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同一労働同一賃金「5年後見直し」の全貌と企業対応(全3部作)第2部:「賞与ゼロ、退職手当なし」は説明できるか──2026年改正で問われる9つの待遇
2020年の施行から「5年後見直し」を迎え、2026年10月1日に施行される同一労働同一賃金の改正省令・指針。その本質は、不合理な待遇格差への「抜け道」の遮断と、企業への「説明対応の実効性の強化」にあります。
2026年10月以降、パートタイム・有期雇用労働者(以下、パート有期労働者)から「なぜ賞与がないのか」「なぜ住宅手当の対象外なのか」と説明を求められる場面は増えていきます。「正社員とは制度が違う」といった抽象的な説明だけでは、十分とはいえません。
全3部作で2026年10月の新局面を解説する本コラム。第1部に続き、第2部となる今回は、同一労働同一賃金の均等・均衡待遇の基本と、「正社員だから」という説明だけでは足りない理由を整理し、賞与、退職手当、各種手当など9つの待遇項目について、企業が見直すべきポイントを解説します。
1.「均等待遇」と「均衡待遇」の基本構造のおさらい
労働者から待遇差について説明を求められたとき、企業はどのような観点で制度を点検し、説明すればよいのでしょうか。出発点となるのが、パートタイム・有期雇用労働法(以下、パート有期法)の根幹をなす二つのルール、「均等待遇」と「均衡待遇」です。
パート有期法は、同一の企業等に雇用される「通常の労働者」と、パート有期労働者との間にある待遇差を比較し、その取扱いが適切かを判断する法律です。したがって、均等待遇・均衡待遇を検討する際には、まず比較の基準となる「通常の労働者」を特定する必要があります。
通常の労働者とは、一般的には無期雇用かつフルタイムで働く正社員や無期フルタイム労働者を指します。ただし、複数の社員区分がある企業では、どの区分を比較対象とするかを個別に確認する必要があります。(※本コラムでは通常の労働者を分かりやすくするため、以降は「正社員」と表記します)
まず、「均等待遇(差別的取扱いの禁止)」は、正社員とパート有期労働者との間で、①職務内容(業務の内容と責任の程度)、②職務内容・配置の変更範囲(転勤・昇進・本人の役割の変化などの有無や範囲)が同一である場合に適用されます。
この場合、企業は、パート有期労働者であることを理由として、基本給、賞与、手当、福利厚生などの待遇について差別的に取り扱ってはなりません。言い換えれば、雇用形態の違いだけを理由に不利な取扱いをすることは認められず、違反すれば法違反となります。
一方、実務で中心となるのが「均衡待遇(不合理な待遇差の禁止)」です。均等待遇が求められるケース以外では、正社員とパート有期労働者との間に待遇差がある場合、その差が不合理ではないかを、個々の待遇ごとに確認する必要があります。
ここで重要なのは、「正社員とパート有期労働者では人事制度が異なる」といった抽象的な説明だけでは足りないことです。基本給、賞与、退職手当、各種手当、休暇、福利厚生など、それぞれの待遇について、「何のために支給・付与しているのか」などの性質・目的に照らして適切な事情を考慮(考慮要素)して、不合理な差になっていないかを判断します。
その際の考慮要素は、次の三つです。
| ①職務内容 | 業務内容や責任の程度を見ます。たとえば、中核的業務の違い、決裁できる金額や権限の範囲、部下の管理、トラブル発生時や緊急時に求められる対応、売上目標など成果への期待の大きさなどが該当します。 |
| ②職務内容・配置の変更範囲 | いわゆる「人材活用の仕組み」です。転勤(人事異動の有無や範囲)、昇進(人事異動の有無や範囲)、本人の役割の変化など(配置の変更を伴わない職務内容の変更を含む)の有無や範囲。ここで重要なのは、個々の労働者について既に異動や昇進が決まっているかではありません。就業規則や雇用区分ごとの制度、実際の運用や人事慣行などを踏まえ、将来にわたり、どのような異動や役割変更が客観的に見込まれるのかを確認することがポイントです。 |
| ③その他の事情 | 能力の違い、成果の違い、経験の違い、合理的な労使慣行、労使交渉の経緯や結果などが想定されます。 |
ただし、これら三つの考慮要素を、すべての待遇について同じ重みで当てはめるわけではありません。どの事情をどこまで重視するかは、それぞれの待遇の性質・目的によって異なります。
つまり、同一労働同一賃金の本質は、「正社員だから」「パートだから」という形式的な区分だけで結論を出すことではありません。個々の待遇の性質・目的に照らし、職務内容や配置の変更範囲などの実態を踏まえて、その待遇差を合理的に説明できるかが問われます。
たとえば、住宅手当が転居を伴う転勤により発生する住居費負担を補うための制度であれば、転勤の有無や範囲が重要な判断要素になります。一方、実質的に生活補助や人材定着を目的とする制度であれば、雇用形態の違いのみを理由に一律に対象外とすることは、不合理と判断される可能性が高まります。
企業には、待遇の名称や雇用区分だけで結論を出すのではなく、個々の待遇について性質や目的と実態を確認し、説明できる状態にしておくことが求められます。これが、改正ガイドラインへの対応における最初の一歩です。
2.「正社員人材確保論」を単独の根拠にはできない
これまで多くの企業では、パート有期労働者から賞与や手当の待遇差について説明を求められた際、「正社員は、将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」と説明してきました。いわゆる「正社員人材確保論(有為人材確保論)」です。
2020年の大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件の最高裁判決では、正社員の人材確保・定着という事情などを踏まえ、有期雇用労働者に賞与や退職手当を支給しないことが、当該事案では不合理とはいえないと判断されました。そのため企業実務では、「正社員人材の確保・定着を目的とする制度であれば、有期雇用労働者との間に賞与や退職手当の差を設けてもよい」と受け止められ、待遇差の見直しや改善をためらう要因となってきた面があります。
もっとも、これらは旧労働契約法20条の下で争われた個別事案に関する判断です。現行のパート有期法8条と改正ガイドラインの下でも、判例の趣旨は重要な判断材料となりますが、判決の結論を一般化することはできません。待遇ごとの性質・目的に照らし、具体的な実態に基づいて検討することが求められます。今回の改正ガイドラインでも、「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保及びその定着を図る等の目的があることのみをもって、直ちに当該待遇差が不合理ではないと当然に認められるものではない」と明確にされました。
人材確保・定着という目的自体が否定されたわけではありませんが、「正社員だから」「将来に期待しているから」という説明だけでは十分ではありません。賞与や各種手当など、それぞれの待遇ごとに性質・目的を確認した上で、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情に照らし、待遇差を具体的に説明できるかが問われます。
3.9つの待遇で見直すべきポイント
今回のガイドライン改正では、最高裁判例等を踏まえ、賞与、退職手当、無事故手当、家族手当、住宅手当、福利厚生施設、病気休職、夏季冬季休暇、褒賞などについて、考え方が追加・明確化されました。
企業に求められるのは、各待遇ごとに、その性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮し、正社員との待遇差が不合理なものとなっていないかを確認することです。その為、制度と実態の両面から点検する必要があります。
改正ガイドラインにおける主な追加・明確化事項(要約)
| 待遇項目 | 改正ガイドラインで示された考え方 |
|---|---|
| 賞与 |
・賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについては、同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。 ・賞与については、労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の労働意欲の向上等の様々な性質・目的が含まれうるものであるが、正社員と同様にパート有期労働者にも当該性質・目的が妥当するにもかかわらず、パート有期労働者に対し、正社員との間の職務の内容等の相違に応じた均衡のとれた内容の賞与を支給せず、かつ、その見合いとして、労使交渉を経て、当該性質・目的が妥当しない他のパート有期労働者に比べ基本給を高く支給している等の事情もない場合、その相違は不合理と認められるものに当たりうることに留意。 |
| 退職手当 | 退職手当については、労務の対価の後払い、功労報償等の様々な性質・目的が含まれうるものであるが、正社員と同様にパート有期労働者にも当該性質・目的が妥当するにもかかわらず、パート有期労働者に対し、正社員との間の職務の内容等の相違に応じた均衡のとれた内容の退職手当を支給せず、かつ、その見合いとして、労使交渉を経て、当該性質・目的が妥当しない他のパート有期労働者に比べ基本給を高く支給している等の事情もない場合、その相違は不合理と認められるものに当たりうることに留意。 |
| 無事故手当 | 正社員と業務の内容が同一のパート有期労働者には、正社員と同一の無事故手当を支給しなければならない。 |
| 家族手当 | 労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれるパート有期労働者には、正社員と同一の家族手当を支給しなければならない。 |
| 住宅手当 | 住宅手当が「転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給されるもの」である場合、正社員と同一の転居を伴う配置の変更があるパート有期労働者には、正社員と同一の住宅手当を支給しなければならない。 |
| 福利厚生施設 | 福利厚生施設の利用料金・割引率等の利用条件についても、職務の内容等を踏まえ不合理と認められる相違を設けてはならない。 |
| 病気休職 | 病気休職(療養への専念を目的として付与する病気休暇を含む)については、無期雇用のパート労働者には正社員と同一の病気休職の取得を認め、有期雇用労働者にも、労働契約が終了するまでの期間を踏まえて病気休職の取得を認めなければならない。さらに、正社員に病気休職期間に係る給与の保障を行う場合には、相応に継続的な勤務が見込まれるパート有期労働者にも、正社員と同一の給与の保障を行わなければならない。 |
| 夏季冬季休暇 | パート有期労働者にも、正社員と同一の夏季冬季休暇を付与しなければならない。 |
| 褒賞 | 褒賞が「一定の期間勤続した労働者に付与するもの」である場合、正社員と同一の期間勤続したパート有期労働者には、正社員と同一の褒賞を付与しなければならない。 |
※本表は改正ガイドラインの主な内容を要約したものです。個別の待遇差が不合理に当たるかは、各待遇の性質、目的に照らして、適切と認められる事情を考慮して具体的に判断する必要があります。
最終回となる第3部では、待遇差について説明を求められた場面を想定し、現場と人事が一貫して対応するための実務フローと「説明対応の面談記録」、さらに直接雇用と人材派遣を含む人材ポートフォリオの考え方を提示します。
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執筆者紹介
今回の同一労働同一賃金に関する制度運用の見直しにおいては、日本BPO協会理事長として、厚生労働省の労働政策審議会でのヒアリングに対応するなど制度見直しの議論に参画。 過去には厚生労働省の労働政策審議会(職業安定分科会労働力需給制度部会)に派遣業界代表として参加し、長年にわたり労働者派遣法等に関する制度の検討・整備に従事。 著書に『〔日本版〕同一労働同一賃金の理論と企業対応のすべて』(労働開発研究会、共著、編著代表 倉重公太朗)などがある |
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