生き方・働き方の多様化により、会社による社員のキャリアサポートが重要視されています。社員一人ひとりのキャリア形成を会社が支援していくことが、企業の成長に欠かせないと考えられるようになったのです。なぜ今、社員のキャリアをサポートする必要があるのでしょうか。その背景とメリット、効果的な具体策をご紹介します。
社員が自らの価値観や希望、ライフスタイルを大切にしながら働くためには、当然一人ひとりが自身のキャリアプランを設計し、当事者として遂行していく必要があります。一方で、それを会社が支援するキャリアサポートの取り組みが広がっています。
かつてのように「学校を卒業後に一括採用され、定年まで働き、老後を過ごす」という“当たり前”が成り立たない世の中になりました。働き手は、異動や転職、結婚・出産・介護などのライフイベントのたびに、自らのより良い生き方や働き方を考えることになります。
社員がキャリアについて考えることは、離職につながるのではないかと考える方もいるかもしれません。しかし実際には、働き方についての悩みの解決につながり業務に集中できるようになったり、仕事に対するモチベーションや会社への帰属意識を高めたりすることができます。
価値観の多様化とともに、急速な高齢化が進行している現代の日本。優秀な人材の確保が難しい採用難の現状に直面し、いかに社員を定着させるかが大きな課題となっています。業務とは直接関係のない社員個人のキャリア形成をサポートすることは、社員の離職防止や復職の後押しにもつながります。
また、今後60歳以上になっても働き続ける社員が増えると考えられる状況で、ミドル世代・シニア世代のキャリアサポートも重要性を増していきます。
労働力不足の現状を背景に、生産性向上のためのキャリアサポートや能力開発に国も注力しています。働く人のキャリア形成サポートを目的に、厚生労働省では「セルフ・キャリアドック制度助成」「人材開発支援助成金」などを行なっています。要件を満たせば、社員のキャリアサポートを小さな負担で効果的に行うことができるでしょう。
※参照:人材開発支援助成金/厚生労働省
社員個人のキャリアサポートは、会社にとって直接的なメリットがないと考える方も多いかもしれません。しかし実際には個人の成長と会社の成長はつながっており、非常に大きなメリットが期待できます。
社員が自らのキャリアプランを考えることで当事者意識が芽生え、能力開発に積極的に取り組む意欲が生まれます。業務に対しても高いモチベーションを持って主体的に取り組むようになり、生産性の向上につながるでしょう。
自ら考え能動的に動ける社員が増えることで、指示待ちの部下が減り管理職の負担が軽減します。また、社員が活発に意見を言い合う雰囲気になると、新しいアイデアが生まれやすくなったり業務改善がスムーズに進んだりする効果が期待できます。
本来は自分で考えるべきキャリア形成を、業務時間内に会社の費用負担でサポートしてもらえることは社員にとって大きなメリットに。会社へのエンゲージメントが高まり、長期の定着につながります。
キャリアについて専門知識を持つコンサルタントに相談できれば、働き方の悩みや課題の解決に向けた糸口も見つかるかもしれません。育児や介護など、プライベートと仕事の両立で悩む社員の離職防止や、育児休暇・介護休暇からの復職も後押しするでしょう。
会社が社員一人ひとりのキャリアと向き合う姿勢は、会社に対するエンゲージメント、エンプロイヤーブランド(職場としての魅力)の向上にもつながります。この会社で働き続けたいと社員が思うことは、業績や定着率の上昇に好影響を与えることでしょう。また、採用広報でのアピールやリファラル採用を通じて、その思いに共鳴するキャンディデイトを引き寄せる効果も期待できます。
実際に社員のキャリア形成をサポートしていくための具体策をご紹介します。社員を単なる労働力として捉えるのではなく、共に会社を成長させていくパートナーとして考えていきましょう。
「『キャリアは上司に示される』と考える社員が多かった」というある企業では、入社3年目・6年目、35歳・45歳のタイミングでキャリアマネジメント研修を実施。階層ごとに適切な情報を提供し、社員のキャリアを体系的に支援する仕組みを構築しました。年齢や経験値に応じた適切なキャリアサポートで、自身のキャリアに対して自律的に考えられるよう促すことができます。
製造業のある企業では、キャリア開発支援のために定期的なカウンセラーとの面談を実施しています。上司との面談では業務の話が中心になる、人事部との面談ではキャリアについて相談しづらいという背景から、全国に多数ある事業所すべてでカウンセラーとしてふさわしいベテラン社員を選抜。キャリアコンサルティングの資格を取得した上で担当者として配置し、カウンセリングにあたっています。社員はキャリアについて話すことで思考が整理され、自分ごととしてキャリアプランの実現に取り組めるようになっていきます。
新入社員や若手社員は、キャリアに対して高いモチベーションを持っている一方で、実務経験の面では発展途上。理想と現実のギャップに苦しんだり、会社や働くこと自体にネガティブな感情を持ってしまったりする可能性もあります。この時期に有効なのは、組織や業務にスモールステップで順応できるようにサポートする「オンボーディング」。早期離職を防ぎ、早い段階から戦力となれるよう会社全体で支援していくことが重要なキャリアサポートになります。
オンボーディングについては、コラム記事「オンボーディングとは?早期離職を防ぐ入社時のサポートプログラム」も参考にしてください。
責任ある仕事や複数の役割を任せられることが多いミドル社員。転職や独立などの選択肢を考える人がいる一方、自身のキャリアの先が見えることで無気力になったり働きがいを失ったりする人も多い世代です。
新人のようにフォローされる機会が少ないミドル社員ですが、上司が共に目標を設定して管理し、成長意欲を高めていきましょう。
変化の早い現代ではミドル世代のスキルや経験が近い将来に陳腐化してしまう可能性も。積極的にリスキリングを促して自身のキャリアに能動的に取り組める環境を作り、スキル向上や資格取得にインセンティブを付与するのも良いでしょう。
参考:「リスキリングとは?今リスキリングが必要とされる理由とリカレント教育との違い」
また、経験値があるからこそマンネリ感に陥りやすいミドル社員には、これまでとは異なる新たなプロジェクトでの刺激や学習の機会を用意すると良いでしょう。それは社内の業務にとどまらず、副業を促進するのもひとつの方法です。
シニア世代が意欲的に活躍する姿は、若手やミドル世代にも好影響を与えます。しかし、役職定年や再雇用社員のモチベーション低下や処遇・評価への不満、年下上司や周囲との人間関係の軋轢など、シニア社員のキャリア支援に大きな課題を抱えている企業は少なくないでしょう。
豊富な経験を持つシニアの知見を継承し、人件費を抑えつつ活躍してもらうためには、ジョブ型雇用などで職務・職域と会社からの期待値を明確にする方法が良いでしょう。「社歴が長いからわかっているだろう」と考えず、定期的な1on1ミーティングで役割を確認しつつ「周囲が必要としている」という期待や感謝の気持ちを伝え称賛することも大切です。また、一人ひとりの能力や健康状態に差が出るシニア世代では、個別に適切な処遇ができるよう賃金制度や就労の仕組みを整える必要もあります。
シニアになっても会社に貢献してもらいつつ働きがいを感じてもらえるよう、若手やミドル世代の段階から先を見据えたキャリア設計をサポートしていくことが大切です。
長いスパンでキャリアを考えるとき、ライフイベントを考慮から外すことはできません。結婚や出産・介護などのライフイベントに直面した際、両立は無理だと思い込み安易に諦めてしまうことがないよう、会社としてサポートしていく姿勢を示す必要があります。
まずは社員自身が「仕事のやりがい」や、これから仕事・プライベートそれぞれでどうありたいかという「WANT」を明確する必要があります。そこから理想のキャリアを思い描き、目標を設定して、それに対する課題や障害を明らかにしていきます。多くの社員にとって障害になっていることは、会社の制度として対処できる方法がないか検討しましょう。
社内の女性社員同士をつなぐネットワークを作り、さまざまな働き方やキャリアを共有したり仲間意識を強化したりするのも効果的です。また、女性が安心して働き続けられるようにするためには、多様なリーダー像を示すことが欠かせません。時短勤務管理職やパラレルワーカー管理職などの前例が「成果を出せば柔軟な働き方が認められる」という風土を作り出し、女性に限らず多くの社員のキャリアと活躍を後押しします。
社員の不調のサインを早期に捉えるためには、部長や課長などの監督者による「ラインケア」が大きな役割を担います。ラインケアは、いつも接している上司が部下の勤怠や生活態度、業務効率・成果、コミュニケーションや表情・言葉遣いなどに“普段と違う点”がないかを観察。メンタルダウンを予防・ケアする仕組みです。モチベーション管理やパルスサーベイの外部サービスと並行して取り組むのも有効でしょう。
管理監督者にラインケアの研修を実施すると同時に、相談窓口や休職した場合の復職支援など、不調をサポートできる仕組みを構築します。復職する際、当事者は「再発しないか」「以前のように働けるか」「白い目で見られないか」などの不安を抱えています。スムーズに復職し再び活躍できるよう丁寧にヒアリングを重ねながら、復職後の労働時間調整といった支援体制や関係各所との情報共有・連携体制なども整備する必要があります。
社員が長期にわたり安心して働き続けられる環境は、採用コスト圧縮し機会損失のリスクを低減させるでしょう。社員一人ひとりのキャリア形成を会社が支援していくキャリアサポートの重要性は、今後ますます高まっていくと考えられます。
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