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企業成長を加速するパーパス経営と次世代リーダーシップとは
2015年に国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」の広まりを機に、消費者や人材市場、さらには金融市場の変化に対応する経営手法について様々な議論がなされています。今回は最近、特に企業の信頼と業績を上げるために世界的に重要視されだした “パーパス経営” について考えてみたいと思います。
ランスタッドは総合人材サービス会社として、人材市場の変化を特に感じています。ミレニアル世代、(20代半ばから40歳)や、Z世代(25歳以下)は、多様性や環境問題を意識した教育を受けており、社会に貢献している会社に就職をしようとする傾向が強く見られるのです。
また消費活動においても、環境に良いものを購入しようとする「エシカル消費」が盛んになり、環境に良いものを作っている会社から買おうとする傾向が強まっています。さらに、投資市場においても環境や社会に良いことをしていてガバナンスが効いている会社に投資が集まる傾向があり、東証一部上場企業がプライム株式市場に移行する際には必ず意識しなければならないポイントにもなっています。
このような「環境や社会への貢献」を考えて社員を導いていく経営手法を “パーパス経営” と言います。
組織心理学的に社員の目線から言うと、“パーパス経営” とは「環境や社会の問題に対して、自社製品やサービスがどう貢献しているか分かる」「自分たちが何のために働くのか理由が明確になっている」状態と言えます。
パーパスとは英語で「目的」を意味します。組織の目的が「環境や社会の困り事をより良く変えていくこと」につながっており、そのことが実際の業務に落とし込まれていることがパーパス経営推進の重要なポイントです。
事例からひも解くパーパス経営
パーパス経営を成功させた代表的な出来事があります。
2005年8月末にアメリカの東南部を襲ったハリケーン・カトリーナ。その甚大な被害により一面が水につかった航空画像を見て、息を呑んだ方も多かったと思います。
停電によりクレジットカードシステムが使えなくなり、銀行の店舗が浸水してATMも壊れたため、被災者は現金が必要なのにお金が引き出せない事態になりました。その時、地域密着型の銀行であるハンコックバンクでは、経営者が銀行員の家族と地域住民の為に決断したことがありました。それはハリケーンによって倒されたATMを壊し、中にある現金を取り出して洗浄してアイロンをかけ、屋外に机と椅子を並べて、手書きの借用書を準備して、一人200ドルを限度に必要とする地域の皆様にお金を渡すことでした。結果として、災害後の5ヶ月間で13,000の新しい口座が開かれました。
後にこの銀行の経営者が語ったことがあります。それは、「この行為は新しい口座を開いてもらうために行った行為ではなく、この銀行の存在目的(Purpose)を示したかった」ということでした。
ハンコックバンクの存在目的は『私たちは、私たちのコミュニティには商業を、コミュニティの人たちには機会を創出するため、ファイナンスのサービスを提供する』こと。その存在目的に従い、「なぜ自分たちがカトリーナで被災した人々や企業、団体、組織のために行動しなければならないのか。そのために何をしなければならないかが見えてきた。だからこのような行動ができた」と語っていました。
他の銀行の職員はこの時、自分の家も水に浸かり大変で、組織としても拠点を立て直すのに精一杯で、一番に銀行マンとしての存在目的を考えられなかったようでした。もちろんハンコックバンクでも多くの職員が被災し、自分の生活もままならなかったにも関わらず、彼らは泥水につかったATMを壊して地域住民に必要なお金を行き渡らせることができたのです。
この違いはいったい何だったのでしょうか?
パーパス経営を成功させたヒント
パーパス経営を成功させるためのヒントを、この銀行の事例をもとに心理学の見地からお伝えしたいと思います。
銀行の職員が本気になって自分が被災しても社会のために働けたのは、組織の目的が “自分事” にまで落とし込まれていたからなのです。彼らは、「自分たちが行うことは、お客様だけではなく、自分の家族や親類、友達を救うことにもなる」と理解していたのです。
そのきっかけは、経営者のこのような声掛けだったようでした。
「銀行員とその家族、そして地域住民のために、自分たちはこの銀行が掲げている目的を果たそう。」
いくら「環境や社会に良い」と謳っても、組織に従事している人の喜びなくしては達成出来ないことをこの経営者は知っていました。職員も自分たちのためにもなるとしっかり自分事として理解できたからこそ、困難な状況にあっても力強く動けたのだと思います。
自発的に行動を起こすためには
人の心が動き、行動を自発的に起こせるようになる心理学的なポイントの一つとしては、目的を達成したらどのように自分もよい状態になれるかが想像できるかどうかです。
このことを説明するため、また別の事例をご紹介します。1980年代のアメリカで実際にあった話で、心理学部の教科書にもなっているお話です。
ベトナム戦争に行った兵士が戦場の悲惨な出来事で、こころの病を患い、麻薬やアルコールに依存して仕事に就くことができなかった時代、アメリカ政府は依存症の病院を全米に作りました。その時、病院ができても苦しんでいる本人は病院にはなかなか行かず、労働人口が減少してアメリカ政府も困っていた時に、病院に自らの意志で行こうとする人が出てきました。
自ら病院に来た人は、第三者のサポートで考え方を変えることができた人たちでした。
第三者のサポートが入る前は「病院に行っても治らないし行くのが面倒」と思い込んでいた人が、心理カウンセリングで家族との団らんを維持するためには自分が稼がないと食べ物が買えない、だから働かなければいけなくて、そのためには病院に行って依存症を治そうという考え方に変わり、病院に行きたいという気持ちになったようでした。
自発的に行動化できたポイントは、何のために自分は動くのか、その目的と理由が自分事として落とし込まれていたということです。もっと言えば、家族団らんがすごく気分が良いものであると再認識もしくは思い出せ、その時の気分のよい感情を脳が欲して、それを得るための行為として最終的に病院に行けるようになったのです。
パーパス経営必要な要素
社員が困難にに向きあっても自ら行動できるようにする “パーパス経営” を成功させるためには、目的や理由がはっきりしているだけでは足りません。これをしたら自分はどんなに気分が良いかを想像する能力、もしくは自分自身が気分が良くなった経験とのリンクが必要になります。
想像することができない状況であれば、誰かがその行為の良さを語り、本人の想像力を引き出したり共感させたりする必要があります。それにより行動が自発的になり主体性が出てくるのです。
社会的・環境的に良いと思える目的に向かい、社員が主体的に行動を起こせる組織を作る手法を知ることは、パーパス経営を成功させる方法の一つです。
さらに大切なことは、パーパス経営を行っている会社のサービスを受けるお客様が、環境や社会に良いことをしている良いサービスだと認識できることですね。
ランスタッド クライアントソリューション 組織開発は、「産業組織心理学や臨床心理学」の専門的なアプローチで、オリジナルの研修やアドバイスを行いながら、従業員の方々のパワーアップと組織活性化で、産業競争力を高めます。お客様の課題に合わせてオーダーメイドの研修や様々なアドバイスを行いながら、ランスタッドが提供する様々なサービスを提供いたします。 ▼組織開発に関して
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[著者プロフィール]
フィンランドのLyhytterapiainstituuttiにてヨーロッパを中心に世界25か国に広まりを見せる組織活性化技法の指導者資格を取得。現在はオランダに本社のある世界最大級の人材会社ランスタッド株式会社のクライアントソリューション 組織開発ディレクターとして国家機関、地方自治体、企業、病院などで産業競争力を高める人材育成や組織改革の技法を広めている。
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「産業組織心理学によるこれからのリーダーシップ ドイツ流リーダーシップ論ニューオーソリティ」 (日科技連出版より 2020年10月31日 監訳出版)
- 「チームを改善したいリーダー・推進者のための心の好循環サイクル 仲間を支え個を活かす力」 (日科技連出版社・ベトナム社会主義共和国 情報通信省 情報通信出版局より翻訳出版)
- 「Reteaming:12 STEPS TO A HAPPY WORKPLACE」 (インドネシアGramedia社・出版協力)
- 「職場のメンタルヘルス対策の実務」 (民事法研究会・編・著)
- 「強いチームをつくる技術」 (ダイヤモンド社・出版協力)
- 「ココロを癒せば会社は伸びる」 (ダイヤモンド社・著書)
- 「ココロノマド」 (朝日新聞社・著書)
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