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「エンプロイアビリティ(雇用される能力)」を育てる場の提供が、企業にもたらすメリット
「エンプロイアビリティ(employability)」という言葉をご存知でしょうか。直訳すると「(個人が)雇用され得る能力・スキル」のこと。個人だけではなく雇用主側にとっても重要なキーワードになりつつあります。従業員の「エンプロイアビリティ(雇用される能力)」を高めることで、企業はどんなメリットを得られるのか。また、高めるための具体的な施策についてご紹介します。
優秀な社員に留まってもらうのが難しい時代
「人生100年時代」と言われる現在、転職やキャリアチェンジが当たり前になり、1人の社員が1つの会社で長期間働き続けることは少なくなりつつあります。当然のことながら、優秀な人材は外部からも引く手あまた。企業が優秀な人材を確保し続けることは、これまで以上に難しくなっています。
一方、特にシニア世代を中心に、企業が求めるスキルと個人のスキルとのミスマッチが発生し、そのような従業員への対応も人事課題となっています。日本特有の「新卒一括採用・年功序列・終身雇用」が制度疲労を起こしていると言えるでしょう。人事担当者は、採用活動や人材育成に関わる諸施策、従業員との関わり方などについて試行錯誤を重ねていることと思います。
これからの働き手が重視すべき「エンプロイアビリティ(雇用される能力)」とは何か
このような中、労働市場における重要性がさらに高まっているのが「エンプロイアビリティ(雇用される能力)」です。
急速に変化を遂げるビジネス環境に対応出来る人材ニーズの高まりを背景に、一つの企業だけで通用する力ではなく、企業の垣根を超えビジネスシーンで広く応用できる能力・スキルは、世界中で求められています。
厚生労働省は調査研究の中で、エンプロイアビリティ(雇用される能力)の具体的な内容を3つにカテゴライズしています。
- A)職務遂行に必要となる特定の知識・技能などの顕在的なもの
- B)協調性、積極的等、職務遂行に当たり、各個人が保持している思考特性や行動特性に係るもの
- C)動機、人柄、性格、信念、価値観等の潜在的な個人的属性に関するもの
3つの力のうち(C)に関しては「個人的かつ潜在的なもの」で「具体的・客観的に評価することは困難」とされており、同省は企業に対して、(A)と(B)を対象とした評価基準の策定を進めるのが適切であるとしています。
出典:厚生労働省「エンプロイアビリティの判断基準等に関する調査研究報告書概要」(2001年)
ただ、企業側が従業員一人ひとりに対し「他社でも通用する能力を開発する」と考えた場合、一体何が自社のメリットになるのか、疑問に思う方もいるかもしれません。
次の項では、エンプロイアビリティ(雇用される能力)を意識した能力開発が企業にもたらすメリットを、その背景を含めてご説明します。
人材への投資が少ない日本。積極的な取り組みがエンプロイヤーブランド(勤務先としての魅力)の向上に繋がる
各企業では、新入社員や中途入社社員、管理職などに向けた各種研修、評価面談や資格取得の支援など、従業員に対して様々な機会を提供していることと思います。
しかし、日本企業ではバブル期以降の従業員の育成・教育への投資が減少傾向であると言われています。特に人的投資のGDP比は非常に低く、アメリカの2.1%、フランスの1.9%、ドイツの1.2%と比較した場合、日本はわずか0.1%に過ぎないという推計があります。
出典:RIETI/JIPデータベース2015、学習院大学 宮川努教授推計及びINTAN-Invest data
また、能力開発に関する労働者意識調査によると、日本の労働者の83.7%が「時代に遅れをとらないためにスキルアップが必要」と回答し、グローバル平均の72.1%と比較しても意識が高い傾向にありますが、実際に自ら費用を負担し、機会を得ようとアクションを起こしている人の割合は42.2%に留まりました。これは世界33の国と地域の中で最下位の結果です。
出典:【ランスタッド・ワークモニター】勤務先からのスキルアップ支援や自己負担による実施率は最下位
つまり日本では、企業側も働き手側も、学びに対し積極的な投資をしていない状況なのです。自社の従業員に対し、個人が成長するための機会を提供すること——学びの制度を実装しそれを広くアピールすることで、従業員が「その会社に在籍し続ける理由」、ひいてはエンプロイヤーブランド(勤務先としての魅力)の向上にもなり得ます。
また、「他社でも通用する能力」を従業員が身に付けることは、社内人材の能力やスキルの底上げとなり、企業としての競争力を格段に高めることに繋がります。
「他社でも通用する能力」を開発するための気づきと機会を提供する
では、従業員のエンプロイアビリティを高めるためは、どのようなことが必要でしょうか。
企業側が真っ先に出来るのは、従業員に対し、能力やスキル向上の必要性に関する気づきを与えることです。そしてその上で、実際に能力開発ができる機会を創出することも忘れてはいけません。しかし従来型のオーソドックスな新人研修や管理職研修などでは残念ながら不十分です。
エンプロイアビリティ(雇用される能力)向上に寄与する取り組みの一つとして、多くの企業が導入している制度に「ジョブグレード制度(職務等級制度)」があります。
日本ではこれまで、一人の従業員が様々な仕事を経験することで能力を培い、年数を重ねることでジェネラリストとして成熟していくことを前提とした「職能資格制度」の考え方が一般的でした。
それに対して、ジョブグレード制度ではスペシャリストの育成を前提としています。属人的な要素を排除した「職務」の価値が重視され、個々の従業員が担う「職務」は、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に明記されます。従業員はその内容に責任を追い、仕事の熟練度や成果によって評価が行われます。この制度では、職務の内容や報酬は、労働市場の同等のポジションと照らし合わせて決定されるものであることから、「他社でも通用する能力の開発」を促進することが出来るのです。
近年ではその他にも、職務(仕事)や職能ではなく、企業のミッションから個々の役割を導き出す「ミッショングレード制度(役割等級制度)」なども、新たなマネジメント手法として注目を集めています。
どんなに優れた制度を導入しても、力をつけた優秀な人材が流出するリスクは、残念ながらゼロになることはありません。しかし目まぐるしく変化を遂げるビジネス環境の渦中にあっても、確実に成長していきたい——そう考える企業にとっては、時代に合わせて制度の最適化を図り、常に組織をアップデートしていくことが必要です。従業員個々のエンプロイアビリティ(雇用される能力)を向上させることは、その一助となるでしょう。