こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の土岐と申します。社労士として、企業の皆様から寄せられる人事・労務管理に関する様々なご相談に対応させていただいております。本コラムでは、労働・社会保険諸法令および人事労務管理について、日頃の業務に携わる中で悩ましい点や疑問に感じる点などについて、社労士の視点から、法令上の観点を織り交ぜながら実務上考えられる対応等を述べさせていただきます。
さて今回は、「フレックスタイム制の導入のポイントと運用上の留意点(前編)」について採り上げます。本コラムでは、フレックスタイム制において多く採用されているであろうと考えられます清算期間は1か月の場合(後述の通り清算期間の上限は最長3か月とすることが可能です)を前提として、導入のポイントと運用上の留意点について解説します。
Indexポイント
1.フレックスタイム制とは 2.フレックスタイム制の導入要件 (1)就業規則等への規定 (2)労使協定の締結 3.導入のポイント (1)対象となる労働者の範囲 (2)清算期間 (3)清算期間における総労働時間 (4)標準となる1日の労働時間 (5)コアタイムの設定(任意) (6)フレキシブルタイムの設定(任意) まとめ |
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フレックスタイム制は、3か月以内の一定の期間(以下、清算期間)についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決定することができる制度です。労働者は仕事と生活の調和を図り効率的に働くことを可能にしながら、合わせて労働時間を短縮することを趣旨とした制度といえます。
出典:厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き
フレックスタイム制を導入するためには、次の2点が必要です。
就業規則等に、始業・終業時刻を労働者の決定に委ねる旨を定める必要があります。規定例は以下の通りとなりますが、フレックスタイム制の根拠となります労働基準法第32条の3では「…就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねること」とされていますので、制度の詳細については、労使協定に委任する形でも差し支えありません。
出典:厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き
労使協定において、以下の事項を定め、締結する必要があります。締結事項の詳細については、「3. 導入のポイント」の通りです。なお、清算期間が1か月以内の場合は当該労使協定書の労働基準監督署への届け出は不要で、1か月を超える場合には届け出が必要となる点はご留意ください。
<労使協定の締結事項>
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<労使協定の例>
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フレックスタイム制の対象となる労働者の範囲は、個人ごと、課ごと、グループごと、職種ごと、あるいは事業場全体など各事業場で任意に決定することができます。また、在宅勤務をする場合にあっては、フレックスタイム制はその趣旨からも馴染みやすいと考えられます。
清算期間とは、フレックスタイム制において労働者が労働すべき時間を定める一定の期間をいい、その長さは3か月以内の期間に限るとされています。一般的には賃金計算期間(1か月)を単位に清算期間を設定することが多いと思われますが、業務の繁閑のサイクルが1か月を超えるような場合も、3か月以内であれば一清算期間として設定することは可能です。例えば、1か月、2か月というように月を単位とする場合だけでなく、1.5か月、2.5か月といった単位とすることも可能ということになります。
また、清算期間の長さに加えて、その起算日を定める必要があります。
清算期間における総労働時間とは、労働契約上、労働者が清算期間において労働すべき時間として定める時間であり、いわゆる所定労働時間のことをいいます。
清算期間においては、清算期間を平均して1週間当たり40時間(特例(※)の場合は44時間)を超えない範囲で働かせることができるようになるところ、この「法定労働時間の総枠」が「所定労働時間」の上限となります。そのため、清算期間中の総労働時間(所定労働時間)を定める前に、清算期間の長さに応じた「法定労働時間の総枠(所定労働時間の上限」)を確認しておく必要があります。この法定労働時間の総枠(所定労働時間の上限)は、次の式で計算されます。
法定労働時間の総枠 = 40時間(※) × 清算期間の総日数 / 7日 |
(※)特例措置対象事業場とは、常時10⼈未満の労働者を使⽤する商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く。)、保健衛⽣業、接客娯楽業のことをいいます。
本コラムの前提となります清算期間を1か⽉とした場合には、法定労働時間の総枠は以下のとおりとなるため、清算期間における総労働時間(所定労働時間)はこの範囲内としなければなりません。
清算期間の暦日数 | 1か月の法定労働時間の総枠 |
28日 | 160時間 |
29日 | 165.7時間 |
30日 | 171.4時間 |
31日 | 177.1時間 |
なお、完全週休2日制の事業場でフレックスタイム制を導入した場合には、1日8時間相当の労働であっても、曜日の巡りによって、清算期間における総労働時間(所定労働時間)が法定労働時間の総枠を超えるため、時間外労働が発生してしまう場合があります。
この点に関しては2019年の労基法改正により、週の所定労働日数が5日(完全週休2日)の労働者について「清算期間内の所定労働日数×8時間」を労働時間の限度とする旨を労使協定で締結することによって、法定労働時間の総枠を超えた総労働時間(所定労働時間)を設定することができます。
出典:厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き
標準となる1日の労働時間は、通達によればフレックスタイム制において年次有給休暇を取得した際に支払われる賃金の算定の基礎となる労働時間の長さを定めるものとされています(昭63.1.1基発1・婦発1、平9.3.25基発195)。労使協定では、清算期間における総労働時間を清算期間中の所定労働日数で除して得た時間を基準として定めることになります。
1日の標準労働時間 = 清算期間における総労働時間 / 清算期間中の所定労働日数 |
コアタイムとは、労働者が必ず労働しなければならない時間帯をいいます。コアタイムは法令上必ず設定しなければならないものではありませんが、コアタイムを設ける場合には労使協定において、その開始および終了の時刻を定める必要があります。
なお、コアタイムの時間は労使協定で自由に定めることができ、また、コアタイムを設ける日と設けない日があるものや、日によってコアタイムが異なるなどといったことも可能です。
フレキシブルタイムとは、労働者がその選択により労働することができる時間帯をいいます。コアタイムと同様に法令上、必ず設定しなければならないものではありませんが、フレキシブルタイムを設ける場合には労使協定において、その開始および終了の時刻を定める必要があります。
なお、フレキシブルタイムの時間帯についても、労使協定で自由に設定することが可能です。ただし、通達において「フレキシブルタイムが極端に短い場合、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致している場合等について」は、労働者の意思によって決定できる時間が少なく、実質的に「始業および終業の時刻を労働者にゆだねたことにはならず」認められないとされている点には注意が必要です(昭63.1.1基発1・婦発1、平11.3.31基発168)。
今回はここまでとさせていただきます。次回以降も引き続きフレックスタイム制に関する基本的な知識の整理とその他のフレックスタイム制に関するルールや留意点について触れたいと思います。実務を担当されている方々におかれましては簡単な内容に感じられたかもしれませんが、基本的な知識の確認と整理としてご参考になりましたら幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考URL>
■厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き