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仕事の未来2023-2027(どうなる?これからの仕事)第3回
12回にわたって、“仕事の未来2023-2027(どうなる?これからの仕事)”と題して、世界経済フォーラム(World Economic Forum)が2016年より2年に1度発行している“Future of Jobs Report”の最新版(2023年版)のレポートの要約をお伝えしています。
[連載]仕事の未来2023-2027(どうなる?これからの仕事) |
このレポートは、世界の27の産業分野、複数の経済圏にまたがる全803社(雇用者総計1,130万人)による見通しや意見が反映されており、近い将来における世界の仕事・労働市場の変化を読み解くために必須の資料となっています。
第3回目の本稿では、グルーバルな労働市場の展望を論じた第2章「労働市場変革の推進要因」の後半、第2節「テクノロジー導入がビジネス変革と雇用にもたらすと予想される影響」を扱いたいと思います。
レポートの本文については、分量の都合で、日本語訳の全文ではなく、要約したものを記しています。また、レポート本体には、膨大なデータ、グラフが掲載されていますが、本稿には掲載はしておりません。それらを見てみたいという方は、ぜひ、レポートにアクセスしてみてください。
第2節.テクノロジー導入がビジネス変革と雇用にもたらす期待される影響
(1)ビジネス変革への影響
「第4次産業革命」が始まり、先端テクノロジーを採用(導入)するペースが加速しています。また、第4次産業革命は、人間と機械の間の境界線をシフトさせ、その影響は、産業の分野や国・地域を問わず広がっています。
そこで、今後は、こういったテクノロジーが労働市場にどのような影響を与えるかを理解することは、極めて重要になってくるでしょう。というのも、労働力を、衰退しつつある産業・業種から、将来有望な仕事へと移行させることができるかの判断が、今後の企業の存亡を決めるかもしれないからです。
読者の所属する企業・組織の分野においては、どのような仕事が、どのような技術・テクノロジーの影響を受けそうでしょうか。
表2.4 新しいテクノロジーの採用(2023~2027年)
採用可能性の高い・非常に高いテクノロジー | 割合 | |
1位 | デジタル・プラットフォーム、アプリ | 86.4% |
2位 | Edテック(教育)、人材開発テクノロジー | 80.9% |
3位 | ビッグデータ分析 | 80.0% |
4位 | IoT(モノのインターネット)、 コネクテッド・デバイス(インターネット常時接続機器) |
76.8% |
5位 | クラウド・コンピューティング | 76.6% |
6位 | 暗号化技術、サイバーセキュリティ | 75.6% |
7位 | E・コマース、電子商取引 | 75.3% |
8位 | AI・人工知能 | 74.9% |
9位 | 自然環境を管理する技術 | 64.5% |
10位 | 気候変動の緩和技術 | 62.8% |
11位 | テキスト・画像・音声処理技術 | 61.8% |
12位 | 拡張現実と仮想現実の技術 | 59.1% |
13位 | 蓄電(電力貯蔵)と発電技術 | 52.1% |
14位 | 電気自動車、自律走行自動車 | 51.5% |
15位 | ロボット、非人型ロボット | 51.3% |
(1)テクノロジーの相対的普及
“Future of Jobs”の調査結果は、将来、産業界全体がテクノロジーの導入・採用をそのように進めようと考えているか、そのトレンドを浮き彫りにしています。
表2.4は、2027年までに企業や組織が「採用する可能性の高い・もしくは非常に高い」を答えたテクノロジーを1位から順に示したものです。ビッグデータ、クラウド・コンピューティングやAIなどがこのリストの上位に位置していますが、今後5年間にこれらのテクノロジーの採用を検討している企業は約75%を上回っています。これは近年の調査傾向と同じです。
また、E・コマース、デジタル商取引の影響も相変わらず上位にあり、75%の企業が採用を検討しています。そして、デジタル・プラットフォームとアプリについては86%の企業が、第2位のEdテック(教育テクノロジー)・労働力テクノロジーは、81%の企業がテクノロジーの採用を検討しており、3位にビッグデータ分析(80%)が続いています。
なお、この調査のデータは、2023年初頭におけるものなので、この記事が掲載された時点(2024年初頭)では、生成AIの急速な普及を反映し、8位に位置するAI・人工知能の順位がかなり上がっていることが予想されます。
(2)テクノロジーの採用によって雇用はどのような影響を受けるか
“Future of Jobs”レポートでは、テクノロジーの導入・採用が雇用にどのような影響を与えるかについても調査が行われました。
表2.5 テクノロジーの導入・採用が雇用に与えると予想される影響(2023~2027年)
雇用の創出もしくは置き換えにつながるテクノロジー | 純効果 | |
1位 | ビッグデータ分析 | +58.0% |
2位 | 気候変動の緩和技術 | +49.5% |
3位 | 自然環境を管理する技術 | +45.8% |
4位 | 暗号化技術、サイバーセキュリティ | +43.3% |
5位 | バイオテクノロジー(生命・生物工学) | +42.9% |
6位 | 農業テクノロジー | +41.3% |
7位 | デジタル・プラットフォーム、アプリ | +41.0% |
8位 | 医療・介護テクノロジー | +40.3% |
9位 | Edテック(教育)、人材開発テクノロジー | +39.8% |
10位 | 拡張現実と仮想現実 | +39.6% |
11位 | 蓄電(電力貯蔵)と発電技術 | +37.6% |
12位 | E・コマース、電子商取引 | +36.6% |
13位 | 生物多様性の保護技術 | +35.0% |
14位 | 暗号通貨 | +35.1% |
15位 | クラウド・コンピューティング | +34.8% |
16位 | 水関連の応用的技術 | +33.7% |
17位 | 新素材 | +32.9% |
18位 | 分散型台帳技術 | +30.5% |
19位 | 3D・4Dプリンティングとモデリング | +28.8% |
20位 | 人工衛星サービスと宇宙飛行 | +28.5% |
21位 | oT(モノのインターネット)、 コネクテッド・デバイス(インターネット常時接続機器) |
+28.1% |
22位 | ナノテクノロジー | +28.0% |
23位 | AI・人工知能 | +25.6% |
24位 | 量子コンピュータ | +23.5% |
25位 | テキスト・画像・音声処理技術 | +17.6% |
26位 | 電気自動車、自律走行自動車 | +16.5% |
27位 | ロボット、ヒューマノイド(人型ロボット) | -2.6% |
28位 | 人型ロボット以外のロボット(産業オートメーション、ドローンなど) | -8.8% |
※これらの影響が中立(プラスでもマイナスでもない)であると予想する組織・企業はプロットされていない。
※[雇用の創出]-[雇用の置き換え]=[純効果(NET=正味での効果)]
図2.5を見ると、ロボット系の2つのテクノロジーを除くすべてのテクノロジーが、今後5年間で雇用を創出する方向に作用するという、前向きな予想がされています。
ビッグデータ分析、気候変動や自然環境の管理技術、暗号化・サイバーセキュリティは、雇用を増加させる最大の原動力になると予想されています。
次に、農業テクノロジー、デジタル・プラットフォーム・アプリ、E・コマース・電子商取引、人工知能・AIは、雇用を増加させる(+方向)と答えた企業だけでなく、雇用を置き換える(減らす、(-方向))と答えた企業もそれなりに多く、労働市場に大きな混乱をもたらすことが予想されています。しかし、そのプラスとマイナスは相殺され、正味ではプラスが多くなっています。
生成AIは、2022年末から徐々に注目され始め、最近では、ブームと言えるくらいの注目度があります。最近では、労働人口の19%がAIによって失業し、50%以上の労働者が、AIによる業務の自動化で雇用が失われる可能性があると言われています。しかし、その一方で、AIのテクノロジーによって雇用が拡大すると予想する企業も多いことがわかりました。中立的な影響を予測している企業もありますが、その割合は上記の表にはプロットされていません。
回答した企業の業種により、各テクノロジーに対する選好は異なります。いくつかの業種では、新しいテクノロジーの導入・採用に対する期待値が非常に高い一方で、慎重な態度をとっている企業もあります。エレクトロニクス業界、化学・先端素材業界では、平均よりも多くテクノロジーを導入しようとしていますが、人材サービス業界、保険・年金管理業界、不動産業界は、新しいテクノロジーの採用に最も消極的です。
自然環境を管理するテクノロジーについて見ると、業界全体で、最も導入・採用予想に差があるテクノロジーのひとつとなっています。石油・ガス業界の93%が同技術を採用する見込みであり、次いで、化学・先端素材業界(88%)、消費財製造業界(86%)が導入に前向きです。
これらの企業とは対照的に、人材サービス業で自然環境テクノロジーの採用を見込んでいるのはわずか26%で、教育・研修業界(36%)、保険・年金管理業界(42%)と続いています。
拡張現実・仮想現実のテクノロジーについては、鉱業・金属(46%)、宿泊・飲食・レジャーサービス(42%)、農業・林業・漁業(30%)が採用を検討しています。さらに、エレクトロニクス(80%)、研究・設計・経営管理(77%)、エネルギー技術・公益事業(75%)の業種の企業・組織では、多くの企業で採用される可能性が高いと見込まれます。
ランキング最下位の「ロボット技術」に目を向けてみましょう。“Future of Jobs”のデータでは、エレクトロニクス(83%)、エネルギー技術・公益事業(72%)、消費財(71%)の各業界で、採用可能性が高いと判断されています。
国際ロボット連盟(International Federation of Robotics)のデータによると、労働者1万人当たりの産業用ロボット数は、各国とも過去5年間で急速に増加し続けています。産業用ロボットは、過去5年間でほぼ倍増し、労働者1万人当たり平均126台に達しているのです。ロボットが雇用に与える影響については、「非人間型(ノン・ヒューマノイド)」ロボットの導入が、最も強く影響を及ぼしそうです。消費財製造業界と石油・ガス産業では、60%の企業が雇用の置き換え(雇用の減少)を、反対に、情報・技術サービス業界では、60%の企業が今後5年間の雇用創出を予測しています。
(3)人間と機械の仕事領域の「境界線(フロンティア)」
企業や組織が、先端テクノロジーを採用するにつれて、情報やデータ処理などの作業はますます自動化され、労働市場は再構成されていきます。そしてまた、仕事に必要なスキルは大きく変化しています。過去における “Future of Jobs”では、人間が行う仕事と、機械やアルゴリズムが行う仕事の間の「境界線」の変化が報告されてきましたが、今回のレポートでも変化が見られます。
人間と機械の境界線は、COVID-19の世界的流行で実施された「ロックダウン」とリモートワークの広まりのなかで発表された「2020年版」以降に、大きく変化が生じました。自動化されたタスクの割合は、以前の予想よりも減少してきています。将来の自動化の境界線は、調査対象の企業・組織が以前に予想していたよりも、さらに先の将来まで伸びているのです。
現在、世界の企業や組織では、業務に関連する全てのタスクの34%が機械によって実行され、残りの66%は人間によって実行されていると推定されています。これは、“Future of Jobs”「2020年版」の回答企業が推測した自動化のレベルより1%だけ増加したことになります。しかし、この自動化のペースは、「2020年版」調査の回答者が予想した「次の5年間でビジネス・タスクのほぼ半分が自動化される」という予想と矛盾しています。これは、おそらく、この期間に機械やアルゴリズムがタスクを「自動化」したのではなく、人間のパフォーマンスを「増強した」という見方を反映していると思われます。
全体としては、2020年と比較して、各企業は、将来の自動化に関する予測を、5%下方修正しました。(2020年~2025年までの自動化率予想47%から、2023年~2027年までの自動化率42%へ下落)。2023年調査における2027年のタスクの自動化予想は、「推論と意思決定」の部門で35%、「情報とデータ処理」の65%に変化すると予想されています。
昨年からAIの技術は成熟に近づきつつあり、各分野でも主流となりつつあります。業務の自動化、自動化される業務範囲は、今後数年でさらに拡大するでしょう。2023年から2027年の間に、生成AI等、目下、急速な変化を遂げつつあるテクノロジーが、自動化可能な業務をどのようにさらに変化させるかは、まだはっきりとはわかりません。
しかし、最近の研究では、生成AIの発展の基盤である「大規模言語モデル」によって、すでに15%の業務が自動化されています。既存の大規模言語モデルでは、さまざまな問題が指摘されていることは確かですが(不正確な事実を回答してしまうなど)、それを修正できるアプリケーションも開発されています。それらが組み合わせることにより、この自動化の範囲は、既存業務の50%に増加する可能性もあると言われています。
第2章「労働市場変革の推進要因」のまとめ
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世界経済フォーラム(World Economic Forum)が2016年より2年に1度発行している“Future of Jobs Report”の最新版(2023年版)のレポート第2章第2節の要約、いかがでしたでしょうか?次回もおたのしみに!