- 総合人材サービス ランスタッドTOP
- 法人向けHRブログ workforce Biz
- 「健康経営」の極意はトップのやる気と本気 「社員還元で軌道に」SCSKの小林さん
「健康経営」の極意はトップのやる気と本気 「社員還元で軌道に」SCSKの小林さん
残業削減、禁煙、メタボ予防――。先進企業ならこぞって取り組んでいる課題ではありますが、残念ながらきちんと成果を出している企業はまだ少ないようです。
そこで、2月14日の第7回ワークライフ・ラボでは、システム開発大手のSCSKから小林良成人事・総務本部長をお招きして、同社の働き方改革や健康経営について貴重な実現談をうかがいました。
まず、小林さんのお話をまとめると、次のようになります。
当社は2011年に2社が合併をして新会社としてスタートするにあたり、経営の基本取り組みとして、「健康的に働く」ことに注力しました。13年にスタートしたこの取り組みを「スマートワーク・チャレンジ」と呼んで、残業月20時間未満と有給休暇の年20日取得を目標にしました。長時間労働を是正して有休を取りやすい環境を作り、そこで浮いた残業代も社員に全額還元しました。
15年には画一的な働き方から柔軟な働き方をめざす「どこでもWORK」を始めました。月に2~3回の在宅勤務やサテライト勤務を推奨し、出社時は空いている席で仕事ができるフレックス・アドレスやペーパーレス会議を推進しました。20年からの新型コロナ対策での在宅勤務移行がスムーズにできたのも、すでに多くの社員が経験済みだったからだと思います。
やはり15年から心身ともに健康な職場づくりに向けて「健康わくわくマイレージ」を導入しました。健康に良い行動習慣と健診結果に対するインセンティブを高めるため、ポイント制を採用しました。就業規則に「健康経営」の理念を明記して、役員は自身の健康管理と組織メンバーの取り組みにコミットする体制を構築しました。これらの取り組みが奏功して、生活習慣の改善が進むなど健康経営が全社的に浸透していきました。
ところが、コロナ禍でテレワークが長引いたことから、22年になると睡眠や朝食などの生活習慣が乱れ、メタボ予備軍が増えるなど、健診結果の後退がみられるようになっています。自宅勤務に伴う不安の増大でストレスがたまったり、在宅勤務の環境から腰痛や肩こりでパフォーマンスが上がらない社員が増えるなど、改善しなければならない事柄が増えていることが課題になっています。
(編集部の声: SCSKは住商情報システムとCSKが合併してできたシステム開発会社。現在、資本金211億円、連結売上高4141億円、従業員1万4000人を超える東証1部上場企業です(いずれも22年3月期)。残業を減らしてもコロナ下でも業績を伸ばしており、今をときめく今田美桜さんのCМが話題になりましたね)。
ここから、ナビゲーターの佐藤博樹さんとのやり取りです。
佐藤さん :早い取り組みでしたね。でも、「有休取って」と言われた社員の皆さんは、当初、かなりとまどったのではありませんか。また、残業を減らしてもそれが社員に還元されなければメリットを感じませんよね。
小林さん : 有休は家族が病気になったりした時のために貯めておくという意識が強かったんですが、それではリフレッシュにならないので、そんな時のためのバックアップ休暇制度を別に設けて対応しました。今は95%ぐらいの社員が100%取得しています。
残業代については最初から利益に計上することはしない方針でした。当初は浮いた分を「特別ボーナス」という形で支給していましたが、制度が安定してきてからは「固定残業代」として、残業をやるやらないにかかわらず支給しています。
佐藤さん :会社の本気度が伝わってきますね。ソフトウエアの会社は長時間労働のイメージが強いですが、仕事の仕方も変えたんですか。
小林さん : 「残業を減らそう」と言うだけではなかなか減らないし、業務の効率化のために標準化を図りました。もともと合併した直後だったので、両社の違う仕事の仕方を標準化する必要があったんです。その過程で、問題や不具合が発生すると手戻りで残業が一気に増えるという実態があったので、仕事のチェックポイントを設ける体制も作りました。
佐藤さん :なるほど。ここで参加者の皆さんのアンケートをしてみましょうか。①あなたの会社では過去5年の間に働き方改革を実施しましたか②実施した場合、具体的にどんな内容ですか、の2点です。
へえ、81%の会社が実施していますね。その中身は「残業の上限規制」が39%、「定時退社日の設定」が32%、「◯時以降の残業禁止」が18%、「残業代の社員還元」も5%ありますね。できるところからやっている。そんな感じですね。
そこで小林さん、働き方改革を進めるには取引先の理解も必須ですよね。どうやったんですか。
小林さん : トップが書いた手紙を携えて役員が説明に回りました。システム開発を手掛けるパートナー企業には「一緒に健康経営を進めましょう」と説得にあたりました。できるだけ上の層、経営に近い方を相手に理解を得るように努めたのが奏功しましたね。その当時、政府の働き方改革の議論が進んでいたのもフォローになりました。
佐藤さん :健康経営の動機付けはどのように?。
小林さん : 「1日1万歩」「朝食必須」などを目標に掲げまして、日々の取り組みをデータとしてわかるようにしました。ただ、それだけではなかなか進まないので、年間1億円の予算を用意して、目標達成した人で分配しました。全員が達成すると1人2万円ぐらいになる計算ですが、初回は参加者が少なく、多い人で10万円ほどにもなりました。
役員は率先垂範し部下に参加を促しますが、自身はもらえず、自身と組織の目標が未達成の場合は“罰金”を取られます。気の毒ですが、少しえげつないですね(笑)。
健康リテラシーを高めるために、社内セミナーも幾つか設けています。「健康マスター検定」の受験を奨励して、合格者には報奨金を出す制度も設けました。
就活にも影響、人材の質が上がった
佐藤さん :導入時に“抵抗勢力”はなかったんですか。
小林さん : ありました。人事にいる私自身がそうでした(笑)。しかし、トップが「業績と健康の二者択一となれば健康を取る。社員の健康を害してまで業績を上げる必要はない」と断言してくれ、これが大きなメッセージになりました。以下、役員、部長、課長と徐々に賛同が広がりましたが、全社的に共有できるようになるには2~3年掛かりました。最近は就活の学生さんの質も上がってきて、人材獲得の激しい業界にあって大きなメリットになっています。
佐藤さん :働きやすさ、やりがい、心身の健康などに早くから取り組んできましたが、今課題は何ですか。
小林さん : 健康経営も社員のやりがいや意欲が高まって「完成」ですから、これからはエンゲージメントの向上に本気で取り組むつもりです。
(編集部の声: とにかくやることが徹底している、という感じでした。そう言うと必ずといっていいほど「SCSKのような一流企業だからできるんだよ」という感想が出てきますが、「それを言っちゃあ、おしまい」。できることからコツコツと、ではないでしょうか)。
第七回ワークライフ・ラボ 登壇者
小林 良成
取材・編集 アドバンスニュース