こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の高田と申します。
弊事務所では、人事・労務分野における様々なサービスをご提供しております。筆者自身も主に労務相談顧問という形で日頃から顧問先企業様のご相談等に対応していますが、本コラムでは、企業で人事・労務の実務に携わる皆様の視点に立って、分かりやすい解説を心がけていきたいと思います。
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毎年12月初旬頃に、東京労働局より「東京都内の労働基準監督署における○年の定期監督等の実施結果」と題する報道発表が行われています。「○年」の部分には1つ前の年が入るわけですが、本年も去る12月2日に令和5年の結果が発表されましたので、そちらの内容をご紹介します。
東京都内の労働基準監督署における令和5年の定期監督等の実施結果
なお、日本全国の労働基準監督署における定期監督等の実施結果については、厚生労働省が毎年公表している「労働基準監督年報」にて確認できます。
興味・関心のある方は是非そちらも合わせてご覧頂きたいのですが、なにしろ統計が非常に広範かつ膨大なものとなっていますので、読み慣れていない人にとっては却って要点が掴みづらいのではないかと思います。したがいまして、本コラムでは、内容がシンプルで分かりやすい東京労働局の資料を基に、近年の定期監督の傾向と対策について見ていきたいと思います。
令和5年の実施結果では、14,883事業場のうち10,119事業場にて労働基準関係法令における違反があったとのことで、その違反率は68.0%となっています。
少し過去を遡ってみると、令和4年は、15,160事業場のうち11,050事業場が違反(72.9%)、令和3年は、10,130事業場のうち7,245事業場が違反(71.5%)、令和2年は、10,222事業場のうち7,740事業場が違反(75.7%)、令和元年(平成31年)は、12,326事業場のうち9,308事業場が違反(75.5%)という結果でした。直近の令和5年のみ違反率が70%を下回っていますが、例年概ね70%程度で推移しているというのが共通認識になっています。
これは私どもが顧問先様からよく受けるご質問です。
実際に筆者の顧問先様の中には、短期間のうちに2回目の定期監督に当たっている企業様もあれば、少なくとも10年以上定期監督に当たっていないという企業様もあります。つまり、定期監督に当たる・当たらないは完全にランダムだと筆者は思っていますので、どのくらいの確率で当たるのかは、まさに運次第としかいいようがありません。
因みに、定期監督の対象となる事業場の総数が東京都内に幾つあるのか?については、統計によって数字が前後するところですので、正確な実態を掴むのは困難です。厚生労働省が発表している「都道府県別労災保険・雇用保険適用状況」の最新(令和6年10月)データによると、東京都には、労災保険の適用事業場が約45万、雇用保険の適用事業場が約39万あるそうですので、仮に40万事業場のうち、令和5年には14,883事業場に定期監督が行われたとすると、約3.7%の確率で調査に当たった計算になります。
筆者の肌感覚としてはもう少し高い確率で調査に当たっているような気がしますが、上記の40万事業場の中には、労働者が1~2名しかいないような零細企業や、既に消滅している(かつ廃止の手続きを取っていない)企業も多く含まれているでしょうから、これらを除くと、実質的な確率はもっと上がるということかもしれません。
資料の冒頭において労働基準関係法令の違反が68%であると掲げられているわけですが、違反率の高かった事項別に並べると、トップ3のうち2つは労働安全衛生関係法令の違反になっています。
(1) 機械・設備等の危険防止措置に関する安全基準に関する違反があったもの (労働安全衛生法20~25条) 3,370事業場 (22.6%) |
これは、建設現場等への立入検査の結果、何らかの違反が指摘されることが必然的に多くなる影響だと思われます。危険な作業または健康障害を引き起こす可能性のある作業を行う場合には、労働安全衛生法に定める措置を講じなければなりませんが、その措置が行われていない、充分でないといった指摘は、どうしても数の上では多くなってしまう傾向があるようです。
(2) 違法な時間外労働があったもの(労働基準法32条・36条) 2,526事業場 (17.0%) |
(3) 健康診断の実施に関する違反があったもの(労働安全衛生法66条) 2,068事業場 (13.9%) |
労働基準関係法令の違反のうち、既に挙げた労働時間以外の事項を、違反割合の高い順に挙げていきます。代表的な違反例についても挙げておきますので、ご参考にして頂ければ幸いです。
第2位 割増賃金(37条) 1,693事業場 (11.4%) |
第3位 労働条件明示(15条) 1,074事業場 (7.2%) |
第4位 年次有給休暇(39条) 994事業場 (6.7%) |
第5位 賃金台帳(108条) 983事業場 (6.6%) |
第6位 就業規則(89条) 868事業場 (5.8%) |
第7位 賃金不払(23・24条) 417事業場 (2.8%) |
第8位 休憩(34条) 301事業場 (2.0%) |
第9位 休日(35条) 179事業場 (1.2%) |
今回は東京都の定期監督の報告資料を基に、特に違反の多い事項を確認しました。勿論、ここに挙げられていない違反事項も存在しますし、皆様の会社が、今回主な違反例として挙げたもののいずれにも該当するものがなかったからといって、絶対に大丈夫だというわけではありません。より詳細な項目について確認したい場合には、冒頭でご紹介しました厚生労働省の「労働基準監督年報」が参考になりますし、また、社会保険労務士にコンプライアンス診断の実施を依頼するのもよいかもしれません。
ひとたび違反が発覚した場合には、その是正・改善のために多大な費用や労力を要することがありますし、その違反の内容や程度によっては、自社の従業員や社会からの信用を失墜させるような事態も起こり得ますので、いつ定期監督が実施されることになったとしても大丈夫だといえるように、普段から万全の備えをしておくのが大事だといえます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
社会保険労務士法人大野事務所に2008年入所。入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。