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これからのキャリアに欠かせないのは、「学び(ラーニング)」である(後編)
前編では、社会人の学びの実態と、なぜ学びが必要なのかを見てきました。
後編では、学ぶことの切迫度が高い、ミドル・シニアに焦点を当てて、学びの姿勢と学び方のポイントを見ていきます。
これからの学びの姿勢を知る
ミドル・シニアを40~60歳の社会人と考えて、政府が「推奨する」ように70歳まで働くとするなら、今後10~30年にわたって働くことになります。
テクノロジーの進歩についていくことのたいへんさだけでなく、自分の専門分野ですら、今までのやり方では通用しないというショックに直面することも増えてきています。
私の専門である人事分野で言いましょう。給与計算と社会保険や、法改正に合わせた就業規則の改訂・運用といったルーチンワークをミスなくこなすことを大前提として、昇給・賞与の算定、採用活動や研修の企画・運営など、決められた範囲の中で多少の工夫をするという、いわば「守り」の業務だったものが、「戦略人事」というバズワードに象徴されるように、「攻め」の役割へと重心が移行してきています。
中途採用の面接でお会いするミドル・シニアの営業担当者や管理職候補者に、「あなたのセールスポイントは?」と尋ねると、多くの方が、とにかく何度も訪問することで名前を覚えもらい、その熱意を買ってもらうところから信頼関係を築いて新規開拓をしてきたという、フットワークの軽さと、屈強な精神力をアピールします。
近年求められているのは、いかに顧客のニーズをつかみ、その解決策を提示できるかにシフトしています。
ましてや、コロナ禍において「ドブ板営業」をする機会は激減しています。
人事と営業の典型的な例を挙げましたが、ここで言いたいのは、過去の強みがまったく通用しないというのではないけれども、時代に合った専門性を身に着けていかないことには、仕事ができなくなっているという事実を知ろうということです。
ミドル・シニア世代は、過去の知識と経験だけでは生き残れません。継続的な「学び」が不可欠です。
かといって、前編で述べてきたように、やらされ感満載の「勉強」では、精神的にきついだけでなく、身に付くものも少ないです。
この状況を打破するためにはどうしたらよいのでしょうか?
まずは、これからの学びの基本姿勢を見ていきます。要点は、次の2つです。
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楽しみながら学ぶ
学生時代から現在にいたるまで、辛いことを乗り越えてこそ上達すると教わってきたのがミドル・シニアの特徴です。
変化するときに痛みや困難を伴うことはよくあることですが、辛いことをすれば成長するという逆は成立しません。私たちミドル・シニアは、「苦しまないと成長しない」、「成長するために学ぶことはしんどいこと」という呪縛にとらわれすぎているのかもしれません。
もうひとつ思い出してみてください。自分自身が心から成長できたなという体験の根源には、「好きだから」や「楽しいから」というプラスの感情があったはずです。
当然のことですが、持続性があるのは、辛いけど成長のために学ぶ姿勢ではなく、楽しいから学ぶ姿勢です。
この世代にわかる例でいうなら、『巨人の星』『アタックNo.1』といったスポ根から、『キャプテン翼』のように好きだからする、へのマインドチェンジです。
「ハングリー精神」よりも「好きこそものの上手なれ精神」を重視しましょう。
アンラーニングできるような、柔軟な心構えを持つ
「アンラーニング」を英和辞典で引くと「学習棄却」(これまで学んできた知識を捨てて、新しく学び直すこと)と書かれています。せっかく学んで得た知識やスキルを捨てなきゃならないうえに、さらに新しいことを学ばないといけないんだ、と思うと気持ちが萎えてしまいますよね。
さすがにそれは行き過ぎです。最近の研究者は「アンラーニング」を次のように再定義しています。
北海道大学大学院の松尾睦教授は、「アンラニーング」を「学びほぐし」と定義づけしています。
東京大学大学院の柳川範之教授と男子400メートルハードルの日本記録保持者である為末大氏は、共著『Unlearn アンラーン』の中で、「アンラーンとは、これまでに身につけた思考のクセを取り除くこと」と再定義しています。
共通して言えるのは、時代に合わなくなってきた知識やスキルは捨てて、自分の強みに焦点を当ててさらに磨きをかけるという「柔軟なマインドセット」を持つことの重要性を説いていることです。
人は成功体験を捨てることが苦手です。ですが、ここで言うように、調整のために持てるものの一部分だけを否定し、さらに強みを伸ばしていくためなら、アンラーニングは、できると思いませんか?
必要なのは、わずかばかりの心のしなやかさです。
学びのポイント
ミドル・シニアの学びのポイントを、「経験学習」と「越境学習」という2つの切り口で見ていきます。
1.経験学習
社会人になってから受けた研修で、今でも役に立っていると思えるものはほとんどないというのが多くの人の共通認識かもしれません。
それには理由があって、面白い(興味のある)内容ではなかったからか、必要に迫られて是非とも覚えたいというものではなかったからです。
後者にフォーカスしますと、自身の仕事と直結した学習であれば、それを職場に持ち帰って、仕事の中で新しく得た知識を適用し、経験を通して血肉化するというサイクルを回すことで、学びの質を上げることができます。
その仕組みをより効果的にするための理論が、下図「コルブの経験学習モデル」です。
このサイクルの中で、最近、注目を浴びているのが「内省的観察」です。
「内省」は、自分自身で省みる(かえりみる)ことですが、内省をより効果的にするのが、他者との「対話」です。他者として想定されるのは、上司や先輩です。
これまでの私たちの「研修」は、上図の「抽象的概念化」のフェーズだと仮定するなら、そこで教訓・理論を得ても、「実験」、「経験」そして「内省」からさらなる「抽象的概念化」へというサイクルにつないでいませんでした。もっというなら、「能動的実験」というチャレンジをしていませんでした。
先に書きました「対話」とも通ずるのですが、私たちは一人だと「甘え」が勝ってしまいます。「学ぶ」時に、伴走してくれる人がいれば、学習効果が増し、成長を促進します。
2.越境学習
越境学習」は比較的新しい概念で、一般読者向けでありながら、理論としてまとめられている本格的な書籍としては、2022年3月に出版された法政大学大学院の石山恒貴教授と、ビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達洋駆氏による共著『越境学習入門』が先駆けです。
※余談ですが、この本は越境学習を深く考察した良書で、ここに書いている以上の本質が著されています。
とはいえ、越境学習という考え方はコロナ禍の少し前から出てきていますので、中小企業庁『中小企業・小規模事業者における中核人材確保ガイドブック(2018)』に掲載されている「越境学習の形態」を見てみましょう。
中小企業庁の提示する「越境学習」の形態をそのまま受け取るとハードルが高いですが、デジタル技術が進み、そのうえにコロナ禍によって在宅勤務によって隙間時間を利用しやすくなっていることと相まって、純粋に「学習」を目的とする手段としても多様化が見られます。
ウェビナー、オンライン勉強会など、社外の人たちとつながることが簡単にでき、かつ出入りも自由です。これらの学習を主たる目的とする「越境学習」には、大きなメリットがあります。
ひとつは、外部の人とつながることで、外部の世界を知ることができることです。
これまでの社内に閉じた研修では味わえない良い意味での緊張感があり、本気で学べることと、多様なバックグラウンドの人たちの多様な考え方に触れることができます。
もうひとつは、自分のやりたいことに気づき、主体的なキャリア形成を促進することに役立つことです。
中小企業庁が示しているのは、「越境学習の形態」ですが、私たちミドル・シニアは、長く働こうとするのであれば、どこかのタイミングで現在の会社から離れた働き方、働き場所を見つけなければなりません。
ここで書いた「(狭義の)越境学習」は、キャリア自律を達成するために、人脈を作ったり、自分の指向性や強みを発見したりできる場になります。
持って行き方によっては、SNSを使った副業(複業)のきっかけとなる可能性もあります。
ミドル・シニアの学びに焦点を当てて書いているように見えて、ここで本当に伝えたかったのは、世代を問わずこれからのキャリアを考えるうえで、働くことと学ぶことの距離感を近く持ってもらいたいということでした。
そのためには、学ぶことに対するネガティブなイメージを払拭して、楽しいものだというプラスの思考に変えることの重要性に是非気づいてもらいたいです。
「学び」の原風景とも言える、初めて自転車に乗れた時の喜びと感動を、取り戻しましょう!
本記事の前編はこちら
[著者プロフィール]
牧田 潤 (まきた じゅん)
ランスタッド株式会社 ライズスマートジャパン事業本部 キャリアコーチ/ライフコーチ
コーチング、カウンセリングの資格を活かしたコミュニケーションと、経営陣と社員の双方の視点を持ちつつ、状況を俯瞰して人と組織に関する施策を立案・実行する戦略的思考を強みとしている。