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社労士のアドバイス/1か月単位の変形労働時間制の基本と運用上の留意点(前編:制度の概要と導入のポイント)

作成者: 社会保険労務士法人大野事務所|Apr 27, 2026 2:38:03 AM

こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の土岐と申します。社労士として、企業の皆様から寄せられる人事・労務管理に関する様々なご相談に対応させていただいております。

本コラムでは、労働・社会保険諸法令および人事労務管理について、日頃の業務に携わる中で悩ましい点や疑問に感じる点などについて、社労士の視点から、法令上の観点を織り交ぜながら実務上考えられる対応等を述べさせていただきます。

さて、今回は「1か月単位の変形労働時間制」について、制度の概要と導入のポイントを採り上げます。この制度は小売業・飲食業・医療・介護・製造業など、日によって繁閑の差がある業種において広く活用されている制度です。しかしながら、法定要件の整備が不十分なケースや、時間外労働時間の集計が曖昧となっているケースも散見されますので、本コラムでは制度の基本から運用上の留意点まで、順に確認します。

Index

 

ポイント

  • 1か月単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の2)は、1か月以内の一定の期間を平均して1週間の労働時間が法定労働時間を超えない範囲において、特定の日または週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度である。
  • 導入にあたっては2つの方法があり、就業規則による場合には、(1)変形労働時間制を採用する旨の定め、(2)労働日・労働時間の特定、(3)変形期間の所定労働時間、(4)変形期間の起算日の4点を、労使協定による場合には(1)~(4)に加え、対象となる労働者の範囲および労使協定の有効期間を定め、労働基準監督署へ届け出る必要がある(ただし、労使協定による場合、結局のところ就業規則に当該制度により労働させる旨の定めも必要となる)。
 
 

 はじめに

労働基準法(以下、労基法)では、原則として1日8時間・1週40時間という法定労働時間が定められています(労基法第32条)。しかし、実際の業務においては、月末月初に業務が集中する、あるいは週によって忙しさに波がある、といった形で労働時間を均等に配分することが難しいケースも少なくありません。こうした実態に対応するために設けられているのが「変形労働時間制」です。その1つである「1か月単位の変形労働時間制」(労基法第32条の2)は、最長1か月の変形期間内で労働時間を柔軟に配分できる制度です。

 

 【制度の概要と導入のポイント】 

1.制度の概要と導入による効果

1か月単位の変形労働時間制では、1か月以内の一定の期間(変形期間)を平均して1週間の労働時間が法定労働時間(一般の事業場では1週40時間)を超えない範囲において、特定の日に8時間を超えて、または特定の週に40時間を超えて労働させることができる制度です。

なお、「特例措置対象事業場」(常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の制作の事業を除く。)、保健衛生業、接客娯楽業)については、法定労働時間が1日8時間・1週44時間とされており、この場合の総枠計算も44時間ベースで行うこととなります(以下、本コラムでは一般の事業場を前提とします)。

 

2.導入の要件

1か月単位の変形労働時間制を採用するためには、就業規則等または労使協定により、以下の4点を具体的に定める必要があります。

(1)変形労働時間制を採用する旨の定め

就業規則等または労使協定に、当該制度を採用することを明記します。

(2)労働日・労働時間の特定

変形期間における各日・各週の労働時間をあらかじめ具体的に定めておく必要があります。単に「1日8時間とする」という定め方では足りず、始業・終業時刻を含めた具体的な時刻まで定め、労働者への周知が求められます。月ごとにシフト表を作成して運用するケースも多く見られますが、この場合も、起算日から少なくとも一定期間前までに各日の労働時間を確定させる必要があります。なお、判例(日本マクドナルド事件 名古屋高裁 令5・6・22)では、就業規則に定める勤務シフトとは異なる独自の勤務シフトにより勤務割が作成されたケースについて、就業規則とは異なる勤務シフトは1か月単位の変形労働時間制の適用要件を充足しないとしており、実務上注意が必要です。

(3)変形期間の所定労働時間

変形期間中の所定労働時間の合計は、次の計算式の範囲内に収める必要があります。

 1週間の法定労働時間 × 変形期間の暦日数(1か月以内) ÷ 7(1週間) 

例えば、変形期間を1か月とした場合で、1か月の暦日数が31日の場合、40時間×31÷7=177.1時間(小数点2位以下切捨て)が上限となります。30日、29日、28日の場合は以下の通りです。

 

1箇月の暦日数

労働時間の総枠

31日

177.1時間

30日

171.4時間

29日

165.7時間

28日

160時間


(4)変形期間の起算日

変形期間の始期を明確にしておく必要があります。例えば、「毎月1日を起算日とする。」といった定めが考えられます。実務面を考慮して、賃金締切期間と合わせる例が一般的と考えられます。

 

3.就業規則等・労使協定の整備

1か月単位の変形労働時間制は、就業規則に規定することによっても導入することができますし、労使協定を締結することによっても採用することができることは前述の通りです。

(1)就業規則による場合

常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則の作成義務があるため、上記の(1)~(4)について就業規則に定めるとともに、就業規則(変更)届を所轄労働基準監督署長に提出する必要があります。

<規定例>

(1か月単位の変形労働時間制)
第●条 第●条(勤務時間)の規定にかかわらず、業務上その他必要のある場合は、全部または一部の者について毎月1日を起算日とした1か月単位の変形労働時間制により勤務させることがある。その場合の所定労働時間は、1か月を平均して1週間当たり40時間を超えない範囲で、次項に定める各日の勤務形態を設定するものとする。

2. 各日の始業・終業時刻は、次の通りとする。
 (1)9:00~16:00 (2)9:30~16:30 (3)8:00~18:00 (4)8:30~18:30

3. 第●条(休日)の規定に関わらず、休日は1か月につき月9日以上(ただし、1か月の暦日数が28日の場合は8日以上)とする。

4. 各従業員の勤務シフトと休日の割り振りは、グループごとに会社が決定し、各月が始まる2週間前までに従業員に個別に通知する。

5. 事故・災害のためにやむを得ない場合は、事前の通知の上、前項の勤務形態を変更することがある。


(2)労使協定による場合

上記(1)~(4)に加え、対象となる労働者の範囲および労使協定の有効期間を定め、所定の様式により所轄労働基準監督署長への届け出が必要です。なお、労使協定の有効期間については、通達(平11.3.31基発169号)において、「不適切な制度が運用されることを防ぐため、有効期間は3年以内とすることが望ましい」とされています。

また、労使協定の効力は、法定労働時間を超えて労働させても労基法に違反しないという免罰効果に過ぎませんので、労使協定を締結したことのみをもって、1か月単位の変形労働時間制による勤務をさせることはできません。

つまり、結局のところ、就業規則等に1か月単位の変形労働時間制による勤務をさせる場合がある旨を定めておく必要があるということになります。なお、9人以下の事業場では就業規則の作成義務はありませんが、書面による規程等、「何らかの方法によって関係労働者に周知させなければ「定」とは認められないこと」とされています(昭29.6.29基発355)。

<協定例>

1か月単位の変形労働時間制に関する協定書

株式会社〇〇〇〇と社員代表〇〇〇〇は、1か月単位の変形労働時間制に関し、下記の通り協定する。

(勤務時間)
第1条 所定労働時間は、1か月単位の変形労働時間制によるものとし、1か月を平均して1週間当たり40時間を超えないものとする。

2. 所定労働時間、始業・終業の時刻、休憩時間は次の通りとする。
 (1)毎月1日から24日まで
   所定労働時間:1日7時間(始業9:00~終業17:00、休憩12:00~13:00)
 (2)毎月25日から末日まで
   所定労働時間:1日9時間(始業8:00~終業18:00、休憩12:00~13:00)

3. 事故・災害のためにやむを得ない場合は、事前に通知の上、前項の勤務形態を変更することがある。

(起算日)
第2条 起算日は、毎月1日とする。

(休日)
第3条 休日は、毎週土曜日および日曜日とする。

(対象となる社員の範囲)
第4条 本協定による変形労働時間制は、次のいずれかに該当する社員を除き、全社員に適用する。

 (1)18歳未満の年少者
 (2)妊娠中または産後1年を経過しない女性社員のうち、本制度の適用免除を申し出た者
 (3)育児や介護を行う社員、職業訓練または教育を受ける社員その他特別の配慮を要する社員に該当する者のうち、本制度の適用免除を申し出た者

(有効期間)
第5条 本協定の有効期間は、20●●年●●月●●日から20●●年●●月●●日までとする。

 

20●●年●●月●●日

株式会社 〇〇〇〇〇〇〇〇
代表取締役 〇〇〇〇 印
社員代表  〇〇〇〇 印

 

<協定届の記載例>

 

 

 おわりに

今回は、1か月単位の変形労働時間制の概要と導入のポイントについて確認しました。本制度は、業務の繁閑に合わせた柔軟な労働時間管理を可能にする有用な制度である一方、導入に際しては就業規則等または労使協定における各事項の適切な定め、労働基準監督署への届出、労働者への周知といった法的要件を漏れなく満たすことが不可欠です。

また、「長年この運用で問題なくやってきた」とお考えの場合であっても、就業規則や労使協定の内容・届出状況、シフトの設計方法、変形期間の起算日の設定などについて、あらためて点検されることをお勧めします。特に、労働時間の特定方法については、ご紹介した日本マクドナルド事件の判例のように、就業規則の定めと実態が異なる場合には要件を満たしていないと判断されるリスクもあるため、しっかりとした対応が求められます。

次回は時間外労働の確認方法や休日振替の取り扱いなど、運用上の留意点について採り上げます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

<参考URL>

■「1箇月単位の変形労働時間制」導入の手引き
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501873.pdf

 

執筆者:社会保険労務士法人大野事務所 特定社会保険労務士 土岐 紀文

 
〔執筆者プロフィール〕
社会保険労務士法人 大野事務所
特定社会保険労務士
土岐 紀文

23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、2009年に社会保険労務士法人大野事務所に入所しました。現在は主に人事・労務に関する相談業務に従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。

 

〔この執筆者の記事〕
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