2022年の新年度を皮切りに、企業にとって対応が必要となるさまざまな新しい制度や改正法が施行されました。特に今年の春は、人事・労務、法務などに密接な「働き方関連」の変更点が目白押しです。4月から変わった8つの法律のポイントと留意点を前編・後編(4月20日)に分けてお伝えします。
<改正女性活躍推進法、対象の企業規模を拡大>~労務~
2016年に施行された女性活躍推進法を改正して、さらなる環境整備に乗り出します。企業の取り組みを示す行動計画の策定・公表の義務について、従来の従業員301人以上から101人以上に幅を広げます。
女性活躍推進法は、3つの基本原則を掲げています。
- 女性に対する採用、昇進の機会の積極的な提供と活用、性別による固定的役割分担を反映した職場慣行が及ぼす影響に配慮すること
- 職業生活と家庭生活との円滑かつ継続的な両立を可能にすること
- 女性の職業生活と家庭生活との両立について、本人の意思を尊重すること
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そして今回、101人以上の企業に義務付けられるのは、行動計画の策定・届け出で、具体的には
・自社の女性活躍に関する状況の把握・課題分析
・企業による行動計画の策定、社内周知、外部公表
・企業の行動計画を策定した旨を都道府県労働局に届け出
――を指し、取り組みの実施と効果の測定も必須となります。
ポイントとしては、
(1)採用者に占める女性比率(男性が優位になっていないか)
(2)勤続年数の男女差(男女差に開きはないか)
(3)管理職に占める女性比率(圧倒的に男性が占めていないか)
を分析・改善することが求められます。
【参考】厚生労働省「周知リーフレット」
<パワハラ防止法、中小企業にも適用>~労務~
2020年6月に大企業に義務付けられた「パワハラ防止法」(改正労働施策総合推進法)が、4月から中小企業にも適用となります。パワーハラスメントとは、職場における「優越的な関係を背景とした言動」で、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」ものにより、「労働者の就業環境が害される」もので、これら「3つの要素を全て満たす場合」と定義しています。
パワハラ指針ではタイプ別に「6類型」を示し、
(1)身体的な攻撃(暴行・傷害)
(2)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
(4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
(5)過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
――と整理しています。
これらのうち、現場で問題になりやすいのは、(2)精神的な攻撃と(6)個の侵害――と言われており、パワハラ防止の対応は、企業規模や業種業態を問わず、理解を深めて社内で共有していく対応が求められます。
【参考】厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策」
<年金制度改正法、4月から段階的に施行>~総務・労務~
今回の年金制度改正法の狙いは、より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり多様な形で働くようになることが見込まれる中で、今後の社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るためのものです。
具体的には次の4つのポイントがあります。
(1)厚生年金保険・健康保険の適用範囲拡大(10月から段階的に)
(2)在職中の年金受給のあり方の見直し(4月~)
(3)受給開始時期の選択肢拡大(4月~)
(4)確定拠出年金の加入可能要件の見直し(4月から段階的に)
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(1)厚生年金保険・健康保険の適用範囲拡大
① 短時間労働者を被用者保険の適用対象とすべき事業所の企業規模要件について、段階的に引き下げる(現行500人超→100人超→50人超)
② 5人以上の個人事業所に係る適用業種に、弁護士、税理士等の資格を有する者が行う法律又は会計に係る業務を行う事業を追加
③ 厚生年金・健康保険の適用対象である国・自治体等で勤務する短時間労働者に対して、公務員共済の短期給付を適用
(2)在職中の年金受給のあり方の見直し
① 高齢期の就労継続を早期に年金額に反映するため、在職中の老齢厚生年金受給者(65歳以上)の年金額を毎年定時に改定
② 60歳から64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度について、支給停止とならない範囲を拡大
(3)受給開始時期の選択肢拡大
現在60歳から70歳の間となっている年金の受給開始時期の選択肢を、60歳から75歳の間に拡大
(4)確定拠出年金の加入可能要件の見直し
① 確定拠出年金の加入可能年齢を引き上げる ※受給開始時期等の選択肢を拡大
② 確定拠出年金における中小企業向け制度の対象範囲の拡大(100人以下→300人以下)、企業型DC加入者のiDeCo加入の要件緩和など、制度面・手続面の改善を図る。
【参考】厚生労働省「年金制度の機能強化のための改正国民年金法」
<白ナンバー車もアルコールチェック、厳格対応は10月>~労務・管理~
道路交通法施行規則が改正されました。運送業や運搬業など運ぶことを業務としている「緑ナンバー」で義務化されていたアルコール検知器でのチェックについて、その適用範囲を広げ、自社製品の配送など「白ナンバー」の車を使っている企業も対象とします。ただし、現場での準備が間に合わないとの指摘が相次ぎ、4月と10月の段階的な導入となっています。
対象となる企業は、乗車定員が11人以上の白ナンバー車1台以上を保持、または白ナンバー車5台以上を保持する企業です。原付をのぞくオートバイは0.5台換算されます。
〇4月からの義務内容
・運転前後の運転者の状態を目視等で確認することにより、運転者の酒気帯びの有無を確認
・酒気帯びの有無について記録し、記録を1年間保存
〇10月からの義務内容
・運転者の酒気帯びの有無の確認について、アルコール検知器を用いて行う
・アルコール検知器を常時有効に保持
厳格化は10月からですが、4月から改正法が施行されているので、該当する企業は迅速な対応が必要です。
【参考】警察庁「事業所の飲酒運転根絶 リーフレット」
【筆者プロフィール】
株式会社アドバンスニュース
専務取締役報道局長
大野 博司 氏
1970年、青森県出身。中央大学大学院戦略経営研究科(MBA)修士。
1994年、日本新聞協会加盟の地方紙に入社。社会部、教育、核燃料サイクル、水産、港湾物流、政経部を経て2004年に報道デスクに就任。
'05年に東京支社で国会取材担当兼論説委員に就き、主に厚生労働省と経済産業省、内閣府の分野を取材。海外取材は、労働行政や水産・物流をテーマに韓国、中国、オーストラリアを訪問。 '10年にインターネット報道を主体とする株式会社アドバンスニュース(日本インターネット報道協会加盟)の設立に参加し、現職は専務取締役報道局長。 労政ジャーナリスト(日本外国特派員協会)として長年国会や政府関係者に取材、国の労働政策に造詣が深い。
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取材・文責
(株)アドバンスニュース