検証:改正派遣法の施行から3年 賃金を含む待遇改善が顕著

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全員参加型の「一億総活躍社会」と長時間労働の是正および同一労働同一賃金の実現を盛り込んだ「働き方改革」――。政府が強力に推し進めた一連の労働法制の改正の中に、2020年4月施行の改正労働者派遣法があります。

抜本改正となった改正派遣法の最大の特徴は、同一労働同一賃金の観点から「派遣先均等方式」か「派遣元の労使協定方式」のいずれかの待遇決定方式の義務化でした。この選択制2方式を巡っては施行当初、「複雑かつ難解」との指摘が挙がっており、施行後の運用や現場への浸透具合が注目されていました。

施行と同時にコロナ禍に見舞われるなど、派遣を活用する企業と派遣元、そして派遣社員にとって不安を抱えたままのスタートになりましたが、施行後の状況を厚生労働省の資料などを基に分析すると、賃金を含む派遣社員の待遇改善が進み、派遣先企業と派遣元の相互理解と協力が改正派遣法の趣旨に沿って奏功していることがわかりました。

今年度末に施行から丸3年を迎える改正派遣法について、待遇改善が顕著となった現場の運用状況や今後の見通しをお伝えします。

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1、2020年改正の派遣法、その特徴は?

派遣法は2012年と2015年に、それぞれ日雇い派遣の原則禁止や働く人と受け入れ企業の双方に対する期間制限の導入など、大きな改正がありました。そこに、「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」を理念として賃金を含む処遇向上の義務化を盛り込んだのが2020年改正となります。

実現するための仕組みとして、派遣社員の賃金や待遇について「派遣先均等・均衡」(派遣先方式)か「派遣元の労使協定」(労使協定方式)のいずれかの待遇決定方式を義務化。この選択制2方式のうち、「労使協定方式」を選んだ場合には、局長通達の一般賃金水準より同等以上でなければなりません。

賃金水準の根拠となっているのは「賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金」(賃構統計)と、「職業安定業務統計の求人賃金を基準値とした一般基本給・賞与等の額」(ハローワーク統計)の2種類です。

 

2、派遣元の労使協定方式が圧倒的支持

待遇面について選択方式の改正派遣法ですが、厚生労働省が2022年6月1日時点の全国の派遣元からの報告書を基に企業規模別の層化無作為抽出で調査した結果、「派遣先方式」を選択している事業所は5.2%、「労使協定方式」が88.6%で圧倒的に後者が選択されていました。派遣先によっていずれも選択しているという「併用」は6.2%にとどまります。

労使協定の締結主体は「労働組合」が6.1%、「過半数代表者」が93.5%。労使協定の有効期間は「1年」が74.3%、「2年」が21.68%、「3年以上」は3.3%です。

 

3、約半数の派遣元で派遣社員の賃金が上昇、「減った」は皆無

派遣元が選択できる「賃構統計」と「ハローワーク統計」の使用割合は、情報処理・通信技術者で「ハロワ統計」76%・「賃構統計」21%、一般事務員は「ハロワ統計」100%・「賃構統計」0%、製品製造・加工処理は「ハロワ統計」89%・「賃構統計」4%となり、職種によって選択の違いがあります。 

また、法施行前と比べて、約半数の事業所で派遣労働者の賃金が上昇。具体的には、「派遣先方式」が48.6%、「労使協定方式」は50.9%、「2方式の併用」は79.6%の事業所で上昇しています。逆に「減った」と回答したのは、いずれの方式も0.0%~0.6%と皆無に等しく、待遇改善が派遣先企業と派遣元の相互理解で向上している状況が明確になりました。 

このほか、派遣労働者に適用されている各種手当なども、法施行後に適用割合が上昇。無期雇用派遣と有期雇用派遣のいずれでも、通勤手当や賞与、退職金がアップしていました。

 

4、派遣法の今後の見通しとポイント

3年前の同一労働同一賃金に伴う改正の前に施行された「2012年改正」と「2015年改正」は、規制強化一辺倒の項目が多く、厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会は2019年から「点検・見直し作業」に着手しています。

この中では、12年改正が「日雇派遣の原則禁止」「離職後1年以内の労働者派遣の禁止」「グループ企業内派遣の8割規制」「マージン率などの情報提供」「労働契約申し込みみなし制度」――の5項目。

15年改正は「雇用安定措置」「派遣期間制限」「特定目的行為の禁止」「計画的な教育訓練・相談機会の確保」「許可制」「初回許可の有効期間」「法令違反を繰り返す派遣元の公表」「派遣先の団体交渉応諾義務」――の8項目の計13項目で具体的な検討を進めています。

この点検作業は2020年7月に中間報告を取りまとめ、「コロナ禍が収束した後に再開」として“一時休憩”しており、コロナ禍と雇用動向の落ち着きを見極めながら再開する見通しです。

 

5、派遣法に基づく行政の指導監督の今

厚生労働省は、同一労働同一賃金の順守徹底を念頭に、派遣先と派遣元の指導監督を強化する方針です。政府が昨秋に閣議決定した総合経済対策の中に「非正規労働者の待遇の根本的改善」や「同一労働同一賃金の徹底」が盛り込まれたことを受け、2022年12月から労働基準監督署の人員を増強して対応に乗り出しています。

派遣先への実地調査に軸足を置き、法違反がない場合も雇用管理改善を助言するほか、法違反があった場合は都道府県労働局長名で是正に向けた動きを徹底する方針です。この動きは2023年を通して展開する見通しです。そして、世界的なインフレに伴う物価高と実質賃金の低下に対して危機感を覚える労働者側の団体が賃上げの声を上げていますが、政府や経済界もこれに理解を示していることから、今年は「労働力不足と賃金アップ」をキーワードに派遣を含む待遇向上が更に進む模様です。

筆者プロフィール

株式会社アドバンスニュース
専務取締役報道局長
大野 博司 氏
 
1970年、青森県出身。中央大学大学院戦略経営研究科(MBA)修士。
1994年、日本新聞協会加盟の地方紙に入社。社会部、教育、核燃料サイクル、水産、港湾物流、政経部を経て2004年に報道デスクに就任。
'05年に東京支社で国会取材担当兼論説委員に就き、主に厚生労働省と経済産業省、内閣府の分野を取材。海外取材は、労働行政や水産・物流をテーマに韓国、中国、オーストラリアを訪問。
'10年にインターネット報道を主体とする株式会社アドバンスニュース(日本インターネット報道協会加盟)の設立に参加し、現職は専務取締役報道局長。
労政ジャーナリスト(日本外国特派員協会)として長年国会や政府関係者に取材、国の労働政策に造詣が深い。

取材・文責
(株)アドバンスニュース

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