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DXで採用・定着は成功するのか。鍵となるのは人によるケア
人手不足が深刻化する昨今。DXによる人材活用は、その状況を打破する足掛かりとなるのでしょうか。
世界最大級の人材サービス会社であるランスタッド株式会社でDXを推進する、マーケティング&ブランドコミュニケーション本部DX部ディレクター 中村雄一氏に話を伺いました。
働き方の変化と人材会社の存在意義
――デジタル化が進み、働き方・お仕事の探し方も変化しています
最近ではスマホで副業などのお仕事情報が見つけられて、簡単にマッチできるマッチングアプリのようなツールがあります。今後はおそらくそういったものが、人材会社のライバルになってきてくるのでしょう。
ここ数年でそういった市場の拡大が顕著に見えてきているので、いつまでも大手人材会社という地位にあぐらをかいていると、新しい市場にガサッとクライアント企業様や求職者が流れていってしまうのではないかという脅威を感じています。
――人材会社の存在意義はどこにあるのでしょうか
人材業界には、お仕事をくださるクライアント企業様と求職者・スタッフ様という、 2つのお客様がいます。その2軸で考え、取り組んでいく必要がある。
採用や定着に課題を抱えているクライアント企業様にソリューションを提供できるのも、求職者やスタッフ様のキャリアを長期的にサポートしていけるのも、人材会社だけ。マッチングアプリにはそれはできません。
この業界は俗人化している部分も多く、マンパワーで何とかするという昔ながらの気質がまだまだあります。将来的には人材会社もDXにより、プラットフォームビジネスのような形態になっていくかもしれません。
でもそれはクライアント企業と求職者のニーズがより可視化され、スピーディーにマッチできるようになるということ。自動化を目指すということではありません。
――自動化しないことに意義があるのですね
やっぱり人が介在するところに、すごく価値があると思うんですよね。他の大手の人材会社も色々とDXや自動化を進めていると思いますが、ランスタッドではあえてそのラインに人のタッチを入れています。たとえば新規のスタッフ登録でも、予約はチャットボットでも最終的には人が面談します。
自動化にはもちろんメリットがあります。対応がスピーディーになり、人件費も削減できます。人と話すよりボットとのやり取りの方が、煩わしさがなくて良いという方もいるでしょう。
だけどやっぱり人を頼りにしたいとか、人の温かさに触れたいと思っている求職者の方やクライアント企業様は、こちらを選んでくれるんじゃないかと考えています。それが、グローバルの方針として「Tech & Touch」を掲げているランスタッドが提供している付加価値です。
人材が定着するための4つの要素
――DXの推進で何を目指していますか
DXする理由はいくつかあると思いますが、私がまず考えるのは社内のオペレーションの改善と生産性向上です。
ロボットがやればいいことはRPAにやらせる。人にしかできない部分とデジタル化できる部分の棲み分けが必要になります。大事なのは、DXにより空いたリソースを何に使うか。お客様が求めているのは、コミュニケーションのつながりやすさやスピードです。そこに人のリソースを割くことが非常に重要だと思っています。
もちろん労働人口の減少で、お客様である求職者だけでなく、この先ランスタッドの社内の人材も優秀な方を採用しづらくなっていくでしょう。そういった意味でも、業務を効率化して生産性を向上させる必要があり、そんなに時間的な余裕はないと思っています。
――ヒューマンタッチを厚くすることがDXの目的ということですね
ランスタッドとアムステルダム大学の共同研究により、人材の定着には4つの要素が必要ということがわかりました。その4つとは「仕事の適正」「収入・評価」「将来性」そして「関わり」、“ケア”です。
定期的に面談をして将来のキャリアプランを相談したり、お仕事は順調か、何か困っていることはないかと声掛けをしたりという“ケア”は、AIにはできないこと。大事なのは人による関わりで、DXはそれをやるためのツールに過ぎません。
DXの導入と浸透が他の人材会社との違いを生む
――ケアを充実させるためにどんな施策を行っていますか
ツールとしては、派遣スタッフ様とのコミュニケーションにLINEを使っています。
そういう人材会社はいくつかあると思いますが、人が個別にチャット対応している会社はおそらく他にないと思います。大手では聞いたことがありません。電話やメールではなく、スマホに入っているLINEでコミュニケーションできるというのは、派遣スタッフの皆様からも好評です。
お問い合わせなどに対応するチャットボットは、社内向けも含め5つ導入しています。求職者との面談のリードタイム短縮や、派遣スタッフの皆様からのお問い合わせ対応時間短縮につながっています。でもツールを導入するだけならすぐ真似できてしまうので、他の人材会社もすぐに追いついてくることでしょう。ただ、そこに人が介在し個別にケアできるというのは、他社にはなかなか真似できないと思います。
――LINEでのチャット対応はどのように社内に浸透させましたか?
これはけっこう大変で、トップダウンとボトムアップの両方から対策を講じました。
トップからは当然「LINEを使っていくんだ」というメッセージを出してもらいます。ボトムアップの方は、こまめにトレーニングを行い、支店などで良い事例があれば事例発表会をやってどんどん共有して伝播させていく。今週もセッションを4つくらい予定していますが、こういう活動をずっと続けています。DXチームに問い合わせや質問があればすぐに返せる体制も作っています。開発にかける時間よりも、むしろこの活動に時間を割いているくらいですね。
こういった活動の成果で、ランスタッドでは社員のマインドセットができていますし、全国的に均一化されたサービスになっています。反対にこれをやらないと他社との差別化はできません。LINEの公式アカウントがある人材会社はいくらでもあると思いますが、求職者からのメッセージにきちんと人が返事をするというのは、大手になればなるほど難しい対応です。
――地道な活動が必要になるのですね
やっぱり何かをスタートしてうまく回転しはじめるまでは、相当なエネルギーを使うものだと思っています。
何かのツールを導入してすぐ簡単に上手くいったということは、ランスタッド内ではほとんどないですね。ツール入れて何かをはじめるというのは、それなりの覚悟を持って臨まないといけない。「このツールを入れたら幸せになりそう」という幻想を抱きがちですが、入れただけで楽になるということはほぼ無いと思っています。
DXの推進で人材会社ができること
――DXの推進でどのような未来を描いていますか
ランスタッドでは、「people」「growth」「promise」という3つの柱を打ち出しています。「人」「成長」「約束」を大事にしていこうと。DXは、あくまでそれを実現させるための手段です。
色々なことをデジタル化・自動化することで、ランスタッドのコンサルタントが派遣スタッフの皆様のフォローや面談、クライアント企業様との接点を増やしていく。そこに時間をかけ質を上げていける環境を目指しています。
ランスタッドでは、派遣スタッフの皆様に安心して長く働いていただけるように、「キャリアサポート」や「スピーディーな対応」など、5つのケアプログラムをご用意しています。
派遣スタッフ様が新しい職場に行ってみたら、引き継ぎ資料もマニュアルも無いというケースはよくあるんですよね。派遣スタッフとして働きはじめる初日や最初の一週間は、しっかりとケアしていかないと短期で辞めてしまう方もいますし、不安や悩みを抱えながら何カ月も働かなきゃいけないという状況は望ましくありません。
受け入れ体制を整えるよう派遣先となる企業様と一緒に取り組んだり、何か困っていることはないかと派遣スタッフ様に声掛けをしたり。派遣スタッフ様とつながり「Touch」を持ち、相談しやすい関係性をつくり、実際に相談や質問があればすぐに答える。そのために「Tech.」を駆使していく。それが、人材が枯渇していくこれからの時代に欠かせないDXだと考えています。
仮にランスタッドとの契約が終了して一度お仕事を離れた派遣スタッフ様でも、またいつかランスタッドに戻ってきていただきたいんです。「ランスタッドで働いていた時は働きやすかった」「ランスタッドってケアしてくれるよね」と思っていただき、「他の派遣会社に行ってみたけど、やっぱりもう一度ランスタッドで働きたい」と思っていただけるように。DXで目指しているのは、そうやって選んでいただき長く働いていただける人材会社です。
取材:フリーライター 川村千里