【ランスタッドCHROが語る未来型組織のつくり方】  第1回 コロナ禍がもたらした「名ばかり在宅勤務」への処方箋

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このシリーズはランスタッドのHRヘッドが経営の視点から人事の未来を語るコラムです。ビジネスの環境変化や社員のニーズをどのように組織開発に反映し、またコンフリクトやジレンマをどのように乗り越えているか、リアルタイムの試行錯誤をお伝えします。

第1回 コロナ禍がもたらした「名ばかり在宅勤務」への処方箋

今回のコロナ騒動で最も大きく変わったのは、なんといっても人々の働き方でしょう。東京2020オリンピック・パラリンピック大会が予定通り開催されたとしても、これほど多くの社員が在宅勤務することはなかったと思います。一方で、「7割が効率が下がった」という日本生産性本部の調査結果もあります。当社の調査(『「在宅勤務」に関する意識調査』2020年4月実施)でも、在宅勤務を「良い」と評価しながらも、今後の働き方となると現在よりも少ない頻度を希望していることが分かりました。

この背景には、最低限のシステムを準備しただけで在宅勤務に突入した企業も多かったのではないかと考えられます。非常時の事業継続という視点だけでも大きなメリットのある在宅勤務ですが、人事制度や業務などを変えなければ効率が上がるどころか余計な仕事や社員のストレスが増えてしまいます。

今回はこのような「名ばかり在宅勤務」を防ぎ、在宅勤務でもオフィスと同じパフォーマンスを出すためのポイントを3つお伝えします。

1.フレキシブルな就業制度

時間と場所の柔軟性は、セットで整備してこそ効果的な制度となります。

柔軟な働き方をすることで、育児や介護などのプライベートな理由があってもフルタイム勤務を続けられる社員もいますが、家庭の事情が無くても、海外との電話会議やお客様の都合、あるいは集中できる時間帯など、最も効率的に働ける場所と時間は社員自身が最も分かっています。目標や進捗を上司が的確に把握していれば、社員は目標まで最短距離で到達しようとするため、結果として生産も上がるというわけです。

2.デジタル投資

在宅勤務を社員の福利厚生だと考えると、そのためのIT整備費用は単なるコストという認識になります。しかしながら今回のように非常時にいつも通りの業務が可能になり、また通勤交通費やオフィススペースの削減につながることを考えれば大きな財務的なメリットがあります。また、まだまだハードルの高いペーパーレスの推進についても、書類保管場所の削減というさらなるコスト削減にも繋がります。

3.自律的な人材の育成

これが最も重要なポイントになります。在宅勤務の大きな足かせになるのは結局のところ「社員の好き放題にさせていいのか」という考え方です。常に細かく指示をして上司が目の前で監視していなければいけない社員が前提であればそのような考え方になるでしょう。しかしながら私たちが目指しているのは、社員が主体性を持って自律的に動く組織ではないでしょうか。そのためには社員を信頼し、目標を明確にした上で、働き方やそこに至る手段は社員に自分で考えてもらう必要があります。在宅勤務を社員の権利や義務ではなく、自律的に働くための一つのツールだと考えれば制度導入の意義は非常に大きいと言えます。

 

ランスタッドの取り組み

当社は以前から週に1日ほどの在宅勤務制度がありましたが、今年3月2日からは希望者全員在宅勤務可能とし、さらに3月27日、緊急事態宣言に先んじて全国の拠点の全社員に在宅勤務を命じました。このタイミングでの全員実施はかなり早い方だったと思います。それは働き方改革の取組をいくつか開始していたこと、また他の施策も含めてある程度の生産性を在宅勤務でも担保できると確信していたからです。もちろん部門やマネージャー、仕事の内容により差はありますが、それでも目指すべき組織の姿を考えたときに、先に経営側が社員への信頼を示すことが必要だと考えました。

その後の社員アンケートでは、この段階での意思決定を肯定的に受け止めた社員が多いことがわかりました。会社が社員やその家族の安全を第一に考えている証しだと感じたようです。

当社も、今回お伝えした3点を完全にできているとは言えませんが、CEOはオフィス勤務と在宅勤務は同等という前提で考えており、目指すべき方向は明確です。社員の自律的選択を尊重し、フレキシブルな働き方と環境づくりを推進するか、固定的な働き方に戻るか、経営者は今その分岐点に立ち選択を迫られているのではないでしょうか。

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筆者プロフィール

金子 久子(かねこ ひさこ)

ランスタッド株式会社 人事本部 取締役 兼 最高人事責任者(CHRO)

慶応大学卒、米国ジョージタウン大学交換留学。早稲田大学MBA(2016年首席卒業)

外資系銀行に就職、結婚後、障害のある長男の育児に専念するため専業主婦業を9年経験。

フリーランス通訳業に従事後、2004年アクサ生命に社内通訳者として入社。同社でダイバーシティマネージャー、人事能力開発部長、チーフダイバーシティオフィサーを歴任。アクサ損害保険に転籍、チーフHRオフィサーに着任。

2019年6月より世界最大級の総合人材サービス企業であるランスタッド株式会社にて現職。日本ブラインドサッカー協会副理事長。

これまでに、フリーランス、アルバイト、派遣社員、契約社員、NPO監事・理事、正社員、会社役員を経験。

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