こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の土岐と申します。社労士として、企業の皆様から寄せられる人事・労務管理に関する様々なご相談に対応させていただいております。本コラムでは、労働・社会保険諸法令および人事労務管理について、日頃の業務に携わる中で悩ましい点や疑問に感じる点などについて、社労士の視点から、法令上の観点を織り交ぜながら実務上考えられる対応等を述べさせていただきます。
さて今回は、前回に引き続き労働者災害補償保険(以下「労災保険」)の基礎知識(業務災害と通勤災害)として、通勤災害および主な保険給付の種類と概要について採り上げます。
Index |
|
従業員が業務中や通勤途中にけがをした、あるいは病気になったという場面は、どの企業においても起こりうることです。その際、従業員や会社の担当者の方々が気になるのが、「労災保険の適用となるかどうか」という点ではないでしょうか。
この点、労災保険が適用されるかどうかは法令の要件に照らして事実関係を確認する必要があり、最終的には事業場を管轄する労働基準監督署が判断することになります。
通勤災害とは、通勤によって労働者が負傷したり、病気になったりすること(傷病等)をいいます。
ここでいう「通勤」とは、「就業に関し、次の移動を合理的な経路および方法で行うこと」をいいます。ただし、会社からの緊急の呼び出しによる移動など、仕事そのものの性質を帯びた移動は「通勤」ではなく「業務」として扱われます。
| 移動の種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| ①住居と就業の場所との往復 | 自宅から職場、職場から自宅 |
| ②就業の場所から他の就業の場所への移動 | 複数の勤務先間の移動 |
| ③単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動 | 赴任先から家族の住む自宅への移動 |
まず、「就業に関し」については、「仕事に関連した」移動であることが必要です。例えば自宅と職場の往復であれば、被災した当日に実際に出勤する予定があったか、または実際に出勤していたことが条件になります。なお、ラッシュを避けるための早出や、多少の遅刻など、通常の出退勤時刻から多少ずれていても問題ありません。
次に、「合理的な経路」とは、通勤のために一般的に使われると認められる経路のことです。いつも使う経路が複数あれば、そのどれもが「合理的な経路」に当たります。また、その日の交通渋滞や事故で迂回した経路や、車通勤者が駐車場を経由する経路なども認められます。ただし、特に理由もなく大きく遠回りするような経路は「合理的な経路」に当てはまりません。
最後に、「合理的な方法」とは、電車・バスなどの公共交通機関、車、自転車、徒歩といった一般的な移動手段のことです。いつも使っているかどうかは関係なく、これらはすべて「合理的な方法」として認められます。
通勤の途中で経路を外れたり、途中で通勤とは無関係な行動をとったりした場合には、その時点から「通勤」としての保護が失われます。「逸脱」とは、通勤ルートそのものを外れて別の場所に向かうことであり、「中断」とは、経路上にとどまりながら通勤と関係のない行動を行うことを指します。
|
例として帰り道に映画館に立ち寄る、居酒屋で飲酒するといった行為が逸脱・中断に当たります。一方、近くの公衆トイレを使う、コンビニでタバコやジュースを買うといった軽微な行為は、逸脱・中断とはみなされません。また、日常生活に欠かせない用事を必要最小限の範囲で済ませた場合には例外が認められており、元のルートに戻った後は再び「通勤中」として扱われます。なお、例外として認められる行為は次の5つです。
|
例えば、仕事の帰り道にスーパーで日用品を買い、その後帰宅中に事故に遭った場合、買い物が上記の例外に当たり、かつ必要最小限の範囲で済ませていたのであれば、買い物後の帰り道での事故は通勤災害として認められます。「ちょっと寄り道しただけ」と思っていても、寄り道の内容やその後のルートの状況によって通勤災害になるかどうかが変わることがありますので、事実関係は丁寧に確認することが大切です。
出典:厚生労働省 労災保険給付の概要
主な保険給付の種類と概要は以下のとおりです。なお、介護(補償)等給付および二次健康診断等給付を除き、いずれも業務上災害、複数業務要因災害または通勤災害による場合の給付となります。なお、業務災害に関する給付は「××『補償』給付」、通勤災害に関する給付は「××給付」という名称の違いがあります。
| 給付の種類 | 給付が行われる場面 | 給付の概要 | 時効 |
|---|---|---|---|
| 療養(補償)等給付 | 傷病の療養が必要なとき | 労災病院・指定医療機関での療養の給付または療養費用の支給 | 療養の給付請求書:- 療養の費用請求書:療養の費用の支出が具体的に確定した日の翌日から2年(※2) |
| 休業(補償)等給付 | 療養のため休業し、賃金を受けられないとき | 休業4日目から、1日につき給付基礎日額(※1)の60%相当額(特別支給金として給付基礎日額の20%も加算) | 療養のため労働することができないため賃金を受けない日の翌日から2年(※2) |
| 障害(補償)等給付 | 傷病が治癒(症状固定)した後、障害が残ったとき | 障害等級に応じた年金または一時金 | 傷病が治癒した日の翌日から5年 |
| 遺族(補償)等給付 | 死亡したとき | 遺族の数に応じた年金または一時金 | 被災労働者が亡くなった日の翌日から5年 |
| 葬祭料等 (葬祭給付) |
死亡した人の葬祭を行うとき | 315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額 | 被災労働者が亡くなった日の翌日から2年(※2) |
| 介護(補償)等給付 | 障害等年金受給者等のうち一定の障害により現に介護を受けているとき | 介護費用として支出した額(上限あり) | 介護を受けた月の翌月の1日から2年(※2) |
| 傷病(補償)等年金 | 療養開始後1年6か月経過後も傷病が治癒せず、傷病等級に該当するとき | 障害の程度に応じた年金 | - |
| 二次健康診断等給付 | 定期健康診断等で脳・心臓疾患関連の異常の所見があるとき | 二次健康診断および特定保健指導の給付 | 労働者が一次健康診断の結果を了知し得る日の翌日から2年 |
出典:厚生労働省 労災保険給付の概要
療養(補償)給付以外の各給付を請求する際は、被災労働者の所属事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に所定の請求書を提出することが必要です。なお、各給付には請求権の時効がありますので、遅滞なく手続きを行うことが重要です。
請求書の書式は厚生労働省のホームページからダウンロードすることができます。また、労災保険給付と同一事由で損害賠償(第三者行為災害等)を受けた場合には、二重てん補とならないよう支給調整が行われますので、この点も実務上の留意点として押さえておきましょう。
出典:厚生労働省 労災保険給付の概要
以上の通り、業務災害と通勤災害はいずれも「労災保険の対象となる災害」ではありますが、その判断基準や要件は異なります。「業務中だから必ず労災」「通勤途中だから必ず通勤災害」と単純に判断するのではなく、①就業との関連性、②業務起因性・業務遂行性、③逸脱・中断の有無といった要件を確認することがポイントといえます。また、繰り返しになりますが、労災認定の判断は被災した従業員が所属する事業場を管轄する労働基準監督署において行われることになります。
なお、従業員が被災した際には、保険給付の申請手続きを支援することが求められます。会社として速やかに事実関係を把握し、手続き方法等に迷う場合には、所轄の労働基準監督署等にご相談されることをお勧めします。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
<参考URL>
■厚生労働省 労災保険給付の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001743908.pdf
■厚生労働省 主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousaihoken.html
執筆者:社会保険労務士法人大野事務所 特定社会保険労務士 土岐 紀文
23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、2009年に社会保険労務士法人大野事務所に入所しました。現在は主に人事・労務に関する相談業務に従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。
※人材不足や人員配置に関する法人向けのご相談はこちら