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ワークライフ・ラボ:「E5リーダーシップ論」の核心を伝授 P・デュプイさん、多様な経歴を交えて語る
今から30年前の1990年、大阪市西成区の公園ベンチに、1人のカナダ人青年が現れました。初来日したポール・デュプイさん、現在のランスタッド日本法人の会長兼CEOです。
以来、日本と切っても切れない関係を結び、経験で培ったリーダーシップで組織をまとめ上げています。6月7日、豊かな海外経験を通じて構築した「E5リーダーシップの旅」について、ナビゲーターの佐藤博樹東大名誉教授と縦横に語ってもらいました。
まず、デュプイさんが自身の生い立ちを語りました。
私はカナダ出身ですが、カナダといえばアイスホッケー。私も4歳から始めましたが、チームプレーの大切さや勝敗に掛ける努力を学びました。12歳から3年間は新聞配達をしましたが、そこでは「約束を守る」こと、大学時代の4年間はクライスラーの工場で溶接工としても働き、「改善」の重要性を学びました。
これらは幼少から青春時代の経験ですが、どれも今の自分に生きています。
そして、1990年、憧れの日本の地を踏みました。空手が好きだったことと、ネットで大阪・道頓堀の写真を見たのがきっかけでした。持っていたお金は3万2000円で、佂ヶ崎の公園のベンチで最初の夜を過ごしました。
日本には半年ほどの滞在予定でしたが、それが5年の長期に及んでしまいました。大阪の「カナダ人協会」を通じて活動していたご縁で、プロ野球の阪神戦で始球式に出たこともあります。
その後、カナダに戻って大学院で学びながら高級ホテルのドアマンとして稼ぎ、そこで「顧客満足度」を勉強しました。98年に再来日し、仕事の関係でシンガポールにも住みました。
2013年にランスタッドに入社し、17年から4年間はインドに赴任。インド市場の開拓に成功し、そこでは「人はどう生きるのか」という人生の意味を大いに考えました。21年に再び来日して日本法人のトップに就任しました。
人生の半分以上は日本にいる計算になりますが、これまでの経験が私のリーダーシップ論に生かされているのは間違いありません。
(編集部の声 デュプイさんの行動力は並ではありません。つい最近も四国へ「お遍路」に出掛け、これで88カ所中59カ所を巡ったそうです。達者な日本語でさりげなくお遍路を語る“カナダ人”のデュプイさんには、コスモポリタンの香りが漂います)
そんな私のリーダーシップ論に興味を持ってくれた人が、作家で友人の本田健さんでした。
本田さんの勧めで21年7月に『THE E5 MOVEMENT』(英語版)を出版しました。そのエッセンスとなるのが「E5」(五つのE)です。「E5」とはEnvision(構想する)、Express(伝える)、Excite(ワクワクさせる)、Enable(応援する)、Execute(実現する)の5つの要素で、これらの要素を上手に組み合わせることで、リーダーはビジョンを創造し、チームを鼓舞し、ムーブメント(運動、流れ)を引き起こすことができます。
まず「Envision」ですが、これがなぜ大切かと言うと、「Purpose(目的)」を達成させるための「Why(なぜ?)」から始まるからです。「When(いつ?)」や「How(どのように?)」ではないのです。日系企業には100年以上の歴史を持つ企業が多いのですが、そうした企業には目的をしっかり持ち続けている企業が多いです。
そして、この目的を社員たちに「Express」、伝えなければなりません。昔は伝える手段が限られていましたが、現代はSNSもあって多様な伝達手段があります。私個人は、じかに会って伝える“昭和的な”方法が好きですが、組織が大きくてなかなかそうもいきません(苦笑い)。
目的をきちんと伝えると「Excite」、すなわちワクワクする、参加したい気持ちになる、やる気が出てきます。もっとも、現代は「つながる」ことがむずかしい時代ですから、いろいろなコミュニケーション手段を使わないとExciteはむずかしい。
そして、「Enable」は参加したい、実現したいと思う気持ちを応援する、実力を出せる環境を作ることです。こうした四つのEを経てムーブメントを「Execute」するわけです。このプロセスを考えると、「Why」から始めれば「How」なんか簡単だということがわかるでしょう。
今秋には日本語版も出版へ
ここからは、佐藤さんとのやり取りです。
佐藤さん:デュプイさんは世界のあちこちで勉強してきたんですね。
デュプイさん: 日本風に言うと、「ご縁」が多かったから、ここまでやって来られた。その意味では「感謝」を忘れたこともありません。
佐藤さん:「Excite」や「Enable」のやり方は国による違い、あるいは国を超えた共通点というものがあるんでしょうか。
デュプイさん:そうですね、8割がオーダー(秩序)、2割が文化といったところでしょうか。日本の場合はコンセンサス(意見の一致)や根回しが重視されますが、私がいたインドではみなさん、自分の考えを遠慮なく言います。このため、日本では一度目的を決めてしまえば、一丸となって前進しますが、インドの場合はなかなかそう行きません。私の場合は「E5」を粘り強く実践して成功しました。
佐藤さん:日本でもようやく「学び」の重要性が認識されてきましたが、部下が「学び」を続けるようにするにはどうすればいいですか。
デュプイさん:まず、経営者や管理職自らが始めるここと、有言実行です。ランスタッドでも、リーダーたちにはSNSに顔を出したり、いろいろな「ランチ会」に出るようにしてもらっています。
佐藤さん:「E5」の日本語翻訳版はいつごろ出版されますか。
デュプイさん:すでに翻訳はほぼ終えて、カバー作りに取りかかっています。今秋には日本語版が出る予定です。ご期待ください。
(編集部の声 学者やコンサルタントらとは一味違う、体験的リーダーシップ論だけに、ビジネスパーソンの関心は高く、翻訳版が待たれますね。すっかり国際競争力を落としてしまった日系企業には復活のヒント満載かも)
第十回ワークライフ・ラボ 登壇者
Paul Dupuis(ポール・デュプイ)
取材・編集 アドバンスニュース