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「攻めの賃上げ」、政府が労使に要請 新型コロナ感染下で3年目の春闘
物価上昇とオミクロン株の“せめぎ合い”
2022年春闘の労使攻防が本格化しました。1月26日に連合と経団連のトップ懇談会が開かれ、2月3日には連合が中央総決起集会、3月18日に集中回答という日程で進みます。新型コロナウイルスの感染下における3年目の春闘ですが、近年は春闘の“イベント化”が目立ち、景気を底上げする個人消費の回復に結び付く大幅賃上げが実現するかどうか、先行きには困難が伴いそうです。今年も、春闘をめぐる政労使の姿勢に大きな変化はなく、岸田首相は「コロナ前の水準を回復した企業は3%を超える賃上げを」と期待表明し、「攻めの賃上げを」と労使に要請しています。
連合は定期昇給とベースアップを合わせて4%程度の賃上げ目標を掲げています。しかし、経団連は賃上げの必要性を認識しながらも、コロナ禍で企業業績のばらつきが大きいことから、一律の賃上げには消極的で、「個々の企業の実情に適した賃金」を主張。いずれも、ここ数年のスタンスとほとんど変わりません。
08年のリーマン・ショック後の賃金相場は、16年ごろから政府が賃上げ目標を掲げ、労使はその数字をめぐって攻防を展開する「官製春闘」を繰り広げてきました。しかし、その結果は労働者側を満足させる水準にはなりませんでした。
厚生労働省の「賃金引上げ等実態調査」によると、リーマン後の景気回復を反映して、企業の年間賃金の改定額(引き上げ企業と引き下げ企業を合わせた平均)は、12~19年の間は上昇基調が続いたものの、改定率は1%台の年が多く、17年から3年間だけようやく2%に乗せた程度。しかも、生鮮品を除く消費者物価の上下動を加味すると、実質賃金が2%に達したのは16年のわずか1年だけです。
「官製春闘」で政府は毎年、概ね2%程度のベアを要請し、労組側は定昇を含む4%程度の賃上げを要求してきましたが、どの年も遠く及ばない結果となっています。一方で企業は、稼いだ利益の多くを内部留保に回して投資機会をうかがったものの、国際競争力を失っていることもあって有効な投資に回せないまま現在に至り、内部留保額は20年度末で484兆円の過去最高に達しています。
ただ、すべての企業の「一律賃上げ」がもはや不可能なことは、すでに労使の共通認識となっています。今年も大和証券グループのトップが「3%の賃上げ」を明言する一方で、コロナに直撃されているANAホールディングスのトップは「ベアは困難」としています。労組側も、相場をけん引する自動車総連が4年連続でベアの統一要求額を掲げないことを決めるなど、“個別化”が進んでいます。労組組織率が17%(21年)に過ぎず、労組のない企業が多数を占めている中で、労組のない企業では個々の社員より経営者側の力が強くなりがちであり、これも賃上げの抑制要因となっています。
生産性の低迷と賃金の停滞が続く要因は?
持続的な賃金増に必要な課題となっているのは正規と非正規の格差縮小、長時間労働の是正、正規の「メンバーシップ型」から「ジョブ型」の採用、解雇時の金銭解決など、多岐にわたっています。生産性の向上を促す制度改変であり、労働政策審議会などの場でも議論が進んでいますが、どれも既得権がらみの時間の掛かるテーマばかりで、労使の方向性は容易に一致しません。今年の春闘は、原油急騰に伴う物価上昇が労組側の追い風になる一方、オミクロン株の急増が経営者側の慎重姿勢を強める方向に作用するとみられ、どの程度の着地点になるか混沌とした情勢になっています。目先の賃上げにこだわり、仮に政府が目論む3%程度の賃上げを「勝ち取った」としても、物価上昇の勢いを考慮すると、生活水準の向上を実感できる結果になりにくいことは容易に予想できます。春闘という日本独自の労働慣行は、曲がり角に来ていると言えそうです。
取材・文責 アドバンスニュース