インターナルキャリアモビリティの推進によって将来に対応した人員体制を構築するには

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ハーバード・ビジネス・レビュー(※1)に掲載されたベイン・アンド・カンパニーの分析によると、組織内で将来発生するポジションの60%以上は既存の人材で補填できます。実に朗報です。既存人材のリスキリングや配置転換は、解雇手当、生産性の低下、新しい人材の募集、獲得、オンボーディングの手間といった代償が伴う従来の「雇用と解雇」と比べてコストと混乱を抑えられます。現在の「売り手市場」においては特にそうです。社内異動の推進策を見つけ出すことは、大量の人員整理が招くエンプロイヤーブランドへのダメージの回避にもつながります。

世界的な深刻な人材不足の重なり、「大量退職」時代の従業員の脱出、リモートワークが可能にした世界規模の人材スカウト、ビジネスニーズとスキルのミスマッチを踏まえると、社内人材による人員補填によって持続可能な人員体制を築く道筋を編み出すことが企業の生存には必要不可欠です。

将来の10のポジションのうち6つは現在の社内人材で埋められるというニュースはHRチームの歓喜の理由になるに違いありませんが、問題はベイン・アンド・カンパニーの主張の後半部分、「適切な制度をきちんと設ければの話であるが」にあります。

こうした取り組みによってキャリアモビリティが促進され、その結果、組織のアジリティが保たれ、将来への備えができます。先頃、世界のRandstad RiseSmartリーダーをパネリストとして開催したウェビナー、「エンプロイーエクスペリエンス、定着、配置転換の推進と解雇手当・転職支援プラン(※2)」ではこの問題を特に取り上げました。企業が人員の持続可能性を高めるための制度をどのように導入すればよいのか、検討すべき基本原則をいくつかご紹介します。

 

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数字で見るキャリアモビリティの導入の勧め

Monster(※3)が行った最近の調査では、米国の雇用者の86%がコロナ禍でキャリアの失速を実感し、95%もの人が2021年の転職を検討していることが明らかになりました。Microsoftが行った全世界調査ではこの数字はおよそ41%です。転職意向に対処する一つの方法は社内でより多くの機会を提供すること。LinkedInのGlobal Talent Trends 2020レポートでは、社内登用の機会が多い企業はそうでない企業に比べて従業員の定着期間が平均で41%長いことがわかっています。同様に人材担当者の81%が社内公募制度は定着率の改善に役立ち、社内異動が可能である場合は従業員が組織に留まる可能性が大きく高まると回答しています。

多くの企業が明らかに対応に乗り出しています。一部は従業員ファーストの考えから、それ以外はおそらく必要に迫られてです。RiseSmartの2021年解雇手当・転職支援ガイド(※4)によると、社内で新しい役割を見つけやすくするための正式な配置転換制度を設けている企業は77%と2019年から28%増加しています。配置転換制度の広がりの背景にはコロナ禍に伴う景気減速の中で従業員をつなぎ止めて起きたいという事情があったからだと考えられます。およそ半数がこの制度を使って、人手の足りない事業部門に人員を速やかに配置転換したり、パートナー先や社外に一時出向させたと答えています。

今現在まで話を進めると、RiseSmartの第2四半期キャリアレポート(※5)によれば、雇用者の42%が社内異動の可能性があると回答し、第1四半期からほぼ倍増しています。さらに企業の半数はポジションの少なくとも25%をインターナルモビリティによって補填し、雇用主の81%と雇用者の61%がインターナルモビリティの機会があることに明るい見通しを持っています。この調査では組織内の考え方に前向きな動きが現れていることも明らかになりました。インターナルモビリティを阻む原因の一つと考えられていたマネージャーによる人材の囲い込みが軽減されているようです。HRマネージャーのおよそ80%と一般従業員の60%超がマネージャーがインターナルモビリティの取り組みに前向きになっていると答えています。

紛れもなく、今こそ行動の時です。従業員にキャリアモビリティの機会をどのように提供すべきか、雇用主にとっての検討ポイントを考えてみましょう。

関連記事:大量退職を大量定着に変える(英語サイト)

 

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継続的、包括的なキャリアサポートへの意識変化

キャリア開発、配置転換、転職支援などのサービスは通常、その時々のプログラムと考えられてきました。アジア太平洋地域担当セールスディレクター、ステイシー・ブランチは、先を見越した企業は新しい展望を開いていると言います。

「将来の模範的雇用主は受け身の職務転換から、すべての従業員のキャリアをエンドツーエンドでサポートする積極的なキャリアモビリティへと意識を変えた雇用主です」

「そうした環境ならば、従業員は自分のキャリアに主体性を持ち、その時々や事が起きてからではなく、将来の可能性を常に前向きに見つけ出し、探り、磨いていく、そして自らの知識や能力、関心、スキルに応じて組織内を柔軟に異動できる力が身につきます」

「その結果win-winの状況が生まれ、エンプロイーエンゲージメントが高まると同時に、組織にとっては将来の人材プールが確保され、強化されます。キャリアモビリティを成功させるには、こうした包括的アプローチが必要です」

企業にとってもエンプロイヤーブランドの向上、ひいては人材の定着と確保といった長期的なメリットがあります。インド・中東・アフリカ担当マネージングディレクター、ジョエル・ポールは、「インドで行った最近の調査では、雇用者の99%が評判の良い企業で働きたいと答えています。企業がそうした評判を保つためにはキャリア、配置転換、リスキリング、再就職支援にリソースを投じる必要があります」 と指摘しています。

 

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エンドツーエンドのキャリアモビリティの検討

キャリアモビリティ戦略を企業の全体的人材戦略の柱に据えるとともに、エンプロイーエクスペリエンスを中心に考えなければならないと、英国担当マネージングディレクター、サイモン・ライルは指摘します。「オンボーディングに始まり、キャリア開発、インターナルモビリティ、オフボーディング、退職に至るまでのすべてのタッチポイントで鏡をかざしてみること。そして、どの程度改善できるか検討すること。市場での競争環境を考えると、十分間に合っているではこの先十分でありません」

関連記事:社内でのキャリアアップによって従業員ファーストをサポートするための3つの方法

 

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ハイブリッド型の仕事環境における公平性の確保

ガートナー(※6)の最近の調査によると、マネージャーはオフィス勤務者を高く評価する傾向があります。マネージャーの64%はリモート勤務者と比べてオフィス勤務者はパフォーマンスが高く、その結果、昇給させる可能性が比較的高いと答えています。ですが事実はその反対です。同社の別の調査によって、完全リモート勤務者は完全オフィス勤務者よりもパフォーマンスが高い確率が5%高いことがわかっています。しかもこれはコロナ禍前の話です。

100%オフィスで働こうと、100%自宅で働こうと、あるいはその混在であろうと、全員に公平にキャリアモビリティを確保するにはどうすべきでしょうか。

オフィスでは、自然発生する対面での会話によって今後のビジネス戦略や新しい成長領域、次の製品多様化の領域を知ることができ、どれも新しい役割を見つける情報源になります。こうした自然な会話の流れは、体系的に行われるオンラインミーティングでは通常起きません。また、社内公募プロセスに関わる社内ステークホルダーに個人が影響を与えることもできます。物理的にどこで働くかにかかわらず、すべての人に公平なインターナルモビリティの機会を提供するためにHRチームはどうすべきでしょうか。

そのためには、「それを妨げにするのではなく、キャリアモビリティの完全民主化を可能にするプラットフォームを構築し、ハイブリッド型の働き方に耐えられる真の意味で堅牢なインターナルモビリティ戦略を構築する必要がある」とサイモン・ライルは言います。

適したテクノロジープラットフォームであれば、どこが仕事場であっても、組織が人材を把握でき、従業員も募集ポジションがわかり、透明性が確保されます。同様に、適したテクノロジーは募集ポジションに誰が一番ふさわしいか、個人の見解や非公式の会話に頼ることなく、社内公募マネージャーの判断を助けます。

 

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従業員が何を重要視しているかを知る

この5年から10年の間に職場(今現在の定義はともかく)の価値提案を見直しましたか?米国労働省労働統計局(※7)のデータによると、2030年には労働人口の75%をミレニアル世代が占めることになり、前述のハーバード・ビジネス・レビューの記事に言及されている通り、この世代は「柔軟な働き方、職場の多様性、エンゲージメント、自律性、雇用主との意味あるつながり」を望みます。パンデミックはこの世代の世界観を変えただけでなく、すべての人が立ち止まり、自分の人生にとって本当に大切なことは何かを考える時間を与えました。

「企業は従業員を惹きつける方法の見直しを迫られている」と、グローバルプラクティス戦略&ソリューションのバイスプレジデント、リンジー・ウィッチャーは指摘します。「コロナ禍で多くの働き手に内省の時間が生まれ、自分が望む人生がいったいどういうものなのかを大いに考えるようになりました。そして今、多くの人が変化へと向かっています」

魅力ある賃金や福利厚生の域を超えて、その企業の文化が多くの従業員の価値観に訴えかけるものでなければ、従業員に働きかけ、定着させることは望むべくもありません。仕事は今や業務処理というよりも、むしろ関わりです。1日8~10時間あるいはそれ以上をかけてやることは、その人の24時間365日の一部です。従業員の要望に耳を傾けるとは、単なる「労働者」としてではなく、その人の価値観や要望に目を向けることを意味します。

関連記事:すべての企業に強力な従業員価値提案が必要な理由(英語サイト)

 

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インクルーシブな文化の推進

職場のインクルージョンの推進、どうしていますか?取り組みを浸透させるのは採用の問題でしょうか、それとも価値観の問題でしょうか?

インクルーシブな文化(※8)は公平性と多様性が前提です。この文化を醸成し、推進する一番の方法はキャリア開発、コーチングやメンタリング、関心のある全員に対するスキル育成、透明性のある社内公募を通じた機会の民主化です。これらがすべての船を持ち上げる上げ潮になります。

ミレニアル世代が急速に労働人口の主流になりつつあるといえども、特にアジア太平洋地域で進む高齢化する労働力に対処するためにすべての年齢層を取りこぼさない文化の醸成と維持が重要であるとステイシー・ブランチは指摘します。「業種によっては、世代交代を促すためにベテラン従業員を尊重しながら次のキャリア段階への移行を支援する戦略が必要かもしれません。一部の国では、高齢の顧客層とのつながりを失わないためにベテラン人材のつなぎ止めに苦戦しています」

複数世代の働き手を管理している企業にとって、包括的なキャリアモビリティとは「ベテラン世代を含むすべての従業員のキャリア探索とキャリア開発を考えることを意味します。ベテランだからといって、キャリアアップしたくないわけではありません」

 

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非従来型の人材プールを検討する

社内の人材サーチについてどのような想定をしていますか?ひょっとしたらそれがキャリアモビリティや人材定着を阻害しているかもしれません。似通ったスキルを持つ人材が1つの役割から別の役割に一番スムーズに移行しやすいと考えられていることがよくありますが、LinkedInのレポートによるとその思い込みにはまったく裏付けがありません。2021年ラーニングレポート(※9)によって、新しい役割に移った多くの従業員は無関係の業界出身者であることが明らかになっています。人が持つ新しいスキルを学ぶ能力、新しい役割に移る能力はかつての想像をはるかに超えています。

これを社内キャリアモビリティに当てはめると、つまりはそれぞれが持つ「経歴やさまざまな経験に心を開くこと」を意味するとサイモン・ライルは言います。募集ポジションに対して似通ったスキルを持つ人材を検討することはやはり大切ですが、それが社内候補者の成功の可能性を測る唯一のものさしであってはなりません。

 

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従業員の幸福を考える

FreshworksのCMO、ステイシー・エプスタイン氏は、Fast Company掲載記事(※10)の中で効率性や生産性ではなく、むしろ「従業員の幸福の最適化」を最優先事項にすべきと提唱しています。なぜでしょうか?その理由を端的に言うと、ハッピーな従業員はきちんと成果をあげるからです。

ステイシー・ブランチはこの発想をキャリアモビリティへと広げ、「目的や情熱が明確になり、現在の役割や将来のキャリアパスにおいてこれらの原動力に基づきどう行動すればよいかわかり、と同時に自分と関係性の健全性を図ることは従業員にとって大いなるメリットになる」と言います。

 

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スキリングの機会を全員に

ジョエル・ポールは、「人材不足の一つの理由は優秀な人材を見つけなければならないこと。もう一つは人はいるが、条件にかなった人が足りないこと」だと話します。

スキルと人材とのミスマッチを防ぐための一つの重要な方法は全員に対してスキル育成の機会を与えることです。適したテクノロジーは実現を大きくバックアップし、キャリア開発や配置転換と連携して進めることができます。機敏性を保つためには、従業員本人が現在の役割や関心のある役割に関する市場データを理解し、スキルギャップを把握し、自分のスキルを次のレベルに高めるための研修コースや実地体験の機会がわかるテクノロジーの導入が有効です。各自に合った機会を見つけ、最善の選択を助けるキャリアコーチングと並行させれば、キャリアモビリティを形にできます。

 

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[参考]
 

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