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社労士のアドバイス/フレックスタイム制の導入のポイントと運用上の留意点(中編)

作成者: randstad|Mar 31, 2025 12:00:00 AM

こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の土岐と申します。社労士として、企業の皆様から寄せられる人事・労務管理に関する様々なご相談に対応させていただいております。本コラムでは、労働・社会保険諸法令および人事労務管理について、日頃の業務に携わる中で悩ましい点や疑問に感じる点などについて、社労士の視点から、法令上の観点を織り交ぜながら実務上考えられる対応等を述べさせていただきます。

さて今回は、前回に引き続き「フレックスタイム制に関する基本的なルールと運用上の留意点」について採り上げます。なお、今回も清算期間は1か月とする前提で解説します。

Index

ポイント

フレックスタイム制に関する基本的なルールと運用上の留意点
1.始業・終業時刻、休憩等
①始業時刻または終業時刻のどちらか一方のみを自由決定とすることは可能か
②始業、終業時刻について一定の時間単位からの選択制は認められるか
③始業時刻の届け出制を採用することの是非
④完全フレックスタイム制とは
⑤休憩
⑥休日

2.時間外労働、休日労働、深夜労働
①清算期間における労働時間の清算
②実労働時間の繰越清算
③時間外労働となる時間
④始業時刻の届け出制
⑤休日労働時間の算定
⑥深夜労働

まとめ

 

 

ポイント

  • フレックスタイム制では労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決定することができる制度であることが求められる。
  • 日ごと、週ごとの所定労働時間という概念がないため、清算期間を単位として労働時間の清算を行うことになる。
  • 具体的には、労働者自らの選択で配分して勤務した清算期間内の実労働時間と、労使協定で定められた清算期間における総労働時間(所定労働時間)とを比較して、過不足がある場合には、その超過時間については所定時間外の労働として手当を支払い、不足時間については欠務として不就労控除を行うことによって清算する。
  • 休日労働については当然にフレックスタイム制が適用されるとは考えられないが、疑義が生じないように、休日労働についてはフレックスタイム制が適用されない旨をあらかじめ就業規則等において定めておくことが考えられる。
  • 始業および終業時刻を労働者に委ねることになるため、深夜労働が常態的に発生しないよう、フレキシブルタイムを午後10時までに設定する、深夜労働を行う場合にはあらかじめ上長の承認を得る、といった定めが考えられる。
 
 
 

フレックスタイム制に関する基本的なルールと運用上の留意点

 

1. 始業・終業時刻、休憩等 

 

① 始業または終業時刻のどちらか一方のみ自由決定とすることはできるのか
フレックスタイム制は、始業および終業時刻の両方を労働者の決定に委ねることを要件としているため、始業時刻または終業時刻のどちらか一方についてのみ労働者の決定に委ねることは、この要件を欠くこととなりますので認められません。

 

② 始業、終業時刻について一定の時間単位からの選択制は認められるか
例えば始業時刻は「午前8時、9時、10時のいずれか」を、終業時刻は、「午後4時、5時、6時、7時のいずれか」を選択するといったように一定の時間単位で区切り、その中から労働者に選択させる制度の場合についてはどうでしょうか。

このような制度は、使用者が指定した時刻に制約があることとなるため完全に自主的な決定とは言えないことから、フレックスタイム制とは認められないと解されています。

 

③ 始業時刻の届け出制を採用することの是非
業務上の指示や連絡、または外部からの連絡の取次ぎに対応するため、労働者の勤務状況を把握できるよう、始業時刻を事前に届け出てもらうことは可能かという疑問が生じます。

この点、始業時刻について最終的に労働者の自主的な判断に委ねられていれば、事前に予定表を提出させることは可能と考えられます。

 

④ 完全フレックスタイム制とは
コアタイムやフレキシブルタイムを設けないフレックスタイム制についても、始業および終業の両方の時刻を労働者の決定に委ねているものである限り有効です。ただし、休憩時間、休日については労働基準法(以下、労基法)の定めるところによって付与しなければならないため、以下の対応が必要となります。

ⅰ 休憩時間 休憩時間を一斉付与するか、一斉付与の適用除外の労使協定を締結しておくこと
ⅱ 休日 1週につき1日、または4週につき4日の法定休日を与えること。また、法定休日に労働した場合には、通常の労働時間とは別に把握し、休日労働の割増賃金を支払うこと

 

⑤ 休憩
フレックスタイム制においては、「始業および終業の時刻」を労働者の自主的な決定に委ねることが求められていますが「休憩時間」については労働者の自主決定の対象とはなりません。そのため、休憩時間は労基法第34条(休憩時間)の要件を満たす形で与える必要があります。

つまり、一斉休憩が必要な場合には、コアタイム中に休憩時間を設け、全員に一斉に与えなければなりません。ただし、一斉休憩の規定の適用が除外されている業種や、労使協定により一斉休憩を行わないこととした事業場では、休憩時間帯を労使協定で定めることが可能です。

その場合、就業規則において休憩時間の長さを明記するとともに、その時間帯を労働者の判断に委ねる旨を記載する必要がある点にご留意ください。

 

⑥ 休日
フレックスタイム制においては、「休日」についても労働者の自主決定の対象とはなりません。そのため、あまり想定されないものとは思いますが、出勤する日を労働者の自由に委ねることとする場合であっても、労基法第35条(休日)の要件を満たす形で与える必要があります。

つまり、1週に1日、または特例による休日制を採用している場合には、4週4日の法定休日が確保される必要があるということです。

 

 

 

2. 時間外労働、休日労働、深夜労働

① 清算期間における労働時間の清算
フレックスタイム制では始業および終業時刻を労働者の決定に委ねるため、日ごとや週ごとの所定労働時間という概念はなく、清算期間を単位として労働時間の清算を行います。

労働者自らの選択で配分して勤務した清算期間内の実労働時間と、労使協定で定められた清算期間における総労働時間(所定労働時間)を比較し過不足が生じた場合、その超過時間については所定時間外の労働として手当を支払い、不足時間については欠務として不就労控除を行うことによって清算します。


② 実労働時間の繰越清算
実際に労働した時間が清算期間における総労働時間(所定労働時間)として定められた時間に比べて過不足が生じた場合は、当該清算期間内で労働時間および賃金を清算することが原則であると考えられますが、それを次の清算期間に繰り越すことの可否について、通達(昭63.1.1基発1・婦発1)では次のように述べています。

ⅰ 過剰 清算期間における実際の労働時間に過剰があった場合に、総労働時間として定められた時間分はその期間の賃金支払日に支払うが、それを超えて労働した時間分を次の清算期間中の総労働時間の一部に充当することは、その清算期間内における労働の対価の一部がその期間の賃金支払日に支払われないことになり、法(※筆者注:労基法)第24条に違反し、許されないものであること。
ⅱ 不足 清算期間における実際の労働時間に不足があった場合に、総労働時間として定められた時間分の賃金はその期間の賃金支払日に支払うが、それに達しない時間分を、次の清算期間中の総労働時間に上積みして労働させることは、法定労働時間の総枠の範囲内である限り、その清算期間においては実際の労働時間に対する賃金よりも多く賃金を支払い、次の清算期間でその分の賃金の過払を清算するものと考えられ、法(※筆者注:労基法)第24条に違反するものではないこと。

出所:厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き

 

③ 時間外労働となる時間
清算期間における総労働時間(所定労働時間)を超過した場合、その超過分は所定労働時間外の労働となります。さらに、「法定労働時間の総枠」を超えて労働させた場合は、労基法上の時間外労働に該当し、割増賃金の支払いが必要となります。

なお、所定労働時間外の労働について、労基法上は時間単価×所定労働時間外労働時間数により支払えば足りますが、就業規則等の規定により所定労働時間を超えた時点から法定割増率を適用する場合には、時間単価 × 1.25で所定労働時間外手当を支払うことになります。

 

④ 休日労働の取り扱い
フレックスタイム制を適用する事業場において、休日労働をさせる場合でも、始業および終業の時刻を労働者の判断に委ねなければならないかが問題となることがあります。

しかし、休日にはそもそも労働契約上の労働義務がないため、休日労働にまでフレックスタイム制が当然に適用されるわけではありません。そのため、休日労働についてはフレックスタイム制を適用せず、始業・終業時刻を指定して労働させることが可能と考えられます。

こうした運用に関して誤解を招かないよう、「休日労働にはフレックスタイム制を適用しない」旨を就業規則等に定めておくとよいでしょう。

 

⑤ 休日労働時間の算定
フレックスタイム制の下で休日労働をした場合の労働時間の算定方法は、以下の通りとなります。

ⅰ 法定休日労働時間 フレックスタイム制においても、法定休日に労働させた場合には、その時間を把握し、休日の割増賃金について支払わなければならない。したがって、法定休日における労働時間については、通常の労働日とは別に集計し把握しなければならない。
ⅱ 法定休日以外の休日労働時間 上述の通り、フレックスタイム制においては1日および1週間の所定労働時間という概念がないため、法定休日以外の休日に労働をさせた時点では、その日の労働時間について1日や1週間の法定労働時間を超えた時間外労働として確定せずに、通常の所定労働日の労働時間と同様に、総労働時間に含めて計上する。そして、最終的に清算期間を通じた実労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合に、初めて時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要となる(上記「③時間外労働となる時間」を参照)。

 

⑥ 深夜労働
繰り返しになりますが、フレックスタイム制では始業および終業の時刻を労働者の判断に委ねるため、会社が指示していない深夜労働が発生する可能性があります。この場合、割増賃金の支払い義務が生じるかが問題となります。

この点については、フレックスタイム制の下でも労基法の深夜業に関する規定が適用されるため、労働者が自主的に深夜労働を行った場合であっても、深夜労働に係る割増賃金を支払う必要があります。

また、割増賃金の問題だけでなく、事業主には防犯面での安全確保や労働者の健康への配慮を行う責務があります。そのため、深夜業を原則として禁止することも可能です。具体的には、フレキシブルタイムの終了時刻を午後10時までとし、それ以降の労働を認めない運用を定めることが考えられます。

さらに、労使協定や就業規則に「フレックスタイム制の労働者であっても、原則として午後10時以降の就業はしないこと」、「やむを得ず深夜労働を行う必要が生じた場合は、上長の許可を得ること」といった規定を設けることも有効と考えられます。

 

 

まとめ

フレックスタイム制における始業・終業時刻に関する考え方、休憩等、時間外労働、休日労働および深夜労働に関する基本的な考え方の整理と留意点については以上となります。次回もフレックスタイム制に関する基本的なルールと運用上の留意点について触れまして、フレックスタイム制に関する解説は最終回としたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考URL

■厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き

〔執筆者プロフィール〕
社会保険労務士法人 大野事務所
特定社会保険労務士
土岐 紀文

23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、2009年に社会保険労務士法人大野事務所に入所しました。現在は主に人事・労務に関する相談業務に従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。

 

 
〔この執筆者の記事〕
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