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大阪・関西万博で未来の働き方を考える EXPO2025 ランスタッド・シンポジウム「未来のワークプレイス」レポート
大阪・関西万博オランダパビリオンで開催された「未来のワークプレイス」
ランスタッドが大阪・関西万博でシンポジウムを主催!
2025年4月25日、大阪・関西万博のオランダパビリオンにおいて、ランスタッドは企業のリーダー層を対象としたシンポジウム「未来のワークプレイス」を開催しました。
当日はコクヨ株式会社 働き方改革アドバイザーの坂本崇博氏をゲストに招き、ランスタッド 人事本部タレント部長 西野雄介とともに、世界35の国と地域で実施した最新調査の結果なども参考にしながら、将来への展望が議論されました。舞台となったのはランスタッドがゴールドスポンサーとして協賛しているオランダパビリオン。
パビリオンのテーマとしているコモングラウンド(共に分かち合い、新しい価値を生み出すこと)を体現するイベントとなりました。
シンポジウムのテーマ「未来のワークプレイス」とは?
AIやデジタル化の推進、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の広まりなどを受け、オフィスデザインに求められる要素も大きく変化しています。
また、生産性の向上や従業員のエンゲージメント向上、イノベーション創出、ウェルビーイングの推進など、「未来のワークプレイス」への期待と課題は幅広く、多くの知恵を必要としていることから、シンポジウムのテーマに据えられました。
「未来のワークプレイス」パネルディスカッション・レポート
「飛び抜けたイノベーション」を生むためのワークスペース
この日登壇した二人はどちらも大阪に縁が深いということで、シンポジウムも関西弁を交えた気さくな雰囲気でスタートしました。
まず坂本氏から、今日に至るまでのワークプレイスの変化について解説しました。上司が後ろから部下を見張るレイアウトの「さぼらせないオフィス」に始まり、いわゆる島型レイアウトの「たくさん入るオフィス」を経て、今、未来のワークプレイスとして注目されているのが、オランダ生まれのActivity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)を取り入れたワークスペースです。
近年は、電気自動車やデジタル写真、オンラインストリーミングサービスなど、既存の産業構造や市場を根本的に変える、「非連続的イノベーション」が注目されています。
既存価値の延長線上で発想する「漸次的イノベーション」と異なり、既成概念にとらわれない新たな発想が求められます。そこにはダイバーシティの推進が欠かせないことがハーバード大学の研究 でも発表されています。それによると、均一性の高い組織は「平均点が高い」という利点はありますが、飛び抜けた発想は苦手です。一方で、多様性を実現した組織は、ばらつきはあるものの最高到達点はより高く、飛び抜けたイノベーションを起こしやすいのです。
ただし、「多様な人材を増やしていくだけではビジネスの成功には繋がらない」と坂本氏は指摘します。これまでになかった発想を受け止め、具現化に至るまで昇華させる、いわば「イノベーティブだね、面白いね」だけで終わらせないステップも重要なのです。
上に追いつくのではなく「みんなが異分野のスペシャリスト」へ
そして坂本氏は、働き方の多様性について「一人前(イチニンマエ)から、一人前(ヒトリマエ)に」と説明しました。
従来の働き方では、上司・先輩と同じように仕事ができるようになること、つまり「イチニンマエ」になることが重要な指標でしたが、これを目標にすると同じような仕事をする人が増えるだけで、これからの働き方にはそぐわないといいます。
これからは、リーダーとは違うキャリアコースを歩んできたさまざまなスペシャリストである「ヒトリマエ」を、リーダーがまとめる働き方が主流となるはず。各メンバーは、リーダーや他のメンバーにないスキルをもって、自律的に課題を発見し、部や仕事の枠を超えてすばやく新価値を共創できるようになるというわけです。
「多様性のステージ」を意識することで、新価値を生み出す
参加者にひときわ注目されていたのが、「さまざまな人と共に働く」という単純な認識で語られがちな「多様性」について、坂本氏が段階的に表現した「多様性のステージ」です。坂本氏は、多様な人々の雇用は徐々に取り組みが広がっているものの、多様性を発揮した行動を促進し、多様性を発揮する人同士をつなげるといった、より高いステージへどう上がっていくかはこれからの課題だと訴えました。
鍵となるのは「安心」、いわゆる「心理的安全性」です。多様な意見を受け止めるには、まず誰もが多様な意見を述べられる環境であることが前提となります。これを進めていくことが、多様性から新価値を生み、ビジネスの成長につなげる第一歩だということが語られました。
ワークプレイスが人・組織・社会をつなげる「価値観労働」の時代
ここで話題は「働き方の変化」へと移ります。作業への熟練や効率性が求められた「作業労働」の長い時代を経て、インターネットが登場してからの30年ほどは知識や合理性を重視する「情報労働」の時代。
そしてこれからは、作業や情報の大部分をAIに託し、人間ならではの感性や多様な発想で困りごとなどに手を差し伸べられる「価値観労働」の時代になっていくといいます。
そこで、最新のワークプレイスであるABWに加わる新たな価値として、坂本氏は「WAM(Workplace As Media)」を提唱。ワークプレイスの在り方で組織のパーパスやカルチャーを社内外に伝え、ワークプレイスによって人・組織・社会の交わりや個性を育む。ワークプレイスが「交わり・つながりを育む媒体」となるという考え方です。
Q&Aも「未来のワークプレイス」を考える重要な場に
会場に集まった参加者からも、パネルディスカッションの内容を受けて熱心な質問が寄せられました。
Q 「イノベーティブなアイディア」の評価基準とは?
坂本氏は「まだ世の中にないアイディアか(独創性)」、「世の中に普及しそうな、普及させたいアイディアか」といったチェックポイントの例を挙げます。また質問者が「違う人たちが、ただ一緒に集まって何か作るとなるとなかなかうまくいかない」と述べると、「集まるだけで運任せにするとうまくいかないので、『いかに誘導するか』が、価値観労働の時代のマネージャーのスタート地点」だと応えました。
Q 価値観労働におけるバーンアウト(燃え尽き症候群)を防ぐには?
坂本氏は価値観労働には肉体労働と似た部分があるとし、「例えばアイドル歌手の仕事はファンがすごく褒めてくれて楽しいはずだが、やはり疲れる」と例えます。そして、デジタルデトックスで脳を休ませるなど、「休憩の取り方を意識すべき」と答えました。ちなみにおすすめの休憩法は、スマホなどを持ち込めず、目や頭を休めやすい「サウナ」だそう。
Q 坂本氏の提唱するWAMをもっと詳しく知りたい&組織へWAMを取り入れるには?
坂本氏は、まずWAMについてABWと比較しながら説明します。「ABWでオフィスを考えるときは『この辺が集中エリア』、『その辺が交流エリア』と機能によるマッピングをします。
それになぞらえると、WAMも『この辺で会社のことを好きにさせる』、『この辺で隣の人を好きにさせる』、『この辺で自分の感情と向き合わせ、少し感情を休ませる』といった機能を、椅子や机ではなく『メディア』で設置していきます。例えば、デジタルサイネージのコンテンツ、飾られているモニュメントやアート、かかっている音楽などで感情を揺さぶる機能が設置されている。
ABWはオフィス家具の話が中心だけれども、WAMになるとコンテンツ産業や心理学の話が重要になるので、その分野の専門家が参入してきてワークプレイス産業が広がっていくと考えています」と語ります。
また、組織へWAMを取り入れるためのアドバイスとして、まず破壊的イノベーションを起こすためには、現在のビジネスも粛々とやれる「両利きの経営」が必要であること、それは部署ごとに分担するものではなく、「全員がそれぞれ、1人の中で堅さと柔らかさの両方を内在させる必要がある」と説明しました。
「これをオフィスで表現すると、『組織図は堅く、空間は柔らかい』という考え方になります。現在の日本は、上長が上座にいて、課長がその脇にいて……という組織図通りの堅いオフィスが多いです。組織として堅く、場所まで堅いとカチカチになってしまう。
そこで、あえてその組織図通りの状態を崩していく考え方で説得してみましょう。これが『両利きの経営』です。そして人を常に集めておいたり、常にフリーにしておいたりするのではなく、『時々集まれる』ような仕組み・ルールを作ってあげる。ゼロイチの話ではなくて、グラデーションの話かなと」。
ここで西野から「逆に『ついつい組織ごとに集まってしまう』パターンもありそうです。勝手に集まってしまうからイノベーティブになりづらい。そこをどう分散させるかが難しいところ」という意見が出ます。
坂本氏はそこで、マネージャーが「集まらないとき」のルールを作って後押しするとよいと応じ、フリーアドレス導入失敗例の多くは「ルールを作らず完全にフリーにしている」ことにあると語りました。「フリーアドレスだからって、マネージャーもフリーではいけない。どうコントロールするかを考えないと」。
Q 法整備が追いつかない中で、働き方の多様性を叶えるには?
坂本氏は質問を整理し、取り組むべきは「人の行動指針をどういうふうに制御するか」にあると述べました。そして「その答えが私は『文化』だと思っている」といい、万博会場に揃ったさまざまな文化を体験してほしいと続けます。
さまざまな食べ物、建築、生活空間、音が聞こえ、会話が聞こえてくる。その会話の中には、倫理感や行動指針に関わる内容が混じることもあります。「文化は形成できます。
例えば和室で和食を食べてもらう。あまり感情を表に出さず、やや忖度し合うような会話をしてもらう。おそらく1ヶ月もすれば、日本的な文化が生まれてきます。そういった意味での行動をどんどんやっていきましょう」と坂本氏。そして、ディスカッションの後に予定されていたマイノリティ&ダイバーシティ体験もその行動のひとつだといいます。
「障がいを抱える人たちに見えている景色、聞こえている音がわかると、共通項ができる。そこで初めて『異質』ではなくて、『多様』になる。共通項をどれだけ作るかというのは、言葉のルールだけではダメで、おそらくデザインや食といった、人間のクリエイティブな部分で共通項を作るといいのではないかと思います」。
同質化させず、異質のままにせず、「多様」を目指していく
「多様な人材を集めればいい」、「どこでも自由に働けるようにすればいい」と、ともすれば表面的な取り組みに流れがちなこうしたトピックに対し、「より高い多様性のステージを目指す」、「ゼロイチではなくグラデーションで捉える」、「完全に自由にするのではなくマネジメントで後押しする」など、多くの気づきを生んだこの日のディスカッション。これをきっかけに、その後の意見交換会も大変盛況となりました。