活用が、持続的成長の重要なカギとなりそうです。