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企業が押さえておきたい「骨太の方針2024」のポイント ~「女性版骨太の方針」も策定、カギは労働市場改革~

作成者: randstad|Jul 19, 2024 12:00:00 AM

企業の成長や国民の暮らしに直結する政府の「骨太の方針2024」が閣議決定しました。

デフレからの完全脱却を主眼に、政策を総動員して「賃上げ」を後押しする考えで、その実現のカギを握る中心テーマとして「三位一体の労働市場改革」を挙げています。

三位が指す「リスキリングによる能力向上支援(学び直し)」「企業の実態に応じた職務給の導入(日本版ジョブ型)」「成長分野への労働移動の円滑化」は、人材の活用と育成に注力している企業にとって重要な動きです。

「骨太の方針2024」について、企業が押さえておきたいポイントをお伝えするとともに、併せて決定した「女性版骨太の方針」の要所も解説します。

目次

「骨太の方針」とは
「骨太の方針2024」の全体像
 雇用労働分野の要所
  • 賃上げの促進 ・ 価格転嫁対策
  • 全世代型リスキリング
  • 主な取り組み
「女性版骨太の方針2024」とは
  • 企業等における女性活躍の一層の推進
  • 女性の所得向上・経済的自立に向けた取り組みの一層の推進
  • 個人の尊厳と安心・安全が守られる社会の実現
  • 女性活躍・男女共同参画の取り組みの一層の加速化
 まとめ

 

「骨太の方針」とは

✅「骨太の方針」と言う呼び名は通称で、正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針」です。その年の年末の予算編成に向けて、政府の重要政策の基本的な方向性を示し、毎年6月に閣議決定します。

✅首相が議長を務め、会議のメンバーには財務相や経済産業相といった関係閣僚、日本銀行総裁、経済人や学識者といった民間議員で構成されます。

✅同会議が誕生した2001年に、同会議の議論を「骨太」と表現したことが、現在の通称の由来です。

✅岸田政権最初の2022年は「新しい資本主義」を掲げ、人への投資や賃上げなど、時の政権の目玉となる政策が盛り込まれています。

 

 

 

「骨太の方針2024」の全体像

<要旨>
円滑な労働移動などを通じた構造的な賃上げといった2022年提唱の「新しい資本主義」の骨格を維持。人手不足対策など中堅・中小企業の強化を前面に打ち出しています。

これまでの財政再建計画を見直して、2030年までの「経済・財政新生計画」策定を明記。併せて、2025年度の基礎的財政収支の黒字化をはじめ、財政目標や歳出抑制の枠組みを残しつつ、産業政策への歳出増を認めることも記しました。



<構成>
「骨太の方針2024」は4章建てで構成しています。

第1章 成長型の新たな経済ステージへの移行
デフレからの完全脱却や官民一体の投資を通じた「成長型の新たな経済ステージ」への移行など、全体を通したビジョンを提示。

第2章 社会課題への対応を通じた持続的な経済成長の実現
具体的な政策項目を列挙。(1)賃上げ定着・労働市場改革(2)中堅・中小企業活性化(3)DX・GXへの投資拡大やAI・半導体などの基盤産業・技術の強化(4)スタートアップ政策(5)地方創生やデジタル田園都市構想(6)認知症施策や女性活躍など包摂社会の実現(7)経済安全保障を含めた外交、安全保障(8)防災・減災・国土強靭化――を盛り込みました。この中でも、先頭の「賃上げ定着・労働市場改革」が第2章の中核となっています。

第3章 中長期的に持続可能な経済社会の実現
中長期の経済財政政策の枠組みが見直しのタイミングにあることを記したうえで、新しい「経済・財政新生計画」を策定する方針。「2040年度名目GDP1000兆円」といった新しい目標を掲げました。

第4章 当面の経済財政運営と次年度予算編成に向けた考え方
第2章・第3章に沿って、賃上げの流れの中小企業・地方への波及や物価上昇を超える家計所得増加の確実な実現、来年以降の「実質賃金の上昇定着」を目指して企業の生産性向上支援などを強調しています。



 

雇用労働分野の要所


「骨太の方針2024」の中で、企業に影響の大きい雇用労働分野について紹介します。

<賃上げの促進 ・ 価格転嫁対策>

(1)価格転嫁対策を強化するため、独占禁止法と下請法の改正を検討
(2)賃上げに向け、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(2023年11月29日)の周知徹底
(3)標準労務費(※1)と標準的運賃(※2)の活用徹底
(4)医療・介護・障害福祉サービスの持続的な賃上げに向けた取り組み強化

上記の4点を実施することによって、サプライチェーン全体で適正な価格転嫁と製品・サービス価格の設定が行われる「新しい成長型経済」を広げます。

(※1)標準労務費(建設業の適正な労務費を示すもので、労務費の確保・行き渡りを図り、労働者の処遇改善を促進)
(※2)標準的運賃(トラック運送事業者がドライバーの賃上げ原資となる適正な運賃を算出し、荷主等との運賃交渉を臨むに当たっての参考指標)



図:内閣府作成「新しい成長型経済」のイメージ図

 

<全世代型リスキリング>

・ニーズに応じた支援策メニューをそろえ、その周知を徹底
・個人のリスキリングを支援する「教育訓練給付」について、対象講座の拡大と支援を充実
・地域の産学官が連携し、新たに経営者等を対象とするリスキリングを開始
・自動化技術を用いることができる現場労働者の育成に向けたリスキリングを推進
・全世代型リスキリングの機運醸成を図るため、「国民運動」を展開
 
※リスキリングを行う人の割合や実施時間は、先進諸国と比較して低い水準。特に、在職中のリスキリング強化が課題(受講者のうち在職者の割合が4割にとどまる)




図:内閣府作成「リ・スキリングの実施状況(国際比較)」




<主な取り組み>

✓教育訓練給付の拡充・拡大
・給付と連携した団体等検定の活用の促進
・給付率引上げ(最大70%→80%)
・教育訓練休暇中の生活を支える新たな給付金の創設
 
✓在職期間中のリスキリングの強化、現場労働者のリスキリングの強化
 
✓地域における大学の知の活用
・地域の産学官のプラットフォームを活用した経営者等のリスキリング
・最先端の知識や戦略的思考を学べるプログラムの創設
 
✓労働市場改革を進めるため、国民会議の開催の検討等、国民運動を展開


参考:経済財政運営と改革の基本方針2024 について(内閣府)



 

「女性版骨太の方針2024」とは

「女性活躍・男女共同参画の重点方針」のことを「女性版骨太の方針」と呼んでいます。様々な境遇に置かれた女性が、自らの希望を実現して輝くことにより、最大の潜在力である「女性の力」が十分に発揮され、日本社会の活性化につなげる政策です。

2024年のポイントは、女性活躍・男女共同参画を推進するための「人材の育成」を横串に据え、「企業等における女性活躍の一層の推進」、「女性の所得向上・経済的自立に向けた取り組みの一層の推進」、「個人の尊厳と安心・安全が守られる社会の実現」、「女性活躍・男女共同参画の取り組みの一層の加速化」――の4つの柱を建てました。





参考:「女性版骨太の方針2024」内閣府男女共同参画局作成




<企業等における女性活躍の一層の推進>

企業における女性の採用・育成・登用の強化、科学技術・学術分野における女性活躍の推進、女性起業家の支援に取り組みます。

(1) 企業における女性の採用・育成・登用の強化
好事例の横展開、啓発コンテンツの作成や情報共有などを通じて、企業の行動計画策定の促進を図ります。

(2) 科学技術・学術分野における女性活躍の推進
女子学生が少ない理工系の魅力を発信する機会を増やし、理工系分野を目指す女子生徒等の育成を図ります。

(3) 女性起業家の支援
女性起業家のためのネットワークを充実させ、事業計画への助言や、支援者とのマッチングに向けた支援プログラムを実施します。




<女性の所得向上・経済的自立に向けた取り組みの一層の推進>

所得向上やリスキリングの増進、仕事と育児・介護の両立の支援、仕事と健康課題の両立の支援、地域における女性活躍・男女共同参画の推進に取り組みます。

(1) 所得向上、リスキリング
正規雇用の女性の就業継続の支援や妊娠等を契機に非正規雇用となった女性の正社員転換するための取り組みを進めます。
また、就労に直結するデジタルスキルの習得支援やデジタル分野への就労支援を推進します。

(2) 仕事と育児・介護の両立の支援
柔軟な働き方の推進や男性の育児休業取得の促進などによって、男女問わず育児・介護とキャリア形成との両立を図りつつ、女性への育児負担の偏りを解消します。

(3) 仕事と健康課題の両立の支援
女性のライフステージごとの健康課題に起因する望まない離職などを防ぎ、女性の活躍を支援します。

(4) 地域における女性活躍・男女共同参画の推進
地域の企業における女性活躍を推進するための担い手を育成するため、女性登用の好事例や先進的な取り組みを横展開し、地域リーダーの意識醸成・育成を推進します。




<個人の尊厳と安心・安全が守られる社会の実現>

男女共同参画の視点に立った防災・復興の推進、配偶者等からの暴力や性犯罪・性暴力への対策の強化、困難な問題を抱える女性への支援、生涯にわたる健康への支援に取り組みます。

(1) 男女共同参画の視点に立った防災・復興の推進
能登半島地震における災害対応を検証し、今後の対応に活用します。
また、防災の現場などにおける女性の参画拡大とこれを推進するリーダー層の意識醸成や防災教育を推進します。

(2) 配偶者等からの暴力や性犯罪・性暴力への対策の強化
配偶者等からの暴力の防止、被害者の保護や支援、相談体制の整備や周知等の一層の強化を図るとともに、性暴力・性犯罪の根絶のための取り組みや被害者支援を強化します。

(3) 困難な問題を抱える女性への支援
困難な問題を抱える女性一人ひとりのニーズに応じて、包括的な支援を行います。

(4) 生涯にわたる健康への支援
女性の健康ナショナルセンター(仮称)の診療機能充実化や同センターを中心とした女性の生涯にわたる健康課題に関わる研究などに取り組みます。




<女性活躍・男女共同参画の取り組みの一層の加速化>

男女共同参画の視点に立った政府計画の策定等の推進、政治・行政分野における男女共同参画の推進に取り組みます。

(1) 男女共同参画の視点に立った政府計画の策定等の推進
あらゆる分野の政策・事業の計画等について、男女別の影響やニーズの違いを踏まえた検討や立案を行います。

(2) 政治・行政分野における男女共同参画の推進
女性が政治に参画する上での課題等について詳細な調査を行い、その結果に基づいた周知・啓発を行います。
また、各府省における各役職段階に占める女性割合の数値目標を定め、取り組み内容や実施状況とともに公表します。

参考:女性版骨太の方針 2024について(男女共同参画推進本部)


 

まとめ

「骨太の方針2024」には、企業とビジネスパーソンの成長を後押しする政策が詰め込まれています。そして、掲げた各種政策目標の達成に欠かせないのが「三位一体の労働市場改革」であることを前面に打ち出しています。

政府は「リスキリングによる能力向上支援(学び直し)」「企業の実態に応じた職務給の導入(日本版ジョブ型)」「成長分野への労働移動の円滑化」を促進するため、企業とビジネスパーソンの双方が活用しやすい助成金や補助金について各都道府県労働局や自治体を通して積極的にアナウンスしていく方針です。ぜひ、各種支援策のメニューを確認して、有効に活用していくことをお勧めします。




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