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【ランスタッドCHROが語る未来型組織のつくり方】 第4回 誰が社員を育成するのか
「今は変化の時代だ」といくら言われていても、ここ半年の変化を予測できた人はいなかったのではないでしょうか。
デジタル化という方向性は大きく変わらなくても、そのスピードは新型コロナウイルスの影響で劇的に早まりました。環境が変化すれば当然社員が持つスキルやノウハウ、仕事のやり方を変えることが必要*1です。
実は当社でも、これまでどちらかというと派遣社員や求職者という人材を確保することに向いていた営業活動の軸足を、クライアント企業のニーズをどう掘り起こすかに移したため、新しい知識や考え方を見につけるべく全社を挙げてトレーニングをしているところです。
ただ、このような戦略の転換を後追いするような人材育成の方法ではビジネスの変化に間に合わないという悩みもよく聞きます。そこで今回は、多くの企業で問題となっている社員のスキルとビジネスとのギャップについて考えてみたいと思います。
(このシリーズはランスタッドのHRヘッドが経営の視点から人事の未来を語るコラムです。ビジネスの環境変化や社員のニーズをどのように組織開発に反映し、またコンフリクトやジレンマをどのように乗り越えているか、リアルタイムの試行錯誤をお伝えします。)
会社主導の限界
これまでは経営戦略のスパンが比較的長かったため、その実行に必要なスキルを会社主導で社員に習得させるという流れでした。だからこそ即戦力にならなくてもポテンシャルの高い人材を新卒で採用して育成していたわけです。しかしながら専門的なスキルが多様化し陳腐化のスピードが速くなるにつれて、このような方法では必要なスキルを持つ人材をタイムリーに確保できなくなりました。だからといってやみくもに外部採用をするにはコストがかかりますし、既存の社員の人材活用という面でも効率的とは言えません。
また、社員の資格取得や自己啓発に手当や補助金を出すのは一般的ですが、これも専門化や多様化、さらに事業環境の変化によって一律的な基準を設けることも難しくなってきています。今後そのスキルがどのように役立つか(あるいは役立たないか)は、もはや会社としては判断できないからです。
自律的なスキルアップをうながす仕組み
結局最も効率的なのは、社員自身がこれまでのキャリアや社内外の状況変化を読み取って自分に必要なスキルを決め、それを習得することです。さらに習得したスキルを活かすためには、社員にキャリアの選択もさせる必要があります。つまり異動や昇進は社内公募などで行い、会社としては情報提供や(断る権利のついた)打診にとどめることで、社員自身が次のキャリアを選ぶ仕組みです。もちろんそのポジションの職務を明確化することになるため、このシリーズの第2回でも触れたジョブ型雇用に近づくことになります。
ここで重要なのは、社員が自律的にスキルやキャリアを重ねる意識と、学び続ける姿勢とを持つことです。これまで会社が一方的に与えてきたスキル習得やキャリアの機会(あるいは義務)について、今後は自分で考えなければいけないという変化を受け入れることは、多くの社員にとって簡単なことではありません。実際には短期的な目標と長期的なキャリアの方向性を基に、上司と対話をしながら必要なスキルを考えていくことになると思います。
人生100年時代の人材育成
これからは「これを身に着けておけば生涯安泰だ」というようなスキルはほとんどなくなります。また何歳まで働くかも分からない時代に「学ぶことを止める」のは会社にとっても社員自身にとっても非常にリスクが高いことだと言えるでしょう。そのような意味では資格取得の補助なども、内容にかかわらず「学び続けること」を奨励するような制度になっていくのかもしれません。
オンラインでの学習機会は無限にあり、さらにはコミュニティ活動、他社でのインターンシップや副業も重要な学びの機会です。そのような機会の情報を提供すると同時に、社員が自分のスキルを活かすキャリアを選べる人事制度にすることが、今後会社が担う役割になるでしょう。また、自社に必要なスキルやマインドセットを持つ人が魅力的だと感じる制度や風土を作っていくことも重要です。
何歳になっても自分のスキルを活かす場所を見つけられる人は、決して会社の「お荷物」になることはなく、会社の垣根を越えて必要とされる場所を見つけることができます。このような社員の自律性が、実は現在多くの人事担当者が頭を悩ませている定年延長や再雇用制度の課題についても解決できる唯一の方法なのです。
【筆者プロフィール】
金子 久子(かねこ ひさこ)
ランスタッド株式会社 人事本部 取締役 兼 最高人事責任者(CHRO)