仕事の未来2023-2027(どうなる?これからの仕事)第2回

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12回にわたって、“仕事の未来2023-2027(どうなる?これからの仕事)”と題して、世界経済フォーラム(World Economic Forum)が2016年より2年に1度発行している“Future of Jobs Report”の最新版(2023年版)のレポートの要約をお伝えしています。

[連載]仕事の未来2023-2027(どうなる?これからの仕事)

第1回はこちら⇒https://services.randstad.co.jp/blog/hrhub20231222

このレポートは、世界の27の産業分野、複数の経済圏にまたがる全803社(雇用者総計1,130万人)による見通しや意見が反映されており、近い将来における世界の仕事・労働市場の変化を読み解くために必須の資料となっています。

 第2回目の本稿では、グルーバルな労働市場の展望を論じた第2章「労働市場変革の推進要因」の前半、1節「マクロな社会経済の変化は、ビジネス変革や雇用にどのような影響を与えるのか?」を扱いたいと思います。

 レポートの本文については、分量の都合で、日本語訳の全文ではなく、要約したものを記しています。また、レポート本体には、膨大なデータ、グラフが掲載されていますが、本稿には掲載はしておりません。それらを見てみたいという方は、ぜひ、レポートにアクセスしてみてください。

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第1節.マクロな社会経済の変化は、ビジネス変革や雇用にどのような影響を与えるのか?

 (1)ビジネス変革への影響

“Future of Jobs Report”の調査結果では、今後5年間、さまざまな社会経済的変化(マクロトレンド)がビジネスにどのような影響があるかについて、世界各国の企業がどのように予想しているかを明らかにしています。

マクロトレンドとして挙げられているものは、「先端テクノロジー」「マクロ経済」「地政学上の見通し(戦争・紛争など)」「グリーン転換」「人口動態」「消費者の嗜好・選好」などさまざまです。

 以下の表2.1は、どのようなマクロトレンドがビジネス変革を促すことになるかについて、各企業の予想を表したものです。それぞれのトレンドうちの企業が選んだものが多い順にランキングされており、全体の企業の何パーセントが選んだか、その割合が示されています。

 

2.1 ビジネス変革を推進する社会経済的変化(マクロトレンド)

  社会経済の大きな変化(マクロトレンド) 割合
1位 新しいテクノロジーや先端テクノロジーの採用拡大 86.2%
2位 デジタルアクセスの拡大 86.1%
3位 環境・社会・ガバナンス(ESG)基準の広範な採用 80.6%
4位 消費者の生活コストの上昇 74.9%
5位 世界経済の成長鈍化 73.0%
6位 事業のグリーン転換を促進するための投資 69.1%
7位 供給不足および/または事業への投入コストの上昇 68.8%
8位 消費者の社会問題への声の高まり 67.6%
9位 消費者の環境問題への声の高まり 67.5%
10位 気候変動に事業を適応させるための投資 65.1%
11位 サプライチェーンの地域化の進行 60.0%
12位 政府によるデータ利用やテクノロジーへの規制強化 59.2%
13位 先進国および新興国における人口の高齢化 51.6%
14位 発展途上国および新興国における人口ボーナス(人口増加) 49.6%
15位 地政学的分断の拡大 48.1%
16位 パンデミックの継続的な影響 43.1%
 調査対象組織・企業は、どのトレンドがビジネス変革を促進する可能性が高いかを回答し、その割合の多い順にランク付けしている。(%=調査対象組織のシェア)

 

85%を超える企業が、「新しいテクノロジーや先端テクノロジーの採用拡大」(1位・86.2%)と、「デジタルアクセスの拡大」(2位・86.1%)を、組織の変革を推進する可能性が最も高いトレンドと予想しています。次に大きな影響を与えると予想されるのが、「環境・社会・ガバナンス(ESG)基準の組織内での広範な採用」(3位・80.6%)です。

その次に影響が大きいトレンドが、「生活コストの上昇」(4位・74.9%)と「経済成長の鈍化」(5位・73.0%)で、「グリーン転換を推進するための投資」(6位・69.1%)がそれらに続き、さらに「供給不足/事業への投入コスト上昇」(7位・68.8%)と「消費者の社会・環境問題に対する声の高まり」(8位・67.6%)(967.5%)が続いています。

「コロナ・パンデミックの影響」(16位・43.1%)、「地政学的分断の拡大」(15位・48.1%)、「発展途上国や新興国における人口増加」(14位・49.6%)は、一部の企業は重要視していないものの、50%近くの企業がビジネス変革の推進要因になると予想しています。これは業種や地域によって異なるようです。

 

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(2)雇用への影響

この調査レポートでは、上記のマクロなトレンドが「雇用」に与える影響についても予測が行われています。

下にある表2.2にある通り、企業の雇用主は、革新的なイノベーション等が、雇用に対して正味でプラスの影響を与えると予想しています。

ここでいう「正味のプラス」というのは、それぞれのトレンドが、雇用を増やす要因にも減らす要因にもなるとき、その増加分から減少分を引き算した値が「プラス」になっているという意味です。例えば、Aというトレンドによって雇用が促進されると予想する企業が40%あり、一方で雇用が置き換わると予想する企業が10%あるとき、正味の効果は「プラス30%」ということになります。

2.2にある%(パーセンテージ)は、上記の足し引き後の純効果(正味の効果)を表しており、ほとんどのマクロトレンドにおいて、雇用の純増を促進する予想がされています。

 

2.2  マクロトレンドが雇用に与える予想影響(20232027年)

  社会経済の大きな変化(マクロトレンド) 純効果
1位 事業のグリーン転換を促進するための投資 +52.2%
2位 環境・社会・ガバナンス(ESG)基準の広範な採用 +51.4%
3位 サプライチェーンの地域化の進行 +46.5%
4位 気候変動に事業を適応させるための投資 +43.9%
5位 発展途上国および新興国における人口ボーナス(人口増加) +37.8%
6位 新しいテクノロジーや先端テクノロジーの採用拡大 +36.4%
7位 消費者の環境問題への声の高まり +35.2%
8位 デジタルアクセスの拡大 +33.7%
9位 消費者の社会問題への声の高まり +28.8%
10位 政府によるデータ利用やテクノロジーへの規制強化 +16.9%
11位 先進国および新興国における人口の高齢化 +16.9%
12位 地政学的分断の拡大 +1.6%
13位 パンデミックの継続的な影響 -0.9%
14位 消費者の生活コストの上昇 -19.3%
15位 供給不足および/または事業への投入コストの上昇 -23.7%
16位 世界経済の成長鈍化 -44.4%
※以下、各トレンドが雇用を創出または置き換えると予想する組織・企業の割合。
※これらのマクロトレンドの影響が中立(プラスでもマイナスでもない)であると予想する組織・企業はプロットされていない。
※[雇用の創出][雇用の置き換え][純効果(NET=正味での効果)]

 

企業が、雇用創出効果が最も強くなると予測している社会経済の変化(マクロなトレンド)のTOP3は、「企業のグリーン転換を促進する投資」(1位・+52.2%)、「ESG基準の広範な採用」(2位・+51.4%)、「サプライチェーンの地域化」(3位・+46.5%)で、いずれも正味50%前後となっています。

続いて、「気候変動への適応」(4位・+43.9%)と、「発展途上国や新興国における人口ボーナス」(3位・+37.8%)も、雇用創出要因として予想されています。

しかし、"(1)ビジネス変革への影響" の項目で、企業が今後5年間、自社組織に最も大きな影響を与えると予想している2つのマクロなトレンド「新しいテクノロジーや先端テクノロジーの採用拡大」による技術進歩、「デジタルアクセスの拡大」は、調査対象企業の半数以上が「雇用の創出を促進する」と判断していますが、5分の1の企業が、雇用の移動によって効果が相殺されると回答しています。また、残りの企業は、雇用への影響はほぼ中立(+でも-でもない)と判断しています。その結果、正味の雇用の創出効果としては、それぞれ6位と8位になりました。

正味で雇用が無くなる方向となったのは、「世界経済の成長鈍化」(最下位・-44.4%)、「供給不足と投入コストの上昇」(15位・-23.7%)、「消費者の生活コストの上昇」(14位・-19.3%)の3つでした。

また、「地政学的分断の激化」(12位・+1.6%)と「パンデミックの継続的な影響」(13位・-0.9%)は、労働市場の混乱を促していると認識しています。その結果、雇用にプラスの影響を及ぼすと予想する企業と、反対にマイナスの影響を及ぼすと予想する企業は拮抗していました。

 

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(3)成長とインフレ

2023年の初頭における世界経済の状況は、非常に脆弱でした。まず一つが、高いインフレ率。パンデミック発生前の水準+3.5%を大きく上回り、+8.8%という高いインフレ率(2022年)を記録しました。

そして、もう一つが、経済成長率の鈍化です。国際通貨基金(IMF)は、2023年の経済成長率を2.9%と予測しました。これは、長期の平均成長率3.8%を下回る数値です。

これらの脆弱さの背後には、コロナ・パンデミックによる経済的逼迫を緩和するために行われた金融緩和と財政拡大あることは確かです。また、地政学的緊張、とりわけ、ロシアのウクライナ侵攻に起因する食糧とガソリン価格の上昇によってインフレ率はさらに上昇しました。いくつかの国の中央銀行は、金利を引き上げるなどの対抗措置をとりました。

上の "(1)ビジネス変革への影響" で述べられたように、回答した企業の4分の3は、「生活コストの上昇」と「世界経済の成長鈍化」が、今後5年間に企業組織の変革を促進する最大の要因だと予想しています。

「生活コスト」の上昇がビジネスの変革を促すと予想する企業の割合が最も高い10ヵ国のうち、5ヵ国が中東・北アフリカ地域となっています。一方、「世界経済の成長鈍化」を最も懸念する国は地域的に分散しています。上位10カ国のうち3カ国(上位4カ国のうちの3カ国を含む)は東アジア・太平洋地域、残りの7カ国は中東・北アフリカ地域とヨーロッパ地域に分かれているようです。

このような背景から、調査の回答企業の多くは、今後5年間の労働市場にとっては、経済的課題が最大の脅威となると予想していることがわかります。「世界経済の成長鈍化」、「供給不足」と「投入コストの上昇」、「生活コストの上昇」の全てが、雇用を大きく奪うと予想されています(表2.2参照)。

これらの予測は、「農業」「天然資源」「製造業」「サプライチェーン・運輸業」の業種において特に顕著です。雇用創出の純「減」(雇用の減少を予想する回答者の割合から増加を予想する回答者の割合を差し引いたもの)は40%近くに達しています。一方、「介護・福祉」「個人向けサービス業」「政府・公共部門」においては、こうした傾向による雇用への影響はほとんどないと予想されています。

また、中南米で事業を展開する企業は、こうした傾向から最も大きな打撃を受けると予想しており、正味の雇用減少を予想するのが約40%でした。一方、ヨーロッパ地域と南アジア地域では、雇用減少を予想するのが約25%と低い水準でした。

 

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(4)経済地理学の変化

経済、環境、地政学的なトレンドに後押しされ、世界経済は構造的な変容を遂げつつあります。これらは、従来の「グローバリゼーション」の進行に対抗するものが多くあり、その結果も様々です。

地球規模で進行する気候変動によって、グローバルに統合された政策立案や国際協力の必要性が叫ばれていますが、反対の動きもあります。たとえば、コロナ・パンデミック、ウクライナやイスラエルの戦争といった世界的脅威・混乱は、グローバルで国際的な協力関係に期待せず、よりローカルにビジネスを展開していく方がよいと判断する企業・組織を増やすでしょう。

また、“Future of Jobs”は、マクロなトレンドが自社のビジネスにどのような影響を及ぼすと判断しているかを、グローバルな事業展開(5カ国以上)を行っている企業の予想と、事業拠点が1つの国内にとどまる企業の予想との間で比較をしていますが、その結果、これらのグループの予想の間には、大きな違いがないことを明らかにしています。

このようなグローバルな潮流を受けて、各企業は「ニア・ショアリング」(事業を国内の都心部から同国内の地方に移転する)や、「フレンド・ショアリング」(サプライチェーンの構築を同盟国・友好国に移転する)、その他のリスク分散の方法を通じて、サプライチェーンを強靭にするための方法を検討しています。例えば、多国籍企業における「中国プラスワン戦略」などがあり、中国に生産拠点を維持しつつ、より安全で友好的な他国にサプライヤーを分散させる方法がとられたりしています。

このような、サプライチェーンの再編可能性は、とりわけ東アジアの地政学的動向に関連しています。たとえば、東アジアでは、中国一国を拠点とせずに「多角化」を目指すことで利益がもたらされる可能性があります。しかし、反対に、ヨーロッパや北米の企業がサプライチェーンを自国の事業拠点近くに移すことによって、需要が減少する可能性もあります。

さらに、この調査では、国家間の力学とサプライチェーンに関連する3つのマクロなトレンド(「地政学的分断の拡大」「サプライチェーンの地域化」「サプライチェーン不足」が企業組織の変革に与える影響を評価することによって、世界的な企業の動きを分析しています。

以下の表2.3を見ると、これらのトレンドがビジネス変革を促進すると予想するTOP10の上位を東アジア諸国が独占していることがわかります。

 

表2.3  個別のマクロトレンドがビジネス変革を促進すると予想する国(経済地域)ランキングTOP10

1.地政学的分断の拡大

1位:フィリピン
2位:台湾,中国
3位:シンガポール
4位:タイ
5位:マレーシア
6位:インドネシア
7位:香港,中国
8位:中国
9位:ドイツ
10位:大韓民国

 

2.サプライチェーンの地域化

1位:アラブ首長国連邦
2位:中国香港特別行政区
3位:マレーシア
4位:シンガポール
5位:大韓民国
6位:ベトナム
7位:タイ
8位:台湾,中国
9位:フィリピン
10位:サウジアラビア

 

3供給不足および/または事業への投入コストの上昇

1位:ベトナム
2位:台湾,中国
3位:サウジアラビア
4位:インドネシア
5位:タイ
6位:大韓民国
7位:シンガポール
8位:フィンランド
9位:アラブ首長国連邦
10位:スイス
※調査対象組織・企業のうち、個別のトレンドがビジネス変革を促進すると期待する組織の割合が高い順に並べてある。
 

回答した企業は、これら3つのトレンドが雇用に与える影響について、相異なる予想を持っています。「地政学的分断の拡大」による影響については中立、「サプライチェーンの地域化」については非常に肯定的な予想、「供給不足と投入コストの上昇」については非常に否定的な予想を持っているようです。

東アジア諸国は、これらのトレンドがビジネス変革に与える影響が最も大きいと予想しており、同地域でも今後数年間は、サプライチェーンの変化と地政学的な緊張によって、雇用は大きく混乱することが予想されています。

 

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(5)グリーン転換

温室効果ガス削減に関する国際的取り決め「国連気候変動枠組条約」の「パリ協定」では、「世界の気温上昇を2℃未満に抑え、1.5℃に抑える努力を続ける」という目標が設定されました。現在、世界各国は、この目標を達成するため、グリーン転換に向けた大規模な取り組みを進めており、今後もその動きは加速するでしょう。

そして、グリーン転換(グリーン経済への移行)は、今後10年間の労働市場を混乱させることも、反対に、大きな雇用機会を創出することも予想されています。

Future of Jobsの調査データからは、「グリーン転換に向けた投資」「ESG基準の広範な採用」「気候変動への適応」といったトレンドは、雇用創出に強いプラスの影響を与えると予想されています(表2.2)。

これらのデータをより詳細に分析すると、雇用が創出されるのは、「エネルギー・素材・インフラ」業界において顕著であり、これらの効果により雇用創出を予想する企業は他より約10%も多くあります。

ESG基準の採用」に関しては、サハラ以南のアフリカで事業を展開する企業が、雇用の純増に対する期待値が最も高く(雇用の増加を予想する企業の64%が雇用の減少を予想する企業を上回っている)、最下位の地域(ヨーロッパ地域:50%)を大きく引き離しています。

「グリーン転換に向けた投資」に関しては、サハラ以南のアフリカで活動する企業が最もポジティブ(60%)な予測をしており、中央アジアは最下位(53%)となりました。

こうした傾向は、今後5年間で、公共投資と民間投資の両方を通じて雇用拡大を促進すると考えられます。このような公共投資計画としては、例えば、中国による「カーボン・ニュートラル」の公約(習近平国家主席は、二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までに排出量と除去量の差し引きをゼロにすると公約)、ヨーロッパのグリーン・ディール投資計画(EUは欧州グリーン・ディール投資計画を2020年に公表)、アメリカのインフレ削減法(バイデン政権が成立させた、再生可能エネルギーや原子力発電、CCS、電気自動車などに3690億ドルを投じる政策)などがあります。

また、国家だけでなく企業も、独自もしくは共同でのイニシアティブを通じて、グリーン転換を推進しています。ある研究によれば、再生可能エネルギーやエネルギー効率性向上への投資は、化石燃料への投資よりも短期的には多くの雇用を生み出すことが多いとされています。しかし、雇用の質と賃金水準の改善、炭素集約型産業で働く労働者支援といった課題はまだ残されたままです。

グリーン関連の職業への需要は、部門や業界を問わず急速に伸びています。国際エネルギー機関(IEA)の最近の試算によると、グリーン再生計画は、世界全体で約3.5%の 追加GDP成長率と、毎年900万の新たな雇用創出という正味のプラス効果をもたらす可能性があるとされます。

グリーン転換は、2030年までに世界全体で、「クリーン・エネルギー」「エネルギー効率性」「低排出技術」の分野で3,000万の新たな雇用を創出する可能性があります。2030年までに、中国だけでも、自然環境に配慮した経済への移行は、同国の経済に1.9兆ドルの価値を追加し、8,800万の新たな雇用を創出すると予想されています。

 

 

世界経済フォーラム(World Economic Forum)が2016年より2年に1度発行している“Future of Jobs Report”の最新版(2023年版)のレポート第2章第1節の要約、いかがでしたでしょうか?次回は第2章の第2節の要約をお届けします。

おたのしみに!

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