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企業に求められる「フリーランス新法」への理解と対応 ~ニーズに応じた働き方を柔軟に選択できる環境整備~
知識や能力を生かして組織に属さず個人で事業を行うフリーランス。この働き方が多くの分野で増えていますが、発注側である企業との間で交渉力や情報収集力に差があり、不当な契約などトラブルに巻き込まれるケースが表面化しています。
この問題を打開するため、2023年4月に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス新法)が成立。来年2024年10月までに運用ルールとなる政省令を定めて施行されます。
実はこの新法、大半が発注企業側への規制強化で、フリーランスが不利にならないための内容になっています。新法を取り巻く背景や企業が留意すべきポイントについて、「Q&A」方式を交えながらわかりやすく解説します。
目次 |
フリーランスの実態
総務省の2022年就業構造基本調査によると、有業者のうち本業がフリーランスの人は男性が約146万人、女性が約63万人の計209万人。有業者に占める比率は男性4.0%、女性2.1%で計3.1%。年齢別では「45~49歳」が約24.5万人で最も多く、「50~54歳」が24.4万人で続きます。なお、内閣官房の調査では、副業のみフリーランスとして働く人も含めると約462万人にのぼると推計しています。
また、就業構造基本調査でフリーランスを選んだ理由は「専門的な技能などを生かせるから」が32.5%で最も多く、「自分に都合の良い時間に働きたいから」が29.5%。就業状況は、年間就業日数が200日以上のうち、週間就業時間が「40~49時間」の割合が22.5%で最も高くなっています。
新法成立までの動きと背景
組織に縛られない働き方としてフリーランスは、古くからメディアやクリエイティブ業など一定の業種で存在しており、兼業・副業でフリーランス業務をこなす人も多かったことから、大きな社会問題にはなりませんでした。
しかし、政府が「多様な働き方」の一環として兼業・副業を推進するに従い、職種の拡大とそれに伴うトラブルも増加。このため、2017年ごろから経済産業省、公正取引委員会、厚生労働省、内閣府の関連省庁で、保護法制に向けた個別検討を進めてきました。
しかし、フリーランスを保護する法律としては従来、労働契約法、下請法、独占禁止法などがあるものの、労契法は「雇用関係」が前提であり、下請法は資本金1000万円以下の発注企業は規制の対象外、独禁法は「労働者保護」の規定がないなど、いずれも満たしていませんでした。
このため、官邸を中心にした未来投資会議で2020年から、フリーランスの環境整備の検討に入り、2021年3月には「ガイドライン」を公開したものの、強制力がないことから、新法制定の機運が強まっていたのです。
適用対象となる「フリーランス」と「発注者」とは
● フリーランス:業務委託の相手方である事業者で従業員を使用しないもの
● 発注事業者:フリーランスに業務を委託する事業者で従業員を使用するもの
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※法律上、フリーランスは「特定受託事業者」、発注事業者は「特定業務委託事業者」と表記されますが、この解説コラムでは伝わりやすさを優先して「フリーランス」、「発注企業」と表現します。
発注企業の留意事項(Q&A)
「Q&A」方式を交えながらわかりやすく解説します。
<業務内容などを書面やメールで明示>
Q:発注企業は給付の内容や報酬の額などを明示しなければならないと定めていますが、「明示」はどのように行うのですか。 A:「給付の内容(委託する業務の内容)」、「報酬の額」、「支払期日」をはじめ、公正取引委員会規則で定めるその他の事項の明示を義務付けています。 |
明示の方法は、発注企業とフリーランス双方の利便性向上の観点から、下記のいずれかを発注企業が選択できます。
<報酬の支払いは"製品"を受け取った日から60日以内>
Q:報酬の支払期日が60日以内と定められましたが、規定が設けられた理由は何ですか。 A:フリーランスと発注企業との間の交渉力の差によって、発注企業が報酬の支払期日を不当に遅く設定する懸念があり、フリーランスの利益を保護する必要から設けられました。 |
注1) 許容される電磁的方法の要件は公正取引委員会規則で定めます
また、発注企業が他の者から受けた業務委託をフリーランスに再委託する場合は、他の者から発注企業への報酬の支払期日から起算して30日以内に支払期日を定め、報酬を支払わなければなりません。
<報酬の大幅減額や成果物の返品など7つの禁止行為>
Q:発注企業がしてはならない行為が定められていますが、具体的にどのような行為が禁止されていますか。
A:以下の7つの行為が禁止されています。 |
(2)「報酬の減額」
(3)「返品」
(4)「買いたたき」
(5)「購入・利用強制」
(6)「不当な経済上の利益の提供要請」
(7)「不当な給付内容の変更、やり直し」
<虚偽の募集広告の禁止>
Q:広告などでフリーランスの募集に関する情報を提供する際に、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示の禁止が盛り込まれましたが、どのような表示が違反になりますか。
A:広告などに掲載されたフリーランスの募集情報と実際の取引条件が異なることで、その募集情報を見て申し込んだフリーランスと発注企業との間で取引条件を巡るトラブルが発生したり、フリーランスがより希望に沿った別の業務を受注する機会を失ってしまったりするのを防止する狙いがあります。 |
違反することになる表示として、例えば下記などが想定されます。
(1)意図的に実際の報酬額よりも高い額を表示
(2)実際に募集を行う企業と別の企業の名前で募集
(3) 報酬額の表示が一例であるにもかかわらず、その旨を記載せず、当
(4)業務に用いるパソコンや専門の機材など、フリーランス側が
(5)既に募集を終了しているにもかかわらず、削除せず表示し続ける
<出産、育児、介護などの両立に対する配慮>
Q:フリーランスが育児や介護などと両立して業務が行えるよう、その申し出に応じて必要な配慮をしなければならないと定められていますが、規定の理由や配慮の具体的な例を知りたい。
A: フリーランスが育児介護などと両立しながら、その能力を発揮しつつ業務を継続できる環境整備を目的に設けました。
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必要な配慮の内容として「妊婦検診を受診するための時間を確保できるようにしたり、就業時間を短縮したりする」「育児や介護などと両立可能な就業日・時間としたり、オンラインで業務を行うことができるようにしたりする」 といった対応が想定されます。
<各種ハラスメントの相談対応>
Q:フリーランスへのハラスメント行為に関する相談対応など必要な体制整備の措置を講じなければならないと定められていますが、ハラスメント対策の具体的な内容はどのようなものか。 A:ハラスメント対策のための措置として、下記を想定しています。 |
(2)ハラスメントを受けた者からの相談に適切に対応するために必要な体制の整備(対応例:相談担当者を定める、外部機関に相談対応を委託)
(3)ハラスメントが発生した場合の事後の迅速かつ適切な対応(対応例:事案の事実関係の把握、被害者に対する配慮措置)
<解除などの予告>
Q:継続的な業務委託を中途解除する場合は、原則として中途解除日の30日前までにフリーランスに対し予告しなければならないと定められていますが、即時解除が認められるのはどのような場合ですか。 A:一定期間継続する取り引きにおいて、発注事業者からの契約の中途解除をフリーランスに予め知らせ、フリーランスが次の取り引きに円滑に移行できるようにすることを目的としています。 |
発注企業が契約を中途解除したり更新しないとする事由は様々であることから、30日前までの予告を不要とする例外的なケースを法施行までに厚生労働省令で定める予定です。例えば、天災によって業務委託の実施が困難になった場合や発注企業の上流の発注者によるプロジェクトの突然キャンセルのケースのほか、フリーランスに契約不履行や不適切な行為などが想定されます。
違反企業への対応と罰則
発注企業が新法の義務や配慮に違反すると、所管する公正取引委員会や中小企業庁長官、厚生労働大臣から助言や指導、報告徴収、立ち入り検査などが実施されます。さらに、命令違反や検査拒否などの行為があれば、50万円以下の罰金を科せられる場合もあります。
新法における罰金には「法人両罰規定」です。法人に所属する役員や従業員らが業務に関連して違法な行為をした場合、個人だけでなく法人も併せて罰せられます。
まとめ
フリーランスの保護と環境整備の法体制ができたとはいえ、残された課題も多くあります。法的には雇用されている「労働者」とはみなされないことから、労働基準法などの適用を受けられず、最低賃金も適用されません。労働時間、休日、休憩などについても規制がなく、発注者側の“注文内容”次第では過酷な労働を強いられる懸念も消えません。
「時間に縛られない、自由な働き方」という意味では高度プロフェッショナル制度や裁量労働制もありますが、対象は被雇用に限られるうえ、かなり手厚い法的保護を伴っています。今回の新法は改善に向けた「入り口」であり、フリーランスが安心して働けるセーフティーネット(安全網)の充実が大きな課題となっています。
一方で、過度な規制になると、企業の“発注控え”が起きて、フリーランス側にハネ返る可能性もあり、どこまで規制の網を掛けるか、2024年春頃に示す政省令の内容が今後の焦点となりそうです。