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社労士のアドバイス/算定基礎届(定時決定)とその留意点(後編)

作成者: randstad|May 9, 2024 5:40:06 AM

こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の土岐と申します。社労士として、企業の皆様から寄せられる人事・労務管理に関する様々なご相談に対応させていただいております。本コラムでは、労働・社会保険諸法令および人事労務管理について、日頃の業務に携わる中で悩ましい点や疑問に感じる点などについて、社労士の視点から、法令上の観点を織り交ぜながら実務上考えられる対応等を述べさせていただきます。

さて今回は、「算定基礎届(定時決定)とその留意点(後編)」について採り上げます。※前編はこちら

Index


ポイント

  • 支払基礎日数とは、その報酬の支払い対象となった日数のことをいい、ある日に1時間だけ勤務した場合であっても1日としてカウントする。
  • 報酬月額の算定方法は、被保険者の種別ごとに基礎日数によって考え方が異なる。
  • 4月~6月の報酬に3月以前の報酬を受けた場合や、4月~6月の給与で算定すると著しく不当になるときは、それぞれの場面に応じた特別な算定方法がある。
  • 算定基礎届の留意点は多岐にわたる。社会保険料や傷病手当金、年金等の給付に大きな影響を与えることから、年金機構等の資料を参照し、事例ごとに正しい手続きを確認しながら確実に手続きを行うことが求められる。

 

算定基礎届の留意点

前回のコラムでは社会保険における被保険者と報酬について確認しました。今回は、日本年金機構のホームページに公開されている「算定基礎届の記入・提出ガイドブック(以下、ガイドブック)」を用いて、算定基礎届の具体的な内容について紹介します。

さて、算定基礎届は被保険者整理番号、被保険者氏名、生年月日、各月の支払基礎日数、報酬月額および平均額等を記載することになり、保険者(年金機構および健康保険組合等)へ書面で届け出る場合には次の書式により届け出ます。なお、電子申請または電子媒体(CD・DVD)による届け出も可能です(健康保険組合等については、加入先に対応可否についてご確認ください)。

【出所:日本年金機構 被保険者報酬月額算定基礎届

支払基礎日数とは、その報酬の支払い対象となった日数のことをいいます。時給制・日給制の場合は、実際の出勤日数(有給休暇も含みます)が支払基礎日数となり、月給制の場合は、出勤日数に関係なく暦日数になります。この点、ある日は1 時間だけの勤務であっても、1 日としてカウントし、支払基礎日数に含めることとなります。一方、1日全て欠勤した場合にその日数分だけ給与が控除される場合は、就業規則、給与規程等に基づき、会社が定めた日数(例えばその月の所定労働日数)から、欠勤日数を控除した日数となります。

なお、算定基礎届は4月~6月に支払われた給与を報酬月額として届け出ることになりますが、給与計算の締切日と支払日の関係によって、次の通り支払基礎日数が異なることになります。

【出所:日本年金機構 算定基礎届の記入・提出ガイドブック

また、被保険者の種別ごとの支払基礎日数と報酬月額の算出の関係は次の通りになります。なお、全ての月が所定の日数に達しない場合には、従前の標準報酬月額にて決定されることになります。

 

被保険者の種別 基礎日数の考え方
一般被保険者
  • 支払基礎日数が17日以上の月を対象とし、17日未満の月を除いた月数で除して報酬月額を算出する。
短時間就労者
  • 支払基礎日数が17日以上の月を対象とし、17日未満の月を除いた月数で除して報酬月額を算出する。
  • 支払基礎日数が全て17日未満の場合には、15日・16日の月のみを対象として、15日・16日の月の月数で除して報酬月額を算出する。
短時間労働者
  • 支払基礎日数が11日以上の月を対象とし、11日未満の月を除いた月数で除して報酬月額を算出する。

 

 

 

 

被保険者の種別ごとの記載例

基礎日数に応じた報酬月額の算定方法は以上の通りです。以下では被保険者ごとの具体的な記載方法について、ガイドブックに掲載されている例をご紹介します。

 

 

①一般被保険者の場合

 

【出所:日本年金機構 算定基礎届の記入・提出ガイドブック

 

 

 

②短時間就労者の場合

【出所:日本年金機構 算定基礎届の記入・提出ガイドブック

 

 

 

 

③短時間労働者の場合

【出所:日本年金機構 算定基礎届の記入・提出ガイドブック

以上は書面で提出する際の記載方法になりますが、業務支援システムを活用する場合でも留意点は同様です。まずは書面での届け出のイメージを掴んだうえで、業務支援システムを活用すると、より手続きの流れがわかりやすいのではないでしょうかと筆者は思います。

 

 

 

 

一般的な方法で算定すると著しく不当になるとき

以上は一般的なケースになりますが、次のような場合には特殊な算定方法となります。

 

 

a.遡及支給分が含まれる場合

【出所:日本年金機構 算定基礎届の記入・提出ガイドブック

 

 

b.年間の平均で算定する場合

【出所:日本年金機構 算定基礎届の記入・提出ガイドブック

「事業主の申立書」と「本人の同意」の書式の記入例は次の通りです。

【出所:日本年金機構 算定基礎届の記入・提出ガイドブック

その他にも、ガイドブックでは年4回の賞与が支払われた場合や休業手当が支払われた場合等のいくつかのケースについても解説されていますので、このようなケースに該当する場合には、ガイドブックをご参照ください。

 

 

月額変更届(随時改定)とは

最後に、月額変更届(随時改定)についても簡単に触れたいと思います。
ここまで見てきましたように、毎年1回の定時決定により決定された標準報酬月額は、原則その年の 9 月から翌年の 8 月まで 1 年間適用されます。ただし、昇給や降給などにより報酬に大幅な変動があったときは、実態とかけ離れた状態にならないよう、以下の全ての要件を満たした場合には次回の定時決定を待たずに標準報酬月額を見直します。
これを「随時改定」といい、「月額変更届」を保険者へ届け出ることになります。

【随時改定の要件】

昇給または降給等により固定的賃金に変動があった。(※1)
変動月からの3カ月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた。
3カ月とも支払基礎日数が17日(短時間労働者は11日)以上であった。

(※1)固定的賃金とは、支給額や支給率が決まっているものをいい、その変動は、次のような場合が考えられます。

  • 昇給(ベースアップ)、降給(ベースダウン)
  • 給与体系の変更(日給から月給への変更等)
  • 日給や時間給の基礎単価(日当、単価)の変更
  • 請負給、歩合給等の単価、歩合率の変更
  • 住宅手当、役付手当等の固定的な手当の追加、支給額の変更

なお、固定的賃金の変動が要件となりますので、残業手当等の非固定的賃金のみの変動があった場合には、随時改定の要件には該当しません。その他、次の場合にも随時改定の対象とはなりません。

固定的賃金は上がったが、残業手当等の非固定的賃金が減ったため、変動後の引き続いた 3 カ月分
の報酬の平均額による標準報酬月額が従前より下がり、2 等級以上の差が生じた場合
固定的賃金は下がったが、非固定的賃金が増えたため、変動後の引き続いた 3 カ月分の報酬の平均額
による標準報酬月額が従前より上がり、2 等級以上の差が生じた場合

つまり、固定的賃金と変動後の引き続いた 3 カ月分の報酬の平均額の矢印の向きが同じ方向になった場合に、随時改定に該当することになります。

さて、改定された標準報酬月額は、再び随時改定がない限り、6 月以前に改定された場合は当年の 8 月まで、7 月以降に改定された場合は翌年の 8 月までの各月に適用されます。従って、7月~9月の随時改定に該当した場合には定時決定ではなく、随時改定によって決定された標準報酬月額が適用されることになる点に留意が必要です。

実務の場面では、各被保険者が定時決定となるのか、随時改定となるのかを把握しておくのがよいでしょう。多くの業務支援システムではこれらを判別する機能を備えていると思われますので、機能の活用をお勧めします。

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。
実務を進める中では様々なケースがありますので、どのように算定を行うのかが悩ましい場面もあります。前回ご紹介しました通り、定時決定等により標準報酬月額を決定・改定する場面では、毎月の社会保険料や傷病手当金、年金等の給付に大きな影響を与えることから、慎重に、確実に手続きを行う必要があります。
今回ご紹介しました年金機構のガイドブックでは様々な事例について具体的に解説されていますので、実務を行う際にはこのようなガイドブックを参照しつつ、手続き誤りのないように、あるいは、もし誤りがあった際には、速やかに訂正手続きを行うことが求められます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考URL>
■日本年金機構 算定基礎届の記入・提出ガイドブック
■日本年金機構 標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集
■日本年金機構 令和6年4月から現物給与の価額が改正されます
 
〔執筆者プロフィール〕
社会保険労務士法人 大野事務所
特定社会保険労務士
土岐 紀文

23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、2009年に社会保険労務士法人大野事務所に入所しました。現在は主に人事・労務に関する相談業務に従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。

 

〔この執筆者の記事〕
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