こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の土岐と申します。社労士として、企業の皆様から寄せられる人事・労務管理に関する様々なご相談に対応させていただいております。本コラムでは、労働・社会保険諸法令および人事労務管理について、日頃の業務に携わる中で悩ましい点や疑問に感じる点などについて、社労士の視点から、法令上の観点を織り交ぜながら実務上考えられる対応等を述べさせていただきます。
さて今回は、労働者災害補償保険(以下「労災保険)の基礎知識(業務災害と通勤災害)から、業務災害について採り上げます。
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従業員が業務中や通勤途中にけがをした、あるいは病気になったという場面は、どの企業においても起こりうることです。その際、従業員や会社の担当者の方々が気になるのが、「労災保険の適用となるかどうか」という点ではないでしょうか。
この点、労災保険が適用されるかどうかは法令の要件に照らして事実関係を確認する必要があり、最終的には事業場を管轄する労働基準監督署が判断することになります。
労災保険は、労働者が業務上または通勤によって負傷・疾病・障害・死亡した場合に、必要な保険給付を行うことを目的とした制度です。法人・個人を問わず事業主は、一部の例外を除いて労働者を使用する事業について労災保険の適用事業主となります。
労災保険の給付対象となる災害は、大きく次の3種類に区分されます。業務災害および複数業務要因災害については「仕事によるもの」、通勤災害については「通勤によるもの」という原因・事由が必要であり、それ以外の私的な事情による災害については、原則として健康保険が適用されることになります。
出典:厚生労働省 労災保険給付の概要
業務災害とは、労働者が業務を原因として被った負傷、疾病、障害または死亡(以下「傷病等」)をいいます。業務と傷病等との間にこうした因果関係が認められることを、法令上「業務上」としています。
業務災害に該当するかどうかの基本的な判断軸は、労災保険の適用事業場に雇用された労働者が、事業主の支配下に置かれていた状況において、業務そのものが原因となって被災したといえるかどうかという点にあります。
この点、労働者がどのような状況で被災したかによって異なり、次の3つの場合に分けて考えることができます。
仕事中の事故は、作業中の行為そのものや、職場の設備の不具合・管理不足が原因であるケースがほとんどです。よほど特殊な事情がない限り、業務災害として認定されることになると考えられます。ただし、次のような場合は業務災害と認められません。
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出勤して職場にいる以上は会社の管理下にあるとみなされますが、休憩中や始業前・終業後は実際に仕事をしていないため、その時間中の私的な行動によって起きた事故は業務災害にはなりません。
ただし、職場の設備の欠陥や管理不備が原因の場合は業務災害となり得ます。例えば、休憩中に社員食堂で食事をする際に床が濡れていたため転んだり、階段の手すりが壊れていて転落したりした場合がこれに当たります。また、トイレの使用など生理的に必要な行為は仕事に伴う行動として扱われるため、その最中の事故も業務災害の対象です。
このように、休憩時間中だから労災保険の適用にはならないというものではなく、場所や原因が職場の設備に関わるものであれば、業務災害になる可能性があります。
会社の直接的な目が届かない場所にいても、会社の指示・命令のもとで働いている以上は会社の管理下とみなされます。仕事と無関係な行動をしたといったような特別な事情がない限り、発生した事故は業務災害として認定されるのが一般的です。例えば、取引先への訪問途中に交通事故に遭ったり、会社の指示により社外研修の会場に向かう道中で転倒したりした場合も、特別な事情がない限り業務災害として扱われます。
出張については、目的地への移動を含む出張期間全体が原則として会社の管理下にあると判断されるため、移動中の事故も業務災害と認められ得るということになります。
業務との間にいわゆる相当因果関係が認められる病気は、労災保険の給付対象となります(これを「業務上疾病」といいます)。ポイントは、「職場にいるときに発症したかどうか」ではなく、「職場での有害な環境や作業にさらされた結果として発症したかどうか」です。単に仕事中に体調が悪くなっただけでは、業務上疾病には当たりません。
例えば、勤務時間中に脳出血を発症したとしても、それが仕事上の原因によるものと結びつかなければ業務上疾病とはなりません。逆に、勤務時間外に症状が出た場合でも、過度な仕事の負荷が原因と判断されれば、相当因果関係があることになり、業務上疾病として認められます。発症した時間よりも「何が原因で発症したか」が重要となりますところ、業務上疾病と認められるには、原則として次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
騒音・振動・極端な温度環境などの物理的なリスク、有機溶剤などの化学物質、腰や関節に過大な負担をかける重労働、感染性の病原体など、健康を害しうる要因が実際の職場環境に存在していることが前提です。
有害な要因があったとしても、それだけでは足りません。健康障害を引き起こすのに十分な量・強さの有害因子に、相応の期間・頻度でさらされていたことが具体的に確認される必要があります。
少なくとも「有害因子にさらされた後に発症した」という時間的な順序が必要です。ただし、すぐに症状が出るとは限りません。急性に発症するものもあれば、数年・数十年という長い潜伏期間を経て初めて症状が現れるものもあります。
なお、過重労働による脳・心臓疾患(いわゆる「過労死」)や、強いストレスが引き金となったうつ病などの精神障害も、一定の条件を満たせば業務上疾病として認められる場合があります。これらは労働時間の長さや精神的な負荷の程度が重要な判断要素となります(労災となる・ならないの判断の流れは以下の通りです)。
脳・心臓疾患の労災認定フローチャート
出典:厚生労働省 脳・心臓疾患の労災認定
精神障害の労災認定フローチャート
出典:厚生労働省 精神障害の労災認定
複数業務要因災害とは、異なる会社で掛け持ち勤務をしている労働者(複数事業労働者)が、複数の職場での仕事の負担が積み重なって病気やけがを発症した場合に、労災として認定されるものです。特に、脳・心臓疾患や精神障害がその主な対象として想定されています。
以前は、それぞれの職場の負担を個別にしか評価できなかったため、「A社またはB社の仕事だけでは基準に届かない」という状況だと、いずれの会社でも労災認定されないケースがありました。こうした問題を解消するため、2020年9月から、複数の職場での労働時間やストレスを合計して総合的に評価する仕組みになりました。
なお、掛け持ち勤務をしている場合でも、一つの職場の負荷だけで労災と認められる場合は、これまで通り業務災害として認定されます。
また、転職などで複数の職場に同時に雇用されていない方、会社員として働きながら、同時にフリーランスなど「雇われない形」でも働いている方(フリーランスの分は対象外です)は複数事業労働者には当てはまりませんのでこの点はご注意ください。
出典:厚生労働省 複数事業労働者への労災保険給付わかりやすい解説
以上、今回は業務災害と複数業務要因災害について基本的な知識を整理しました。次回は通勤災害および保険給付の概要についてご紹介したいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
<参考URL>
■厚生労働省 労災保険給付の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001593398.pdf
■厚生労働省 脳・心臓疾患の労災認定
https://www.mhlw.go.jp/content/001309213.pdf
■厚生労働省 精神障害の労災認定
https://www.mhlw.go.jp/content/001309209.pdf
■厚生労働省 複数事業労働者への労災保険給付わかりやすい解説
https://www.mhlw.go.jp/content/000662505.pdf
執筆者:社会保険労務士法人大野事務所 特定社会保険労務士 土岐 紀文
23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、2009年に社会保険労務士法人大野事務所に入所しました。現在は主に人事・労務に関する相談業務に従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。
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